THE OTHER SIDE OF SPACE SHUTTLES AND THE EARTH
 
 
 
見たことのないシャトル、 見たことのない地球。 瀧本幹也さんの最新作『LAND SPACE』がすごい。
写真家の瀧本幹也さんが 「スペースシャトルの写真集」を出しました。 これが、滅茶苦茶かっこいいのです。 え、スペースシャトルの写真なんて 何度も見たことあるけど?  ‥‥はい、たしかに、そうですよね。 でも「このシャトルは見たことなかった!」 そういう写真が並んでいるのです。 何度も何度もケネディ宇宙センターへ通っては 試行錯誤を重ねつつ、 シャトルの写真を撮りためた、瀧本さん。 この至近距離、このディテール、 この「解像度」の高さ‥‥クギ付けになります。 完全なるファン目線でまことに恐縮です。 ほぼ日・奥野が、なるべく冷静にお届けします。 瀧本幹也さんプロフィール
第2回 無人カメラを自分で改造。

── 瀧本さんは
何度もケネディ宇宙センターに通い詰めて
スペースシャトルの写真を
撮影されてきたわけですけれども‥‥。
瀧本 ええ。
── 瀧本さんのカメラって
三脚のついた、大きなカメラなんですよね。

その、持ち歩くのも大変そうな。
瀧本 そうですね(笑)、4×5(シノゴ)とか
8×10(エイトバイテン)
と呼ばれる大型のカメラで撮っています。
── ようするに、昔の写真屋さんみたいに
よこらしょって担ぐ系の、フィルムのカメラ。
瀧本 そうそう、「かぶり」という黒い布を被って
ピントを合わせる、
蛇腹のついたカメラといえば
わかりやすいでしょうか。
── 現場では‥‥。
瀧本 かなり「浮いた存在」ですね。
── そ、そうですよね。
ほかの取材陣は、当然「デジカメ」でしょうし。
瀧本 ぼくだけ、蛇腹つきのデカいのを担いでるから、
向こうの報道の人たちが
ぼくのカメラを撮りにきたりしてました(笑)。
── こんなので撮ってる日本人がいるぞと。
瀧本 そう、そう。
── スペースシャトルを撮るにあたっては
カメラ自体にも、仕掛けをしてるんですよね?
瀧本 シャトルの「打ち上げ」を
近くから撮影するためには
「無人カメラ」にしなければならないので。
── それはつまり、人が「射点」に近寄れないから。

瀧本 打ち上げのとき、
シャトルから5キロ圏内は立入禁止なんです。

ただ、カメラだけは
500メートルくらいのところに
設置しておくことができるんです。

ただ、電波障害のおそれもありますから
離れた場所から
無線でシャッターを切るのはダメ。
── では、どのようにして?
瀧本 音、それも「爆音」に反応して
シャッターを切れるように、改造をしました。
── 改造?
瀧本 うん。
── 改造というと‥‥どなたが?
瀧本 ぼくと、うちのアシスタントと‥‥。
── つまり「DIY」ですか!
瀧本 カメラのなかの基盤については
富士フイルムの方にも、協力を仰ぎました。

打ち上げを撮るための無人カメラには
富士フイルムの
GX680というモデルを使っていたので。
── 具体的には、どのような改造を?
瀧本 基本的には、先ほど言ったみたいに
いろいろ部品を買ってきて
それらを組み合わせて、
「音に反応してシャッターが切れる」ように
改造するんですけど。
── ええ、ええ。
瀧本 ケネディ宇宙センターのあたりって
しょっちゅう、「雷」が落ちるんですよ。
── ははあ。
瀧本 つまり、きちんと考えてつくらないと
「雷の音」でシャッターが切れちゃうんです。
── はー‥‥、なるほど。
瀧本 何枚も撮れるデジカメの場合なら
別にそれでもいいのかもしれないんですが、
ぼくの場合は
十数枚しか撮れないフィルムのカメラなので。
── まずいですね。
瀧本 雷の音に反応してしまったら
たぶん、それでもう「終了」なんです。

ぜんぶ撮り終えちゃって、
フィルムが、巻き上がっちゃうと思う。
── では、どのような対策を?
瀧本 えっと、ちょっとマニアックな話になりますけど、
音を感知するマイクに
振動衝撃を吸収する「ソルボセイン」というものを
巻きつけたりとか‥‥ははは(笑)。
── あの、その「ソルボセイン」という存在については、
どのように、たどり着いたんですか?
瀧本 まあ、試行錯誤ですよね。いろいろ試して。

野外に置いてみたりとか、
でっかいスピーカーを最大出力にした上で
マイクを近づけてみたりとか。
── 写真家の仕事を超えて‥‥ませんでしょうか。
瀧本 あはははは、そうですよね。
売ってないので、自分で作るしかなくて。
── なるほど、売ってない‥‥んですね。
瀧本 だって、需要ないですもん。
── たしかに、その装置をほしがってる人って
瀧本さんを含めて
世界中でも「何十人」のレベル‥‥。
瀧本 基本的に「感度を鈍らせる装置」ですし。
── そうか、マイク的には
目指す方向性として「正反対」であると。
瀧本 マイクを分解してみると
中に「振動板」が入っているんですよ。

それを「セロテープで3枚貼り」にすると
ちょうどいいとか、
やっていくうちに、いろいろわかりました。
── 瀧本さん‥‥すごいです。
瀧本 それでも、かなり失敗してますけどね。

どういう原因かわからないんですが
日本に帰って現像してみたら
打ち上げのタイミングじゃない瞬間に
シャッターが切れていて、
空しか写ってなかったりとか‥‥ね。
── 場合によっては、雨とかも降りますもんね。
瀧本 打ち上げの2日前から立入禁止になるので
カメラを設置して、
丸2日、置いておかなきゃならないんです。

その間、どんな天候にも対応できるように
徹底的に養生しておきます。
── いろんな「じゃま」が入るわけですね。
瀧本 そう、カラスみたいな野鳥が悪さをしたり、
夏場だと、すごく高温になるので
アルミ断熱シートで全体を覆ったり、
爆風で、カメラごと倒されたりしないよう、
ペグとロープでしばりつけたり‥‥。
── いろんな可能性を想定して。
瀧本 それに、ぼくが使ったカメラって
露出なども「オート」では撮れないんです。

だから2日後の、発射時間の天気を調べて
だいたいこれくらいだろうと計算して、
シャッタースピードも固定しておくんです。
── デジカメで撮っている人からしてみたら、
何でそんな大変なことをしているのかと。
瀧本 ‥‥思ってると思う(笑)。
── いろいろ自動で便利なデジタルではなくて
「フィルムで撮る理由」が
瀧本さんには、あると思うんですが‥‥。
瀧本 そうですね‥‥。
やっぱり‥‥「写真っぽい」んだと思います。
── 写真っぽい。
瀧本 たとえば、そんなふうに苦労して撮っても
日本に帰って現像してみないと
何が写ってるかって、わからないんです。
── ええ、ええ。
瀧本 そういう意味では
デジタルにくらべて「不便」と言えるかも
知れないんですが、
でもやはり、
「ネガ」として、つまり「物質」として
「そのとき」を残すことができる。

それが「写真」というものの良さかなあと
ぼくは、つねづね思っているので。
── 写真家のかたや
フィルムメーカーのかたにお会いするたび
聞いているのですが、
「フィルムとデジタルとの違い」って、
どのへんにあると思いますか?
瀧本 うーーん‥‥写真家としての実感で言えば
撮るときの緊張感が違うとは、思います。
── なるほど。
瀧本 ぼくは、4×5(シノゴ)という、
昔の写真屋さんみたいな、
大きな蛇腹のカメラを使うことが多いんですが、
デジカメのようには撮れないんです。

三脚を使わなきゃ立たないし、
フィルムだって、1枚撮ったら交換なんです。
── 連写みたいな概念とは、かけはなれた写真機。
瀧本 1枚1枚フィルムをガチャっと装填して、
レンズや絞りを手で操作して、
シャッターを押すまでに
ふつうに数十秒とか、かかるカメラなんです。

ですから
デジタルのカメラとは「別物」なんですよね。
良い悪いということじゃなくて。
── カメラのつくりによって、
撮るときの気持ちも、変わるものですか?
瀧本 なんか思想のような話になっていっちゃうのも
違うような気もするんですが、
1枚の写真を撮るのに
フィルムという物質を1枚、必ず消費するから、
簡単にはシャッターを押せない気はします。
── なるほど。
瀧本 静物でも、人物を撮るようなときでも、
4×5のカメラの場合には、
「グッ」と念じて
シャッターを切るような感じが、あります。

風景写真を撮るにしても、
次の1枚はこう撮りたいんだって思ったら
もう少し光を待ってみようか、とか。
── 現場に持って行けるフィルムの数にも
限りがありますもんね。
瀧本 たとえば「山に登って撮ろう」とかなったら
30枚とか20枚とか、そのくらいでしょう。
── そんなに少ないんですか。
瀧本 ですから、もっと「いい光」を待ちたいし、
1枚の写真を撮るためには
こう‥‥決定的に心が動かないと、難しい。
── なるほど。
瀧本 だから、そのぶん「写る」気がする。
── フィルムのカメラには。
瀧本 そう。
 
<つづきます>
2013-09-18-WED
 
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