原田泳幸さんと、 価値について。 「人間の価値ってお金じゃないんです」
第3回	価値観がガラッとかわったんです
原田 同じ社長でも
糸井さんはスポーツにたとえるなら
プレイヤーだったわけじゃないですか。
糸井 そうですね。
原田 それがプレイヤーを監督する立場になった。
そんな状況で、いまだにあそこのポジションは
俺がやったほうがうまくいく、
と思ったりすることあります?
糸井 それはね、もちろんありますよ。
原田 ですよね? 私もあるんです。
プレイヤーたちが
「やってください、教えてください」と
近寄ってくるんですよ。
そこを変えるのが
一番考えなくちゃいけないところなんです。
糸井 いまもやってるんですね。
原田 でも、ギリギリまで放っておきますけど。
で、あらぬ方向に進んだときに
「集合!」って呼び出します。
糸井 冷静に言ってしまえば、
それって人よりも少し余計に知っている
知識とかテクニックをプレイヤーたちに
伝達する能力が自分にまだないってことですよね。
原田 そうかもしれないですね。
あ、でも最近だと、
プレイヤーたちができてないことがあっても
「なんでできないんだ」って言わなくなりました。
糸井 原田監督はなんて言うんですか?
原田 「この件は、これとこれが
 うまく連動していないのがわかった。
 それに対する私の課題がなんだろうと
 必死になって考えてみて
 思いついた項目がいくつかある。
 いまからみんなに説明するから
 間違ってたら教えてくれ」って。
実は今朝も言ったんですよ。
糸井 (笑)。
原田 早朝、ランニングしながら8項目考えました。
糸井 閃くわけですね、8項目も。
原田 8項目出して、頭の中で繰り返して
携帯のボイスメッセージに録音するんですよ。
汗びっしょりになりながら。
糸井 毎日?
原田 いやいや、さすがに毎日ではないです。
「ここぞ」というときが
たまにあるってことです。
糸井 いやぁ、原田さんは
本当に一生懸命ですよね。
原田 本気でとりかからないと気が済まないんですよ。
そういえば、社長になる直前の1995年くらいに
ハーバードの経営者育成プログラムに行かされて
3ヶ月間寮生活を余儀なくされたことがあるんです。
土日もなく、毎日毎日勉強勉強の日々でした。
糸井 うへぇ、なんかすごそうですね。
原田 えぇ、変な表現ですけど、刑務所のようでした。
その中で一生懸命必死になって
世界中の政治、経済、歴史なんかを勉強したんです。
で、自分の視野がぜんぜん変わりましたね。
糸井 そんな厳しい勉強をしてきて
どう変わったんですか?
原田 政治家が、失業率だインフレだGDPだと
経済のことを口にしますよね。
糸井 はい。
原田 ハーバードの勉強で、経済っていうのは
片方を立てると、片方が立たなくなる。
永遠に解けない方程式だってことがわかりました。
つまり、政治家が選挙のときに
経済のことをとやかく言うのは
実現不可能なウソだっていうことに気づいたんです。
糸井 はぁ、なるほど。
原田 このことから、
地球上に将来の幸せを保証されている国はない。
人類は未来永劫ジレンマの中で苦しみながら
生きていくっていうのが
わかってしまったわけです。
糸井 ‥‥なんともすごい話ですね。
それって教える側が
そういうことを教えるんですか?
原田 いや、そういう教えかたはしないですよ。
糸井 ということは、ふつうに
政治や経済、歴史を学ぶ勉強をしていたのに
原田さんはそういう勉強をしちゃった?
原田 えぇ、私はそのときそう理解しました。
糸井 ‥‥おもしろい。
原田 それで価値観がガラッと変わったんです。
「俺、なんのために
 今までがんばってきたんだろう?
 結局は目の前のお金のために一生懸命になって
 それが家のローンとクルマのローンに
 変わっただけじゃないか」って考えて。
糸井 すごい勉強だ。
原田 だから家もクルマもゴルフ会員権もすべて売って
借金をゼロにしたんですよ。
糸井 そのときに「家もクルマも手放した」
っていう話をしたの、覚えてます。
そういう引き金だったんですね。
原田 やっぱり人間の価値ってお金じゃないんです。
キザなことを言うようですが、
行き着くところは人と人の愛、これしかない。
ハーバードに行って得たことが
いまの私を支えていると言ってもいいでしょうね。
糸井 原田さんがハーバードで勉強していたころ
僕は釣りをしていたんですよね。
原田 釣りですか?!
糸井 そう。それまでひとりで生きてきて、
それこそ「この腕こそ俺だ」っていうことを
ずっとやってきたけど、
その時期にそういうことをやめるんです。
原田 それはどういった理由なんですか?
糸井 クライアントがいて、代理店がいて、
コピーライターがいて、という関係に、
今の仕事のままだと
「人の思いどおりに生きるだけだな」
って思ったんです。
で、1から何かできることをやってみようと思って
始めたのが釣りでした。
釣りってひとりで全部やらなくちゃいけないから
ひとりで何かをやる練習に
向いていると思ったんです。
そのとき原田さんがハーバード、僕は河口湖。
釣りとハーバード、
やってることはぜんぜん違うんですが、
根底にあるテーマは多分きっと同じですよ。

(つづきます)

2010-08-18-WED

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