糸井 | 吉本さんは、これまで 「山あり谷あり」、 いろいろあったと思うのですが。 |
吉本 | いろいろありましたね。 まぁ、去年には、いちど死にかけましたから。 |
糸井 | 何時間か意識がなくなったと おっしゃっていましたね。 たしか、ご飯を食べ損なったのが よくなかったんですよね? |
吉本 | そうそう。 ご飯を食べなかったことと、 低血糖の注射をして、 眠くなったから寝ちゃった。 それがよくなかったんです。 |
糸井 | だれかが気づかなかったら 冷たくなってた、と。 |
吉本 | まぁ、そうです。 それは、そうとう「谷」ですよ。 |
糸井 | そうとう「谷」ですね(笑)。 そういう「谷」がいつも隣接してるのは、 その‥‥スリルのある毎日ですか? |
吉本 | スリルはありますよ(笑)。 いやぁ、なんだかすごく 執念深く生きてるような気がします。 |
糸井 | 吉本さんは、 何かが強いんじゃないでしょうか。 運なのか、身体なのか。 |
吉本 | 何か‥‥、何が強いのかな? 強いのかな? |
糸井 | 海に溺れたり、昔は逮捕されたし、 たいへんなことがたくさんあって。 |
吉本 | ああ、ああ。 昔は危険な人が家の玄関まで 来るようなこともありました。 今はそんなこと、もう全然ないですが。 |
糸井 | やっぱり「昔しかなかったこと」って ありますね。 |
吉本 | ありますよ。安保のあとがいちばん そういうことが多かったでしょう。 |
糸井 | 「政治の季節」みたいな時期ですね。 |
吉本 | そうそう。 ですからそのときは、いつでも上着を脱いで 手元に置いていました。 「体から離れている布が1枚あれば、 プロに刺されることになっても大丈夫だ」 って、ある空手の先生に教えられたんです。 |
糸井 | そうしろと言われても とっさに上着で体をかばえるかどうか、 それは賭けみたいなもんですね。 |
吉本 | でも、気持ちが高ぶって 異常になってるからか、 できるようになってるんだと思います。 |
糸井 | そんな時期があったんですね。 |
吉本 | あったんです。 それに比べたら今はわりと、 表面的には平穏です。 |
糸井 | 今は国が戦争して稼いだりするよりも、 株だ何だで稼ぐほうが手っ取り早くなった、 というせいもあるんでしょうか。 昔は殴りに行かないと奪えなかったものが、 黙ってスッと取れたりするんですから、 僕はそこの変化はすごいと思うんです。 |
吉本 | すごい変化ですよ。 だから、そういう意味合いじゃ、 もう敵も味方も同じ、利害関係が同じに なっちゃうんじゃないでしょうかね。 例えば自民党と民主党も、 反対なもののはずなんだけど、 今は同じなんですよ。 利害関係が同じになってる。 同じことを小さく言うか大きく言うか、 または、同じことをカッコよく言ってるかどうか、 そこだけの問題になっています。 自分たちは汚いことはしないよ、と言うのか、 自分たちのポッポに入れちゃっておいて でも何かもう少し違うことを考えてるよとか、 そういう違いはあるかもしれないけど、 でも、そのくらいの違いなんです。 あとは、何も考えてない政党は、何も考えてない。 その時期その時期で カッコいいことを言ってるってだけ。 全部同じことです。 |
糸井 | その時代に、昔いろいろ言ってた人は、 何を考えりゃいいか、 悩んじゃうんじゃないでしょうか。 |
吉本 | 悩んじゃいますね。 だから、両方の極端のようなことを 「こうなるだろう、こうなるだろう」と 考えるしかないんじゃないでしょうか。 |
糸井 | 今年は、どういう位置づけなんでしょうね。 |
吉本 | そうですね、どう言ったらいいんでしょう。 日米の戦争で負けたあと、 「終わって、ああ、これでホッとした」という人が 若い人にも年寄りにもいるでしょうけど、 そういう人たちの考えていたものが 崩れつつあるというところだと思います。 だから、どう言ったらいいんでしょう‥‥ 前期戦後が終わった──終わったつっても 何回か終わってるんですが、 それが、ここ4〜5年のあいだで ちょっと違うところに、移りつつあります。 |
糸井 | それは、どういう移りかたなんですか。 |
吉本 | 何を基準に移りつつあるのかといったら、 それはとにかく西欧とアメリカです。 ここ4〜5年は、犯罪から経済まで わりあい全部が アメリカのありさまを基準にした段階に 移っています。 今の状態は流動的だから、 そんなに長くはつづかないと思います。 これからそんなに遠い未来じゃなく、 おそらくまた4〜5年のうちに、 何かがあると思います。 遠い未来は僕らにはわかんねぇですけど。 |
糸井 | 例えば大恐慌とか? |
吉本 | ええ、これは、可能性は大きいと思います。 (明日につづきます) |