糸井 | つまり民主党には、 社会党右派と、 自民党から来た、地方に強い、 お金を持ってる人たちがいるんですね。 僕は、「自民党的なもの」というのは、 コミュニケーション中心の思想だと思うんです。 正しかろうが間違っていようが 「通じるかどうか」にかかっている。 近所にいるオヤジの言うことと同じで、 納得できるなら、たとえ間違っててもいい。 |
吉本 | だいたい、政治家で人気があるのは、 そりゃ西郷隆盛だよってのは決まってるわけ。 決まってるっちゃおかしいけど、 そっちの系統のほうが 魅力的な人が多いわけですよ。 |
糸井 | つまり、父親役をしっかりできる人ですね。 |
吉本 | そうなんです。 僕らの年代でいえば、 谷川雁(1923年生まれの詩人、評論家。 雑誌『試行』創刊に吉本さんとともに参加) というのが「根拠地型」なんです。 やっぱり魅力的な男でしたよ。 |
糸井 | ああ、わかります、名物になるような人。 |
吉本 | あの人はひとりでに、 「あ、こういうのが日本人の好みだ」ととらえて、 それを左翼的な思想とピタリと和合していた。 谷川雁はそうだったですよ。 あとの人たちはモダンすぎて、 西洋模倣型でした。 |
糸井 | しかし、民主党の、 もう一方にいる、社会党右派は 理念中心ですよね。 |
吉本 | ええ、そうですね。 ソ連系統の人がいま民主党にいて、 民主党の政治的な部分になってます。 その人たちが党派性を脱するだけの考えと 器量を持ってきたら、 それはたいしたものだ思います。 そうすると、本格的に二大政党になります。 あとはみんなあぶれることになって、 僕らもあぶれるわけですけど(笑)、 そういうふうになったら、 それはそれでたいしたものだなと思うけど、 今の民主党は水と油です。 |
糸井 | 幕末のパターンに似てるんでしょうか。 つまり、自民党が幕府だとすると、 薩長というのも、いわば野合でしょう? そしてもちろん、外国というものがある。 結局、明治政府というのは 幕府じゃない側ですもんね。 |
吉本 | ええ、そうです。 あのときのくっつき合いも、 新しい思想を世界の発達したとこから借りて 影響を受けたかっていうと、そうじゃないんです。 |
糸井 | 全然関係ないですね。 |
吉本 | ないですよ。本居宣長なんて 国学系統の最も保守的な思想ですから。 |
糸井 | そこに集まったんですね。 |
吉本 | だけど、その 「最も保守的な」ということが、 東洋では「最も進歩的な」というのと 同じなんですよ。 |
糸井 | くっついたんですねぇ。 |
吉本 | そういう東洋型の──つまり、 「根拠地型」の保守の考えを 今の民主党の人たちが、 あまりモダンぶらないで受け入れればいい。 そうすりゃいいんですよ。 |
糸井 | ということは、自民党が言ってるほど 「民主党は政権取れる党じゃない」というのは、 間違いですね。 |
吉本 | 間違いと思います。 自民党と民主党は同じようなもので、 むしろ何か新しいことが起こるとすれば、 民主党がうまくいったときに そうなるでしょうし、 そのことは、言い換えれば、 日本にとってはひじょうに普遍的な未来、 ということになると思います。 ほかの政党はもう、 未来を左右できるものがないんです。 |
糸井 | でも、自民党の「根拠地型」の人たちが 抱えてるものがあるとすれば、 それはきっと官僚でしょう。 つまり「理念として何かを言う人たち」です。 |
吉本 | ああ、そうかもしれませんね。 |
糸井 | 「エリート官僚」対「社会党右派」、 自民党対民主党の試合は、そこかもしれない。 そんな話、どこでも読んだことないもんな。 |
吉本 | (笑) (明日につづきます) |