みんなでやってみよう。  土屋耕一ゼミ  「ことばの遊び」夏期集中投稿講座
さて、みなさん、 『土屋耕一のことばの遊び場。』は読みましたか。 読んだら、もれなく、やってみたくなったでしょう。 「ことばの遊び場」で遊んでみたくなったでしょう。 じゃあ、ひとつ、みんなでやってみましょう。 かつて土屋耕一先生ご自身がたのしんでらっしゃった いくつかの「遊び方」と「テーマ」をなぞって、 みんなでマネして遊んでみましょうよ。 専門講座というより、文化センター的なゆるさで。 初心者歓迎。夏期集中。土屋耕一ゼミ、開講です。 本講のテキストはこちら。   土屋耕一のことばの遊び場。 発行:東京糸井重里事務所
土屋耕一さんって、どんな人? 『土屋耕一のことばの遊び場』 の公式ページを見る。 『土屋耕一のことばの遊び場』 をAmazonで買う。
  第5回  

みなさん、こんにちは。

土屋耕一さんがやっていた「言葉遊び」を
みんなでやってみよう、という当企画。
スマホ、SNS、動画、ストリーミングなど、
電子的な技術が全盛を極めるこの時代に、
「ことばをメールで投稿する」という
たいへん古めかしい仕様を
遊びの中央に据え置いたのですが、
はじめてみればたいへん品質の高い投稿が集まり、
毎回、愉快な更新を果たすことができました。
どうもありがとうございました!

さて、その遊びも今回で最終回。
最後のお題は、
『となりのトトロ』の物語を
五七五の俳句で追いかけるという、
なかなか独特な遊びでございます。

今回もほんとうにたくさんの投稿が集まりました。
すべてはとても載せきれませんが、発表しましょう。

なお、掲載にあたって、
「『トトロ』って、観たけど、うろ覚え」
という方のために、
『となりのトトロ』の名場面を
「ほぼ日」の乗組員たちが
イラストでフォローいたしました。
なにしろ、絵を本業としない会社員たちに
「おい、お前、『トトロ』を描け」と
無理強いして急に描かせたものですから
絵のクオリティには
たいへんなばらつきがあります。
土屋耕一さんの洒脱な筆運びには
くらべようもないものですが、
なにとぞ、ご容赦ください。

それでは、はじめましょう。
『となりのトトロ』は
一家が田舎町に引っ越してくる場面からはじまります。

「句サカベでーーす!
 引っ越してきましたーーー!」



キャラメルを 舐めて車に 揺られ行く
(雉犬猿)
投稿にあたってのポイントは、
その句を誰からの目線で読むかということ。
こちらは冒頭のトラックの場面を
メイちゃんの目線で読みました。
食べてたねぇ、キャラメル。
おんぼろと はしゃぐ少女の 夏ごろも
(すだま)
こちらはなんと、「家」からの目線。
まさに、皆を包み込むような、大きさを持った句。
オバケ屋敷とか言われて、
さぞかしご立腹かと思いきや、
はしゃぐ姉妹を優しく見守ってたんですねぇ。
ただ、朽ちかけた柱をぐりぐり揺らすのは
やめてほしかったとか‥‥。
我落ちて たどる少女に 拾われて
(キャサリン)
暗い階段から、コツーンと落ちてきたどんぐり。
その、どんぐりが、自分の境遇を読んだ句。
どことなく「エハイク」的である。
おつかいの 桶の重さと 木の香り
(あきつね。)
こちらはカンタが読んだ句ですね。
このあとの、桶を差し出しつつの、
「かあちゃんが、ばあちゃんに!」
というセリフがぼくは大好きです。
ちゃだんすの ちゃわんもうたう すきまかぜ
(不思議堂)

お風呂でお父さんが大笑いする直前、
ものすごい風が家を揺らせる場面。
いや、いい場面を詠みますね。
ちなみにこちらは「ススワタリ」目線。
「まっくろくろすけ」と呼ばれているアレは、
正式な役名としては「ススワタリ」です。



屋根裏を離れて 夏の夜わたる
(くろすけ)
この、ススワタリが家を離れて
夜空を漂う場面は、多くの方が詠んでくださいました。
甲乙つけがたい句が並びましたが、
下の句のキレのよさでこれを選びました。
梳る 温もり伝わる 手とあたま
(240)
上の句は「くしけずる」と読みます。
病院で、お母さんがサツキの髪をとかす場面。
ちなみに目線は、お母さんからのもの。
お母さん目線の句はかなり少なかったです。


もみじ手の 並べし野花 ふと眺む
(ヤマチ)
「お父さん、お花屋さんね」
ああ、いいなぁ、この場面。
もう一句、同じ場面から。
子とふたり 花を商い 昼を待つ
(ルリ)
お昼に食べるのはお弁当で、
そのお弁当は、サツキがつくったんだよね。
お父さんは寝過ごしちゃったんだよね。
ああ、いかん、どんどん思い出すぞ。
どんぐりを   おいかけおいかけ   森のなか
(扶左をの孫)
『トトロ』を詠んでいるようでもあり、
一般の場面を詠んだ句のようでもあり。
そういう句が理想といえば理想。


大あくび 我に名さずけ 稚児笑う
(いと)
「トトロ」の名前が生まれたこの名場面。
投稿はすごく多かったんですが、
俳句というよりは、単に流れを
五七五で言ったものが多かったようです。
夢ほろろ 紅い上顎 並んだ歯
(ひべ)
こちらは、トトロとの出会いのあと、
草の間で目覚めたメイが
夢とうつつの狭間で、
ぼんやりと覚えているイメージを詠んだもの。
雨宿り 同じ匂いの 姉の髪
(普通の会社員小山)
突然の雨に、お地蔵さんに軒を借りて雨宿り。
メイ目線の句ですが、すばらしいですね。
髪のにおいが同じなのは
つかってるシャンプーが同じだから。
湿度や匂い、体温さえ感じられる名句。


夕立や 傘を差し出し 心晴れ
(あや)
この場面もたいへん投稿が多かったですよ。
やはり、幼いとはいえ、男女の心の機微が
表れているシーンだからでしょうか。
駆け出して 上がる飛沫も 露知らぬ
(紺)
傘を「んっ!」と差し出し、
その場に置いて走り出したときの
カンタ目線で一句。
「飛沫」と「露」がかかってるのはオマケ。
傘おきて 去りゆく少年 大人びて
(ほんじつ)
こちらは、雨宿りの
一部始終を目撃したお地蔵さん目線。
お地蔵さん目線、て。


父を待つ 眠気に負けて おんぶされ
(シイタダナカ)
あの有名な場面で一句。
こういう要素を並べて詠むと
小さい子どもがいる家なら
どこにでもありそうな気がします。
とかく小さい子は、
「眠気に負けておんぶされ」るものだ。
何ぞこれ 雨音をきく 太鼓かな
(なぞのくま えにぐま)
こうもり傘をもらったトトロが
雨音に喜んでジャンプ!
雨粒が傘にボトボトボトボト!
たのしーい! なんぞこれ!
というトトロの目線で詠んだ句。
どんぐりを つつんでむすんで あのこまで
(ヨイさん)
どういうつもりでトトロさんは
あれを持ってたのかねぇ。
たしかに、ああいう形で持ってたってことは
「つつんでむすんで」ってことを
どこかでしてたんだろうねぇ。


ぐんぐんと 伸び行く木々よ たくましく
(みんみん)
そのどんぐりを畑に蒔いて、
ある夜、トトロが念じて踊ったならば、
芽が出て育って緑が大爆発!
ああ、いかん、俳句の寸評を書くつもりが
ついつい物語に気持ちが入ってしまう‥‥。
言葉なき この柔らかき 懐かしき
(かほ)
こちらの句はサツキ目線。
緑の大爆発のあと、コマに乗ったトトロに
しがみついたときの気持ち。
そろった脚韻のリズムがすばらしい。
独楽高く 腹に掴まり 叫ぶ子ら
(戸袋)
その場面をトトロ目線で詠むと
こうなるわけですね。


夢だけど 夢じゃなかった 夢のあと
(カスカビシチー)
この場面、いや、このセリフには
たくさんの投稿が寄せられました。
「夢だけど、夢じゃなかったー!」
ほとんどの人が最初の五七を
「夢だけど 夢じゃなかった」と
作中のセリフをそのままつかってました。
そうなると下の句の五文字をどうするかが
重要なポイントになるんですが、
これが、人によってさまざまでおもしろい。
「夢のあと」とまとめたこの句を採用しました。
端かじり ぷと吐いてから きゅうり食う
(かなこ)
お母さんのいる病院から電報が来る直前、
おばあちゃんの畑で、とったばかりの
夏野菜を食べるメイとサツキ。
けっこう地味な場面だと思うのですが、
ここを詠む人も何人かいらっしゃいました。
すみずみまで観られているなあ、『トトロ』は。
これは、ひとつの俳句としても、すごく魅力的。


受話器持つ その子のうなじ 白きかな
(みたらし団子)
カンタからの目線で一句。
土間から見上げる少女の
うなじの白さと対照的な、
古いお屋敷の昼の暗さ。
暑き夏 泣く姉をみた 夢じゃない
(小夜子)
ああ、ここは何度観ても泣いちゃうんだよなあ。
『千と千尋』の「涙でおにぎり」とも重なる場面。
この句はメイからのもので、
それがちょっと意外だったのですが、
確認したところたしかにそれをメイは見ていて、
見ていたからこそ、つぎの一句につながるんです。
畦道を 玉蜀黍と 勇み行く
(ぶんぶん)
玉蜀黍は「とうもろこし」と読みます。
ああ、そういうふうにして
メイちゃんは行くんだったか。
いかん、泣きそう。


悪人が いない村にて 稲をかり
(デンデラ連)
メイちゃんが迷子に。
「この道を小さな女の子が
 通らなかったですか? 私の妹なの」
稲刈りをする人に尋ねるサツキ。
「悪人がいない村にて」という部分に
作品に対する読み手の思いが垣間見られます。
夕暮れに 想いあふれて ひた走る
(のじぽん)
走るサツキ。どんどん日が暮れてくる。
広いんだよなあ、田舎は。
夕焼けに 「んめ〜いちゃ〜ん」と こだまする
(こゆきぱぱ)
こりゃちょっと俳句っぽくなかったけれど、
「んめ〜いちゃ〜ん」の表現が
なんとも秀逸だったので掲載しました。
「んめ〜いちゃ〜ん」


水池や 浮かぶサンダル あの子のか
(時子)
ああ、ここは、展開を知ってても
胸がぎゅっとなるね。
おばあちゃんからの目線で詠んだ一句。
野良仕事 会話遮る 旋風
(かめのて)
これはいい表現だなあ。
その旋風がなにかというと、
トトロに呼ばれたねこバスなのですね。
「みんなには見えないんだわ」とサツキ。
稲穂ゆれ 黄金のかぜ 眼にうつる
(華花)
同じ場面から、もう一句。
見えているようで、見えてないようで。
もふもふの ふわりふわりの ほかほかの
(はるかの猫)
オノマトペだらけのこの句は、
ねこバスのなかに入ったときのサツキの気持ち。
毛の表現、肌の感触、そして温度。
見事に表現されている句です。


ももいろの 夏の夕陽は メイの道
(のぶこ)
ひとり、お母さんのいる病院を目指すメイ。
ここは夕陽の色を「ももいろ」としたのが、
なんというか、「詠む意味」ですよね。
青嵐 何処までも行く 君のため
(小夏)
こちらはねこバス視点からの一句。
「青嵐」は造語ではなく、
「初夏の青葉を揺すって吹き渡るやや強い風」
のことなんだそうです。
行け、ねこバス、メイちゃんを探せ!
夕焼のパノラマ 泣いた子が独り
(東北産)
いた!
おねいちゃん メイ おねいちゃん おねいちゃん
(tanee)
名前を呼び合うふたり。
いいなあ。泣きそうです。


とうきびは 初めて空を 飛びました
(かみや)
そして、病院に向かう
とうもろこしからの目線で一句。
ひたすらに 駆けてゆくしか 知らぬころ
(ひかる)
最後は、どこの場面というのではなく、
全体に対する句で締めてみました。
五七五の俳句で追っていく『となりのトトロ』、
おたのしみいただけましたでしょうか。
ぼくはたいへんたのしみました。
乗組員のおかしな絵はまぁ、ご愛敬ということで。
ついでにもう一枚、おかしな絵を載せておきます。
なんか、どうしてもここを描きたい、
という人がいたもので。


さあ、そういうわけで、
愉快な「言葉遊び」のコーナーは
今回でおしまいです。
予想以上にたくさんの投稿が集まり、
ほんとうにたのしかったです。
おつき合いいただき、
どうもありがとうございました。

また、なにか、
土屋耕一さんが遊んでいたようなことを
まねして遊べるといいですね。

それでは、また、なにかで遊びましょう。
ありがとうございました!

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ようやくお目にかかることができました。『アンパンマン』の生みの親である、やなせたかしさん、94歳の登場です!