『新選組!』
with
ほぼ日テレビガイド
第33回「友の死」を観て。

糸井 (トイレへ)
永田 びぃーーーむ(鼻をかむ)。
西本 ‥‥‥‥(放心)。
(5分休憩)
永田 ‥‥お疲れさまでした。
糸井 ‥‥お疲れさまでした。
西本 ‥‥またぼくだけ泣いてないですが、
悲しくないわけじゃありません。
永田 わかってますよ。
西本 ‥‥ぼくは涙が出ないんです。
おふたりがちょっとうらやましいくらいです。
糸井 ヨメから「冷たい男だ」と言われたそうですね。
西本 ええ、ですから、
しっかり伝えておきたいところです。
悲しくないわけじゃありません。
永田 わかってますよ。
糸井 ぼくは日曜に一度観てますが、
みなさんは日曜の放送は?
西本 観ました。
永田 ぼくも観ました。今日は2回目です。
ですから、あまり泣かずにすみました。
西本 びーびー泣いてたじゃねえか。
永田 泣いてないっつーの!
糸井 ぼくも日曜に一度観て、
とりあえずだいぶ整理しました。
観た後にいろいろ考えを巡らせました。
永田 日曜の放送を観た直後、
我々のなかでもっとも混乱してたのが
糸井さんだったと思うんですが。
糸井 混乱しました! ほんとうに困りました。
胃が悪かったです。お風呂に入りましたね。
永田 お風呂に入りましたか。
糸井 ええ、お風呂に入りましたが。
西本 お風呂に入る気持ち、わかります。
糸井 お風呂に入る気持ち、わかるでしょう?
永田 さあ‥‥どっから話しましょうね?
糸井 まず、『友の死』というタイトルですよね。
早い話が、『友の死』なんですよ、今回。
永田 『友の死』でしたねえ。
西本 「いとしき〜友よいずこに〜♪」
永田 「この身は〜露と消えても〜♪」
糸井 泣けるねえー。
いや、今回のことを話すのは大仕事だな。
永田 大仕事ですよ。
西本 じゃ、例によって軽いところを
先にお話しておきます。
ふたり どうぞどうぞ。
西本 日曜日、「いつもさみしい問題」
担当してくださっている田中宏和さんから
今後の展開を打合せしたいということで
代々木上原にあるカフェで
打合せをしてたんですよ。
で、こうお茶を飲みながら、
視線をちょっと田中さんの先に移したときに
帽子も白、シャツも白、短パンも白という、
上から下まで全部真っ白けな人が
目に入ってきたんですね。
たまたま全身白というよりは、
明らかに白でコーディネートしたような
感じだったんです。
「おしゃれな人がいるよなぁ」と。
永田 あ! ひょっとして‥‥。
糸井 また誰かに会ったのか!
西本 よ〜く見てみたら、
なんと、それが‥‥捨助。
永田 わははははははははは。
糸井 捨助が背後で茶を飲んでいたと(笑)。
永田 ちょっとあなたは日常生活で
『新選組!』の人に会いすぎじゃないですか?
西本 恐縮です。
糸井 それは、地方にいる人から誤解を受けますよ。
東京ってそういう場所だと思われますよ。
西本 嫌みなヤツだと思われるかもしれませんが、
ほんとうに会っちゃうんですよ!
狙ったわけでもなんでもなくて
ほんとうに偶然なんですよ!
永田 そのタイミングで会うかなあ?
ちょっとした才能だね。
糸井 ぼくもいろいろ会ったことがありますけど
あなたの方がすごいです。
永田 ちなみに糸井さんは
どんな人に会ったりしましたか。
糸井 そうですねえ‥‥いろいろ会いましたが、
街で偶然見かけたなかで、
いちばんインパクトが強かったのは‥‥
後藤久美子ですかね。
ふたり 後藤久美子!
糸井 「後藤久美子が、
 まっすぐこっちに向かって歩いてくる」
っていうシチュエーションは強烈でした。
西本 「ゴクミがまっすぐ歩いてくる!」
それはすごいかもしれない。
糸井 ぼくも東京に住んで長いですから、
大物、若手、いろいろ見かけましたが、
「道の向こうから
 ゴクミがまっすぐ歩いてくる」
っていうのはトップクラスです。
永田 それと、よく似ているけれども、
「ある意味、真逆」というエピソードが
ぼくにはあります。
糸井 うかがいましょう。
永田 広島にいた高校時代、
学校帰りにチャリンコをこいで、
平和公園の前の大きな道路を走っていたら、
ぼくの前を、ものすごい速さで
黒人が走ってるんですよ。
なんだ? と思って、
自転車こいで追いかけて、追い抜いて、
パッと振り返って顔を見てみたら、
なんと‥‥‥‥イカンガーだったんです。
ふたり イ、イカンガー!
永田 じつはそのとき
「広島平和国際マラソン」かなんかがあって、
イカンガー選手が招かれていたんですよ。
つまり、コースの下見というか、
練習していたところだったんです。
西本 ゴクミにイカンガーか。
みんな、すごいッスね。
永田 いや、先々週、久坂玄瑞に会って、
先週、捨助に会ってるほうがすごい。
西本 捨助さん、真っ白でした。
糸井 でも、捨助といえば、アレですよね。
ほら、読者からのメールで
捨助に関しての「すごい推理」が‥‥。
永田 ああ、ありましたねーー。
西本 あれ、まだ言っちゃいけないですよね。
糸井 言っちゃいけないというか、
ま、やめておきましょう。
西本 メールをくれた
「りーさむさん」と「志村さん」。
きっと、あなたの言うとおりですよ。
永田 きっとそうです!
糸井 ま、きちんとわからせるように
してあるといえばしてあるんだけど、
それにしても、この時期、
みんなが山南に目がいっているときに
捨助について考えちゃうお前もお前だなと。
西本 目のつけどころが抜群ですね。
永田 メールといえば、先週の
「なぜ斎藤ではなく沖田を行かせたのか」
については、山ほどメールが来ましたねー。
糸井 たくさん来たねー。
永田 今回の展開をずばり、読んでいたものから、
ものすごい深読みをしているものまで
ほんとにたくさんの意見が。
ありがとうございます。
西本 近藤たちが沖田を行かせた意図については、
意外にあっさり種明かしがありましたね。
永田 そうそう、ちょっと意外だった。
もっとこう、見る側の解釈に
ゆだねるようなものかと思った。
糸井 そのあたりは三谷さんの配慮というか、
気遣いじゃないですかね。
西本 糸井さんが言った
「介錯役としての沖田」というのは
はからずも、ほんとうの介錯役として
当たってしまうことになりましたが。
糸井 結果的には、そうですね。
ぼくは、近藤たちが、あそこまで
「逃がしてあげる段取り」というのを
整えているとは思いませんでしたからね。
あそこで沖田を行かせたのは、
「探しにいって、出会ったらしかたがない。
 抵抗したら、斬るしかないだろう」
そのときには沖田でないと、と思ったんです。
永田 「草津まで行って、
 会えなかったら戻ってこい」というのは、
山南を救うために、泣かせる話ではあるけれど、
組織の決定としてはずいぶん未熟ですよね。
糸井 そもそもそんな法度をなぜつくる?
ということになるよね。
新選組そのものの若さが出ているというか。
ぼくは、今回、山南が戻ってきて
ずっと逃げずにあの部屋でじっとしてるのは、
ああいう「ガキっぽい法度に対する抗議」
という意味も、やっぱりあると思いますよ。
下っ端のDon Doko Donの平畠さんは
あっという間に切腹で、
山南に関してはみんなが逃がそうとする。
そこを許せないというのが、
山南という人のよさであり、わるさであり。
おおづかみな話でいうと、新選組という組織が
「目的がよくわかってない若者集団」
であるということであり。
その象徴が、最後の土方の泣き顔ですよね。
ガキの顔になったじゃないですか。
ほんとうは、ああいう顔の集まりなんですよ。
一方、山南はそれとは違うからね。
どっぷりの田舎者ではないし、
学はあるし、先の歴史を見ようとするし。
ただ、山南はやっぱり武士だから、
法度の解釈がおかしいと思っても、
それをあえて、かたくなに守ろうとする。
ある意味、杓子定規で古い人なんですよ。
池田屋のときも、山南は
「応援がくるまで待ちましょう」って言うけど
土方は「すぐ行かなくてどうする」って言う。
どっちがほんとに正しいか知りませんけど、
時代に合ってるのは土方でしたよね。
山南の考え方というのは、
もう、合ってないんですよ、この時代に。
行き詰まっちゃってるんですよ。
その山南がぶつかる土方も、
じつはまだまだガキで、
人殺しばかり上手になってるけれど、
真っ暗闇のなかに切り込んでいくような
ことばかりをくり返している。
そう考えると、最後の最後に
土方をあんなふうにガキの顔にして泣かせてしまった
三谷さんというのは、いじわるだよね。
‥‥一気に言っちゃった。
永田 一気にいきましたねえ(笑)。
糸井 ようするに、ほんとうに連合赤軍だし、
ドストエフスキーの『悪霊』の世界ですよね。
平和のためにだの、
革命のためにだので、
武器を振り回したり、建物を破壊したときに、
爆破したビルの中に
勤めているふつうの人がいるわけでさぁ。
その人たちが死んじゃうのはしょうがない、
というくらいの
大事なことをやってるつもりなんですよね。
それで、あとで泣くようなことじゃ
申しわけがたたないですよね、ほんとうは。
ぼくは今回はそのまわりにある
柔らかいものに対して泣けましたけど。
最後のぐずぐずの場面はね、
あれ、もう、甲子園の高校生みたいですよね。
だからよく演じてるよね。
とくに山本くんはねえ。
実は、つられて泣いちゃったりはしてるんだオレも。
西本 このドラマで山本くんを見直して、
ファンになったぼくとしては、
最後、泣き崩れたときに
それまでのオトナの顔から
急に顔が幼くなったことに
びっくりしました。
糸井 幼いし、ぐちゃぐちゃになってましたよね。
あの思い切りはやっぱり見事でしたよね。
三谷さんがどこまでいじわるな人か
わからないですけど、ようするに、
「立派な人を描いた物語じゃないんだ」
ということが改めてわかりましたよね。
やるからにはきちんと様式を守って、
上に立つものとして、
責任をとらなくてはいけないということを、
いちばん知っていて、
守ろうとするのが山南ですよね。
西洋でいうところの
「ノブレス・オブリージュ」ですが。
永田 なんて言いました?
西本 え? なにオリーブですか?
糸井 「ノブレス・オブリージュ」ですよ。
まあ、先日の「ヘゲモニー」みたいなもんです。
永田 主導権ですか。
糸井 いや、意味はまったく違います。
「騎士道精神」みたいな、
「上に立つものの責任」みたいなものです。
西本 え? なにオリーブですか?
糸井 「ノブレス・オブリージュ」だよ!
永田 (ヒソヒソ声で)
いいよいいよ、覚えなくて。
西本 (ヒソヒソ声で)
そうッスね。「ヘゲモニー」ほど
おもしろくないし‥‥。
糸井 つまり、その義務と責任を
いちばんわかってるのが山南なんだけど、
その騎士道というのは
時代には合ってないんですよ。
速度がついていかないんです。
団子が食えなくてつっかえちゃうんです。
串が刺さっちゃうんです。
常識としてはこの季節に
菜の花は咲かないかもしれないけど、
現実には咲いているんですよ。
つまり、山南さんは、
ちゃんと学んでるんだけど、学んだことが、
いちいち時代に追いつかなく
なっちゃってるんです。それで、
「私のいる場所はない」
ということになるんですよ。
近藤や土方にそれはわからないですよね。
悲しい時代の青春群像ですよ。
山南さんにあの
順法闘争みたいな切腹をやられちゃったんで
こっからあとの近藤・土方新選組は
たしかに強くなりますよね。
いい意味でも悪い意味でも。
いよいよ本当の鬼になっちゃいますよね。
じゃないと山南に申しわけが立たないから。
西本 なるほど‥‥。
糸井 一気にしゃべっちゃいましたけど、
みなさんは何かないんですか?
西本 永田さんは、なにかないですか?
永田 いや、もう、今日は局長まかせです。
我々としたらずいぶん楽な展開になりました。
糸井 そういうわけにはいかんだろう。
永田 ええと、じゃあ、ひとつ。
今回、ぼくは『友の死』を観て、
教訓としてひとつ学んだことがあります。
ふたり どうぞどうぞ。
永田 「すっごく悲しんでいる人に向かって、
 一首詠んだりしちゃいけない」
ふたり わははははははははは!
糸井 あれは、うまかったよなぁ。
あれがないとあの泣くシーンもないからねえ。
「心のない様式」の表現だよね。
あれがなくてふつうに泣くのと、
あれがあって泣くのとじゃ、大違いだよね。
永田 ほんと、三谷さんって、ああいう、
いっぺん逆にちょっと振っといて
ほんとうの方向へ、
ズバッ! って行くのがうまいですよね。
うまいというか、ずるいというか。
あの、柔道でも、
いきなり技ってかけられなくて、
いっぺん崩してかけるでしょ?
内またの前の足払いが効いてるんですよね。
西本 その意味でいうと、
全体のなかで「足払い」としてまず泣けたのは、
勘定方の3人がやってきて
「山南さんを助けてください!」
って土下座するあたり。
糸井 あそこねえ! いいよなあ。
西本 いや、おまえら、わかるけど、
どっちがつらいと思ってるんだっていう。
土方とかも子どもっぽい
意地をはっているんだけど
そこに土下座してくる
さらに子どものようなやつもいるんだという。
糸井 子どもですよね。
ほんとに山南を救いたいと思ったら、
下っ端は下っ端どうしで結託して、
山南をさらっちゃえばいいんです。
ところが戦略がない。
土下座の先のことを考えようとしない。
それが、あの組織の若さなんだよね。
永田 ぼくはあそこ、源さんのセリフに泣けるんです。
「向こうに行ってなさい!」って。
それ以外、言えないですよね。
「ばか!」とも言えないし、
「土方さんもツラいんだ」とも言えない。
源さんらしい、いいセリフだなあと思って。
西本 なんかみんながうろたえてるんですよね。
ここのところずっと言っている、
「誰も正解を知らない」っていうなかで、
目の前に山南の死だけが迫ってるんだけど、
誰もなにもできないというか。
永田 観ている側は、いろいろ考えるんだよね。
こうすれば死なずに済むっていうことを、
大きな軸とか、小さな軸で。
でもどんどん切腹の時間が迫ってくるっていう
あの切なさっていうのは‥‥。
西本 見事ですよね。観てて混乱しますよね。
糸井 大きな軸の話でいうと、
唯一、答えを見つける可能性があるのが
俺たちが観てない野田秀樹の勝海舟と
坂本竜馬なんだろうけど。
いまの新選組じゃ、やっぱり無理だよ。
西本 無理だという感じがしますね。
なんか、新選組はずっと、
「なにがしたいんだっけ探し」を
しているような感じですから。
糸井 武家社会のなりたちを考えると、
いわば見回りの用心棒集団のようなものが
武士の始まりじゃないですか。
そっから始まっているというところに
そもそもの悲劇があって、
つまり彼らは「治安を守る」という
職業をたててきたわけだよね。
だけど、ずっと世の中進んできたときに
「治安を守る」職業だったはずが
権力を持っちゃったんです。
ところが「治安を守る」という以外に
なにも思いつかない。
こうなればいいという世界観がないんだよね。
軍人が政治をするといううえでの
最高の繁栄が徳川幕府ですからね。
それになりたいという田舎の人が、
権力を持ってもわかるわけないよね。
永田 それをひとりでキレイに象徴してるのが
山南さんなんですよね。
糸井 そうなんですよ。
永田 以前、糸井さんが
「山南の意見は、じつは平凡だ」
って言ってたじゃないですか。
腕もあって才もたって人望もあるんだけれども
政治的なことについては、
じつは平凡なことしか考えつかないんですよね。
山南さんって、見ていると、
いわば非の打ちどころのない人のようで、
「あの人がリーダーになったら
 いいんじゃないか?」とか思うけど、
じつはそういう人ではない。
糸井 実際、あんな闇の時代にひとりで生きていると
山南は死んじゃうと思いますよ。
その意味では山南は、
最後は内部に向かったんだよね。
武家政治の終わりを象徴するような山南が、
死ぬにしても、
自分の死体から芽が出るようにということで
最後の切り込みをやったように思うんですよ。
それは、決断ですよね。
戦で敵がいっぱいいるところに
刀でもって斬り込んでいくのと、
内部に向かって刀を斬り込むことということは
仕事としては同じだと思うんですよ。
自分の命を盾にして斬り込むことと
自分の命に対して斬り込むことで
自分をささえている
内側への戦をしているわけでしょ。
その意味で種はまいたんです。
でも、その種が蒔かれてどうなるというのが
蒔かれた側にきちんとないからねぇ‥‥。
永田 あと、その種の蒔き方の、中途半端さが
ドラマとしてすごくいいですよね。
いきなり「異議あり!」って
腹を切ったりしないじゃないですか。
それどころか一回、逃げちゃうわけですよね。
糸井 そのへんの中途半端さが、
人間の魅力になってますよね。
ドラマのうねりとしていいんですよね。
永田 そうそう。理想を目指してるけど、
めちゃめちゃ人間くさいというか。
あの、宿で沖田に逃げた理由を訊かれて、
「しいて言えば、疲れた」って
答えるじゃないですか。
あれが、すごく納得できて。
山南さんが、なんで逃げたのかって考えるとき、
すごく個人的に思うのは、
「好きなおねえちゃんとどっかに行く」
っていうことに対して、
「そりゃいいな」って、
ふっと思えたからじゃないかなと思って。
糸井 それはそれで心に響くんですね。
だって、山南は最初、
明里とのふたりの旅を守ろうとしてますからね。
「草津までは急ごう」
って言ってたわけだから。
ところが、急がない明里を見ているうちに
‥‥運命を、彼女にゆだねたんだよね。
思えば、その山南に対して
「沖田行け!」って言った近藤も
助けたいというよりも
沖田にゆだねたんだろうと思うし。
西本 ぼくもそう思いました。
いろんな人がいろいろゆだねたものが、
めぐりめぐってああなってるんですよね。
糸井 そういうふうに考えると、
やっぱり明里の存在がいいんですよ。
あの人がよくないと、
逃げる山南に対して疑問が出てきちゃうから。
永田 そうですね。もともと、理屈としては
逃げるのはおかしいわけだから。
糸井 明里がいいんですよ。
あの人はまだ遊女になってないんですよね。
素の女のままでいる。
これが遊女になっちゃったら
かけひきを覚えるんですよ。
かけひきを覚えちゃったら
様式と様式のぶつかりあいだから
山南さんはあんなに惚れないんですよ。
田舎から出てきて
売られた途端に身請けされたという
なんでもない女だからいい。
あんな風にはふるまえないですよね。
そこがよくできてたな。
「なにでもない」という存在。
西本 その「なにでもない」という存在感は
お茶屋で団子食っているときの
明里の足のだらしなさに表れてました。
これはもう、見事だなぁと思った。
永田 へええええ、気づかなかった。
あそこは逆に、山南さんが
それっぽいなあと思ってた。
「あ〜んして」って言われて
団子を食べるとき、腕を組んで
背筋伸ばしたままなんですよねえ。
糸井 「あ〜ん」する作法を知らないんだよね。
旅館で向かい合わせで座っているときにも、
それとおんなじような雰囲気があったよ。
山南はキリッとしてて
座ることも作法があるわけだよ。
ところが明里はやわらかいんだよ。
皮下脂肪が多いのよ。
明らかに対比を写してますよね。
この回は役者さんたちも話し合っただろうね。
いろんな人が出たような気もするんだけど
やっぱり「山南を見せる」回なんだよね。
永田 山南さんがすごく山南らしい回でした。
ここのところ怒ったり、笑ったり、
ぼーっとしてたりしてたのが
ずっと例の微笑みのままでしたから‥‥。
糸井 まわりの人が混乱してるから、
山南の「山南らしさ」が際だってたよね。
西本 ‥‥じつはぼく、山南と同い年なんですよね。
糸井 どうよ、それ?
西本 いや、切腹は無理。
ふたり あははははははは。
西本 明里と逃げるくらいだったらしちゃうと思う。
永田 で、戻ってこないのね。
西本 それどころかメチャクチャ計画たてますね。
江戸に行くという噂をたてて、
九州に逃げますね!
糸井 あはははははは。
西本 みんなが陸路を思い浮かべたときに
海路に行くとかね。
なるべく言葉が通じないところで
ほとぼりがさめるまでじっとしてますね。
シャムとか行っちゃいますね。
象とか乗っちゃいますね。
永田 ぜんぜん山南じゃねえ!
糸井 意外に近所でじっとしてるのがいいのかもよ?
あと2年辛抱すれば明治維新なんだから。
西本 あ、なるほど。
永田 そういう「もしも」話でいうと、
糸井さんが先週、言ってた、
「もしもオレにこの役が回ってきたら」
っていう話があるじゃないですか。
ぼくは今回、誰かを演じるっていうなら、
照英さんの役がいいです。
糸井 照英さんね。よかったね、今回(笑)。
永田 ええ。あれがいい。
「こういう場合、難しいんだよなあ」
とか言いつつおろおろしてみたい。
糸井 「オレがこの役を頼まれたら」って考えると
おもしろいだろ? ドキドキするだろ?
あの土方さんにしたってさ、
頼まれたらたいへんだぜーー。
どれくらい顔を崩して泣くのか、とかね。
崩さずに、つーっと涙だけ落とすってことも
できるわけだからさ。
西本 ぼくはどの役かというと
自分の中にあるメガネノオカッパ成分が
すごく嫌です。ヤツの行動の中に
自分の嫌な部分が重なるところがあるんですよ。
「ああ、それわかるわ」って。
永田 共感しちゃうんだ(笑)。
糸井 今週のメガネノオカッパは最高だったよね。
あの「背が伸びる薬」に
ピクッとするあたり。
永田 おかしかったですねえ。
ああいう話を、切腹に向かう
深刻な回に入れるからすごい。
糸井 むしろあのへんは三谷さんの得意分野だからね。
得意なことだからこそ、
「大丈夫だ」っていう確信が持てるんでしょう。
西本 あれ、やりすぎちゃだめなんですよね。
あの薬って、「酒と一緒に飲むといい」
ということになっているから。もうひとつ、
おもしろいことができたはずなんですよ。
つぎの場面でメガネノオカッパが
なぜか酔っぱらってるとか、
照栄にからんでるとか、
グデングデンになって背を計ってるとか。
永田 あ! なるほどね!
糸井 それやっちゃダメなんだよね。
案外、撮ったけど切ったんだったりして。
西本 ぼくもそう思うんですよ。
撮ったけどトータルの出来上がりをみて
切ったような気がして。
糸井 その辺の加減は、
もう、現場での感覚なんだろうね。
ま、ほんとのところは
どうだかわからないけど。
あとは‥‥藤原くんですよね。
永田 いや、またしてもぼくは
藤原さんの場面がトリガーでした。
どうもぼくのツボは
藤原さんのお芝居なんですよ。
糸井 そうみたいですねえ。
永田 「私の好きな人は私の剣で死んでいく」
っていう印象的なセリフの前の
「なんでこんなことになっちゃうんだろう」
がいいんですよ。あれで、ぶわッときました。
西本 切腹のシーンはどうでしたか。
ぼくはちょっとびっくりしたんですけど。
その、切腹というものを、
あそこまできちんと見せるということに。
永田 そうそう。なんか順を追ってるというか、
それこそ作法を観せているような。
糸井 いや、キミたち。
昔の映画は、みんなあんなふうに、
きちんと映してたんだよ。
西本 ああ、そうなんですか。
糸井 じゃんじゃんやってましたよ。
それがなぜか、まあ自粛なのか、
どっかからやらなくなっただけなの。
永田 最近の時代劇だと、切腹って、
もう、記号みたいになってますよね。
西本 ぼくはあんなにちゃんとした
切腹シーンを観たのは
初めてだったかもしれません。
糸井 昔はふつうにもっとやってましたよ。
だって、そここそが見せ場だったり
したわけだから。
西本 ああ、なるほど。
永田 そして、言うまでもないことですが、
見守る新選組幹部たちの顔が
すごかったですねーーー。
西本 オダギリでさえもうるうるきてましたからね。
永田 そうそう!
糸井 オダギリの目がうるうるしているのは
ずるいよなー、三谷さん。
西本 あの場面、いちおう、
メガネノオカッパもいましたね。
糸井 いたっけ?
永田 いましたいました。
西本 同じカタカナの名前でもえらい違いだな。
オダギリとメガネノオカッパは。
ふたり いえてるいえてる。


ほぼ日テレビガイド
〜女子の部〜



モギコ
おろろーーん。

ナカバヤシ
‥‥さめざめ。

ゆーないと
ギャーーーース!!!

モギコ
‥‥そういった感じで、
泣き濡れている女子部です。

ナカバヤシ
‥‥‥‥いや、もう。

ゆーないと
男子の人たちはよくしゃべれるね。

ナカバヤシ
いや、ほんと、そう思います。
アホかと思います。
ある意味立派かと思いますが、
やっぱりアホかと思います。

モギコ
いやあ‥‥‥‥‥‥。

ゆーないと
ふーー‥‥‥‥。

ナカバヤシ
‥‥‥‥‥‥。

モギコ
これ、ほんと、しゃべれないね。

ゆーないと
いいんじゃん?
涙と沈黙とため息が今回の感想。

ナカバヤシ
そうですね‥‥。

モギコ
せめてもの報告としてお伝えいたしますと、
私、実家で観ていて泣くのを我慢していたら、
横っ腹がつりました!

ナカバヤシ
私は明里役の鈴木砂羽さんに
持って行かれました!
あの泣き笑いの表情!

ゆーないと
オダギリジョーの泣き顔に心を打たれましたが、
回想シーンのセリフがアホみたいで笑えました。

ふたり
え?

ゆーないと
「いつだったか、
 大阪のなんとかというところで」
って言うんだけどさ、あの男、
細かいことはなにも覚えてないんだなあ、と。

モギコ
気づかなかった!

ナカバヤシ
あの場面は沖田の背後に寄り添う
ひでちゃんがいいですよね。

ゆーないと
回想シーンのなかのトシ&ヤマナミも
よかったですよ。

モギコ
伊東はあんまりイヤなやつだから、
一周して、気に入りはじめた。

ナカバヤシ
源さんのおにぎり、泣けましたよね。

ゆーないと
あそこは、ヤマナミさんもいい。
「島田くんを呼び戻すのも、
 お忘れなく‥‥」

モギコ
おやおや? 
しゃべるとなると、しゃべれるなあ。

ナカバヤシ
どんどんしゃべれますね。

ゆーないと
ていうか、ぜんぶよかったんじゃない?

ふたり
そうかも!


ほぼ日テレビガイド
〜美術部〜

2004-08-27-FRI


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