いびつなかたちのふせんに
中が見えたり見えなかったりするクリアファイル、
生き物たちの世界が描かれた、黒い表紙のメモ帳。
イラストレーター・アートディレクターの
大塚いちおさんといっしょに
3つのオリジナル文房具を作りました。
この、なんともたのしいデザインのアイデアは
どのように生まれたのでしょうか。
大塚さんと事務所のデザイナー河村杏奈さんの
おふたりにお聞きしました。
【プロフィール】
大塚いちお ichio otsuka
イラストレーター・アートディレクター
1968年新潟県生まれ。
「GIONGO GITAIGO J゛ISHO」(ピエ・ブックス)で東京ADC賞受賞。
書籍・雑誌・広告などのイラストレーションや、
展覧会・ワークショップなどの活動をおこなう。
主な仕事に「8月のキリン」(キリンビール)のパッケージイラスト、
NHK教育テレビ『みいつけた!」のキャラクターデザインや
アートディレクションなどがある。
http://ichiootsuka.com/
- ーー
- 今回は、すてきなデザインを
ありがとうございました。
3つとも、遊び心たっぷりで
使うたびにわくわくできる文房具ですね。
- 大塚・河村
- こちらこそありがとうございます。
- ――
- 大塚さんや河村さんのあたまの中から
どんなふうにデザインが生まれて
かたちになっていったのか。
今日はそのあたりをお聞きしたいです。
- 大塚・河村
- はい、よろしくお願いします。
- ーー
- そもそも、大塚さんにデザインをお願いするとき、
ふせん、クリアファイル、切り離せるメモ帳という
それぞれの用途だけをお伝えして
「あとはご自由にお願いします」と
お話させていただいたんですよね。
- 大塚
- そうでしたね。あの‥‥僕、
けっしてひねくれ者ではないんですが
せっかく今回、ほぼ日さんにお話をいただいたのに
普通にただ絵を描いて載せてっていうのだと
なんかつまらないなと思っちゃって‥‥。
文房具としての目的は果たしたうえで
何かちょっといじわるしたいなあって
思ったんですよ(笑)。
- ーー
- いじわる‥‥ですか(笑)。
- 大塚
- ファイルやふせんっていう「機能」とは
ちょっと別の意味が出てくるものになると
おもしろいなあと思って。
そのものの正しい使い方とは
ちょっとずれた使い方をする人がいても、
それを受け入れられる道具というか。
- ーー
- ずれた使い方。
- 大塚
- たとえば、もし僕らが
子ども向けのものをデザインするときには
子どもに喜んでほしいという「表向き」とともに
「見かたを変えたときにどう見えるか」も
わりと考えちゃうんです。
- ――
- そういえば、大塚さんがデザインした
イスのキャラクター「コッシー」も
「子どもってこういうのが好きでしょ」って
決めつけている感じがしなくて
魅力的だなと思っていました。
NHK Eテレ「みいつけた!」より
(c)NHK・NED
- 大塚
- あれは、ちょうど4、5歳の子どもが
見立て遊びをする時期に見る番組なんですね。
イスだったらどこにでもあるし、極端な話
人間の数よりも多いかもしれないのに
誰もキャラクターとか、生き物としては見てない。
- ーー
- そうですね。
- 大塚
- でも、それは大人が勝手にそう思ってるだけで
「このイス、こんなふうに動いてかわいいね」とか
「あのイスは、くたびれててかわいそう」って
子どもは思っているかもしれない。
そう考えると、イスって、広がるなあと思って。
それでコッシーが生まれました。
今回も、せっかくいい機会を与えてもらったので
何か、何か、出したいなと思って(笑)。
- 河村
- 「文房具」っていうお題に
答える感じでしたね(笑)。
- ーー
- そうだったんですね。ありがとうございます。
では、まず
「ほぼ日のクリアファイル(カズン用)」ですが
どうしてこういうデザインに?
- 大塚
- 僕、紙をチョキチョキやってかたちを作る
切り絵が好きで。
紙をその場で切って並べたりする
ライブドローイングみたいなイベントも
やったりしているんですが
これがなかなかおもしろいんですよ。
そういう、ダイレクトでダイナミックな感じが
クリアファイルに出せるといいなと思ったんです。
ほら、ファイルの使い方って
なんかそんな感じじゃないですか?
どこかでもらった紙をサッと入れるみたいな‥‥。
- ――
- そうですね。
チケット、チラシ、資料とか‥‥
いろんな大きさの紙を入れますね。
- 河村
- その考え方でデザインしていって、最終的に
中身が少し見えるようになっているものと
まったく見えないものを作りました。
見せたくないときは、見えないほうの
黒いファイルに入れてもらって。
それから、この黒いほうで言えば
「色がついている部分は、
黒いファイルの中に入っている中身」
みたいな感じにも、見えるように‥‥
- ーー
- あ、そう言われると見えてきますね。
おもしろいです!
では、「ほぼ日のかたちふせん」はどうでしょう?
- 河村
- 切り絵からイメージした
クリアファイルのデザインが
わりといい感じに仕上がったので
それを展開したふせんを
作ってみたらどうかなって。
- 大塚
- うん。僕が切り絵でやってるような感じで
手帳のなかで、みんなが、みんななりの絵を
作ってくれたらたのしいなと‥‥
そんな発想が、最初にありました。
- 河村
- 「ほぼ日のまるふせんがありなら、
もっと変わったかたちもありじゃない?」
「手帳に貼るなら、カラフルだったり
何か意味のあるかたちもいいね」
みたいな話になって。
- 大塚
- ハートのかたちはデートの予定、
家のかたちは家族で過ごす日、とかっていう
目的や機能をもたせた、わかりやすいものだけでも
いいとは思ったんですけど。
だけど、あえて「なんかモコモコしたかたち」とか
「なんでもない細長い線」とかも入れました。
「よくわかんないけど、予定に印つけたいから
これを貼っておこう」って使えるような。
貼り方も、貼る目的も
人によって違うものになりますよね。
ふだん絵を描かない人でも、手帳をパッと見たとき
1枚の絵になってたりするようなことがあると、
ちょっとたのしくなるんじゃないかな。
- 河村
- 何年か経って手帳を見返したときも
そういうページがあると
そのときのことを思い出せていいですよね。
- 大塚
- 文字で日記を書くほど大変じゃないけど
なんとなくの「気分」を演出できる。
そういう気分は、あとで見ても
きっと本人は思い出せるんですよね。
- ーー
- はい、ほぼ日手帳とも
すごく相性のいいアイテムになりましたね。
では、「ほぼ日ペーパー(ズ)」には
どんなコンセプトが?
- 大塚
- たとえば「モレスキン」みたいに
黒い手帳って、世の中にけっこう多いですよね。
そういう定番的なものに、何か加えることで
「明るい感じがする黒い手帳」っていうデザインが
できたらおもしろいかなと思って。
で、その上に動物や昆虫、花を描いて、
図鑑のような、いろんな場面が同居するような
感じのものにしてみました。
- ――
- かわいさもあり、大人っぽさもありますね。
性別や年代を問わず使えると思います。
- 大塚
- それに、このペーパーは
いろんな場面で持ち歩いて
ジャンジャン使ってほしいなと思っていて。
手帳じゃないけれど
やっぱり長く使ってほしいので、
飽きが来ないという意味でも
黒がいいなと思いました。
- ーー
- 表紙にも中面にも
鳥が描かれていますね。
- 河村
- 大塚のイラストには
なぜか鳥がよく出てくるんです(笑)。
- 大塚
- よく出てきますね‥‥。
なんででしょう。
きっと、背景まで描かなくても
空間を感じるっていうか、
鳥が飛んでるって思うと、そこが空に思えたり
どこかに止まってると思えたり。
いろいろな想像をさせてくれるからかな。
- 河村
- それにしても、これ、使いやすいです。
私も仕事のメモや
アイデアを出すときに使っているんですが
紙質がよくて書きやすいし
ピリッと破れるのがいいですよね。
しかも、これだけたっぷりあるから‥‥
- 大塚
- うん、気兼ねなく使える(笑)。
- 河村
- いろんな人に使ってもらえたら
うれしいですね。
- ーー
- そうですね。
ちなみに、大塚さんご自身は
どんな文房具がお好きなんですか?
- 大塚
- ノートとか紙モノとか、好きですね。
使わなくてもとりあえず
買っとくってタイプです(笑)。
たとえば、こんなのとか‥‥。
- ーー
- わあ、素敵なイラストが描いてある!
- 大塚
- こんな感じで落書きしたりしてます。
これは、表紙が花なので、花だけを描く1冊。
こっちは猫だけで1冊。
あとになると、自分が作った
1冊だけの作品集みたいになるかなって。
こういうノートや、好きで買った文房具が
無数にあって、事務所のあちこちから出てくるから
掃除をするときによく怒られるんですけど(笑)。
- ーー
- 好きな文房具って
つい、たくさん集めてしまいますよね。
今日は文房具のデザインについて
あらためてお聞きできて、おもしろかったです。
ありがとうございました。
- 大塚・河村
- ありがとうございました。