山岸 |
雇用にまつわる「リスク」の話については、
わたし自身も
以前、いろいろ感じたことがあったんです。
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糸井 |
ほう。
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山岸 |
私が、アメリカから日本へ戻ってきた当時、
教授を雇う際には
だいたいが「出来レース」だったんです。
でも、わたしは
日本で最初に「本当の公募」をやりまして。
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糸井 |
公募、ですか。
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山岸 |
ええ、そしたら、当時の「ボス」たちに
ものすごく嫌われてしまった。
なぜなら「ボスの権力基盤」というのは
「人事権」にあったので。
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糸井 |
「オレが話してやるよ」ってやつだ。
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山岸 |
いまではずいぶん変わってきましたけど、
当時のわたしは、
彼らの権益を排除してしまったんですね。
自分としては
「やりたいことを追求してダメだったら
アメリカに戻ればいい」
と思っていましたから、できたことです。
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糸井 |
なるほど。
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山岸 |
ですから、ずうっと日本で暮らしていて、
「この国でしか生きれらない」
と思い込んでいたら
そんな行動はとれなかったかも知れない。
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糸井 |
最悪、オレにはアメリカがあるんだ‥‥
という選択肢を
用意できるかどうかは、大きいですよね。
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山岸 |
そう、ですから、この社会全体についても、
そういう選択肢がつくられていくべきだと
思いますね。
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糸井 |
つまり、セカンドチャンス、が。
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山岸 |
はい。
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糸井 |
でも、「雇用」や「就職」の話については、
ここにいる若い子たちに
いろいろ、教えてあげたいなぁと思います。
だって、大学生たちがさ、
就職のセミナーで羊のように並んでるの見ると
もう、気の毒で気の毒で(笑)。
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山岸 |
そうですねぇ。
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糸井 |
あるいは「女の子に対する、男の子の立場」も。
こんなことしたら
女の子に嫌われちゃうんじゃないか、とか‥‥。
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山岸 |
ははははは(笑)。
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糸井 |
あんなヘアスタイルにしたら
女の子にウケるかも‥‥とかなんとかさ、
つまり「自分のこと」を
「ジャッジする相手」に委ねきってる男子が
ものすごく多いんですよ。
‥‥ま、自分もそうだったけどさ。
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一同 |
(笑)。
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糸井 |
床屋の帰りに好きな子にバッタリ会って
「何それ?」って言われたらヘコむでしょ?
これをね‥‥何とか救ってあげたい(笑)。
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山岸 |
なるほど(笑)。
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糸井 |
つまり「就職の話」も「女の子の話」も単純で、
山岸先生の
「アメリカに戻ればいいや」が、ないんですよ。
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山岸 |
そうですね。
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糸井 |
あ‥‥男子たちの目が本気になってきました。
じゃ、特別にもう少し続けますけど(笑)、
キミら男の子たちは、
「口説く側にいると思い込んでる」から辛い。
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一同 |
ざわざわ‥‥。
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糸井 |
女の子が「おなかすいた」というとき、
ラーメン屋に行くか、イタリアンに行くか。
キミらは、提案する側にいる。
だから「ブー!」と言われたら「負け」だし、
たいていの女の子は提案しないで
「えー、ラーメン?」って言うだけなんです。
だから「永遠に女の子の勝ち」なんです。
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生徒 |
あの‥‥
その関係って、覆せないんでしょうか‥‥。
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糸井 |
覆せます、覆せます。
ラーメン屋でも、イタリアンでも
「どっちもうまい」という説得力を持った男に
なれればいいんですよ。
そしたら、女の子はキミについていく!(笑)
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山岸 |
おお(笑)。
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糸井 |
「えー、ラーメン屋ー?」とか言われても
「うまいんだから食ってみろよ」と、
自信を持って言えたら、それでOKでしょ?
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一同 |
ああー‥‥(納得)。
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糸井 |
就職活動についても
それくらい自信を持って受け答えできたら
いいですよね。
ハウツー本から借りてきた言葉で
うまく取り繕おうとしたって、伝わらない。
自分の言葉じゃないから。
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山岸 |
うん、うん。
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糸井 |
逆に
「オレはこの会社を選ぶから
そっちもオレを選んでくれ」
という気持ちになれたら、
仮に落ちても、悔いはないと思うんです。
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山岸 |
そうですね。
少なくとも「落ちるリスク」を引き受けて
臨んだほうが
結果にも、納得はいくでしょう。
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糸井 |
‥‥話がすっかり脱線してしまいましたので、
先生、話を元に戻してください。
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山岸 |
はい、わかりました(笑)。
リスクと日本社会‥‥ということについて
ちょっと話してきましたが、
日本人って、周囲の人間との社会性ばかりに
気をとられてしまうだけの
「非ゲームプレイヤー」になりがちなんです。
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糸井 |
ほう。
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山岸 |
これはたぶん、子どものころから
「セカンドチャンスは、ない」と言われて
育てられてきたからかもしれない。
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糸井 |
なるほど‥‥。
いま、ちょっと思ったんだけど
高校生のキミたちは
「高校受験に失敗した中学生の後輩」
がいたら、励ませるんじゃない?
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生徒 |
はい、たぶん‥‥。
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糸井 |
中学3年生は、
「高校受験に失敗した自分」を想像したら、
涙が出てきますよ。
オレは人生を棒に振ってしまうのか‥‥と。
でも、もう高校に入っちゃってる人は、
「高校受験なんて
たいしたことじゃないよ」と言えるんです。
それは「セカンドチャンス」どころか、
受験に失敗しても
その先の道筋なんて、いくらでもあることを
知っているからじゃないかな。
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山岸 |
そうそう、そうなんです。
チャンスって、意外とあるもんなんですよ。
「セカンドチャンスなんか、ない」と
思い込んでるから、本当になくなっちゃう。
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糸井 |
つまり、リスク論の中心には「怖さ」がある。
こんな目に遭ったらどうしよう‥‥というね。
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山岸 |
そこで、ひとつの実験について、お話します。
名づけて「残り30秒」。
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糸井 |
‥‥おもしろいよ、これ(笑)。
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山岸 |
このゲームは、
誰だかわからない相手と「1対1」で行います。
まず、それぞれの前に「ボタン」がある。
スタートから30秒間、
ふたりともボタンを押さなかったら、
ふたりとも「1000円」もらえる。
ところが
先に相手にボタンを押されてしまうと
「500円」しかもらえない。
ただし、ボタンを押すためには
「100円」払わなければならないため、
相手より先にボタンを押しても
もらえるお金は「900円」になってしまう。
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糸井 |
ようするに、
ほっとけば1000円もらえるんですよ、
ふたりとも。
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山岸 |
そう、だから冷静に考えれば
「押さない」のが、合理的な判断なんです。
でも、実際にこの実験をやると‥‥。
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生徒 |
押しちゃいそう。
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生徒 |
先に押される可能性を考えたら‥‥。
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山岸 |
押す人がいると思うと、どうしますか。
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生徒 |
ぜったい、押しちゃう。
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山岸 |
でしょう?
どんなに「押さないのが合理的」と
頭でわかっていても、
「相手が押すかもしれない」と思ったとたんに
ボタン、押しちゃうんです。
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一同 |
ああー‥‥。
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山岸 |
よく、戦場の兵士は「敵兵憎しで攻撃する」と
思ってしまいがちですが、
そうじゃなくて
この「残り30秒」と同じ問題かもしれない。
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糸井 |
‥‥なるほど。
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山岸 |
目の前に「敵の兵士」みたいな人がいる。
手には武器を持っているようだ。
でも、悪い人じゃないかもしれないし、
別に憎んでもいない。
だけど「先にボタンを押さな」ければ、
つまり
相手が弾を撃つ前に撃たなければ、
自分が、撃たれてしまう。
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糸井 |
‥‥と、思ってしまう。
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山岸 |
人種差別の問題でも
「相手のことなんて、あまりよく知らないけど、
もしかしたら
自分たちのことを嫌っているんじゃないか」
そう思って、
先に、こちらから「排除」してしまおうという
構造なのかもしれません。
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糸井 |
なるほど。
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山岸 |
つまり「残り30秒」の実験みたいに
複数の人間が
それぞれに考えて行動することで‥‥。
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糸井 |
その場が、山岸先生の言う「社会」ですね。
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山岸 |
そう、その「社会」のなかのメンバーが
ある行動、
多くは誰も望まない行動を取らざるを得ない。
そういう状況が、できあがってしまう。
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糸井 |
うん、うん。
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山岸 |
それが「しがらみ」なんです。
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<つづきます> |