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糸井 |
日本人の大好きな「マグロ」については
どのような状況なんですか?
というのも、マグロに対しては、
みんな、アイドルを見るような目で‥‥。
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勝川 |
そうですね、
お正月の初競りがどうだった‥‥とか。
たしかに、世間の関心も高い魚ですし、
経済に対する効果も大きいです。
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糸井 |
ええ。
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勝川 |
だから
「マグロがどれほど減っているか」
についても、知ってほしいです。
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糸井 |
やはり、減っているんですね。
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勝川 |
昔は、ある意味で「適当な漁法」でも
マグロが捕れたんですよ。
たとえば「たんぽ流し」と言って
餌を付けた針を浮きにたくさんつけて
流しておくだけで
マグロが釣れた時代もありました。
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糸井 |
へえー‥‥。
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勝川 |
いま、そんなことをしても「ゼロ」です。
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糸井 |
ゼロですか。
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勝川 |
いまは、マグロは「群れ」で捕るんです。
漁師が言うには、
群れの先頭のほうに「リーダー」がいて
そいつが、
エサを食べるか食べないかを決めている。
リーダーが食べないと
後ろに続く他のマグロも食べないから、
群れのちょっと先に
エサを投げてやるんですけれど‥‥。
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糸井 |
ええ。
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勝川 |
その「スイートスポット」の奪い合いなんです。
昔みたいに
「マグロ通らねえかなぁ」で捕っていた時代と
まったく、ちがうんです。
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糸井 |
効率がよくなったということですか。
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勝川 |
そう、魚を捕るテクノロジーが進化して
ひとつの群れから
効率的に捕れるようになった。
にもかかわらず、漁獲量は減り続けています。
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糸井 |
ヨコワ(※若いマグロ)なんかも、
マグロのうちに、カウントしているんですか。
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勝川 |
カウントしていますね。
というか、日本のクロマグロの漁獲のうち、
95%以上がヨコワです。
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会場 |
ええー!
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勝川 |
0歳1歳の、まだカツオみたいな大きさで
95%以上を捕ってしまっている。
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糸井 |
安い単価で。
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勝川 |
そうですね、産卵期のマグロって
栄養をすべて卵に取られちゃってますから、
「1キロ1000円」‥‥とか。
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糸井 |
もっと価値が出るはずなのに。
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勝川 |
漁師さんだけでなく、
われわれ魚を消費する立場からしてみても
より「おいしい」捕り方を
してほしいじゃないですか。
限られた海の幸を、利用するのであれば。
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糸井 |
そうですよね。
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勝川 |
早い者勝ちのルールは、誰も幸せにしない。
われわれ消費者も
自分たちの未来の食卓の選択肢が
どんどん失われてることに、気づかないと。
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糸井 |
さみしいことですね、それは。
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勝川 |
ですから、そのためにも
持続的に質の高い水産物を供給できるよう、
仕組みを変えなきゃならない。
で、そのためには
あらかじめ、漁獲枠をみんなに分けておく、
それだけでいいんです。
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糸井 |
ひとつ、日本が有利だろうなと思うのは
魚が好きなのって
ノルウェー人よりニュージーランド人より、
日本人じゃないですか。
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勝川 |
そうですね。
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糸井 |
つまり「市場のたしかさ」という意味では
日本って、ものすごく有利ですよね。
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勝川 |
そこが、もったいない部分なんです。
ノルウェーの場合は人口も少ないし、
賃金も高いから、水産加工なども難しい。
魚を捕ったら、輸出するしかない。
他方、日本だったら加工だってできるし
国内市場も確立しています。
ノルウェーの比じゃなく、もうかるはず。
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糸井 |
まさしく「金のさんま」ですね。
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勝川 |
そう、そう(笑)。
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糸井 |
日本人って「魚を食べる」ことについては
いわば「エリート」だから、
ものすごいテクニックを持っていますよね、
市場の側が。
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勝川 |
ソフトウェアを持ってるんです、われわれは。
魚というハードウェアが
自前の海から捕れなくなって輸入しているけど、
でも、日本の強みって
むしろ「魚食」というソフトウェアなんです。
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糸井 |
だから逆に「よく捕れる」気仙沼なんかに
行くと思うんだけど、
魚の食べかたが、本当に‥‥「雑」(笑)。
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会場 |
(笑)
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勝川 |
それは「切って食うだけで、うまい」から。
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糸井 |
そうそう。
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勝川 |
一般的には鮮度が重要なんですけど、
甘エビなんかは
捕ってすぐだと、うまくないんです。
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糸井 |
ああー‥‥そうか。
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勝川 |
なぜなら、甘エビの「ねっとり感」って、
死んだあとの自己消化のせいなので
1日くらい置かないと旨味が出てこない。
日本には、そういう
「食べ方のソフトウェア」というべきものが
集合知として存在しているんです。
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糸井 |
で、そういう知恵を大量生産的なロジックが
洗い流しちゃってる気がする。
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勝川 |
たしかに。昔のお母さんたちは、
どこで魚の食べ方を習ってたかというと、
魚屋さん、だったわけだから。
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糸井 |
そうですよね。
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勝川 |
威勢のいい魚屋のおっちゃんが
「この魚は、こうやって食べるといいよ」
とかなんとか、
旬の魚のうまい食べ方を教えてくれた。
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糸井 |
うん、うん。
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勝川 |
だから、昔の魚屋さんの「対面販売」って
魚というハードウェアだけじゃなく、
食べ方というソフトウェアまでいっしょに
売っていたんです。
でもいまは、
ハードウェアだけがスーパーに並んでいる。
だから、適当に切って、適当に塩を振って、
適当に焼いて食べてみたけど
「‥‥おいしくないね」となってしまう。
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糸井 |
単なる「物流」に、なっちゃってるんだ。
もったいないです。
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勝川 |
情報化時代と言いつつ、
じつは「魚の食べ方の情報」については
途絶えてしまっていて、
消費者まで、しっかり届いていません。
それをなんとかしようとしてる例として、
山口県の
「萩しーまーと」という道の駅が、
観光バス相手ではなく、
地元の人に地魚を売ろうとしてるんです。
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糸井 |
へぇー‥‥。
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勝川 |
売るためには情報を発信しなきゃということで
地元のNHKで毎週5分間、
「今週の地魚」という番組をやっています。
「いまの時期は、こんな魚が旬で、
こうするとおいしいですよ」
って、かつての魚屋さんが担っていた役割を
メディアを使って、やっているんです。
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糸井 |
それを見た人たちが買いに来る、と。
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勝川 |
で、自分ちで試して「うん、おいしい!」と。
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糸井 |
逆に言えば、スーパーマーケットが
うまく情報を流せるようになったらいいんだ。
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勝川 |
そうそう、そうなんですよ。
スーパーマーケットを否定してみたところで
昔の魚屋さんは、戻ってきませんから。
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糸井 |
うん、うん。
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勝川 |
「昔はよかった」じゃなくて、
「昔の、何がよかった」のか。
その「よかった要素」を、
どうやって未来に残せるのかなと考えれば
知恵も浮かんでくると思います。
<つづきます> |