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── |
瀧本さんは
何度もケネディ宇宙センターに通い詰めて
スペースシャトルの写真を
撮影されてきたわけですけれども‥‥。
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瀧本 |
ええ。
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── |
瀧本さんのカメラって
三脚のついた、大きなカメラなんですよね。
その、持ち歩くのも大変そうな。
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瀧本 |
そうですね(笑)、4×5(シノゴ)とか
8×10(エイトバイテン)
と呼ばれる大型のカメラで撮っています。
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── |
ようするに、昔の写真屋さんみたいに
よこらしょって担ぐ系の、フィルムのカメラ。
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瀧本 |
そうそう、「かぶり」という黒い布を被って
ピントを合わせる、
蛇腹のついたカメラといえば
わかりやすいでしょうか。
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── |
現場では‥‥。
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瀧本 |
かなり「浮いた存在」ですね。
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── |
そ、そうですよね。
ほかの取材陣は、当然「デジカメ」でしょうし。
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瀧本 |
ぼくだけ、蛇腹つきのデカいのを担いでるから、
向こうの報道の人たちが
ぼくのカメラを撮りにきたりしてました(笑)。
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── |
こんなので撮ってる日本人がいるぞと。
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瀧本 |
そう、そう。
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── |
スペースシャトルを撮るにあたっては
カメラ自体にも、仕掛けをしてるんですよね?
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瀧本 |
シャトルの「打ち上げ」を
近くから撮影するためには
「無人カメラ」にしなければならないので。
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── |
それはつまり、人が「射点」に近寄れないから。
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瀧本 |
打ち上げのとき、
シャトルから5キロ圏内は立入禁止なんです。
ただ、カメラだけは
500メートルくらいのところに
設置しておくことができるんです。
ただ、電波障害のおそれもありますから
離れた場所から
無線でシャッターを切るのはダメ。
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── |
では、どのようにして?
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瀧本 |
音、それも「爆音」に反応して
シャッターを切れるように、改造をしました。
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── |
改造?
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瀧本 |
うん。
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── |
改造というと‥‥どなたが?
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瀧本 |
ぼくと、うちのアシスタントと‥‥。
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── |
つまり「DIY」ですか!
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瀧本 |
カメラのなかの基盤については
富士フイルムの方にも、協力を仰ぎました。
打ち上げを撮るための無人カメラには
富士フイルムの
GX680というモデルを使っていたので。
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── |
具体的には、どのような改造を?
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瀧本 |
基本的には、先ほど言ったみたいに
いろいろ部品を買ってきて
それらを組み合わせて、
「音に反応してシャッターが切れる」ように
改造するんですけど。
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── |
ええ、ええ。
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瀧本 |
ケネディ宇宙センターのあたりって
しょっちゅう、「雷」が落ちるんですよ。
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── |
ははあ。
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瀧本 |
つまり、きちんと考えてつくらないと
「雷の音」でシャッターが切れちゃうんです。
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── |
はー‥‥、なるほど。
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瀧本 |
何枚も撮れるデジカメの場合なら
別にそれでもいいのかもしれないんですが、
ぼくの場合は
十数枚しか撮れないフィルムのカメラなので。
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── |
まずいですね。
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瀧本 |
雷の音に反応してしまったら
たぶん、それでもう「終了」なんです。
ぜんぶ撮り終えちゃって、
フィルムが、巻き上がっちゃうと思う。
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── |
では、どのような対策を?
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瀧本 |
えっと、ちょっとマニアックな話になりますけど、
音を感知するマイクに
振動衝撃を吸収する「ソルボセイン」というものを
巻きつけたりとか‥‥ははは(笑)。
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── |
あの、その「ソルボセイン」という存在については、
どのように、たどり着いたんですか?
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瀧本 |
まあ、試行錯誤ですよね。いろいろ試して。
野外に置いてみたりとか、
でっかいスピーカーを最大出力にした上で
マイクを近づけてみたりとか。
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── |
写真家の仕事を超えて‥‥ませんでしょうか。
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瀧本 |
あはははは、そうですよね。
売ってないので、自分で作るしかなくて。
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── |
なるほど、売ってない‥‥んですね。
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瀧本 |
だって、需要ないですもん。
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── |
たしかに、その装置をほしがってる人って
瀧本さんを含めて
世界中でも「何十人」のレベル‥‥。
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瀧本 |
基本的に「感度を鈍らせる装置」ですし。
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── |
そうか、マイク的には
目指す方向性として「正反対」であると。
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瀧本 |
マイクを分解してみると
中に「振動板」が入っているんですよ。
それを「セロテープで3枚貼り」にすると
ちょうどいいとか、
やっていくうちに、いろいろわかりました。
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── |
瀧本さん‥‥すごいです。
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瀧本 |
それでも、かなり失敗してますけどね。
どういう原因かわからないんですが
日本に帰って現像してみたら
打ち上げのタイミングじゃない瞬間に
シャッターが切れていて、
空しか写ってなかったりとか‥‥ね。
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── |
場合によっては、雨とかも降りますもんね。
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瀧本 |
打ち上げの2日前から立入禁止になるので
カメラを設置して、
丸2日、置いておかなきゃならないんです。
その間、どんな天候にも対応できるように
徹底的に養生しておきます。
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── |
いろんな「じゃま」が入るわけですね。
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瀧本 |
そう、カラスみたいな野鳥が悪さをしたり、
夏場だと、すごく高温になるので
アルミ断熱シートで全体を覆ったり、
爆風で、カメラごと倒されたりしないよう、
ペグとロープでしばりつけたり‥‥。
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── |
いろんな可能性を想定して。
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瀧本 |
それに、ぼくが使ったカメラって
露出なども「オート」では撮れないんです。
だから2日後の、発射時間の天気を調べて
だいたいこれくらいだろうと計算して、
シャッタースピードも固定しておくんです。
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── |
デジカメで撮っている人からしてみたら、
何でそんな大変なことをしているのかと。
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瀧本 |
‥‥思ってると思う(笑)。
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── |
いろいろ自動で便利なデジタルではなくて
「フィルムで撮る理由」が
瀧本さんには、あると思うんですが‥‥。
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瀧本 |
そうですね‥‥。
やっぱり‥‥「写真っぽい」んだと思います。
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── |
写真っぽい。
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瀧本 |
たとえば、そんなふうに苦労して撮っても
日本に帰って現像してみないと
何が写ってるかって、わからないんです。
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── |
ええ、ええ。
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瀧本 |
そういう意味では
デジタルにくらべて「不便」と言えるかも
知れないんですが、
でもやはり、
「ネガ」として、つまり「物質」として
「そのとき」を残すことができる。
それが「写真」というものの良さかなあと
ぼくは、つねづね思っているので。
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── |
写真家のかたや
フィルムメーカーのかたにお会いするたび
聞いているのですが、
「フィルムとデジタルとの違い」って、
どのへんにあると思いますか?
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瀧本 |
うーーん‥‥写真家としての実感で言えば
撮るときの緊張感が違うとは、思います。
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── |
なるほど。
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瀧本 |
ぼくは、4×5(シノゴ)という、
昔の写真屋さんみたいな、
大きな蛇腹のカメラを使うことが多いんですが、
デジカメのようには撮れないんです。
三脚を使わなきゃ立たないし、
フィルムだって、1枚撮ったら交換なんです。
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── |
連写みたいな概念とは、かけはなれた写真機。
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瀧本 |
1枚1枚フィルムをガチャっと装填して、
レンズや絞りを手で操作して、
シャッターを押すまでに
ふつうに数十秒とか、かかるカメラなんです。
ですから
デジタルのカメラとは「別物」なんですよね。
良い悪いということじゃなくて。
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── |
カメラのつくりによって、
撮るときの気持ちも、変わるものですか?
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瀧本 |
なんか思想のような話になっていっちゃうのも
違うような気もするんですが、
1枚の写真を撮るのに
フィルムという物質を1枚、必ず消費するから、
簡単にはシャッターを押せない気はします。
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── |
なるほど。
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瀧本 |
静物でも、人物を撮るようなときでも、
4×5のカメラの場合には、
「グッ」と念じて
シャッターを切るような感じが、あります。
風景写真を撮るにしても、
次の1枚はこう撮りたいんだって思ったら
もう少し光を待ってみようか、とか。
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── |
現場に持って行けるフィルムの数にも
限りがありますもんね。
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瀧本 |
たとえば「山に登って撮ろう」とかなったら
30枚とか20枚とか、そのくらいでしょう。
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── |
そんなに少ないんですか。
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瀧本 |
ですから、もっと「いい光」を待ちたいし、
1枚の写真を撮るためには
こう‥‥決定的に心が動かないと、難しい。
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── |
なるほど。
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瀧本 |
だから、そのぶん「写る」気がする。
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── |
フィルムのカメラには。
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瀧本 |
そう。 |