岡田 |
糸井さんとは、今日、
はじめてお会いしますよね? |
糸井 |
そういえば、これまで
お会いしていそうなのに、
意外ですね。 |
岡田 |
会ってない‥‥ですよね? |
糸井 |
会ってない‥‥ですよね(笑)。
岡田さんの近著『プチクリ』を
読ませていただきました。
これは、いわば仕事論ですね。
岡田さんが以前書かれた『ぼくたちの洗脳社会』の
続きのようにして読める本だと思いました。
『ぼくたちの洗脳社会』は、ほんとうに
おもしろくてスリリングでしたし、
テレビでいろんなことをおっしゃっている
岡田さんを見ては、
「知ってるなぁ、なんでも!」
「もしも、こういう人が近所にいたら
便利だろうなぁ」
と、つねづね思っていましたよ。 |
岡田 |
ハハハハ。
でも、ぼくは、自分で言うのもナンですが、
あんがいまじめで、使いでのない人間なんですよ。 |
糸井 |
そういえば、『プチクリ』は、
かなり真剣に、まじめに
書いていらっしゃいますね。
「必ずこの場所に行ける」という約束が、
わかるように書いてある。 |
岡田 |
はい、わかるように(笑)。
ぼくは、話をしていて、
「よくわかんない」と言い出す奴がいたら、
そいつが納得するまで
とことん説明するタイプです。
たぶん、そういう嫌な性格が(笑)、
この本に出ているんだと思います。
「こんなに広範囲に考えて、
お品書きを作ったんだから、
俺が間違ってるはずがない!!
おまえの好みで左右するな!」 |
糸井 |
部活の先輩みたいだね(笑)。
ぼくは、おもしろく読みましたよ。
『プチクリ』はね、みんな、
読んだほうが楽になりますよ、あきらかに。
欲を言うとしたら、ちょっとだけふざければ、
もっとよかったかもしれないね。 |
岡田 |
‥‥うんうん、いやいや、
そんなことは考えたこともなかったです。 |
糸井 |
そうですか。 |
岡田 |
生まれてこのかた。 |
糸井 |
そうですか! |
岡田 |
はい。
どちらかと言うと、テレビに出たりするときには、
ぼくは発言に反論の余地を残すことが多いんです。
それは
「本でちゃんと
まじめにフォローしてるからね」
という言いわけが、自分の中にあるからです。
逆に言うと、その余地のないかんじがモロに
本には出ちゃっているんでしょうね。
今回、この『プチクリ』を出すにあたって、
本が売れるということについて、
すっごくまじめに考えたんですよ。
ものを書くことを職業にしている人と話すと、
「要するに、書くものを
“ヌルく”すれば売れる」
とか、
「ほんとうはここまで書く、というところを、
あるところで止めちゃえば売れる」
ということを言われたりします。
ぼくも「そうなのかな?」と、
『プチクリ』を書くまでは思っていたんですが。 |
糸井 |
この本は、違いますね。 |
岡田 |
ええ、違います。
それからもうひとつ、この『プチクリ』には、
ぼくが書いてきた本とは
大きく違う点があります。
ぼくは、これまで
「応援歌」というようなものが
嫌いだったんですよ。
「みんながんばれ」とか、
むやみに書いてあるようなものが。 |
糸井 |
はい、わかります。 |
岡田 |
そんなに「がんばれ」だらけだったら
世の中、しょうがないじゃないかと
思っていました。
これまで出したぼくの本は、
応援歌ではなくて、
「ほんとうは世の中こうなってるんだ」
「思い知れ!」
という内容ばかりだったんですよ。 |
糸井 |
ええ、そうですね。
「俺は俺だ」とブイブイ書いているところに
気持ちよさがありましたよ。 |
岡田 |
でも、それも、なんだかちがうのかな、
と思いはじめたんです。
みんなが「思い知った」ところで、
この世の中がどうなるもんでもない。
みんなが思い知るより大事なことは、
明日元気に会社や学校に行けることのほうだから。
明日元気になるためなら、
「思い知れ」より「がんばれ」のほうが
100倍、役に立ちます。
「思い知れ」は、書いてる側が気持ちいい
カラオケみたいなもんなんだけれども、
「がんばれ」は読んでる側が気持ちいい。
そんなふうに考えて、
売れるというのはこういうことだ、と
思ったんですが、
でも、ちがうのか‥‥なぁ、なんて(笑)。 |
糸井 |
ぼくも、そういうこと、よくやっていましたよ。
「ネクタイを締めることで
相手が、ぼくの話を聞いてくれるんだったら
ネクタイを締めればいいじゃないか、俺よ!」
と、慣れないネクタイを締めて
出かけたとする。
でも、そこで譲り渡したぶんだけ、
「自分」が出なくなるんですよね。 |
岡田 |
うんうんうんうん。
いきなり本の反省会(笑)。 |
糸井 |
いきなり反省会(笑)。
でもね、大ベストセラーができる理由や方法って、
もう、ないのかもしれない。
みんなは、同人誌を買うようにして
本を買っていますから。
つまり、本を買う人というのは、
自分も「書くつもり」の人なんです。
そんなに大勢は、いるはずないんですね。 |
岡田 |
本って1日に200種類が
発売されるといいますから、
そうなると「本を買え」と
言うほうが無茶だと思います。
それに、著者ひとりの考えが書いてある
200ページくらいの紙の束を「読め」と
強要することじたいが
ストレスなんじゃないだろうかと、
ぼくは思うんです。
ぼくは、例えば講演会なんかで
人の話を聴くと、30分で
ストレスがたまっちゃうんですよ。
すぐに自分の話もしないと気がすまない。 |
糸井 |
交互に、やりたくなるんですね。 |
岡田 |
はい。ですので、誰かの本を
200ページ読むとすると、
同じくらいの分量を考えて
自分でメモを作らないと、
読めないんですよ。 |
糸井 |
ハハハハ。 |
岡田 |
もしくは、誰か知りあいに、
「今こんな本を読んでて、
ここまで読んでんだけど、
俺はこう思うんだよね」
と、言いながらまた読む、とか。 |
糸井 |
でもそれはきっと、岡田さんだけじゃなくて、
ほんとはみんなそうなんでしょうね。 |
岡田 |
そうだと思います。状況さえ許せば、
みんなそうしたいだろうし。 |
糸井 |
カラオケで、みんなが
次に自分が歌う曲のページを探しながら、
人の歌を耳からだけ聴いている。
それが、いまの状況。それがプチクリなんだ。 |
岡田 |
まさに、そうです。
|
(つづきます!)