ぼくらはどうして「周囲の目」を気にするのか? 20人の高校生と 「しがらみ」を「科学」してみた。
 



山岸 雇用にまつわる「リスク」の話については、
わたし自身も
以前、いろいろ感じたことがあったんです。
糸井 ほう。
山岸 私が、アメリカから日本へ戻ってきた当時、
教授を雇う際には
だいたいが「出来レース」だったんです。

でも、わたしは
日本で最初に「本当の公募」をやりまして。
糸井 公募、ですか。
山岸 ええ、そしたら、当時の「ボス」たちに
ものすごく嫌われてしまった。

なぜなら「ボスの権力基盤」というのは
「人事権」にあったので。
糸井 「オレが話してやるよ」ってやつだ。
山岸 いまではずいぶん変わってきましたけど、
当時のわたしは、
彼らの権益を排除してしまったんですね。

自分としては
「やりたいことを追求してダメだったら
 アメリカに戻ればいい」
と思っていましたから、できたことです。
糸井 なるほど。
山岸 ですから、ずうっと日本で暮らしていて、
「この国でしか生きれらない」
と思い込んでいたら
そんな行動はとれなかったかも知れない。
糸井 最悪、オレにはアメリカがあるんだ‥‥
という選択肢を
用意できるかどうかは、大きいですよね。
山岸 そう、ですから、この社会全体についても、
そういう選択肢がつくられていくべきだと
思いますね。
糸井 つまり、セカンドチャンス、が。
山岸 はい。
糸井 でも、「雇用」や「就職」の話については、
ここにいる若い子たちに
いろいろ、教えてあげたいなぁと思います。

だって、大学生たちがさ、
就職のセミナーで羊のように並んでるの見ると
もう、気の毒で気の毒で(笑)。
山岸 そうですねぇ。
糸井 あるいは「女の子に対する、男の子の立場」も。

こんなことしたら
女の子に嫌われちゃうんじゃないか、とか‥‥。
山岸 ははははは(笑)。
糸井 あんなヘアスタイルにしたら
女の子にウケるかも‥‥とかなんとかさ、
つまり「自分のこと」を
「ジャッジする相手」に委ねきってる男子が
ものすごく多いんですよ。

‥‥ま、自分もそうだったけどさ。
一同 (笑)。
糸井 床屋の帰りに好きな子にバッタリ会って
「何それ?」って言われたらヘコむでしょ?

これをね‥‥何とか救ってあげたい(笑)。
山岸 なるほど(笑)。
糸井 つまり「就職の話」も「女の子の話」も単純で、
山岸先生の
「アメリカに戻ればいいや」が、ないんですよ。
山岸 そうですね。
糸井 あ‥‥男子たちの目が本気になってきました。

じゃ、特別にもう少し続けますけど(笑)、
キミら男の子たちは、
「口説く側にいると思い込んでる」から辛い。
一同 ざわざわ‥‥。
糸井 女の子が「おなかすいた」というとき、
ラーメン屋に行くか、イタリアンに行くか。

キミらは、提案する側にいる。

だから「ブー!」と言われたら「負け」だし、
たいていの女の子は提案しないで
「えー、ラーメン?」って言うだけなんです。

だから「永遠に女の子の勝ち」なんです。
生徒 あの‥‥
その関係って、覆せないんでしょうか‥‥。
糸井 覆せます、覆せます。

ラーメン屋でも、イタリアンでも
「どっちもうまい」という説得力を持った男に
なれればいいんですよ。

そしたら、女の子はキミについていく!(笑)
山岸 おお(笑)。
糸井 「えー、ラーメン屋ー?」とか言われても
「うまいんだから食ってみろよ」と、
自信を持って言えたら、それでOKでしょ?
一同 ああー‥‥(納得)。
糸井 就職活動についても
それくらい自信を持って受け答えできたら
いいですよね。

ハウツー本から借りてきた言葉で
うまく取り繕おうとしたって、伝わらない。
自分の言葉じゃないから。
山岸 うん、うん。
糸井 逆に
「オレはこの会社を選ぶから
 そっちもオレを選んでくれ」
という気持ちになれたら、
仮に落ちても、悔いはないと思うんです。
山岸 そうですね。

少なくとも「落ちるリスク」を引き受けて
臨んだほうが
結果にも、納得はいくでしょう。
糸井 ‥‥話がすっかり脱線してしまいましたので、
先生、話を元に戻してください。
山岸 はい、わかりました(笑)。

リスクと日本社会‥‥ということについて
ちょっと話してきましたが、
日本人って、周囲の人間との社会性ばかりに
気をとられてしまうだけの
「非ゲームプレイヤー」になりがちなんです。
糸井 ほう。
山岸 これはたぶん、子どものころから
「セカンドチャンスは、ない」と言われて
育てられてきたからかもしれない。
糸井 なるほど‥‥。

いま、ちょっと思ったんだけど
高校生のキミたちは
「高校受験に失敗した中学生の後輩」
がいたら、励ませるんじゃない?
生徒 はい、たぶん‥‥。
糸井 中学3年生は、
「高校受験に失敗した自分」を想像したら、
涙が出てきますよ。
オレは人生を棒に振ってしまうのか‥‥と。

でも、もう高校に入っちゃってる人は、
「高校受験なんて
 たいしたことじゃないよ」と言えるんです。

それは「セカンドチャンス」どころか、
受験に失敗しても
その先の道筋なんて、いくらでもあることを
知っているからじゃないかな。
山岸 そうそう、そうなんです。
チャンスって、意外とあるもんなんですよ。

「セカンドチャンスなんか、ない」と
思い込んでるから、本当になくなっちゃう。
糸井 つまり、リスク論の中心には「怖さ」がある。
こんな目に遭ったらどうしよう‥‥というね。
山岸 そこで、ひとつの実験について、お話します。
名づけて「残り30秒」。
糸井 ‥‥おもしろいよ、これ(笑)。
山岸 このゲームは、
誰だかわからない相手と「1対1」で行います。

まず、それぞれの前に「ボタン」がある。

スタートから30秒間、
ふたりともボタンを押さなかったら、
ふたりとも「1000円」もらえる。

ところが
先に相手にボタンを押されてしまうと
「500円」しかもらえない。

ただし、ボタンを押すためには
「100円」払わなければならないため、
相手より先にボタンを押しても
もらえるお金は「900円」になってしまう。
糸井 ようするに、
ほっとけば1000円もらえるんですよ、
ふたりとも。
山岸 そう、だから冷静に考えれば
「押さない」のが、合理的な判断なんです。

でも、実際にこの実験をやると‥‥。
生徒 押しちゃいそう。
生徒 先に押される可能性を考えたら‥‥。
山岸 押す人がいると思うと、どうしますか。
生徒 ぜったい、押しちゃう。
山岸 でしょう?

どんなに「押さないのが合理的」と
頭でわかっていても、
「相手が押すかもしれない」と思ったとたんに
ボタン、押しちゃうんです。
一同 ああー‥‥。
山岸 よく、戦場の兵士は「敵兵憎しで攻撃する」と
思ってしまいがちですが、
そうじゃなくて
この「残り30秒」と同じ問題かもしれない。
糸井 ‥‥なるほど。
山岸 目の前に「敵の兵士」みたいな人がいる。
手には武器を持っているようだ。

でも、悪い人じゃないかもしれないし、
別に憎んでもいない。

だけど「先にボタンを押さな」ければ、
つまり
相手が弾を撃つ前に撃たなければ、
自分が、撃たれてしまう。
糸井 ‥‥と、思ってしまう。
山岸 人種差別の問題でも
「相手のことなんて、あまりよく知らないけど、
 もしかしたら
 自分たちのことを嫌っているんじゃないか」
そう思って、
先に、こちらから「排除」してしまおうという
構造なのかもしれません。
糸井 なるほど。
山岸 つまり「残り30秒」の実験みたいに
複数の人間が
それぞれに考えて行動することで‥‥。
糸井 その場が、山岸先生の言う「社会」ですね。
山岸 そう、その「社会」のなかのメンバーが
ある行動、
多くは誰も望まない行動を取らざるを得ない。
そういう状況が、できあがってしまう。
糸井 うん、うん。
山岸 それが「しがらみ」なんです。
  <つづきます>

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2012-03-20-TUE