大貫 |
以前のエイズコンサートでは、
「みんなでもっとエイズのことを知ろうよ!」
あるいは、
手を繋いだりしても、うつりません、
というようなことを言っていたと思うんですが。
具体的ではないし、
多分勉強不足だったのではないかと思います。
今回、本田さんがおっしゃったようなことは
全然インフォメーションできていないと思います。
わたしはそのときに思ったんですけど・・・・。
あっ、思い出した。
ストップエイズキャンペーンのコンサートに
誘われたけれど、出なかった理由を。
確か、自分の曲は歌わないのが条件・・・。
だったように思うんですけれど、
違っていたらごめんなさい。 |
本田 |
それっていつごろのことですか? |
大貫 |
90年代のはじめだと思いますが。
音楽を仕事にしている私たちは、
チャリーティーなどを含めて、
数々のイヴェントへの参加をたのまれます。
現在は、環境イヴェント、
癌撲滅キャンペーンなども始まっていますから。
私も、年々そういったコンサートへの
参加が増えています。
昨年アース・デイのコンサートが全世界であり
そのDVDが発売になったので見ましたが
海外のアーティストは、そのイヴェントが、
何のために行われているかをよく理解して、
自分の言葉で、そのためのメッセージを
誰もがちゃんと言っているんですね。
ですが、日本のものは、音楽中心で、
なかなかストレートな発言はないように思います。
あっても、
「これからも一緒に、
この問題を考えたいと思います」のようなものが、
まだまだ多いですね。
音楽を仕事にしている人も、
この社会の一員で、
現在おこっているすべての問題に
つねに目を向けていることは
当然だと思っていますから。
シンプルな言葉でいいと思うので、
それを聞きたいですね。
本田さんがお話しして下さったこと。
たとえば、
た~くさん薬をのまなきゃいけないんだ、
副作用でどんどんやせちゃったりするし、
気持ちが悪くなったりもする。
おなかが痛くなったりする。
というような、
HIVに感染したらどんなに辛いのか、
ということ。
生きていくために
薬とその副作用たるや、
大変なんだ、っていうことを
付け加えた方がいいのではないかと思いますね。
こうして今、聞いてきただけでも
「あー大変だぁ」と思いますもの。
たとえば、「差別をなくそう」とか
「みんな仲良くしよう」とか、
そういうことも大切だけれど、
現実にHIVにかかった場合のリスクは
伝える必要があると思いますね。
日々の治療に関する病気としての側面と
それをかかえて生きていく、という精神的な面は
別のケアが必要だと思うんですね。
そのふたつを一緒にして伝えようとするから
オブラートに包まれたようなものの言い方に
なってしまうんだと思います。
患者さんの心情的な話を聞く機会は
たくさんありますが、
もし、自分が感染したら、本当は何が起こるのか。
何が辛いのか。
ふだんは普通に生活しているように見える方達も
いちど感染してしまったら
本当はこんなに大変なんだと言うことも
知ってもらうことが大切なんじゃないかしら。
そのようなものがあったら私も
読んでみたいと思いますし。 |
本田 |
患者さんがそれを読んだときに
どんな風にお受け取りになるかなと思うと、
ついトーンダウンしてしまうことは、
実際のところ、あるんです。 |
大貫 |
癌の告知のようにですか?
しかし、たとえば、癌の患者さんが
薬による副作用で髪が全部抜けてしまったとか。
末期癌患者でありながら、生きる姿は実際
いくつも報道されていますよね。
HIVは感染するものであって、
癌はそうではないからという理由だけでしょうか。
同じHIVでも、
性的交渉によるものと、
血液製剤による感染では
人からの理解のされ方が違うから
ということでしょうか。
でも現実に大変苦しんでいる方が
いらっしゃるんでしょう?
それを知ることがわたしたちにとって
絶対必要なことだと思いますね。 |
本田 |
そうですね。 |
大貫 |
そういう私も、未だ検査を受けていませんし
実際に患者の立場で
ものが言えるわけではありません。
本来は、そういう方の中から
現実の声として届けられることが
いちばん説得力を持つと思うのですが。
やはり、受け取る側の準備が
まだ、足りていないと感じる時はあります。
かりに私がHIVポジティブであった場合を
想像して考えてみても
その病気と闘うので精一杯で
世の中に向けて、発信しようという気力まで
持ち合わすかどうかわかりませんから。 |
本田 |
今回東京FMのイベントでとりあげられた
患者さんの手記を読むということは
この病気のことを知ってもらう
取りかかりのひとつにはなるんだろうと思います。
患者さんがああいった形で
自分のお気持ちを吐露なさるのと並行して、
現実問題としてはこうだ、ということを
別の立場からお伝えするということには
意味があるだろうと、
今お話を伺っていて改めて思いました。 |
大貫 |
そうですね。 |
本田 |
さっき申し上げたように、(前回参照)
患者さんに必要な医療費というのは
ほとんど税金で負担しているので、
月に20万円、1年では240万円、
40年間薬を飲んだら
ひとりにつき1億円必要となる治療費を
結局は、国民みんなで払っているのだ、
という現実があって、
しかも、この病気は防げる、という
厳然たる事実があるんです。
ほんとにもったいないことだと思っています。
この病気は予防できるのに。
わたしたちの社会保障のためのお金は有限で、
政府は毎年2200億円ずつ4年間にわたって
社会保障費を削減することを
すでに決定しています。
それは、本当にわたしたちが望んでいることなのか
個人的にはすごく疑問に思ってます。
ちょっと話がずれちゃいますけど。
少しおおげさかもしれませんが、
限りあるお金を国民が有効に使うためにも
HIV感染の広がりを防ぐことが必要だと
強く思っています。 |
大貫 |
患者さんの意思というより
本田さんの意思の問題かもしれませんね‥‥
医師としてHIVに
長く関わってきたにもかかわらず
その数が増えている、というのでは
やはり、医師の立場からの
心情の入らないレポートが必要だと思いますね。
とくに若い子の感染を防ぐ手だては、
「やっぱり自分に辛いとか苦しいことが起こる、
というのは嫌でしょう?」
「現実はこうなっちゃうのよ?」
っていうのが、声として届かないとね。
HIVにかかったら、
それを体から完全に駆逐することは
現在できなくて、
生涯治療を続けることになるけれども
確実に「老後」と呼ばれる生活を
送れると見込まれるようになった、と
ご本にも書いていらっしゃいますが
「な~んだ、すぐ死んじゃうんじゃないんだ」
では、困るんですよね。
その間にも、
いろいろな病気を併発するリスクまで伝えないと。
出版されている
「エイズ感染爆発と
SAFE SEXについて話します」を、
もっともっと広く
読んでもらえるようにしましょうよ。
分かりやすいし、
でも、かなり怖いなと思いますもの。 |