1986年生まれ。
多摩美術大学情報デザイン学科卒業。
Web制作会社やデザイン会社にて
さまざまなジャンルのデザインに携わるなかで、
「議論の可視化」に興味を持つ。
2013年、Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。
同年、Yahoo! JAPANに入社し、
UXデザイナーとしての業務を行いながら
グラフィックレコーディングの
研究と実践を続けている。
著書に『Graphic Recorder——議論を可視化する
グラフィックレコーディングの教科書』
(ピー・エヌ・エヌ新社)。
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会議などで飛び交う、いろんな人の「議論」を
絵や図などのグラフィックに「可視化」して記録するという
ちょっと不思議なコミュニケーション手段があります。
その名も「グラフィックレコーディング」。
自分の考えを言葉でうまく伝えたいときや、
上司に囲まれて発言しにくい会議などに、有効なのだとか。
「考え」を「書く」ことで「整理」できるということで、
ほぼ日手帳との共通点もありそうです。
いったいどんなものなのか、
興味を持ったほぼ日手帳チーム数名が
「グラフィックレコーダー」の清水淳子さんをお迎えし、
話をくわしく聞いてみることにしました。
模造紙を使って、手帳チームのミーティングを
描いてもらったところ、なかなかおもしろい発見も‥‥。
インタビューと実践のようすを、全2回でお届けします。
profile
-
清水淳子Shimizu Junko
-
グラフィックレコーディングって?
会議の中での人々の議論を、図式や絵などを使ってリアルタイムで可視化する方法。
「グラフィックレコーダー」は会議の場に出向き、耳から聞こえる情報をもとに
議論を1枚の模造紙にまとめていきます。
グラフィックレコーディングって?
会議の中での人々の議論を、図式や絵などを使ってリアルタイムで可視化する方法。
「グラフィックレコーダー」は会議の場に出向き、耳から聞こえる情報をもとに
議論を1枚の模造紙にまとめていきます。
- ――
- 会議ではなく、
たとえば自分の頭の中の考えを、
グラフィックレコーディングの手法を使って
まとめることもできるんでしょうか。
- 清水
- はい。一人でも、できますよ。
- ――
- ほぼ日手帳を使って、自分で
「あたまの整理」ができたら、
すごくいいなと思うんです。
- 清水
- おすすめの方法はこれです。
たとえば、今日あった事実を黒いペンで描く。
それに対する課題やうまくいってない点を
赤いペンで描く。
そして最後、それってどうしたらいい感じに
なるんだろうっていうアイデアを
青いペンで描いてみる。
これをセットでやると、いいですよ。
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- ――
- 黒、赤、青の3色ボールペンで
できるんですね。
- 清水
- その日起きた、モヤモヤすることとか、
「ああ、もうだめだ」みたいなことに
解決策があるのかないのか。
まず、それがわかります。
- ――
- はい。
- 清水
- 人に相談するときも、モヤモヤしたままだと
「愚痴じゃん」とか言われちゃうんだけど、
ちゃんと、ひととおり考えてから相談できます。
- ――
- この問題の、この部分を解決したい、
ということもピンポイントで意識できそうですね。
コミュニケーション力も
鍛えられそうな感じがします。
- 清水
- とくに上司とのコミュニケーションには
有効だと思うんです。
もちろん後輩にも、もしかしたら家族とか友達にも
聞いてもらいやすくなるんじゃないかなと。
- ――
- 整理をしてから話せますね。
- 清水
- 絵できれいに描くというよりは、
意味合いに対して色を設定して、
整理をするという感じです。
- ――
- 1日1ページのほぼ日手帳にもぴったりかも。
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- ――
- グラフィックレコーディングは、
絵が不得意な人でもできるんでしょうか?
- 清水
- 大丈夫です。
ワークショップをやっていると、
「絵はもう何十年も描いていないし、
人の絵なんか絶対に描けません!」
とおっしゃる方も、すごく多いです。
- ――
- いわゆる一般的なお仕事では
使わないですもんね。
- 清水
- たとえば、人を描くときには、
アルファベットのAを書いて、
マルを5つつけると、できます。
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- ――
- おお!
- 清水
- 上手な絵を描こうとするのではなく、
どうしたら少ない線でも情報が伝わるかを意識して、
ちょっと練習すれば、誰でも描けるようになります。
描けないという思い込みや
コンプレックスみたいなものから解放されて、
すごく、すがすがしく帰っていかれる方が
たくさんいらっしゃるんですよ。
- ――
- グラフィックレコーディングのやりかたは
こちらの本に書いてあると思うんですが、
すごく基本的なポイントだけ
教えていただけますか?
- 清水
- ポイントは時間をかけずに、はやく書くことですね。
議論のスピードに置いていかれないようにしつつ、
相手に伝わりやすいことが大事なので、
「なるべく少ない線でシンプルに」を心がけるといいです。
- ――
- 人の絵を描くときは、棒人間でもいいんですか?
- 清水
- 棒人間でもいいのですが、たとえば5人のチームがいて、
その5人の関係性を可視化したいときに、
あんまり差がつかないんですね。
- ――
- 差がつかない?
- 清水
- たとえばメーカー系のお仕事だと、
工場の人と営業の人と、
海外で働いている人がいたりして、
さまざまな関係者がいますよね。
みんな同じ棒人間で描くよりも、
ある程度キャラクターの特徴があると、
議論がぶつかり合ったときでも、
それぞれの立場に共感しやすくなります。
- ――
- なるほど。
棒人間よりも個性が出るし
感情移入もしやすそうです。
- 清水
- そうなんです。あとは、
土台を描いて人が乗っているように見せると…
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- ――
- チームっぽい!
- 清水
- はい。そうやってグループを
表すことができます。
- ――
- 色はあまりたくさん使わないんでしょうか?
- 清水
- そうですね。リアルタイムで流れる会議や会話に
追いつくためには、
色も使いすぎないほうがいいです。
なるべく少ない線と色で、
端的に見えるといいかなと思います。
- ――
- そうか。ある程度の
スピード感も大切なんですね。
- 清水
- 色のルールをはっきりさせるのがコツです。
最初は黒だけで、聞こえたことを描く。
終わってから、大事なところや
気になるところを囲んだりします。
絵が描けるかどうかよりも、
色の使い分けができているほうが、
見栄えがよくなると思います。
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- ――
- 自分の頭の整理をしたり、会議で使う以外に、
役立つシチュエーションはありますか?
- 清水
- そうですね。
私の会社でも多いんですが、
ミーティングの時間をとって相談するんじゃなくて、
いきなり「ちょっといい?」とか声をかけられて
「あれ、どうなった?」とか、
急に聞かれることって、ありませんか?
- ――
- どこの会社でも、
よくあるんじゃないかと思います。
- 清水
- 共通で確認できる資料がないまま
話だけをしていると、どんどんゴチャゴチャ
してしまうこともあるんですけど、
そういうときにグラフィックで
「いま、こんな感じで、こうなんですよ」って描くと、
5分で済んだりして。
- ――
- なるほど。立ち話程度のミーティングにも、
有効なんですね。
- 清水
- 「それは前に話しましたよね」みたいなことを
何度も聞いてくる人がいる場合は(笑)、
描いたときにスマホで写真に撮っておいて、
それを見せたりとかすると、いいかもしれません。
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- 清水
- それから、合宿や研修でも。
たとえば会社で
「新しいビジョンを考える合宿をしよう」って
2日間とか、いろいろ話したりすること、ありますよね。
そのときは「わあ、こんな未来になるね!」
って盛り上がるんだけど、
その後、それを文書やパワーポイントにまとめると、
合宿のときのきらめきが消えてしまって
「あれ?」みたいな(笑)。
- ――
- あれほど盛り上がったのに、
いざまとめると、
つまらなく見えてしまう‥‥。
- 清水
- それをそのまま社長に見せて、
「何をやってたの?」って言われてしまったり。
- ――
- ああ‥‥。
- 清水
- そんなときに、
合宿で議論の様子を、全部描いて残しておく。
それをパワーポイントなどにまとめることはせず、
なるべく早いうちに社長を呼んで、
壁に貼ったグラフィックレコーディングを
見せつつ、報告する。
資料をまとめる時間も省けますし、
けっこううまくいきましたね。
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実際に使う「色数」は少ないものの、
ときには参加者が使うこともあるため、 何本か用意しているそう。
- ――
- とても参考になりました。
ひとりでも、チームでも
ちょっとやってみるだけでも
会議のかたちや、記録のしかたが
変わってきそうですね。
ありがとうございました。

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「ほぼ日手帳をまだ知らない、
新しいお客さんとの出会いをどうやって作るか」
を議題に話します。
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あんまりこっちを見ずに、
お話に集中していただけるとうれしいです!」と清水さん。
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黒いペンですばやく描き始める清水さん。
よほどの雑談以外はなるべく拾って、
キーワードだけでもメモできるようにしているそうです。
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人には黄色、手帳には青の色が塗られていました。
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太い線が引かれています。
少し話が進んできたら、全体の構造をとらえて
わかりやすく示すようにしているとのこと。
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まとめて話してくれました。
自分たちの会議がどのように進んだのか、
客観的にとらえるという、新しい体験でした。
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「いいなと思った部分には赤いシール、
よくわからなかった部分には青いシール、
さらに話したいと思う部分に黄色いシールを貼ってください」
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シールにすれば、全体の流れを
みんなで振り返ることができ、
「ここはよくわからなかった」などの意見を
言えなかった人でも参加しやすいのだそうです。
参加メンバーの感想
- 「全然関係ないかもしれない話なんですけど‥‥」
と切り出された意見が、意外と話の核につながっていた。
それが、図になることでさらにわかりやすかったです。
すぐにでも動かしたい企画のアイディアも出せました。
最後に貼られたシールの多さで、
みんながどう思っているのかも
ひと目でわかりやすいのがいいですね。
- ミーティング中、ちょっと目を離したすきに、
模造紙の中で議論の内容がまとまっていました。
ミーティング後に振り返ってみることで、
次の動きが見えたことも、いいなと思いました。
議論に集中するのと同じぐらい(それ以上かも?)、
振り返って、これからを考えることも大事なんですね。
- ホワイトボードの方をチラチラ見ながら
会議に参加していたのですが、
びっくりしたのは、要約する力でした。
余談や冗談も時折はさまれる会議でしたが、
その部分はもちろんのこと、
長い意見のなかから話の芯をバッとつかんで絵にする、
というのがすごかったです。
しゃべっていて盛り上がったところが
元気なイラストになっていたりして、
雰囲気もとらえられてるな、と思いました。
- ミーティング後、
「話があちこち飛んでしまって
大丈夫だったかな?」とドキドキしながら
描き上がった記録を見せてもらうと、
すーごくわかりやすくまとまっている!
その上、かわいい!
ミーティング後に内容を振り返ったり
うまく共有できないことがわたしの課題なのですが、
清水さんのようにまとめられたら
どちらも楽しくできそうです。
- 結論のみが残されるふつうの議事録と違って
その「経緯」と場の「雰囲気」が想像しやすく、
振り返ったとき、頭に入ってきやすかったです。
話しのポイントや、みなが共感している箇所も明瞭で、
次のステップに進めやすいと思いました。
その時間だけで終わらない会議の場合にも、
とても役立ちますね。
- 最初は、議事録を絵にするだけのものだろうと
思っていましたが、実際に体験すると、
ただの記録ではありませんでした。
会議を俯瞰して見ている
レコーダーの視点が盛り込まれ、
情報が整理され、
イラストによって見た目もたのしく、
伝わりやすいかたちにまとめられていました。
会議が終わった時にはできあがっている
スピード感にも驚きました。
(おわります)