僕らの時代と島耕作
弘兼憲史×糸井重里
写真:大坪尚人
 
第1回:島耕作はスーパー主人公じゃない。
糸井   僕、漫画雑誌って、
昔は必ず買って読んでいたんですけど、
いつからか、あまり読まなくなってしまって‥‥
単行本は買いに行くんですけど。
弘兼   わかります、僕もそうです。
糸井さん、子どものころはやっぱり
「少年」とか「少年画報」みたいな
漫画雑誌を読まれてましたか?
糸井   ええ。読んでました。
「週刊少年マガジン」も「週刊少年サンデー」も。
弘兼   「ビッグコミック」も?
糸井   読んでましたね。
弘兼   いつぐらいから読まなくなったんですか?
糸井   たしか「ビッグコミックスピリッツ」が
創刊したときは読んでいたんですけど、
なにかの連載が終わるタイミングで
フッと読まなくても平気になっちゃって‥‥。
弘兼   僕も同じです。
いまだって、自分が連載している雑誌に
どういう人が漫画を描いているかも
全然知らないんです。
ときどき開いて、
あぁまだこの漫画やってるんだ、と思うくらい。
20年、30年続く漫画も多いですから。
糸井   そんなに。
弘兼   ええ、だから若い漫画家が
入り込む隙間がないんですよ。
椅子取りゲームみたいなものなんですが、
オッサンたちが居座ってるから(笑)、
なかなか椅子があかないんです。
僕も、もともと10年で
やめようと思っていたんです。
僕は「連載10年説」をずっと立てていて、
『人間交差点』を10年でやめました。
『島耕作』は新人サラリーマンとして登場して
主任、係長、課長と、
どんどん出世させ続けていたんですが、
「課長編」が約10年経ったところで、
いったんやめたんです。
糸井   あぁ、そうなんですか。
弘兼   ええ。でも講談社から
「完全にやめないで、
 いつでもいいから描いてほしい」と言われて、
「部長編」を単発でちょこちょこ描いていたんです。
それで、『加治隆介の議』という政治漫画を
新しく連載していたんですけども、
掲載誌が休刊になって
連載が終わってしまったのをきっかけに
また講談社に頼まれて
「島耕作 部長編、いよいよ連載再開!」みたいな。
糸井   僕は「部長編」の途中まで読んでいたんですけど、
当時、みんなでよく
「社長まで行かなきゃダメなんだよ」って、
冗談のように言っていました。
弘兼   それが本当に社長になっちゃって‥‥。
糸井   そうそう、だって完全にギャグでしたもん。
『社長 島耕作』って。
弘兼   いまは『老後 島耕作』も構想中です(笑)。
糸井   (笑)
弘兼   キャラクターが年をとらない漫画って多くて、
たとえば『ゴルゴ』は、ちゃんと計算すると
実年齢が80歳ぐらいのはずなんですが、
すごく元気です(笑)。
『こち亀』の両さんだって、
背景にスカイツリーが描かれるようになっても
いまだ出世もせず、派出所のおまわりさんのままです。
でも、『島耕作』はリアルに描いてる漫画だから、
ちゃんと年をとらせて、
出世もさせなきゃおかしいでしょ?
糸井   ああ、そうですね。
弘兼   「あんなに活躍してるのに定年まで課長だった」
というのもあり得ない。
だから、だんだん出世させていくという。
糸井   いわば太閤記ですよね。
弘兼   そうですね、長い人生のサーガです。
島耕作は、いま67歳で、
会長になりまして。
いや、こんなつもりはなかったのに(笑)。
糸井   登場人物を見ていると、
普通の人を描こうとしてらっしゃいますよね。
弘兼   そうですね。
島耕作はスーパー主人公じゃないんです。
本宮ひろ志さんの『サラリーマン金太郎』は
超スーパーで、自分の力でガンガンやるんですけど、
島耕作は脇がけっこう助けてくれる。
とくに女性がね。
糸井   島耕作も、
「いいんですかぁ?」なんて。
弘兼   「いやいや、えぇ〜?」とか言っていたら、
女性が助けてくれる。
主役があんまり個性的だと現実的でないんで、
普通のキャラクターにして、
脇に個性的な人物を
いっぱい置くというやり方をしているんです。
糸井   あぁ、そういう意味でいうと、
僕は「中沢さん」が好きでしたね。

(「課長」編 STEP131より)
弘兼   ああ、島の上司の中沢喜一ですね。
あれは確かに一時、
島耕作の人気を食っちゃいましたね。
糸井   あ、本当ですか。
弘兼   ええ。「中沢さんが一番いい」という
ファンレターが多かったんです。
糸井   島さんにない陰影があったんですよ。
中沢さんが社長になるとき、
時計の話をされるシーンが良かったです。
弘兼   あ、はいはいはい。
ありましたね。

(「課長」編 STEP168より)
糸井   ああいう話、
弘兼さんはどこで覚えるんだろうと思って。
弘兼   あれは、誰かに言われたことなんです。
時計や持ちものは、
自分がそういうものにあまり興味がなくても、
とりあえずステージが上がったんなら、
それ相応のものを着けないとダメだよ、
みたいなことを言われて。
糸井   いま同じことを描いても、
たぶん通用しないと思うんです。
すごくあの時代に合っていて、
しかもああいう気の利いたエピソードは
おもしろいですね。
僕、あのシーンはずっと忘れられないです。


(つづきます)

2014-11-19-WED
 


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