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香りに溺れて。その8




ノリスケ つねさんはその体育の先生のMG5みたいな
男と匂いの結びついた記憶はない?
つねさん あ、小学校の時はまったく
男に興味なかったんで。はい。
超〜なかったですよっ。
ノリスケ 吐いて捨てるように言われてしまいました(笑)。
つねさんには男の匂いに関する
ヰタ・セクスアリスがないんですね。
ジョージ ボクは揺るぎなく一貫してこっち側だからね。
ノリスケ でも匂いと結びついたのは
けっこう後かもしれないな。
たしかに小学校の時には
そんなこと思わなかったよ。
つねさん ねえ。でしょ?
ノリスケ ジョージさんは早熟だよ。
つねさん うん。だってもうその頃は、
やってるんだもん。
ノリスケ やってるって言うな(笑)。
ジョージ お化粧したいとは、
いっさい思わなかったけど。
つねさん ああ、まったくないねえ。
ジョージ お化粧をしてる女性を見て、
何て素敵なんだろうとは思ってた。
つねさん ああ。
ノリスケ してる瞬間?
ジョージ そう。
ノリスケ 儀式的な印象?
ジョージ 今までのお母さんとは違うお母さんが
目の前ででき上がるんだよ。
ノリスケ そうなんだよ。人が変わっていって、
それは外に向けて戦いを挑むような。
りりしいんですよね。お化粧してる母の姿って。
ジョージ 特にうち、商売をやってたから、
ほとんどうちのお袋は商売のようなことは
してなかったんだけれど、
すごく大切なお客さまとかやってくると、
和装になって出ていくの。
もうほんとに朝から美容室に行って、
戻ってくると髪の毛ができ上がってて、
そこから徐々に顔ができ上がっていくわけでしょ?
で、着物を着つけて、
最後に着物の帯のところをタンタンと叩いて。
ノリスケ お太鼓のところをね。
ジョージ で、シュッシュってやって出ていくの。
ノリスケ ああ、音。衣擦れの音ね。
ジョージ ああ、女なんだなあと思ったよ。
で、お手伝いさんが何人かいたんで、
‥‥嫌な世界よね。
出かけていく時にお手伝いさんが香水を振るのよ。
シュッシュッと。
ノリスケ へえ、あの、パフパフ?
ジョージ そ! パフパフっていうやつ。
それで、この前マリー・アントワネット見ても
そうだったじゃん。
つねさん ああ。
ジョージ 香水って自分でつけるものじゃなくて、
人に遠くからつけてもらって。
ノリスケ くぐるみたいに。
ジョージ そう。ちょうどいいぐらいに。
それ見ててね、銭形平次が行く前に。
ノリスケ カンカンって。
つねさん 火打石で。
ジョージ やるような感じだと思ったよ。
ノリスケ 女性の火打石だよね。パフパフは。
ジョージ それが公の女として香りをまとって
出ていく時のうちのお袋だったんだよ。
ノリスケ ああ。
ジョージ それがね、そうじゃなくて親父とお袋2人で
パーティーとかに呼ばれて出ていく機会が
あったりするの。
そうすると和装じゃなくて洋装でしょ?
ぜーんぶ自分で着て、で、緩やかな感じで
一番最後に香水つけるんだけど、
それは指で塗り込めるのよ。
ノリスケ へえ。
つねさん へえ。
ジョージ あるいは、フラスコの上のふたがあるじゃない。
ガラスのふたをキュッキュッてやって、
ふたごと首筋にこうやって
なすりつけるみたいなね。
つねさん ほお。
ジョージ ああ、今日は個人。っていうか、
前者は凛々しくって、
後者は色っぽいお母さん。
ノリスケ ふーん。
ジョージ でね、その時に僕は匂いものというのは
指で取ってこうやって
耳の後ろとかに塗るものだなあとか
思ったのかもしれない。
ノリスケ ふーん。
ジョージ 色っぽいもん。エッチだし。
香りを塗り込めるっていう。
まというっていうのとは違うんだよね。
夜の香水はそういうことだよね。
ノリスケ ああ、そういうことかもしれないね。
ジョージ それで、海外に行って一番最初に買ったのが、
クリスチャン・ディオールのオー・ソバージュ。
ノリスケ “野蛮な‥‥”。
ジョージ “野蛮な水”。
ノリスケ オー・ソバージュって紳士物?
ジョージ 紳士物。
ノリスケ 紳士物なんだ。どうでした?
何でオー・ソバージュにしたの?
ジョージ ええと、パリのメゾンが初めて出した
紳士物の香水なんだよ。
それまでなかったんだよ、だから。
ノリスケ ああ。どんなものかなあと。
ジョージ 男性がつけてもいい香水はあったけど、
ただ男性のためだけに作った香水は
なかったっていうね。
で、アフターシェーブローションはあった。
それまでに。で、オー・ソバージュの
アフターシェーブローションもあって、
でもね、オカマとはいえね、まだ高校2年。
ノリスケ え? そんな早かったの?
ジョージ 高校2年と3年の間くらいかな。
そうすると化粧品屋さんとかデパートに行って
香水を買う行為って‥‥。
ノリスケ それは敷居が高いよ。
つねさん 高そうだね。
ジョージ しづらいんだよね。
だけど、アフターシェーブローションください、
っていうのは。
ノリスケ 言えるね。
ジョージ 男の子だから。
つねさん うん。
ジョージ で、オー・ソバージュの
アフターシェーブローションを使ってたんだけど、
それはそれで満足してたの。よい匂い。
シトラスフローラルで大好きだしね。
しかもちょっと床屋さんっぽい匂いがして、
それで気に入っとったんだが。
ノリスケ ふふ。急になんで年寄りっぽい言葉に。
つねさん たまに出るよね。
ジョージ それで1回帰ったのよ、日本にね。
それでしばらくして大学に入って
もう1回行って、その時にはちょっと、
まあ、アバンチュールな。
ノリスケ アバンチュールな滞在を。
ジョージ 当時、クラブを転々として、
ま、ディスコですが。
花のディスコの時代なんですよ。
で、行くとすっごいいい匂いがするの。
自分がいつもつけてたような
匂いのはずなのに、
ものすごいいい匂いがするの。
ノリスケ うん? うん。
ジョージ 当時向こうではレズビアンの女の子と
いつも一緒にいて、
パーティーとか男女同伴じゃないといけないんで、
彼女と一緒に行ってダンスとかしてると、
彼女からすっごいいい匂いがするんだよね。
で、何使ってるの? って聞いたら
オー・ソバージュを使ってるって。
ノリスケ へえ。
ジョージ え? 僕もそうだけど匂いが違うって言ったら、
これはパルファムだからって。
ノリスケ ああ。
ジョージ ああ、そうなんだ。
オーデコロンやパルファムは
匂いが違うんだって。
ノリスケ 段階があるから。
アフターシェーブ、シャワーコロン、
オーデコロン、オードトワレ、パルファム。
ジョージ で、使わせてもらったらやっぱり素敵で。
じゃあ、お土産に買って帰ろうと。
ドキドキしながらオー・ソバージュをね。
相手の人も「アフターシェーブ
ローションですか?」って聞くから、
「いや、パルファムかオーデコロンが欲しい」
って。
ノリスケ 初めての。
ジョージ そう。
ノリスケ もう性的なイメージがあるから
買うのもドキドキしちゃうのね。
ジョージ ほんとドキドキする(笑)。
つねさん するよね、確かに。
ノリスケ いけないものを買ってるような気になるんだよね。
つねさん そうそう。


つづきまーす!

2007-03-09-FRI

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