原田 | 同じ社長でも 糸井さんはスポーツにたとえるなら プレイヤーだったわけじゃないですか。 |
糸井 | そうですね。 |
原田 | それがプレイヤーを監督する立場になった。 そんな状況で、いまだにあそこのポジションは 俺がやったほうがうまくいく、 と思ったりすることあります? |
糸井 | それはね、もちろんありますよ。 |
原田 | ですよね? 私もあるんです。 プレイヤーたちが 「やってください、教えてください」と 近寄ってくるんですよ。 そこを変えるのが 一番考えなくちゃいけないところなんです。 |
糸井 | いまもやってるんですね。 |
原田 | でも、ギリギリまで放っておきますけど。 で、あらぬ方向に進んだときに 「集合!」って呼び出します。 |
糸井 | 冷静に言ってしまえば、 それって人よりも少し余計に知っている 知識とかテクニックをプレイヤーたちに 伝達する能力が自分にまだないってことですよね。 |
原田 | そうかもしれないですね。 あ、でも最近だと、 プレイヤーたちができてないことがあっても 「なんでできないんだ」って言わなくなりました。 |
糸井 | 原田監督はなんて言うんですか? |
原田 | 「この件は、これとこれが うまく連動していないのがわかった。 それに対する私の課題がなんだろうと 必死になって考えてみて 思いついた項目がいくつかある。 いまからみんなに説明するから 間違ってたら教えてくれ」って。 実は今朝も言ったんですよ。 |
糸井 | (笑)。 |
原田 | 早朝、ランニングしながら8項目考えました。 |
糸井 | 閃くわけですね、8項目も。 |
原田 | 8項目出して、頭の中で繰り返して 携帯のボイスメッセージに録音するんですよ。 汗びっしょりになりながら。 |
糸井 | 毎日? |
原田 | いやいや、さすがに毎日ではないです。 「ここぞ」というときが たまにあるってことです。 |
糸井 | いやぁ、原田さんは 本当に一生懸命ですよね。 |
原田 | 本気でとりかからないと気が済まないんですよ。 そういえば、社長になる直前の1995年くらいに ハーバードの経営者育成プログラムに行かされて 3ヶ月間寮生活を余儀なくされたことがあるんです。 土日もなく、毎日毎日勉強勉強の日々でした。 |
糸井 | うへぇ、なんかすごそうですね。 |
原田 | えぇ、変な表現ですけど、刑務所のようでした。 その中で一生懸命必死になって 世界中の政治、経済、歴史なんかを勉強したんです。 で、自分の視野がぜんぜん変わりましたね。 |
糸井 | そんな厳しい勉強をしてきて どう変わったんですか? |
原田 | 政治家が、失業率だインフレだGDPだと 経済のことを口にしますよね。 |
糸井 | はい。 |
原田 | ハーバードの勉強で、経済っていうのは 片方を立てると、片方が立たなくなる。 永遠に解けない方程式だってことがわかりました。 つまり、政治家が選挙のときに 経済のことをとやかく言うのは 実現不可能なウソだっていうことに気づいたんです。 |
糸井 | はぁ、なるほど。 |
原田 | このことから、 地球上に将来の幸せを保証されている国はない。 人類は未来永劫ジレンマの中で苦しみながら 生きていくっていうのが わかってしまったわけです。 |
糸井 | ‥‥なんともすごい話ですね。 それって教える側が そういうことを教えるんですか? |
原田 | いや、そういう教えかたはしないですよ。 |
糸井 | ということは、ふつうに 政治や経済、歴史を学ぶ勉強をしていたのに 原田さんはそういう勉強をしちゃった? |
原田 | えぇ、私はそのときそう理解しました。 |
糸井 | ‥‥おもしろい。 |
原田 | それで価値観がガラッと変わったんです。 「俺、なんのために 今までがんばってきたんだろう? 結局は目の前のお金のために一生懸命になって それが家のローンとクルマのローンに 変わっただけじゃないか」って考えて。 |
糸井 | すごい勉強だ。 |
原田 | だから家もクルマもゴルフ会員権もすべて売って 借金をゼロにしたんですよ。 |
糸井 | そのときに「家もクルマも手放した」 っていう話をしたの、覚えてます。 そういう引き金だったんですね。 |
原田 | やっぱり人間の価値ってお金じゃないんです。 キザなことを言うようですが、 行き着くところは人と人の愛、これしかない。 ハーバードに行って得たことが いまの私を支えていると言ってもいいでしょうね。 |
糸井 | 原田さんがハーバードで勉強していたころ 僕は釣りをしていたんですよね。 |
原田 | 釣りですか?! |
糸井 | そう。それまでひとりで生きてきて、 それこそ「この腕こそ俺だ」っていうことを ずっとやってきたけど、 その時期にそういうことをやめるんです。 |
原田 | それはどういった理由なんですか? |
糸井 | クライアントがいて、代理店がいて、 コピーライターがいて、という関係に、 今の仕事のままだと 「人の思いどおりに生きるだけだな」 って思ったんです。 で、1から何かできることをやってみようと思って 始めたのが釣りでした。 釣りってひとりで全部やらなくちゃいけないから ひとりで何かをやる練習に 向いていると思ったんです。 そのとき原田さんがハーバード、僕は河口湖。 釣りとハーバード、 やってることはぜんぜん違うんですが、 根底にあるテーマは多分きっと同じですよ。 (つづきます) |