第1回 変わるときが、きた?
パトリック 糸井さんは、実際の年齢とは関係なく、
精神的には、今の自分の年齢を、
何歳くらいだと思ってますか?
糸井 ああ、ええとね‥‥にじゅう‥‥
ま、20代(笑)?
パトリック おお、20代。‥‥かなぁ(笑)?
でも私も、自分が実際の年齢よりも
ずっと若いような気がしています。
糸井 パトリックさんは、
自分が何歳だという感覚なんですか?
パトリック ‥‥実は私も、自分が、
25歳くらいの気がするんです(笑)。
糸井 (笑)
パトリック まあ、25歳のときの私は、
よくスポーツをしていまして、
そのときほどは身体が動かないから、
正確に言えば25歳よりちょっと上‥‥くらい?
糸井 ふふ。
パトリック 今、何歳にでもなっていいとしたら、
糸井さんは何歳になりたいですか?
糸井 ああ、それもやっぱり、にじゅう‥‥
29くらいになりたいかなあ。
30じゃなく、29。
パトリック 30じゃなく。
糸井 うん、29かなあ。
パトリック 私はインターナショナルスクールとか、
たいてい子供たちと一緒にいるから、
自分が歳をとっているという感覚が
普段からあんまりないんです。
歳をとらないピーター・パンと同じ、
というか、私の名前はパトリックだから、
‥‥パトリック・パン?
糸井 はい(笑)。
パトリックさんの名前の
「Newell(ニュウエル)」ってのも、
なかなか響きがいいよね。「new」だし。
パトリック ね。「ニュウ」と「ウエル」ってね。
新しく(new)て、元気(well)っていう。
糸井 ぼくはイトイなんで、やや無理矢理だけど、
「一等良い(いっとういい)」
っていう読み方もできるんですよ。
ものすごくいい、っていう名前?
パトリック ええ、いいですね。いい名前。
糸井 ‥‥あの、こういう話なら、
いくらでもできるんですけどね(笑)。
パトリック ははは。(笑)
じゃあ糸井さん、すこし話を変えて、
...let's speak English now, okay?
(英語でしゃべりましょうか。いい?)
糸井 ああ、うーん‥‥yeah.(ええ)
パトリック Let's do it! Let's go English! Okay?
(ね、やりましょう! 英語でね! いい?)
糸井 ...yeah.(ええ)
パトリック You can do it! You can do it!
(大丈夫、できるできる!)
さっき言ってたみたいに
糸井さん、まだ29歳だから。
糸井 ああそうだ、今は29歳だった。
じゃあ、これから英語を覚えるから。
...I will try.(やってみます)
パトリック はい。
糸井 ‥‥えーっとね。
パトリック ふふふ。
糸井 やっぱり日本語でしゃべります。
パトリック はい(笑)。
糸井 あの、パトリックさんがぼくに今、
「英語で話しましょうよ」って言ってくれたことで、
あらためて思い出したんですけれども、
最近、なんだかぼくにとって、
「英語」だとか「海外」だとかが、
以前よりもずっと身近なものに感じられているんですね。
もともと、「英語」も「海外」も、
ぼくにとってはかなり遠いものだったんです。
パトリック ええ。
糸井 ぼくは自分がずっと、
日本にだけいるつもりで生きてきていて、
自分が海外の人と仕事をする可能性なんかも、
ほとんど考えてこなかったんですね。
英語の勉強もしなかったから
ずっとしゃべれないまま、今になっちゃったし。
海外には、観光や仕事で行くことはあっても、
そのときの自分にとっての海外は、どうしても
「一時的に借りるだけの場所」でしかなくて。
もちろん自分が海外で暮らす想像もまったくなく。
東京って、わざわざ海外に出かけたり
外国の人とつきあったりしなくても、
けっこう間に合っちゃうところもあるし。
そんな感じで、ずっと海外のことが
自分にとって遠いまま、過ごしてきたんですね。
パトリック ええ。
糸井 ところがこのところ、
いろんな面で変化が訪れてきていて。
たとえばこうしてパトリックさんと
お話しする縁をいただいたりとか、
色んな人と人のつながりで、
海外が近くなってるんです。
あと、今は、技術の進化もあって、
海外との距離がどんどんなくなってきてますよね。
アフリカとか、バングラデシュとか、
これまでつながると思えなかった場所の人たちとも
ネットを通じてスッと混じり合える時代で。
「どの場所で何があってもおかしくない」
っていう時代にどんどんなっている。
パトリック ああ、そうですね。
糸井 「グローバル」っていうことばだけで
時代や環境のいろんな変化を
全部表しちゃうのも乱暴なんですけど、
ぼく自身、以前よりもずっと自然に
海外のことを考えられるようになってきた、
それは確かなんですよね。
つまり、なんていうのかな、
やっぱり、なんでも日本のサイズで
考える時代じゃないな、と思いはじめたんですよ。
パトリック はい。
糸井 今日、こうやってパトリックさんと
対談をさせていただいているのも、
みんなが日本のサイズで考えていた時代から、
いろんな国の人たちが
スッと混じり合える時代へ
変化していることの一つかな、と思って。
つまり、その‥‥ジャスト・ナウ(笑)!
パトリック Time to change(笑)!
糸井 うん。
パトリック たしかに、変わるとき、ですね。
ただ、糸井さん、もしかしたら、
日本は今じゃなくて、
10年前に変化していたら最高だったかも。
今は、世界の中での日本の存在感が
前よりもずいぶん薄まってしまっているから。
今だとすこし‥‥遅かった、かも?
糸井 ああ、うん(笑)。
そこは、でも、なんていうんだろう、
遅く、遅く変化が進んでいくっていうのにも
きっといいことがあるんだと思うんだよね。
パトリック ああ、確かに、そういった面も
あるかもしれませんね。
糸井 いまだから遅いっていうことはない、
ともいえますし。
世界中の人に呼びかけるチャンスがあるなかで
日本の人たちだけが黙って日本で暮らしてる
のだとしたら、もったいないですよね。
自分がどこの国の人だとか関係なく、
「みんなが出会う」こと自体が
これからの可能性のかたまりでもあるんだから、
日本だけ、とか範囲を決めてしまうことなく、
繋がり合う、みたいなことを
もっと自由にやらないといけないな、と。
そんなふうに思うんですよ。
ぼくはもう歳をとっちゃったけどね、
でも、みんながそうなればいいなと思って。
パトリック ええ。
(つづきます)
アメリカ、カリフォルニア州ロングビーチで
年1回行われている、スピーチのイベントがあります。
様々なジャンルからやってきた沢山の人々が、
ひとりにつき18分以内のスピーチを行うそのイベントの名前は
「TEDカンファレンス」。
簡単に「TED(テッド)」とだけ呼ばれることもあります。
「Ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」をテーマに、
良いアイデアをみんなで共有しようよ、というイベントです。
その「TED」で、これまでにスピーチを行ってきた
人々の名前をあげてみると、wikipediaの創設者のジミー・ウェールズ、
amazon経営者のジェフ・ベゾス、U2のボノ、
精神科医のオリバー・サックス、
ノーベル賞受賞者のジェームズ・ワトソン、
ビル・クリントン元アメリカ大統領‥‥。
こうした人々が、自分たちの持っているアイデアの中から
特に「広める価値のあるアイデア」を18分以内にまとめて
スピーチをするイベント、といえば
興味が湧く方も多いのではないでしょうか。
今回対談をさせていただいたパトリック・ニュウエルさんは
そんな「TED」を日本に持ってこようと、
2009年に「TED」の公認ローカルイベント「TEDxTokyo」を
トッド・ポーターさんとともに、共同設立された方でもあります。
ここでは、対談ではご紹介しきれなかったパトリックさんのお仕事、
「TEDxTokyo」のことを、ご紹介させていただこうと思います。

(次回につづきます)
カリフォルニア州でおこなわれている「TED」の様子。
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2012-06-29-FRI
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