糸井 | お金について難しい例をもうひとつ挙げると、 ぼくは、東北の被災地に 大きめのプロジェクトを 起ち上げようとしているんですね。 それは、ゆくゆくは現地の人たちだけで 回せる独立した会社にしたいと思ってるんです。 まだかたちにはなってないんですが、 いまもプロジェクトは動いていて、 「会社にするためにいま働いている」という人も 少しずつ増えてきているんですね。 その人たちへのお金の支払いは、 どのタイミングでどういうふうにやるのが ベストなのかというのは これも答えがなかなか出ないんですよ。 |
サンデル | それもインターネットのビジネスになるんですか。 |
糸井 | いえ、それは、手工業です。 まずは、ニット、 編み物をする会社としてはじまります。 被災地では、お金が必要な人たちもいるし、 職も求めている方もたくさんいらっしゃる。 そういう人たちとぼくらが打ち合わせをしたときに 「金じゃねぇんだよ」って、 すごく早い段階でおっしゃるんですね。 うん、その気持ちもわかる。 でも、まだ手探りの状態とはいえ、 労力を割いていただいているのでね。 そのへんのギャランティーに関しては、 なにか新しいアイデアが必要だと思ってます。 |
サンデル | なるほど。 ニット‥‥ですか? |
糸井 | そうです。 東北の、気仙沼というところに ニットの会社をつくろうと思ってるんです。 手編みのニットです。 いま、セーターって機械で編みますけど、 きちんとしたセーターを1枚しっかり手で編むと、 1枚50時間かかるって言われてるんです。 それを、いま売られている価格でやり取りすると、 時給で考えたらとんでもなく安くなってしまう。 それを、手で編むというたいへんな仕事が きちんと評価されるような仕事にして 被災地に根づくようになったら いいなと思ってるんです。 それこそ、「お金の話」としてしっかりと 語れるかたちにしたいんですよね。 |
サンデル | ふーむ、おもしろいですね。 |
糸井 | いまの時代って、いちばん極端なのは、 お金でお金を動かすような仕事だと思うんです。 数字と数字をやりとりして、大きなお金が動く。 一方、ある意味でその真逆にあるのが、 ただ機械がやればいいっていう仕事。 で、そのふたつの真ん中に、 人間がやるべき仕事がたくさんあるんだけども、 どうもそれができてないんじゃないか、 っていうふうにぼくは思ったんです。 つまり、セーターを手で編むなんてことは、 機械にやらせればいいじゃないかって言われて、 簡単に済まされてたわけですよね。 でも、それが手で編まれているからこそ、 買う側にもよろこびがあるわけだし、 逆にそれを求められて編む っていうよろこびもある。 そういうふうに、仕事というものの範囲を、 もっと発展させていけないかなと思ってるんです。 |
サンデル | ああ、なるほど。 |
糸井 | ‥‥うまく、伝わる? |
サンデル | わかります、わかります。 すばらしいアイデアですね。 うまくいくようにお祈りしてます。 |
糸井 | ああ、よかった。ありがとうございます。 そういうことを考えてるときに、 サンデルさんの本を読んだんで、 いろんなことを考える、 新しいきっかけになったんですね。 |
サンデル | それはよかったです。 |
糸井 | なんていうんだろう、 クリエイティブな仕事こそ価値があるって、 いろんな本に簡単に書いてあるんだけども、 ほんとにクリエイティブなことって そんなにたくさんはなくって、 人間のやってるほとんどの仕事っていうのは、 「そんなにクリエイティブではないんだけど、 認められるべき仕事」なんじゃないかな、 ということを、このごろ、よく思うんですね。 |
サンデル | なるほど。 |
糸井 | ぱっとアイデアをひらめいたり、 ものをどんどん生産するだけが仕事じゃない。 そのあいだを誠実に埋めているものも仕事、 というか、むしろそっちのほうが 仕事のほとんどじゃないかなと思うんです。 たとえば、今日、サンデルさんは 仕事としてここでぼくと話してますけど、 話すことだけじゃなくて、 ホテルから歩いてここまで移動してきたことだって、 今日の仕事の大きな要素だと思うんですよ。 |
サンデル | ああ‥‥うーん‥‥いや、でも、 そこも仕事の範疇に入るのかどうか っていうのは、ちょっとよくわからないですね。 |
糸井 | うん、仕事として入るかどうかは わからないんですけど、 それ全体をひとつの自然なことして とらえることができますよね。 |
サンデル | 糸井さんは、毎日会社に来られて、 ここにいらっしゃるみなさんといっしょに ウェブサイトを運営されてますけれども、 それは仕事だって、思ってらっしゃいますか。 |
糸井 | うん。思ってます。 ただ、「仕事」っていう言葉は使ってますけど 同時に「たのしみ」でもあります。 |
サンデル | あー、なるほど。 そもそも糸井さんは「仕事」というのは なにか自分の負荷になるものだというふうに 観念づけてらっしゃいますか? |
糸井 | というか、人が価値だと思うもの、でしょうね。 |
サンデル | ということは、「仕事」は、なにかしら、 人に意味をもたらすもの、意味があるもの、 っていうふうに考えてらっしゃいますか。 |
糸井 | うん‥‥そういうふうに、 そのことばは使ってますね。 ただ、それは、いろんな要素が もう、ないまぜになったものっていうか、 たとえば趣味として観た1本の映画が、 ただの「たのしみ」だったはずなんだけど、 それがヒントになって 「仕事」という価値につながっていく、 みたいなことは大いにありますね。 |
サンデル | ああ、わかります。 |
(つづきます) | |
2012-07-30-MON |