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LIFEのBOOK ほぼ日手帳

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

おとなの女性に愛されるブランド、ANTIPAST。
細やかで華やかな総柄の女性靴下の
パイオニア的な存在です。
「ほぼ日手帳2018」では、
この靴下生地を使って
手帳カバーをつくりました。
四半世紀以上にわたって
新鮮なテキスタイルを生み出し続けるデザイナーの
ジヌシジュンコさんとカトウキョウコさんのお二人に
話をうかがいました。

――
今回、ANTIPASTさんの
「FLOWER RUG」という靴下生地が
「ほぼ日手帳2018」の手帳カバーとなりました。
これは、いつ頃生まれた柄なんでしょうか?
カトウ
2000年代でしたよね。
ジヌシ
2009年の、Autumn/Winter(秋冬)。
左がカトウキョウコさん、右がジヌシジュンコさん。
――
この柄が発表されたときのコンセプトが、
ポエムで表現されているんですよね。
自然はいつも規則正しく、 何か法則があるように見える。 どこか懐かしく鮮やかな色彩になる。 いつも心動かされ、ほっとする。 美しいハーモニーが花々の間を駆け抜ける。
カトウ
このコンセプトは、ジヌシが書いています。
ジヌシ
はい。
なにかアイデンティティがないと
図案ってなかなか出ないものなんです。
だから、最初に文章を書いてみて、
それをイメージして柄を描くということを
するようになりました。
ブランドを立ち上げた頃は、
旅をイメージしていたんですよ。
――
旅、ですか?
ジヌシ
はい。長い航海に出る気分で、
最初はスペインとか、ポルトガル。
そこからイギリスに行って、
北欧へむかって、と、
毎年のテーマを決めていたんです。
「じゃ、今年はイギリスに行っちゃう?」
と決めたら、すこしトラッドな柄をつくってみたり、
北欧だったらそれらしい配色を選んでみたり。
――
なるほど!
ジヌシ
「今年はインド」というふうにテーマを設けると、
赤一色とっても、選びやすくなるんですね。
カトウ
お花のタッチも、イギリスならイングリッシュガーデン、
メキシコならフリーダ・カーロの絵のような激しい色合い。
ジヌシ
そうするうちにだいたい世界を一周してしまったので(笑)、
そこからは、
たとえば美術館の絵画に感激した記憶をもとに
「今年は”ロートレック”にしよう」とか、
そのときそのときで自分たちにピンときたものを
テーマにしています。
カトウ
一つ二つのデザインを考えるだけなら
手がかりがなくてもできなくはないでしょう。
でも、わたしたちはシーズンごとに
十数柄を提案させていただいていますから、
それぞれがばらばらではなく、
まとまったイメージをみなさんに感じていただきたいんです。
ジヌシ
切り口によってぜんぜんできるものが違うから、
奥深いなあ、と思います。
やってもやっても次の何かがやりたくなるんです。
――
そうやって、シーズンごとに
どんどん新しい柄が生まれているんですね。
カトウ
最初の15年くらいは、毎回コンセプトに合わせて
すべて新しい柄をつくることが多かったんですが、
ここ数年はその蓄積もありますし、
それらの柄を作り直すことでまるで別なものが
できあがることもあるので、
過去の柄のアレンジも増えてきました。
ずっと買ってくださっているお客様にも
思い出して喜んでいただけるので。
ジヌシ
たまたま「あの柄、今回のコンセプトにも合いそうね」
となったらそれをもう一回出すこともあります。
季節が変われば糸が変わりますし、
色を変えてみたり、
ゲージ(編み目の数)を変えることによっても
雰囲気はずいぶん変わるんですよ。
カトウ
「FLOWER RUG」の柄も、
一度秋冬のコレクションで発表したあと、
Spring/Summer(春夏)でもやったことがありましたね。
TOBICHIで開催した「ANTIPASTのちいさな店」で展示されていた、「FLOWER RUG」デザイン画の複製。1目も無駄にしない細やかな柄が手書きで描かれている。
ジヌシ
最初は花がパラパラとレイアウトされたもの。
それから、全体にあの花柄が敷き詰められているもの。
次に花の集合部分と、だんだんパラパラとなっていくもの‥‥
と、すこしずつアレンジを加えました。
カトウ
「昔は12色までしか使えなかったけれど、
今ならあと4色使えるよ」という、
技術や機械の進歩もありますから、
それによって昔の柄も新しく生まれ変わったりするんです。
ジヌシ
わたしたちが靴下のデザインをはじめた頃って、
たしか14段しか図案が描けなかったんです。
カトウ
14段って、幅にして1センチ強ですよ。
――
たった1センチですか?
ジヌシ
その幅のデザインをリピートして
柄をつくるしかないんです。
だから1目1目がほんとうに大切だった。
カトウ
できないことが多いなかでがんばるのも、
おもしろかった。
手かせ足かせがあるときのほうが、
おもしろいことができるという感覚はいまも残っています。
ジヌシ
そうそう。
使える色が増えて、デザインの幅はたしかに広がりました。
でも、いいことばかりとは言えなくて。
すこし前だと、職人さんが微調整をしながら
生地をつくってくださっていた時期があったんです。
でもいまはすべてコンピューター制御なので、
使える色数は増えたけれど、
ちょっとした調整がきかず、難しくなっている部分もあります。
――
機械の進歩によって、逆に細やかな部分が
難しくなる‥‥。
ジヌシ
そうなんです。かつてはベテランの職人さんが、
あえて図案をすこしずらすことで伸びをよくする、
といった調整をしてくださったりしていたので。
カトウ
靴下生地ですから、やはり伸縮性がたいせつなんですね。
でも、「FLOWER RUG」のように色数が多いと、
伸びをちゃんとつくるのって難しいんです。
ジヌシ
昔はやれたけれど、
いまはやれなくなってしまったことというのも
出てきているんです。
カトウ
でも、そんな状況だからこそ
できること、というのは必ずありますから。
かわいくて素敵であることは当然として、
はき心地のいい靴下や、着やすい洋服を
提供し続けたいですね。
ジヌシ
そうですね。
変化をずっと見続けてきたわたしたちだからこそ、
できることがあるかもしれません。
カトウ
最近、ブランドのロゴを新しくしたんですよ。
「ANTIPAST」には前菜という意味がありますから、
これまでは洋服をメインディッシュとして、
それらを彩る前菜として靴下や小物をつくってきた。
でもこれからは、メインディッシュはあなた自身。
靴下だけでなく洋服も含めて、
「あなた」を彩り、おしゃれの楽しみを刺激する
前菜のような役割を担えるものを
つくり続けていきたいと思っています。
――
ありがとうございました。
(おわります)

ANTIPAST