【34】宙に浮かぶ石の庭?
■装飾が付いた外壁
工事は2階の床がもうじき完成という段階です。
できあがった床板を1階から見上げると、
コンクリート打放しの天井面には、
蜘蛛の巣が描かれていました。
▲愛用のインパクトドライバーを手にした岡さん
2012年になりました。
岡さんが取り組む蟻鱒鳶ルの工事は、
足掛け7年目になりますが現在も進行中。
外から見ると、2階の高さまでほぼ壁ができています。
壁といっても、ただ平らな面が
建ち上がっているわけではありません。
装飾的なものがいろいろくっついてます。
建物をつくるとき、普通はまず、
建物を構造として成り立たせている躯体をつくり、
その後に装飾的な要素を加えていくというように
段階を踏みます。
しかし、蟻鱒鳶ルでは、
躯体と装飾が同時にできていきます。
「まわりにあるビルやマンションみたいに、
短かい期間に建てなければいけないとなれば、
装飾なんてできないでしょうけど、
この建物のようにゆっくりつくっていれば、
装飾は自然につくられていくものです」と岡さん。
壁の一部には、分厚い大谷石もくっついていました。
これは一体、何でしょう?
「地下を工事しているときに出てきた石です。
以前、ここにあった建物の基礎だったのでしょう。
この出っ張りに土が付いて、
どこからかタネが飛んできて、
雑草が生えたらいいなと思ってます」
なんとこの建物では、完成のはるか以前から、
壁面の緑化が始まろうとしているのでした。
▲2階の高さまで建ち上がった外壁。
庇状の出っ張りや大谷石などが付いている
■「部屋」が出きている!
中をのぞいてみましょう。
前の道路側から壁の間をすり抜けると、
そこには「部屋」ができています!
壁と床と天井に囲まれた内部空間です。
床の一部が地下に抜けていたり、
斜めに伸びる柱の向こうに空が見えたりと、
普通の住宅の室内とは違いますが、
ここは明らかに、建物の中に居ると感じられます。
「お客さんが訪ねてきたら、ちょっと座ってもらって
話をする。そんな場所にするつもりです」
と岡さん。家の外と内の間にあって、
そのクッションとなるような空間になるようです。
伝統的な町家のつくり方になぞらえれば、
「みせ」の間でしょうか。
床には既に仮設の木の板が貼られていました。
これで寒い冬でも大丈夫そうです。
真ん中には卓球台にも見える
低いテーブルも置かれています。
これは以前、「岡画郎」にあったもの。
卓球の玉を打ち合いながら勝ち負けを決めず
世間話をするだけという映画「ビンボン」を
制作したときにつくったものとのことです。
ちなみに「岡画郎」は岡さんがかつて
高円寺で運営していたアートスペース。
「画郎」は誤字ではなくて、
ただのアパートの部屋で「画廊」の看板を出したら
大家さんに怒られたので、
自分の名前が「岡画郎」なんです、
と言い張ったところから、この書き方になりました。
工事はまだまだ続きますが、
この空間は人が集まる場所として、
今年の初めからでも使われることになりそう。
完成を待たずして、蟻鱒鳶ルは早くも機能し始めます。
▲入り口を入ってすぐに広がる内部空間。
中央には「ビンボン」のテーブルが置かれている
■掘り出した石を宙に浮かべる
この空間でひときわ目立っているものがあります。
それは大きな丸石です。
宙に浮かんでいるように見えますが、
地下から伸びてきた柱に支えられています。
石の上面には小さな四角いくぼみがあります。
「これも現場で土を掘っていたときに出てきた礎石です。
重さは300sくらいあるんじゃないかな」
この石をここまで運んできた先人の苦労は、
並大抵ではなかったことでしょう。
だからこそ、建物のここぞというところで使いたい。
岡さんはそう考えて、いったん掘り出した石を
埋め戻して保管していました。
それをいよいよこの場所に設置したというわけです。
「お客さんにとって、ここは庭なんです。
そこに石を置いて、眺めてもらおうと思いました」
隣に眼をやると、梁の上にも小さな石がありました。
ふと思い出したのは京都の龍安寺。
枯山水の庭園は、敷き詰められた白い砂利の上に
平面的に石が配置されているだけですが、
ここにつくられようとしているのは、
それぞれの高さに石が浮かぶ
3次元的な石庭なのかもしれません。
果たしてどんな庭ができあがるのでしょうか、
今からとても楽しみです。
▲地下から伸びる柱の上に据えられた丸石。
左脇の梁の上にも小さな石が載っている
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