お医者さんと患者さん。 「遥か彼方で働くひとよ」が変わりました。 |
フィラデルフィアでお医者さんをしていた本田さんが、 |
手紙265 「自分を守る」 こんにちは。 「お医者さんと患者さん。」の連載は 9年前に糸井さんが声をかけてくださったことが きっかけで始まりました。 途中、とぎれとぎれにはなりましたが、 好きなことを好きなようにやってみることを お許しいただいて、 本当に楽しく過ごしてきました。 ほぼ日を読んでくださっている方に お伝えしたいな、と思っていることは 9年前も今も、変わっていません。 わたしは 連載を読んでくださっている方が 「自分を守る」ために 役立てていただけるといいなと思いながら 毎週の内容を楽しみに考えてきました。 ぜんそくのことも、 薬のことも、 家庭内暴力のことも、 HIVのことも、 そして、犯罪被害のことも、 結局、お伝えしたかったのは、 「ご自分のことを、ぜひ大切になさってください」 ということでした。 これは、まったく個人的な意見ですが、 「自分を守る」ということが 今の日本ではとても必要とされていて、 そして それがこれほど必要になる事態に 見舞われていることを、 わたしは少し悲しく思っています。 今年の4月から後期高齢者医療制度という 新しい制度が始まったことは みなさまご存知のことと思います。 さまざまな立場から、 さまざまな意見が出ていますが、 わたしにとって、これは 「年齢や障害を理由に、 医療の内容を制限してもよいという 法的な根拠を与えた」、 歴史的な制度です。 現行の後期高齢者医療制度では、 75歳以上のすべての方と 65歳以上の身体障害手帳を持つ方が その対象となっています。 報道では、 保険料が年金から天引きされることばかりが 強調されていますが、 これは、この問題の 本質ではないような気がします。 「ある年齢を超えた人には、 受けることができる医療を縮小する」ことを 容認するこの制度が抱える問題について、 議論を重ねていく、ということは ものすごく大切だと思います。 とくに、この法律にかかわった人には 「あなたは75歳になったときに、 本当にこの制度の下で 医療を受けたいと思ってるのですか?」と ぜひ聞いてみたいと思っています。 でも、今日は、 わたしは 少し違った立場から わたしたちの体と健康について 考えてみたいと思います。 2001年の9月11日に ニューヨークの高層ビルに航空機が突っ込み、 想像もしなかったテロに 街中の人々の心が不安と動揺でいっぱいの午後、 わたしは、自分の担当の患者さんの家へ 往診に行きました。 国家の一大事が起きている中で、 わたしがやっていたことは、 とこずれの手当てや、 血圧の測定や、お薬の処方など いつもとまったく同じ仕事でした。 家の中と外の様子のあまりの落差に 自分でもちょっとまごついてしまいました。 そして、 万が一、国家がなくなるようなことがあっても 毎日の生活は続くし、 自分の体は残るんだなあと、 しみじみと実感しつつわたしは家に帰りました。 2008年の6月の今、 わたしは当時とまったく同じ気持ちです。 どんな政府が、 どんな理不尽な法律を作ったとしても わたしたちには毎日の生活があり、 体を守っていかなければいけない、と つくづく思います。 ごく普通にお過ごしの方々に 「自分を守る」ために 役立てていただけるものを作るには どうすればいいかなあと わたしはここ数年、ずっと考えてきました。 そして、先日このことについて 思い切って糸井さんに相談してみました。 夢のようなことですが、 ほぼ日の方々が 力を貸してくださることになりました。 「自分を守る」ということについて 考えてきた9年間ですが、 今後はこれまでとは少し違った形で このことについて お伝えできるようになるかもしれない、と 本当にうれしく思い、 楽しみにしています。 と、いうわけで 「お医者さんと患者さん。」の連載は 今回が最終回です。 これまで読んで下さった方々には 心から御礼を申し上げるとともに、 これからも、 ぜひご自分を大切にしていただければと思います。 では、今日はこの辺で。 みなさま、どうぞお元気で。 本田美和子 追伸: 最終回の追伸、というのも変ですが お知らせが二つあります。 ひとつめ。 ほぼ日でご活躍になっていた 木村俊介さんが、 5月中旬から週刊文春で連載をお始めになりました。 「仕事のはなし」というタイトルで、 いろんな職業のひとが 自分の仕事について語る、という連載です。 これまで脳科学者(池谷裕二さん)、内科医(わたし)、 映画監督(是枝裕和さん)、雑誌編集者(渋谷陽一さん)が 話しています。 1年間にわたる連載で、今後は 漫画家(五十嵐大介さん)、 工業デザイナー(奥山清行さん)、 昆虫写真家(今森光彦さん)のお話が伺える予定です。 聞き上手の木村さんの本領発揮のシリーズです。 ぜひ、ご覧になってみてください。 ふたつめ。 フジテレビのウェブサイトで 佐々木恭子さんと一緒にHIVについて お話しすることになりました。 7月18日からフジテレビのサイトにある ポッドキャスティングのページから ダウンロードできるようになるそうです。 どんなお話をしようか、楽しみに考えています。 小冊子 『みんなの誤解』をダウンロードいただけます。
『エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します』 本田美和子著 朝日出版社刊 定価 1,029円(税込み) ISBN:4-255-00323-8 Amazonでのお買い求めはこちら |
本田さんへの激励や感想などは、
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2008-06-13-FRI
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