勝川俊雄+糸井重里 対談
日本の魚は「世界一」じゃない!?
 
第4回
魚食というソフトウェア。

糸井 日本人の大好きな「マグロ」については
どのような状況なんですか?

というのも、マグロに対しては、
みんな、アイドルを見るような目で‥‥。
勝川 そうですね、
お正月の初競りがどうだった‥‥とか。

たしかに、世間の関心も高い魚ですし、
経済に対する効果も大きいです。
糸井 ええ。
勝川 だから
「マグロがどれほど減っているか」
についても、知ってほしいです。
糸井 やはり、減っているんですね。
勝川 昔は、ある意味で「適当な漁法」でも
マグロが捕れたんですよ。

たとえば「たんぽ流し」と言って
餌を付けた針を浮きにたくさんつけて
流しておくだけで
マグロが釣れた時代もありました。
糸井 へえー‥‥。
勝川 いま、そんなことをしても「ゼロ」です。
糸井 ゼロですか。
勝川 いまは、マグロは「群れ」で捕るんです。

漁師が言うには、
群れの先頭のほうに「リーダー」がいて
そいつが、
エサを食べるか食べないかを決めている。

リーダーが食べないと
後ろに続く他のマグロも食べないから、
群れのちょっと先に
エサを投げてやるんですけれど‥‥。
糸井 ええ。
勝川 その「スイートスポット」の奪い合いなんです。

昔みたいに
「マグロ通らねえかなぁ」で捕っていた時代と
まったく、ちがうんです。
糸井 効率がよくなったということですか。
勝川 そう、魚を捕るテクノロジーが進化して
ひとつの群れから
効率的に捕れるようになった。
にもかかわらず、漁獲量は減り続けています。
糸井 ヨコワ(※若いマグロ)なんかも、
マグロのうちに、カウントしているんですか。
勝川 カウントしていますね。

というか、日本のクロマグロの漁獲のうち、
95%以上がヨコワです。
会場 ええー!
勝川 0歳1歳の、まだカツオみたいな大きさで
95%以上を捕ってしまっている。
糸井 安い単価で。
勝川 そうですね、産卵期のマグロって
栄養をすべて卵に取られちゃってますから、
「1キロ1000円」‥‥とか。
糸井 もっと価値が出るはずなのに。
勝川 漁師さんだけでなく、
われわれ魚を消費する立場からしてみても
より「おいしい」捕り方を
してほしいじゃないですか。

限られた海の幸を、利用するのであれば。
糸井 そうですよね。
勝川 早い者勝ちのルールは、誰も幸せにしない。

われわれ消費者も
自分たちの未来の食卓の選択肢が
どんどん失われてることに、気づかないと。
糸井 さみしいことですね、それは。
勝川 ですから、そのためにも
持続的に質の高い水産物を供給できるよう、
仕組みを変えなきゃならない。

で、そのためには
あらかじめ、漁獲枠をみんなに分けておく、
それだけでいいんです。
糸井 ひとつ、日本が有利だろうなと思うのは
魚が好きなのって
ノルウェー人よりニュージーランド人より、
日本人じゃないですか。
勝川 そうですね。
糸井 つまり「市場のたしかさ」という意味では
日本って、ものすごく有利ですよね。
勝川 そこが、もったいない部分なんです。

ノルウェーの場合は人口も少ないし、
賃金も高いから、水産加工なども難しい。
魚を捕ったら、輸出するしかない。

他方、日本だったら加工だってできるし
国内市場も確立しています。
ノルウェーの比じゃなく、もうかるはず。
糸井 まさしく「金のさんま」ですね。
勝川 そう、そう(笑)。
糸井 日本人って「魚を食べる」ことについては
いわば「エリート」だから、
ものすごいテクニックを持っていますよね、
市場の側が。
勝川 ソフトウェアを持ってるんです、われわれは。

魚というハードウェアが
自前の海から捕れなくなって輸入しているけど、
でも、日本の強みって
むしろ「魚食」というソフトウェアなんです。
糸井 だから逆に「よく捕れる」気仙沼なんかに
行くと思うんだけど、
魚の食べかたが、本当に‥‥「雑」(笑)。
会場 (笑)
勝川 それは「切って食うだけで、うまい」から。
糸井 そうそう。
勝川 一般的には鮮度が重要なんですけど、
甘エビなんかは
捕ってすぐだと、うまくないんです。
糸井 ああー‥‥そうか。
勝川 なぜなら、甘エビの「ねっとり感」って、
死んだあとの自己消化のせいなので
1日くらい置かないと旨味が出てこない。

日本には、そういう
「食べ方のソフトウェア」というべきものが
集合知として存在しているんです。
糸井 で、そういう知恵を大量生産的なロジックが
洗い流しちゃってる気がする。
勝川 たしかに。昔のお母さんたちは、
どこで魚の食べ方を習ってたかというと、
魚屋さん、だったわけだから。
糸井 そうですよね。
勝川 威勢のいい魚屋のおっちゃんが
「この魚は、こうやって食べるといいよ」
とかなんとか、
旬の魚のうまい食べ方を教えてくれた。
糸井 うん、うん。
勝川 だから、昔の魚屋さんの「対面販売」って
魚というハードウェアだけじゃなく、
食べ方というソフトウェアまでいっしょに
売っていたんです。

でもいまは、
ハードウェアだけがスーパーに並んでいる。

だから、適当に切って、適当に塩を振って、
適当に焼いて食べてみたけど
「‥‥おいしくないね」となってしまう。
糸井 単なる「物流」に、なっちゃってるんだ。
もったいないです。
勝川 情報化時代と言いつつ、
じつは「魚の食べ方の情報」については
途絶えてしまっていて、
消費者まで、しっかり届いていません。

それをなんとかしようとしてる例として、
山口県の
「萩しーまーと」という道の駅が、
観光バス相手ではなく、
地元の人に地魚を売ろうとしてるんです。
糸井 へぇー‥‥。
勝川 売るためには情報を発信しなきゃということで
地元のNHKで毎週5分間、
「今週の地魚」という番組をやっています。

「いまの時期は、こんな魚が旬で、
 こうするとおいしいですよ」
って、かつての魚屋さんが担っていた役割を
メディアを使って、やっているんです。
糸井 それを見た人たちが買いに来る、と。
勝川 で、自分ちで試して「うん、おいしい!」と。
糸井 逆に言えば、スーパーマーケットが
うまく情報を流せるようになったらいいんだ。
勝川 そうそう、そうなんですよ。

スーパーマーケットを否定してみたところで
昔の魚屋さんは、戻ってきませんから。
糸井 うん、うん。
勝川 「昔はよかった」じゃなくて、
「昔の、何がよかった」のか。

その「よかった要素」を、
どうやって未来に残せるのかなと考えれば
知恵も浮かんでくると思います。

<つづきます>
2014-06-19-THU
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