私に問いかけているのだと知るまでに五秒かかった 「へ?」 我ながら間抜けな返事 男が相当な年寄りだということに気づいた 顔中皺だらけ前歯も二本欠けている 〈君に見えているものは それが何であれ歴史に属する〉 何言ってんだいきなり 「誰なんだ あんた?」 こんな場面を小説で読んだような気がする 結末が思い出せない 〈焼き尽くされた野にも種子は絶えない 花々は人よりも強靭だ 君は見るだけか?〉 男の呟きには明らかなスタイルがある 非日常的な発語 答を期待していない疑問形 知らない間に男は座りこんでいる 「前に会ってるかな?」 〈階段を上り下りする 一日に何度も何度も 人生のその部分をどう考えるか それが分かれ目だ〉 低いが声に力がある 唇の端に唾が白くたまっている 〈君は聞くだけか?〉 「何をだよ?」 怒りがこみ上げてきた 「いきなり人のうちに上がりこんで!」 〈ルー・リードは歌う 心臓は止まり両手は冷たい 銀の鍬で俺の墓を掘ってくれ 金の鎖で俺の柩を下ろしてくれ 終わりなき長い行列が永遠につづく 俺の墓を荒らさないでくれ 君は聞くだけか?〉