武田観柳斎の小さな野心。
〜八嶋智人さんに、あれこれ訊く〜
第6回 撮影後の飲み会。


八嶋 後半、誰かが死ぬ回があると、
撮影後に飲み会になるわけですよ。
山南切腹の回のときは大飲み会でしたね。
糸井 いわば、通夜が行われるわけだ。
八嶋 ほんとにそうですよ。
それまでに死んでいなくなった人たちとか
いろんな人たちも来たりとかして。
そのときの飲み会のことを、
三谷(幸喜)さんが朝日新聞のコラムに
書いたんですけどご存じですか?
その、飲み会のときに、
ぼくが局長について意見して、
山本君とケンカになったっていう。
糸井 ああ、あったあった。

※編集部注:
三谷幸喜さんが朝日新聞の夕刊に執筆しているコラム
『三谷幸喜のありふれた生活』のなかで書いたもの。
ある日、『新選組!』収録後の飲み会で
酔っぱらった武田観柳斎(八嶋さん)が、
局長がくだした判断について意見した。
それを聞いて、土方歳三(山本耕史さん)が激怒。
『オレのことは何を言ってもかまわないが、
 局長を悪く言うやつは許さん!』と叫んだ。
当の近藤局長はそれを微笑みながら見ていた‥‥
という、エピソード。
ウソかほんとかわからないけれど、
もしもほんとうだとしたらそれって、
まるでドラマの中のキャラクターと
おんなじではないか、という内容でした。
八嶋 あれは、ウソなんですよ。
糸井 あ、ウソなんですか(笑)。
まあ、三谷さんも、
聞いた話として書いていて、
「ほんとだとしたらおもしろいね」
って感じで書いてましたけどね。
八嶋 そういうやり取りはあったんですけど、
あのまんまではなくて。
ある出演者の人が飲み会で、
その日撮影したシーンについて、
いろいろと感想を言ってたんです。
で、ぼくがそれを聞いてたんですけど、
その人は先に帰っちゃったんですね。
そしたら、そこに山本土方が来て、
「なに?」って言うから、
こうこうこういうことを言ってたよって
伝えたら、山本君は、
どうもその意見が気に入らなかったらしくて。
糸井 ああ、その、
帰っちゃった人が言っていた意見が。
八嶋 ええ。で、ふたりでそれについて
しばらく話してて、最終的には、
「ごめんごめん、おれが自分のことじゃないのに
 余計なこと言ったね」
なんつってたんですけど、
ぼくも山本君も飲んでるし、
山本君もちょっと興奮してたから、
まわりの人から見たら、
ぼくらが喧嘩してるふうに、
言い合ってるようにちょっと見えたと。
糸井 まあ、そういうふうに見たほうが
話としてもおもしろいしね(笑)。
八嶋 ええ。で、たしかに慎吾君も、
話の途中でやってきて、ぼくらが話すのを
ニコニコ笑いながら見てたんですよ。
糸井 あははははは。昔の劇団っぽいですね。
八嶋 そうなんですよ(笑)。
で、ちょっとおもしろそうだって、
誰かが沖田を呼びに行ったりしてるんですよね。
糸井 そのへんドラマと同じじゃないですか。
八嶋 ほんとそうなんですよ。
やってきた沖田はケタケタ笑いながら
ぼくらを見てるんですよ。
それで、ちょっと心配そうに源さんが来て、とか。
糸井 あははは。飲み会なのに。
完全に新選組になってますねえ。
八嶋 ほんとに。
だからそういう新選組なんだなっていう
コラムの内容としては
まちがってないんですけど。
糸井 配役ピッタリで(笑)。
八嶋 そうなんですよ。
糸井 変だよね、それ。どう考えてもね。
ふつうのドラマじゃありえないでしょ。
八嶋 そうですね。
糸井 そういう飲み会は、
しょっちゅうあったんですか。
八嶋 そうですね。山南切腹のあとはもう、
毎週のように人が死んでいくじゃないですか。
それからは、人が死ぬっていう日は
土方からメールが来るんですよ。
糸井 「死ぬから集まれ」っていう?
八嶋 うん。「来ない?」みたいな(笑)。
糸井 はははははは。
八嶋 「ついに源さんが死ぬ。何時に死ぬ」
みたいなそういうメールが来て、
じゃあちょっとみんなで行くかって。
糸井 観柳斎、とっくに死んでるんだけど。
八嶋 はい。死んだあとも、何回か行きましたね。
糸井 死人が通夜に来ちゃうんだ。
変な話ですねえ、それも(笑)。
八嶋 まあ、自分のときも来てもらったし、みたいな。
一同 (爆笑)
糸井 あはははは。なんなんだろうね、それ。
おもしろい時間が流れてるんですねえ。
八嶋 おもしろいですね。
糸井 また、もうひとつおもしろいと思うのは、
その、「自分」と「土方」が
完全にいっしょになっちゃってるような
山本耕史さんっていうのは、
元々、子役じゃないですか。
※編集部注:
山本耕史さんは、11歳のときに、
舞台『レ・ミゼラブル』でデビュー。
八嶋 そうですね。
糸井 つまり、「芝居で虚構を演じて生きてる」
っていうことについては、
小さいころから鍛え上げてる人ですよね。
八嶋 ええ。なのに、あの思い入れ。
それが1年間、通してあるわけですからね。
それは‥‥まあ、これは、ぼくの考えで、
ほんとうにそうかどうかは
わからないんですけど、
山本君にとっては、
ようするに慎吾君っていう人をね、
あれだけ忙しくて、
本番以外は意識が朦朧としているような、
あの慎吾君をどうベストな状態に
持っていくのかっていうことを‥‥。
糸井 ほんっとに考えてた。
八嶋 そうですね。ほんっとに考えてましたね。
糸井 うん。
八嶋 しつこくしつこく、やってましたから。
最初はちょっと
嫌がられてた節もあるんですけど、
それをしつこくしつこく、
「みんなと」って言って持っていった。
それは大きいと思います。
糸井 はぁー。
八嶋 だからあのドラマの成功っていうのは、
ぼくは山本君の努力っていうのは
すごくあると思います。
糸井 そこまでしないといけなかったんだね。
そうしないと「浮いちゃうぞ」って
みんなが思ってたというか。
まあ、あのなかに慎吾君がいたら、
ある意味、浮いて当たり前のことですよね。
八嶋 うん。そうですね。
糸井 それはもう、一般大衆のレベルで
わかるようなことだからね。
それを持っていったんだね、山本君が。
八嶋 すごかったですね。
糸井 すごかったと思うんですよね。
八嶋 まずそこの探り合いっていうか、
関係の作りかたというのがすごくて。
で、すぐにはでき上がらないんだけど
だんだんでき上がっていく過程に、
どんどんまわりも巻き込まれていくっていうか。
糸井 うーん、なるほどねえ

(続きます!)

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2005-05-02-MON

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