吉本 | 例えば、僕らのまわりの、出版界なんかを見ても 今はどん底のとこですね。 これからどん底がしばらくつづいて、 それで、これもまた 新しい様相になって、 何とか変わっていくだろうと思います。 こんなように、 西欧とアメリカがある程度体験してることを、 日本が体験しつつある段階 ということじゃないでしょうか。 凶悪犯罪や子どもの犯罪も、 西欧がやって、もうずいぶん長くなっています。 社会に適応できるかできないかが、 親子の葛藤とか殺し合いとか そういうことになって、日本でも現れてきてる。 そんなことはもうアメリカでも西欧でも 先進国はとうに体験してることなんです。 子どもが悪いことばっかりして、 親の言うことは聞かないというのもそうですし、 完全に、日常の市民社会はそうなってます。 ヨーロッパではもう、それを しずめている段階なのかな、って思います。 |
糸井 | それは、ヨーロッパでは とっくの昔にあったこと‥‥。 |
吉本 | そうですね。 まだ、アメリカのほうが新しいですし、 目立ちます。 |
糸井 | ということは、日本のことは アメリカのテレビドラマを見てれば、 だいたい予言できるってことでしょうか。 |
吉本 | あ、それはそうですね。 そう思います。 それは早いですよ。 |
糸井 | 小説だと、ちょっとずれちゃいますね。 小説は大衆の共感じゃなくて、 書きたいものを書くから違う。 |
吉本 | うん、ドラマを見る、それは早いですよ。 ヨーロッパはもう少し 深みへ入っちゃってるから わかりにくいんだけど、 アメリカのドラマはわかりやすい。 |
糸井 | 僕らの世代はホームドラマで 美化されたアメリカを見て育ったものです。 親の職業は弁護士か医者で、幸せな家庭で 長男がちょっとグレてみたりして、 「でもまあ、うまくいきました」 みたいな話だったんですよ。 そういうのを見て育ったから アメリカに対して幻想があったんですが、 実はアメリカでだって、そういうのは 「すばらしいもの」だったんでしょう。 そんな話はめったになかったんじゃないかな。 |
吉本 | そうでしょうね。 まぁ、稀にありますけども(笑)。 |
糸井 | 「そうじゃないんだ」と みんながわかってから ゴシャゴシャになって、今はもう、 アメリカのドラマだって犯罪ものばかりです。 |
吉本 | そうでしょうねえ。 それを見るといいですね。 |
糸井 | そうやって、今はみんなが 「アメリカはとっくにやってるからね」と 潮目を見る時期なんですね。 |
吉本 | そうですね。観察するってことです。 つまり、まぁ、出版界だか言論界だか、 よくわかりませんが、その人たちが 「今の情勢についてどう思うんだ、 ほんとうのこと言え」 と大胆に聞くんなら、 僕なんかだって、率直に言いますよ。 しかし、進んでそんなことを言う 時代じゃないんです。 つまり、お説教はしねぇよ、ってことです。 今は、自分のほうからは言う時代じゃないよって 僕も思いますから。 (つづきます) |