‥‥で、そういう意味で申し上げますと、
いま「肥満」って、すごく問題になってますよね。

おおっ、いきなり来たよっ！（笑）

ええ（笑）、はい、あのですね、
肥満にまつわる問題には
本当に、いろんな論点があると思うんです。

ダイエットから経済格差論まで。

そう、さまざまな「肥満論」がありますが、
本日、わたくしからは
主に「人はなぜ、太るのか」という点について
お話できたらと思っているんです。

人はなぜ、太るのか。

いま、よく言われている話は、こうです。

「太るというのは、正常じゃない。
　あなたの生活習慣に、何らかの問題がある。
　努力が足りないんです。
　だから今日から、がんばって痩せなさい」
と‥‥。

ええ。

そんなふうに語られることが多いでしょう、
肥満の問題って。

睡眠の話と同じ構造ですね。

そう、「眠れないあんたが悪い」式の、
どうしても
そういう枠組みで語られちゃうんだな。

治療の対象、みたいな。

そうそう。

正常から逸脱してしまった状態であると。

もちろん、最終的にはね、みなさんが
ご自身の生活の中で
前向きに取り組んでいただかないと
解決しない問題であることは、確かなんですが‥‥。

でも先生、あの‥‥いま、ぼくらの社会って
「脅迫型」の商品であふれてますよね。

これを買わないと、仕事に差し支えますよ、
これをやらないと、病気になりますよ、
これを知らないと、ちょっと恥ずかしいですよ‥‥。

ええ、ええ。

そういう言いかたで、袋小路に追い詰めて
モノを売る方法って
いわば「暴力」とさえ言えると思うんです。

「脅迫型の市場マーケティング」というか。

そうですね。

もちろんそれは、人間の歴史を振り返れば
原始人だった時代から
同じようなことを、やってきたんだと思うんです。

「お前ら、オレのあとに付いて来なかったら、
　獲物が捕れないぞ」とかって言って、
リーダーは集団を組織してきたわけですから。

逆に言えば、ずうっと続いてきたってことは、
そこに、何かしらの
明確な「メリット」があったわけですけどね。

でも、やっぱりぼくが思うのは
「好きでやってることじゃないと、長続きしない」
ということなんです。

ああ、なるほど。

もっと根本的な言いかたをすると
「人間、本当にイヤなことはしない」。

そういうもんだと、思うんですね。

そういうもんですねぇ。

つまり「病気になるよ、痩せなきゃダメ！」と
脅迫的に言われても
「なかなかダイエットが成功しない、
　続かない理由」って
そのへんの人間理解にあるんじゃないかと。

食べることをがまんするのは、苦痛ですからね。

反対に、ぼくが「計るだけダイエット」で
まぁ、うまくいっているのも、
やっていて楽しいからなんですよ、きっと。

その点は、ようくわかります。

ぼくらが味の素でつくってる健康食品も
「ああせい、こうせい」言わないの。

そうですよね。

「グリナ」の例で申し上げると、
「これを飲まなきゃ、眠れません」じゃなくって
「前向きな気持ちで、
　この食品をサポートとして使ってもらえたら、
　そんなにがんばって努力しなくても
　よい休息がとれますよ」と、こういうふうに。

うん、うん。

そういう気持ちで続けてもらうことが、
大切だと思っているんです。

それと先生、もうひとつ思うのは、
メタボ問題やダイエットについての話、
つまり、大部分の人にとっての
「肥満の話」って
実は「美容の話」なんじゃないかと思っていて。

太るのはみにくいわ、と。

ようするに「自分なりの理想のカラダ」
というものがあって、
それにくらべて「逸脱してる」から
どうにかしなきゃという、
「美容としてのダイエット」から
スタートしてる人が多いと思うんですよ。

確かに、そうかもしれません。

まず、ぼく自身が、まったくそうなんです。
つまり、むかしは腹の出ている人を
さんざんからかってたおぼえがあるんです。

でも、自分が歳をとってからは、
夏になると、ちょっとこう腹をへこまし気味で
人前に出るようなね‥‥。

ははははは。

いや、それはぼくの「見栄」なんですよ。

見栄なんですけど、
それが、同時に健康によくないとしたら‥‥。

確かに「肥満」は、健康を損ないます。

そのこと自体は、まったく正しいんですけど、
ぼくが申し上げたいのは、
なんと言うかな、その‥‥もう少し気楽に、と。

はぁ‥‥気楽に。

だってホラ、
「もともと太るようにできてる」んだから、
ぼくたち人間ってのは。

ははぁーーー。

そのへんの議論から出発すべきだなぁと、
ぼくなど
いろんな「肥満論」を見て思うわけです。
研究者の端くれとして。

そういう「気楽にね」なんてメッセージは、
必ずしも専門家の口からは出てきませんよ。

出てこないでしょうね。

いやぁ、なるほど‥‥あの、つまりですね、
高橋先生と
「肥満」についてお話ししたいなと思ったのは、
まさにそういう理由なんですよ。

「脅迫型」ではない枠組みで語られる
「太る」の話が、お聞きしたいんです。

それなら、少しはお役に立てるかもしれません。

じゃあ、とっかかりとして、まずは
先ほどおっしゃった
「人間、太るようにできてるんだよ、もともと」
という話から、お伺いしても？

はいはい、わかりました。
それでは、そのあたりからいってみましょうか。

＜つづきます＞