養老孟司(ようろう たけし)
解剖学者。東京大学名誉教授。北里大学大学院教授。
『バカの壁』『死の壁』(ともに新潮新書)がともにベストセラー。
近作に『超バカの壁』(新潮新書)、
『私の脳はなぜ虫が好きか』
(日経BP出版センター)など、著作多数。

5月25日、岐阜市で
養老孟司さんの講演会が開催されます。
テーマは「都市と田園のコミュニケーション」など。
飛騨牛、飛騨コシヒカリはじめ
地元特産品が当たるお楽しみ抽選会もあります!
入場料は無料。
詳しくは毎日新聞中部本社のホームページ
MAIMAIをごらんください!
http://www.maing.co.jp/


養老 いまは、身体の使いかたを
知らない人たちが増えてますよね。
糸井 そうですね。
養老 武術家の甲野善紀さんが、
介護のお手伝いをしているらしいんですが、
患者をベッドから抱き起こすとき、
若い介護士が、よく腰をいためてしまう。

それは、
身体の使いかたに問題があるからだ、と。

古武術を身につけている
甲野さんが指導してやると、
おどろくほど、楽に起こせるようになるらしい。
糸井 ようするに、理屈じゃない。
身体をどう使えばうまくいくか、
を知っているんですね。

それって、
学校で学んでるだけでは、
身につけられない、
身体感覚的な知恵、ですよね。
養老 その、感覚ということで言えば、
母親のおっぱいを浸したガーゼと、
よその母親のおっぱいを浸したガーゼをね、
生後1ヶ月の乳児の頭の両側に置いておくと、
もう、どんな赤ん坊も、かならず
自分のお母さんの母乳の方を選ぶの。
糸井 それは、すごい!
養老 でも、それを
父親にやらせてみても、全然わからない。

つまり、もう
感覚が消えちゃってるんですよ。
糸井 なるほど。
養老 そのことが
もっとはっきりしてるのは、
絶対音感ですね。

子供のときには
みんな、絶対音感を持っている。
でも、大人になるにつれて、
全部なくしていくんです。
糸井 それは、
不便だから、ですか?
養老 そう。
言葉を使うときに、
声の高さで認識しちゃうと、
すごく、不便になる。

絶対音感をなくした方が
言葉は使いやすいんですよ。

文明社会では、そういう感覚を、
どんどんなくしていってる。
糸井 でも、うちのかみさんが
飼い犬に話しかけているところとかをみても、
言葉って「中身」だけじゃないですよね。
語感や言葉の調子とかで
確実に「通じている」と思えるし。
養老 じつは、我々現代人も、
会話の中でそういう「調子」のような部分を、
ちゃんと、感じてるはずなんだけど、
気づいていないんですよ。

語感で意味を把握している部分もあるのに、
言葉の表面だけをすべてだと考えてしまう。
糸井 記号的な意味だけ。
養老 そうそう。
携帯のメールや
インターネットなんかがいい例ですよ。
画面に表示された
言語の表面的な意味だけしかとってないんです。
糸井 表面的な記号からだけでなく
語感をふくめた、
肉体的な身体感覚を通じて、理解する。

それって、ペットを飼うと
多少でも、取り戻せる部分がありますよね。
養老 そうですね。
だから飼ってるんですよ、みんな。
糸井 今日の話でいえば
大工さんの余剰エネルギー、とか
コミュニケートする能力、とか
野菜のつくりかた、だとか‥‥。
養老 みんな
身体の使いかた、に関係すること。

頭で考えているだけでは
やっぱりダメなんです。
「身体感覚」に基づいた知恵を
取り戻さなければ。
糸井 13歳で大人になろうっていうのは、
そういう肉体的な知恵を
常識として、子供のうちに
身につけておくべきだってことなんですね。
<終わります>


2006-05-08-MON
いままでのタイトル
2006-05-01 第1回 「決断」するということ
2006-05-02 第2回 当たり前のことが、言えない
2006-05-03 第3回 よそいきの人間関係
2006-05-04 第4回 人に「呼ばれる」ちから
2006-05-05 第5回 身体でおぼえる知恵
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