大辻雄介
大手進学塾・予備校に勤務したのち、教育系企業でICTを活用した教育の事業開発を担当。その後、海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として、日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。
佐藤桃子
教育系企業で幼児向けの教材編集を経て、海士町に移住。生徒たちのよき理解者として高校1年生の担任と夢ゼミを担当。
2016年4月から、
ほぼ日手帳を導入した隠岐國学習センター。
副長の大辻雄介さんと、指導スタッフの佐藤桃子さんに
導入の経緯と現在のようすをうかがいました。
- ――
- 公立の塾って、めずらしいですね。
- 大辻雄介
- 島前高校に通う生徒は、
とにかくいろんな子がいるんです。
生まれたときから海士町にいる子、
お隣の西ノ島町、知夫村から船で来ている子。
島前高校は「島留学」といって
島外からの進学も受け入れていますので、
生徒は日本全国、海外からやってくる。
そうなると、学力も希望する進路も、
ほんとうにバラバラです。
そこで、
生徒一人ひとりの学びをサポートしつつ、
本当に希望する進路に進むことを
高校と連携しながら支えていくために
この公立塾ができました。
以前は、
島前高校への入学者もどんどん減っていました。
でもここがもし廃校になってしまったら、
残された子供たちは島外の学校に通わなければならない。
片道3時間はなかなか毎日通える距離ではないから、
家族全員で島を出るという選択肢が生まれてくる。
すると、島全体の人口減少につながる。
だからこそ、地元の子どもたちはもちろん、
島外からも入りたくなるような高校にしようと、
島前地域三つの島の町村が
カリキュラムを見直したり、PR活動を行ったりと、
「島前高校魅力化プロジェクト」をはじめました。
その一環で生まれたのがこの隠岐國学習センターなんです。
- ――
- その学習センターで、なぜ今回、
ほぼ日手帳を導入しようと思われたんですか?
- 大辻
- 隠岐國学習センターはちょっと変わった塾でして、
先生が前に立って授業をするというスタイルではないんです。
「自立学習」と「夢ゼミ」という二本の柱で
学習を進めています。
自立学習は、それぞれの目標に合わせて
計画を立て、それに沿って勉強をするもの。
夢ゼミは、「そもそも、夢ってなんだろう?」
というところから考えます。
自分の興味の範囲と、
社会的課題のまじわったところを
探していくんです。
- 佐藤桃子
- これまでも、自立学習に際して
計画を立てるためのワークシートなど、
いろいろ試してみました。
でも、せっかく計画を立てても
そのシートをなくしてしまったりして、
振り返ることができない。
そこで、学習の記録をひとつにまとめることが
必要だと思ったんです。
- ――
- いろいろな手帳があるなかで、
「ほぼ日手帳」を選ばれたのは?
- 大辻
-
まず、二人ともほぼ日手帳が好きだというのがあって。
- 佐藤
- それはありますね(笑)。
- 大辻
- もちろん、ほかの手帳も検討はしました。
でも、使い方が自由、というのが大きかった。
僕たちは手帳を導入したあとも、
「このページをこうやって使いましょう」という指導は
していないんです。
ただ、学習の目標を立てて、実行して、
振り返るということさえできていれば、
一人ひとりが自分の好きなように使えばいい。
- 佐藤
- 最初に手帳といっしょにガイドもくばりましたが、
そこにも詳しいことは書いていません。
- 大辻
- その代わり、
スタッフが生徒全員と面談をするようにしたんです。
「だんだんトーク」って呼んでるんですけど。
- ――
- 「だんだんトーク」?
- 佐藤
- こっちの方言で「ありがとう」っていう意味です。
- 大辻
- 生徒がつけた名前です。
毎回10分くらい、
手帳を挟んでスタッフと生徒が向き合い、
計画の立て方が適切かどうか、
やっている内容に遅れがないかどうかを話し合う。
それによって、
子供たち一人ひとりがよく見えるようになりました。
- 佐藤
- センターに通う生徒は140人。
スタッフは5人と、インターンの大学生が3人。
生徒一人ひとりをちゃんと見たいと思ったら、
いままでのやり方じゃだめだったんです。
生徒がわからないことを聞いてくるのを待つより、
計画を立てる力そのものにアプローチするほうが、
学力もきちんと伸びるし、
信頼関係も構築できるんじゃないかと。
去年までは「今日は数学の日」「今日は英語の日」と
決まっていたけれど、
その枠組みもなくして、
「いつ何をやってもいい。ただし手帳に記録すること」
と伝えています。
そして、面談のときにたとえば英語が進んでいなかったら
そこについて声をかけるようにしています。
- 大辻
- 授業を自由にしたぶん、
記録しておくものがないと指導しきれない。
手帳がないと成り立たない授業形式に
なっている感じですね。
- ――
- 手帳を導入するに伴って、
授業形式自体が変化しているんですね。
- 大辻
- みんな、意外と楽しんで
手帳を書いてくれているんですよね。
- 佐藤
- 隠岐國学習センターには、自立学習のほかに、
夢ゼミという授業があります。
高校でも「夢探究」という自分や社会について学ぶ授業や、
「地域学」「地域生活学」など、地域について学ぶ授業もある。
部活動や、ふだんのくらしでも、
自分の夢を考えるきっかけはたくさんあるんです。
でも、そういう時間をただ過ごしているだけだと、
そのときに感じたこと、気づいたことなど、
自分の夢につながるような要素を
忘れていってしまう。
せっかく手元に手帳があるのだから、
そこも残してほしいなあと思って。
- ――
- 「夢ゼミ」はどの大学に進学する、といったものではなく、
かなり具体的な夢を描くわけですか?
- 佐藤
- そうですね。
もともと夢ゼミは、
「学習意欲向上授業」という名前だったんです。
目標がないと、勉強も頑張れないので、
「何をやりたいかを明確にしていくことは、
勉強するとセットで必要だよね」というのが、
学習センターができた当初からコンセプトとしてあった。
それをどんどん
ブラッシュアップしているような感じです。
- 大辻
- そもそも、夢ってなんだろう? というところから
考える。
自分の興味の範囲と、社会的課題の交わったところを
探していくんです。
その結果、
「イルカの調教師になりたい」という子がいたら
「じゃあいっしょに美ら海水族館に電話して、
何を学べばいいか聞いてみよう」とか、
できる限りのことはサポートしていきます。
- 佐藤
- 夢ゼミって、
いわゆる勉強の枠からははみ出した授業です。
でも、ほぼ日手帳は
そこもちゃんと受け止めてくれる。
もともとは自立学習のために
導入した手帳で、主に週間ページを
使うことを想定していたんです。
でも生徒たちが自然と
週間ページで自立学習を管理して、
一日ページに夢ゼミに関する要素を記して、
という形に使うようになっていて、
学習センターらしい使い方に
落ち着いてきたな、と思っています。
- 大辻
- 違う手帳やノートを使っていたら、
いまのように夢ゼミにつながる結果も
きっとなかったと思う。
ほぼ日手帳の導入は、
本当にいい選択をしたなと思っています。
(つづきます)
写真/松村隆史
2016-10-08-SAT
「ほぼ日手帳公式ガイドブック2017」にも、
海士町の記事を掲載しています。