サンミュージック・リッキー社長「人の面倒を見ていたら、社長になっちゃいました」 サンミュージック・リッキー社長「人の面倒を見ていたら、社長になっちゃいました」
カンニング竹山さんやダンディ坂野さんなど、
数多くの芸人から「恩人」として名前が挙がる、
芸能事務所サンミュージックの社長・リッキーさん。
今回、リッキーさんの半生を綴った一冊、
『サンミュージックなお笑いの夜明けだったよ!』の帯を
糸井重里が書いたご縁で対談が実現したのですが、
じつは、糸井がリッキーさんと最後に会ったのは、
もう40年近く前のこと。

1982年、『ザ・テレビ演芸』で結成2年目にして
チャンピオンに輝いた当時の「若手芸人」リッキーさんと、
その姿を「審査員」席で見ていた糸井。
「あのときの若者」が、たくさんの若手芸人にとっての
「恩人社長」になるまでの人生模様を、
糸井があっちからこっちから面白がりました。
役者志望だった若者時代、変わりゆく夢、
そして、後輩たちに伝えてきた「たったひとつ」のこと。
全7回でお届けします。
第5回 教えられることは、ひとつだけ。
糸井
リッキーさんは、「役者」から「芸人」の世界に行って、
そしていまは、ついに、「社長」という世界にも
行った人なわけですけど。



やっぱり、まあ当然、
大変なこともたくさんありますよね。
リッキー
そうですね。
まあやっぱり、一番よく回ってきた仕事は、
「辞めさせる役割」でしたかね。
これが一番大変ですよね。
写真
糸井
人の人生を変える話ですもんね。
リッキー
はい。「これ以上引っ張ると、本人の次の人生が‥‥」
っていうところまで来ると、
僕もやっぱり、言わなきゃいけないんで。
糸井
もちろん一人ひとり違うとは思うんですけど、
「辞める理由」って、共通するものはありますか。
リッキー
こっちから「もう辞めろ」「もううちでは無理だ」と
伝えなきゃいけない人たちは、細かな違いはあれ、
言ってしまえば、ほぼ同じタイプかもしれません。
糸井
それは、なんですか?
リッキー
「こっちが期待している以上のことをやらない人」です。



「最低限これをやってこい」と伝えて、
次会ったとき、「それしかやってない子」。
写真
糸井
ああー。
リッキー
「このネタいい感じだから、完成するまでやってみ。
もう8割9割できてて、あとちょっとなんだけど、
このちょっとが大きいんだよね」なんて言いながら、
そのやり方を懇切丁寧に教えてあげて、
で、1週間後の稽古会で見てみると、
言われた部分以外、自分たちで何も足してきていない。



食えない子たちは、
根っこの部分でここが共通してる気がしますね。
糸井
なるほど。



逆に、「期待を上回ろうとする人」って、
なんか特徴ありますか。
リッキー
あの‥‥「マメ」ですね。
がんばり屋さんです。
結局、マメじゃないとダメですね。
糸井
ああ、それはね、
僕も、歳取ってからよくわかるようになりました。
やっぱり、「マメなやつ」の勝ちですよね。
リッキー
はい。
「あいつなんでうまくいってんのかな」って思うとき、
理由はだいたい「マメ」です。



どんな仕事も同じじゃないですかね。
プロダクションの裏方も同じです。



僕、年に数回、テレビ局に挨拶に行くんですけど、
僕がいつ行っても必ず挨拶に来ている、
よそのプロダクションの人がいるんです。
糸井
ああ、マメですね。
リッキー
はい。
そのプロダクションは、
うちよりタレントの数は少ないのに、
もう、確実な、いい仕事を、しっかり掴んでます。



何かうまくいった人に対して
「コネがあったんだろ」とか「接待したんだろ」とか
揶揄したりすることがありますけど、
結局はそれも、「マメ」の成せる業なんですよ。
糸井
まったくそうですね。
あえて例えますけど、
「ナンパする人」も、ある意味「マメ」なわけですよね。
つまり、「失敗をものともしない」っていうか。
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リッキー
そうなんですよ。
何万人に声をかけてナンパしたという
芸人がいるんですけど、
やっぱりそいつの武器は、話術とか度胸じゃなくて、
ただただやっぱり「マメ」なところなんですよ。
糸井
そうですよね。
1万人の中で3人OKだったら、「3」ですからね。
2人に声をかけて、0だったら、「0」ですからね。



この違いの大きさを、若いときから知ってたら、
人生も、仕事も、
またいろんなことが変わったかもしれない
っていうのは思いますね。



ただ、それを教えても、「そうかぁ」とまで言うけど、
本当にマメにやる人はそんないないということですよね。
リッキー
はい。



やっぱり、マメにやるってしんどいですから。
よく、努力した人に
「あいつ変わったね」なんて言うけど、
人間ってそんな簡単に変わらないじゃないですか。



つまり、変わったように見えるというのは、
本当に変わったというよりは
「がんばってそうしてる」わけだから、
「成長したねぇ」と言われても、
「いや成長したんだけど、もうやめたいんだよ」
って苦しい気持ちを伴ってることも、
大いにあり得ますよね。



そういう努力をマメに続けているというのは、
やっぱりすごいことなんですよ。
写真
糸井
あの、「努力」という言葉がでましたけど、
ひとつ、すごく聞いてみたいことがあって。



僕、「お笑いができる人」に対する憧れが、
今でもすごくあるんですよ。



というのも、なんかもう、
「お笑い」って、万能じゃないですか。
ある意味、「人を笑わせられる人」って、
何でもできちゃうよなっていう。
リッキー
ああ、そうかもしれないですね。
糸井
で、リッキーさんはそんな
「お笑いの人」を育てるってことを
ずっとしてきたわけですけど‥‥
「お笑いの人を育てる」というのは、
どういうことなんでしょうか。



つまり、何を「努力」すれば
そんな人たちが育つのかというのが、
僕には見当もつかなくて。
できるんですか、そんなこと。
写真
リッキー
(笑)



あの、お笑い自体、
この30年ぐらいで少しずつは変化があって、
人力舎でぶっちゃあさんと僕が主任講師みたいなことを
していたときに育ったのが、
例えば、アンジャッシュの二人であったり、
いまや売れっ子の仲間入りをした東京03の飯塚であったり、
アンタッチャブルであったり、
みたいな感じだったんですね。
糸井
すごいメンバーですね。
リッキー
そうですね。



で、その、「何を教えるのか」って話なんですけど、
教えられることって、ひとつだけなんです。
糸井
なんですか。
リッキー
一般の仕事でも、どんな人でも、
人と関わる世の中にいる限り、絶対に必要なこと。



「伝える力」です。これだけなんです。
伝わるか、伝わらないか。
写真
糸井
伝わるか、伝わらないか。
リッキー
いいネタを作るためにどんなことが必要か、
いろんな角度でアドバイスしますけど、
結局教えてるのは全部そこなんです。



笑わそう、泣かせよう、よろこばせよう、
どんなことでもいいけど、
「要は、伝わるか、伝わらないかですよ」ということ。
僕は、そこだけを教えてますね、ずーっと。
糸井
あえて言うとすれば、
「伝わる芸」と「伝わらない芸」の違いって、
どういう差があるんでしょうか。
リッキー
これがね、
まあすごくクサくて、抽象的な言い方になるんですけど‥‥
「その芸に、愛があるのか」に尽きるんじゃないかと、
僕は思ってます。
糸井
ああー。
リッキー
このコンビ、何でダメなのかなーって考えていくと、
「『自分が伝えようとしていることに愛がない』んだな、
こいつら」っていう結論に、いつも至るんです。



「現状維持」っていう言葉がありますけど、
現状維持って、相当の努力をしないとできないですよね。
「まあ、そこそこでいいか」くらいの気持ちでいると、
まず難しい。



そう考えると、現状維持どころか、
「もっと良くしよう」としていくときには、
もう、尋常じゃない苦労と努力が必要になるわけで。



そういうときに、
「伝えたいこと」が「伝わる芸」になるまで粘れる人と
そうでない人の違いって、もう、
どんな苦労をしてもこれを伝えたいんだという、
「伝えたいこと」への愛があるかどうか、
その違いでしかないと僕は思うんです。
糸井
ああ、あの、僕も本当にちょうど最近、
そのあたりのことをよく考えていて。
ここのところよく例に挙げてるんですけど、
「ミッキーマウス」は生き残ってるけど、
「バックスバニー」はもう、
生き残ってないじゃないですか。
リッキー
ああ、本当ですね。
糸井
この、「ミッキーマウス」と「バックスバニー」は
何が違ったのかというと、
どこかの時点で、「それを生かしておくための愛情」を
かけてくれる人がいなくなってしまったという、
そこの違いだと思うんです。
リッキー
はい。
写真
糸井
コンテンツもそうだし、人もそうですけど、
誰かが「それを生かしておくことを諦めない」限り、
それは死なないんですよね。



マネージャーが本気で惚れて、
一生懸命になるようなタレントさんは、
やっぱり、「惚れられるだけのもの」を持ってたから、
生き延びますよね。



マネージャーも、本人も、
「仕事だからこれやっといたよ」
「まあこんな感じでいいんじゃないの」
となっていったら、死にますよね。



僕もクサい言い方になりますけど、
その違いはやっぱり、
「愛」としか言えないですよね。
リッキー
はい。愛を持ち続けていられる限りは、
必ず「人に伝わるもの」になります。



愛があれば、その次も、その次も、その次も、
それは、「つい」、前に歩んでいきます。
写真
(つづきます)
2024-05-19-SUN