ほぼ日で東京を特集するにあたって、
やはりどうしても
この方に話を訊かずには
いられませんでした。
京都出身のみうらじゅんさんは、
1977年に19歳で東京へやってきて、
今年で上京40周年。
みうらさんにとって、
東京はどんな場所ですか?
第2回
東京でシステムの壁にぶちあたる。
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東京は冷たい街と教えられ、
そしてじっさい、そのとおりでしたか?
- みうら
-
そうですね、そのことを語るとき、
避けて通れないエピソードがあります。
いま、みなさんがあたりまえのように思っている
「カードシステム」ですが、
40年前には、まだなかったんですよ。
ここ、重要ですから。
- ──
- はぁあ、カードシステム。
- みうら
-
「キャッシュカード」というものが
存在していなかったわけです。
キャッシュカードがないと、
特に土曜日が危険ですね。
昼までに銀行の窓口に行かなければならない。
おろし忘れたらもう、
土日、食うや食わずという
冷たい目に遭うわけです。
いやぁ、これは冷たい。さすがに東京、冷たい。
- ──
- 東京のせいではありませんよね。
- みうら
-
当方は自作の歌を
日々アパートで作っては録音してましたので、
そうなるとテーマが必要になってきますよね。
東京が冷たい、ぜんぶ東京のせいだと、
嘆きシャウトするわけです。
ある日、お金をおろし忘れたぼくは、
手もとに一銭もなく、勇気を出して、
いつも行っていた近所の飲食店に行き、
「お金を貸してほしい」と申し出ました。
金があるときはあんなに愛想が良かったおばさんは
「貸せない」というんです。
- ──
-
常連で、よく知っているおばさんですし、
貸してくれるかと思いきや。
- みうら
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そう、冷たい。さすが東京です。
これはつらかったですねぇ。
土曜日は水を飲んでどうにかしましたが、
日曜日がまるまる残ってるわけでね。
どうしましょうね。
この冷たいコンクリートジャングルでは、
起きているとどんな目に遭うかわからないと思い、
寝ることにしました。
しかし、寝てもね、起きるんですよ。
長いこと寝ると、人はどうしても起きますね。
おなかが減ってますから。
だから今度は交番にお金を借りに行くことにしました。
拾得した財布を以前届けたこともある、
なじみの交番なら大丈夫と思って。
当然お金をくれるもんだと思っていたら
「あなたのような人たちに
いちいちお金をあげてたら大変だよね」
こういう返答でした。
ああ、冷たい。
そんな教科書どおりの都会の冷たい風に吹かれ、
歌を作る気力もありませんから、もう、
まんじりともせず、しかありませんでした。
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でもやっぱりそれは、
自分がおろし忘れただけですよね‥‥。
- みうら
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そうなんですがね、
仕送りはね、わりともらってたんで、
銀行にはあるんです。
喉から手が出るくらい、
そこに「ある」んですよ。
それが悔しくて。
- ──
- わはははは。
- みうら
-
それはやっぱり、
システムですよね。
システムがぼくを苦しめただけのこと。
- ──
- カードがないという社会システムが。
- みうら
-
上京して最初にぶちあたった、
それが壁でしたね。
- ──
- 東京、厳しいですね。
- みうら
-
当時ぼくはけっこうなボロアパートに住んでいたので、
風呂は当然ありませんでした。
それも、歌を書くには好都合でした。
銭湯は夜10時くらいまでに行かないと
入れてくれないでしょ。
毎日、ダラダラしてるもんで、
気づいたらいつも風呂は終わっていました。
そうなるとね、特に夏場は、
自分でも分かるくらい自分が臭いんですよ。
- ──
- これまた厳しいですね。
- みうら
-
厳しい臭いです。
そこで、アパートの水まわりを見てみると、
流しが目に入ります。
かなりちいさな流しでしたが、
そこに屈葬のようにして
膝をかかえて入浴するのです。
流しには蛇口が取りつけられていますが、
当然、水しか出ないので、
「ああ、なんて
このコンクリートジャングルは冷たいんだ」
と思いましたね。
「凍える」なんて言葉も歌に盛り込んだものです。
- ──
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それも、早めにお風呂屋さんに行かない
自分が悪いという話ですが、
言い換えれば、システム、ということになりますね。
- みうら
-
まぁ、そうですね。
社会システムの壁は厚かった。
でも、隣の部屋との壁は、やたら薄かったんです。
- ──
- わはははは。
- みうら
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ベニヤのうすいやつ1枚か2枚を隔ててね、
隣の生活音が一音一音聞こえてくるんです。
ちいさいおならの音も
聞こえてくる始末です。
「騒音だらけの都会でぇー」
と、歌ではそうなるんですけれどね。
- ──
- アパートの中が騒音だらけ‥‥。
- みうら
-
そんなコンクリートジャングルの現実を、
ぼくは知っていくことになりました。
~それでは、本日の動画をごらんください。~
本日の動画ポイント
- 自分の過失であっても、すべては東京のせいです。
- 人はかんたんにお金を貸してはくれません。
- 東京はコンクリートジャングルです。
- 「傘がない」は井上陽水さんの歌です。
(第3回につづきます)2017-05-29-MON