働いていたカフェで
メニューの黒板にチョークで絵を描いていた。
そしたら、あちこちから頼まれるようになって、
いつのまにかそれが本業になった。
そんな黒板描きアーティスト、
CHALK BOY(チョークボーイ)さん。
「黒板」と「手帳」という違いはありますが、
かっこいい文字や絵の描き方のヒントを
教えてもらえるかも?
そんな期待を胸に、ほぼ日の手帳チームで
お話を聞きにいってみましたよ。
- ほぼ日
- チョークボーイさん、こんにちは!
- チョークボーイ
- こんにちは。今日はよろしくお願いします。
あ、ほぼ日手帳、こちらですね。
‥‥へぇ。メッチャ開きやすいですね、これ。
(いろいろ触ってみて)
すごい、これメチャクチャいいですね。
- ほぼ日
- ありがとうございます。うれしいです。
- チョークボーイ
- 今日は手描きの取材ということで、
ぼくも昔から描いていたノートを持ってきたんです。
- ほぼ日
- わ、かっこいい。
- チョークボーイ
- いまは黒板に絵を描くことが多いですけど、
ぼく自身、ノートに絵を描いてきた期間のほうが
ずっと長いんです。
- ほぼ日
- すごい、いろいろと描かれてますね。
- チョークボーイ
- 日々、思いついたいろんなイメージや
ことばを描いてみたり、
あと最近は仕事のチョークグラフィックの
アイデアスケッチなども描いてます。
- ほぼ日
- これ、何ですか?
- チョークボーイ
- あ、これは楽譜ですね。
ぼくは音楽もやってるのですが、
それが「次に砂嵐の音が入って‥‥」みたいな
五線譜では表現できないタイプのものなんです。
だからこんなふうに記録してます。
他の人にまったくわからない楽譜ですけど(笑)。
- ほぼ日
- おもしろいです。
このノートを見ると、やっぱり昔から
文字に興味がある感じですね。
そして、こんなに手描きで
いろんなフォントを描けるんですね。
- チョークボーイ
- フォントは世の中にたくさんお手本があるので、
それを見ながらだと描けますね。
こういうフォントって、自分で一から考えるよりも
見ながら描くのがいちばんなんです。
- ほぼ日
- そうなんですか。
- チョークボーイ
- フォントは専門のデザイナーの人たちが
たくさん研究してきた歴史があるから、
実際にあるものから勉強したほうが早いんですよ。
真似して描いてると、ストックが貯まって、
自分の引き出しになっていく。
だからぼくは日々、真似して練習してたりします。
- ほぼ日
- もともとチョークボーイさんは
どういう経緯で今の活動をはじめたんですか?
- チョークボーイ
- もともとは、ずっとカフェで働いてたんです。
その日のメニューを黒板に書いているカフェで、
ぼくが担当することもあったのですが、
いつも、わりとすぐ描き終わっちゃってたんです。
で、あるときふと
「しっかり描いてみようかな」と思って、
近くにあったワインやビールケースを見ながら
ラベルデザインを描いてみたんです。
そしたら、すごい評判がよくて、
黒板を描く必要があるたびに
「また描いてよ」って言われるようになりました。
さらにそのお店の系列店とかで、
「こんど新しい店ができるから、
ちょっとあの子に描いてもらって」
みたいになってきて。
- ほぼ日
- すごい。
- チョークボーイ
- それで、いろんなお店の黒板を、
描いたりとかしてたんですが、
あるときぼくが絵を描いたお店の一つが
『商店建築』という建築雑誌に、
載ることになったんです。
そのとき、ぼくが描いたチョークグラフィックが
けっこう写真にうつってて、
「クレジットのせてあげるよ」と言ってもらって。
- ほぼ日
- おおー。
- チョークボーイ
- だけどぼく、本名がヨシダコウヘイって
すごくふつうの名前なんですね。
で、そのままじゃ誰にも引っかからないと思って
「本名でいい?」と言われたときに
電話口で5秒とか10秒考えて
「あ、ちょっと待ってくださいよ
‥‥チョークボーイで!」
って、変えてもらって(笑)。
そしたら仕事が徐々に増えて、いまにいたります。
- ほぼ日
- しかも今、チョークボーイの活動だけで
食べてらっしゃるんですよね。
- チョークボーイ
- そうですね、これが本職になってます。
黒板を描いたり、商品のアートワークを手伝ったり。
あとワークショップをすることもあります。
- ほぼ日
- ワークショップではどんなことを
教えているんですか?
- チョークボーイ
- 基本のテーマは
「チョークグラフィックの描き方」です。
ぼくがこれまで描いてきた中でわかった
いろんなコツとかをご紹介してます。
ただ、3分の2くらいの時間は
文字の描き方をやってますね。
- ほぼ日
- 文字の書き方がメイン。
- チョークボーイ
- そうなんです。
というのも文字って、ちょっと集中して練習するだけで、
一気にうまくなるんですよ。
特にアルファベットなら文字数も少ないし、
なおかつ「E」と「F」とか、似てるものも多いので。
- ほぼ日
- へぇー、そうなんですね。
もしよければ、ちょっと教えてもらうことって
できますか?
- チョークボーイ
- はい、たとえばまず筆記体とかだったら、
斜めの角度を揃えるのがいちばんのポイントです。
だいたい同じ角度で揃えていくと、
それだけでだいぶ、きれいな印象になります。
- ほぼ日
- おぉ‥‥たしかに。
- チョークボーイ
- あと、筆記体で難しいのが「s」や「r」なんです。
でも逆に、そういった文字が
うまく描けるようになると、締まるんで、
そこを練習してもらったり。
ぼくはどこも尖らないクルクルした文字が好きなので、
個人的にはこういう「s」や「r」をオススメしてます。
- ほぼ日
- ちょっと意識するだけで、ずいぶん変わりそう。
- チョークボーイ
- ええ、ちょっと練習するだけで変わりますよ。
あとワークショップでは袋文字もやりますね。
袋文字はそれぞれの幅が
できるだけ変わらないのがポイントです。
‥‥この手帳、方眼で練習しやすいですね。
- ほぼ日
- あ、たしかに(笑)。
- チョークボーイ
- 「S」は袋文字でも難しいんです。
カーブの連続だから。
これもちょっと描き方のコツがあって、
先に十字を作ってから描くとやりやすい。
そういった細かなコツを、
いつもワークショップでお伝えしてますね。
- ほぼ日
- おもしろいです。
- チョークボーイ
- あとワークショップでは
「自分の名前を描いてみよう」とか、
「文字に影を付けてみよう」とかやっていて。
さいごに、バシッと描いた文字を、
絵や装飾と組み合わせて、
1つのアートワークにするのが基本ですね。
- ほぼ日
- 絵を描くときのポイントってありますか?
- チョークボーイ
- うーん、絵はですね‥‥ワークショップでは
「まずは自分が描きたいアートワークを
真似して描いてみて、
それを自分なりに1ヶ所アレンジしてみよう」
といったことをやってます。
絵はたぶんその方法が、
いちばん上達が早いんじゃないかなと思いますね。
- ほぼ日
- なるほど、描きたい絵を真似して書いて、
ちょっとだけアレンジする。
- チョークボーイ
- ええ、フォントを見ながら
文字を練習するのと同じ仕組みですね。
ただ実はワークショップで、
絵の描き方はそんなにやらないんです。
‥‥というのも、絵って、
描くのが好きかどうかにも左右されるし、
好きなテイストも人それぞれだから、
コツが伝えにくくて。
だから、誰にでもおすすめできるのは
「まず文字の練習をすること」。
文字がうまくなるだけで、全体の絵が
けっこう決まるんです。
- ほぼ日
- そうなんですか。
- チョークボーイ
- ええ、どんな絵でも、そのそばに、
練習してうまくなった文字をバシッと乗っけると、
カッコよくなるんですよ。
この絵とかも、コック帽のイメージですけど
絵だけ見たらメッチャ子どもっぽい‥‥(笑)。
- ほぼ日
- 言われてみれば(笑)。
- チョークボーイ
- だけどこれ、文字がたくさん入った中に、
こういう抜けた感じのイラストがあると、
これがあるおかげで字がうまく見えるし、
抜け感がすごくよくなる。
組み合わさって、雰囲気がよくなるんです。
そういうことをワークショップでお伝えしてますね。
- ほぼ日
- はあぁー。
そのほかに、チョークボーイさんならではの
手帳に使えそうなコツってありますか?
- チョークボーイ
- 僕が自分のノートでよくやってるのは、
「ページにタイトルを描く」ことですね。
たとえばこんな感じで
ページの頭に、タイトルをつけるんですよ。
すると、「描くぞ!」とちょっと気分が盛り上がる
- ほぼ日
- たしかにそうかも。
- チョークボーイ
- あとぼくはよく、どんなに日本語でも、
タイトルは「アルファベットで描いて」ます。
完全に好みですけど、そうすることで、
気分がちょっと上がる感じがあるんです。
たとえば「手帳」と日本語で描いてもいいけど
アルファベットで「TECHO」とか、
「HOBONICHI」と描くと、かわいいんですよ。
- ほぼ日
- へえー。
- チョークボーイ
- 特にぼくが好きなのは形容詞で
「おいしい」とか、「oishii」みたいに描くと
日本語よりかわいく見える。
最後にいっぱい「i」があって、顔みたいにも見える。
なんかキュートな感じなんですね。
- ほぼ日
- ほんとだ。
- チョークボーイ
- とにかく、技術ということ以上に
描くのがたのしくなるほうがいいなと思うんです。
そうだ。それで言うと、
「ちょこっとでもイラストを入れる」のも、
いいですよね。
- ほぼ日
- あ、イラスト。
- チョークボーイ
- ええ。
自分は絵がそんなに上手じゃないって思ってる方も
いると思うんですけど、
上手か下手かの問題ではなくて、
なんか器用じゃなくても思いがあるものって、
愛嬌があってかわいいんですよ。
- ほぼ日
- それ、わかります。
- チョークボーイ
- きれいにカッコよく描くことよりも
「とりあえずそこに描いてみる」のが大事。
さらにいえば、絵が得意じゃないと思ったら、
文字の力を借りちゃえばいいと思うんです。
イラスト描いたそばに
文字で何の絵かを補足する、という。
- ほぼ日
- ちょっと描いたもののそばに、
「おまんじゅう」などと文字で描くとか?
- チョークボーイ
- そうそう、そのとおりです。
それだけでおまんじゅうってわかるし、
なんとなくページがかわいくなる。
これは、たのしく描く方法のひとつですね。
- ほぼ日
- ‥‥あと、ぼくらの手帳は
「1日1ページも何描けばいいかわからない」と
言われることがあります。
- チョークボーイ
- ああ、それはもう、逆に考えれば
何を描いてもいいというわけで。
机の上のものとか、目の前にぶらさがってる電球とか、
そんな感じで、まったく意味のない物を描くので
いいのかなと思います。
そのときいるカフェのショップカードを
模写するのでもいいし。
- ほぼ日
- そういえば以前、食べたお菓子のロゴがかわいくて、
なんとなく模写したことがあるんですけど、
思った以上にたのしかったです。
- チョークボーイ
- そうそう。しかもそれ、いちど描いたら、
なんとなく今もちょっと描けるんじゃないですか?
ねぇ、ぼんやり。
- ほぼ日
- たしかに、描ける気がします。
- チョークボーイ
- そんな感じで、やっていればそのうち、
ちょっとずつ上手になるものなんです。
あと「今日はなにも描かなかったな」も
いいと思うんですけどね。それはそれで。
- ほぼ日
- そうですね。
- チョークボーイ
- 上手になって誰かに見せるのも嬉しいけど、
やっぱり自分が描いててたのしいのがいちばんかなと。
「たのしいかどうか」がいちばんだいじだと
思うんですよね。
そういうのができる手帳づかいになっていくと、
いいんじゃないですかね。
- ほぼ日
- チョークボーイさんは、絵を描いているときは、
もうテンションが上がりまくる感じですか?
- チョークボーイ
- あ、いや、まぁぼくも、
いつもアゲアゲで「ウフー♥」みたいなので
描いてるわけじゃないんですけど‥‥(笑)。
- ほぼ日
- (笑)
- チョークボーイ
- ただ、ぼくはメモばっかり描いてても、
テンションがあまり上がらないんで、
日々、できるだけたのしく描ける方法を
考えるようにしてますね。
せっかく描くことが大好きなので、
たのしくやらないのは、もったいないと思うんで。
- ほぼ日
- なるほどなぁ。
今日はありがとうございました!
- チョークボーイ
- いえ、なにか、お役にたてばうれしいです。
こちらこそありがとうございました。
1.いいなと思った文字や絵の
真似からはじめると上達しやすい。
2.文字が決まると絵全体がうまくみえる。
3.ページにタイトルをつけると、気分が上がる。
4.日本語でも、あえてアルファベットで描くとカワイイ。
5.絵が得意でなければ、そばに文字で説明を添えればOK。
6.なによりたのしむのがいちばん。
チョークボーイさんの
グラフィックの描き方を詰め込んだ本も、
出たばかりだそうですよー。