1929年のミッキー&ミニー。
 
バイブルとモデルシート
神田 これがその「バイブル」です。
 
ほぼ日 こ、これが‥‥。
神田 「バイブル」にはキャラクターの描きかた、
彼ら彼女らとともに使用される
エディトリアルやサインといった
パーソナリティに関する部分など
事細かに書かれています。
 
ほぼ日 そんなことまで書かれてるとは‥‥。
すごく徹底してますね。
あ、ダメな例まで(笑)。
神田 そう、たとえば
彼の足を尖って描くのはNGなんです。
こんなふうに彼の足は丸くて大きいんですよ。
 
ほぼ日 そうそう、パンみたいに大きいですよね。
神田 あとミッキーは裸足にはなりますが、
絶対に手袋をはずしません。
どんないかなる場合でも手袋はつけたままなんです。
初期の短編アニメーションなんかで
手袋をつけていない作品もありますが、
私の知る限り『Two-gun Mickey(1934)』で
一瞬ギャグとして脱げた以外は、
つけだしてからは絶対に脱いでいません。
ほぼ日 言われてみれば、いつも手袋つけてますね。
あと、裸足のミッキーっているんですか?
こっちもあんまり見ないかも。
神田 ちょうどこんな感じです。
 
ほぼ日 うわー、こうなってるんだ!
かわいいー。
神田 この「バイブル」にはそういうことが
ギッシリ詰まってるんです。
ほぼ日 ミッキー、ミニー以外だと
どのキャラクターあたりまで
そのバイブルには収録されているんですか?
神田 ミッキー、ミニー、ドナルド、
プルート、グーフィー、デイジーの6人ですね。
彼らはビッグ6(※1)と呼ばれたりもしています。
 
  ※1 ビッグ6
ディズニーにおける主要なキャラクター6人。
デイジーを除いたビッグ5、
後述のチップ&デールを加えてビッグ8と呼ぶことも。
ちなみに本国では「fab 6」と呼ばれる。
神田 ビッグ6以外でも
チップ&デール、ピート、ヒューイ&デューイ
なんていうキャラクターが
日本では人気がありますので
本国のほうに彼らの「バイブル」を
書いてもらっているところなんですよ
 
  ※左からピート、ミッキー、グーフィー。
ほぼ日 へぇー。
そういうキャラクターの商品が
どんどん増えているってことなんですね。
神田 そうです。
あと、これまでのキャラクターの商品でも
使われる表情の種類が変わってきていますね。
ほぼ日 それはどういうことですか?
神田 おもにファッションの分野の話なんですが、
2000年くらいまでは
いわゆる「ハーイ!」というような
ポーズのミッキーが多く使われていたんです。
でも、なぜか近年、
ミッキーの感情の幅を広く見せるような
驚いたり、悲しんだりしている姿のアートが
好まれる傾向にあります。
ほぼ日 たしかに、ここ最近、
いろんな表情をしたミッキーの商品を
見る機会が増えました。
神田 男性用の商品なんかでは
怒っているような悪ぶったミッキーが
使われてたりしますからね。
ほぼ日 あ、いますいます。
悪そうなミッキー!
あれを見たときは驚きました。
 
神田 これまでだったら
こういう表情のミッキーの商品なんて
考えられなかったんです。
これはミッキーというキャラクターに
みなさんがどんどん触れていただいて、
そういう感情を見せたほうが
より自然である、という認識を
持っていただいたからだと思います。
 
ほぼ日 では、最後に、神田さんが
好きなミッキーを教えていただけますか?
神田 そうですね。
やっぱり1930年代のミッキーですかね。
形状はシンプルなんですが、
アニメーターの腕がとにかくすごくて
細部にまでこだわり抜いて
手袋のしわまで描いてあるんです。
これが1秒間に24コマ、
フルアニメーションで動くわけです。
そのなめらかさにとにかく打ちのめされました。
当時はコンピュータなんかないから、
腕利きの職人たちが1枚1枚描いていたわけです。
ほぼ日 うんうん。
神田 短編などが盛んに制作されていた時代では、
作品ごとにアニメーションディレクターがいて、
その方が「今回の作品では、
こういうスタイルのミッキーでいこう」
ということが記された
「モデルシート」なるものを作成していました。
「こういう服を着せよう、
 こういうアイテムを持たせよう」など
作品の世界観が詰まっているものです。
 
ほぼ日 これはすごい‥‥。
神田 これらの資料は社内にあり、
入社当時なんか英語辞書片手に
読みふけっていましたね。
この時代のモデルシートを見ていると、
つねに発見があるんです。
全部、血肉になっていく気がしてます。
 
ほぼ日 今回のカバーで使った
1929年のミッキー、ミニーも
このシートがなければ
生まれなかったわけですよね。
神田 そうです。
だから過去の時代のこのシートは
本当にディズニーにとって宝物だと思います。
ほぼ日 わぁ、いいお話が聞けました。
ありがとうございました!
 
  最後は「Mickey Mouse 1929」と
「Minnie Mouse 1929」といっしょに。
  (バイバイ! また会おうね!)
2010-12-14-TUE
まえへ    
(c) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN