ある映画の冒険の旅。
映画プロデューサーは
走り回るよ。

<第2回>
寒い国で偶然出会った温かい映画


毎年1月にアメリカはユタ州、パークシティで
行われているサンダンス映画祭は、
あのロバート・レッドフォードが
新人発掘、育成の為に主催している若手映像作家のための、
サンダンス・インスティチュート(映画学校のようなもの)
が行っている映画祭。
『パルプフィクション』のクエンティン・タランティーノや
『シャイン』のスコット・ヒックスなどなど、
今や世界の大物がハリウッドにデビューしたきっかけとなった
華やかな映画祭です。

パークシティというのは、
2002年には冬季オリンピックが開かれる街で、
まるで長野のスキーリゾート風の街並みです。
図書館や、市民会館が会場となって
さまざまな新人の映画を上映します。
会場のすぐ裏からは、スキーのリフトにも乗れます。

参加しているのは映画関係者だけじゃなくて、主に町の人々。
年に一度の映画の祭典を待ちかねている人たちです。
みんな色んな映画が見れて楽しそう…。
それに出品作品に出演しているハリウッドのスターたちも、
防寒服と帽子というルックスで街を無防備にうろうろしています。
この年は、ケビン・スペイシー、
ジェイソン・プリーストリーなどなどに会いました。
ジョディ・フォスター、ジェニファー・コネリーなんかも目撃。

ふだん、映画を買い付ける配給会社の担当者(私もそうです)は
世界中で行われる映画祭にくっついている
マーケット(映画見本市)で映画の権利を買います。
ところが、サンダンス映画祭には、このマーケットがありません。

99年1月、私はこの手作り風のほのぼのさが残る
サンダンス映画祭に参加しました。
マーケットが付帯していないこの映画祭には、
日本からの買付け担当者の参加が少ないので、
私のような経験不足の担当者にはピッタリ!
なんたってコンペにならないですもん!

他のマーケットでは、
雨後の筍のごとく増えつづけた日本の配給会社が、
「当たりそうな」作品目指してモーレツなコンペ状態になる。
そんな激しい世界で私は競り勝つことはできません。
そこでちょっと姑息な手を使って、人がいかない映画祭に行って、
コッソリいい映画を見つけようとしたのです。

ところがそんなヨコシマな腹の内がタタったのか、
日本からの長旅を終えて到着するなり
ヘヴィな風邪を引いてしまいました。
ホテルの部屋は暖かいけれど、外はマイナス20度の極寒。
それでも朝早くから夜中までそこかしこで上映をやっている。
せっかく来たのに風邪で寝こんでいて、
「ぜんぜん観てません」ってな状態でよいのだろうか???
いやいや、それではプロの名がすたる。
でも、今夜はやっぱり寝ちゃおうっと。

翌朝、前の晩やっぱり寝てしまった自分を深く悔やんだ私は、
朝早起きして9時からの上映を観に、
街の図書館に向かったのでした。
朝も早いし、風邪薬を飲んだのでかなり眠い。
そんな不健康状態で観たのが
「うちへ帰ろう The Autumn Heart」でした。

「なんて素直で心温まる映画なんだろう!!」

観終わったときは、鼻水はとまり、
ただただ涙だけが流れ落ちるといった恍惚の感動状態。
皆さんは朝9時から大感動したことありますか?
結構体力的にはキツイですよ。
そのかわり心は軽やかになりますが。

ふつう「サンダンス映画祭正式出品作品」扱いの映画は、
上映終了後に、監督や、キャストの
「質問コーナー」があるんです。
このQ&Aコーナーにおいて、
『うちへ帰ろう』の脚本・主演のデヴィッド・リー・ウィルソンは
後も語り継がれるであろう、
伝説に残る、素晴らしいスピーチを行ったのです。
(スピーチの内容は劇場用のプログラムに書いてありますの
で、見てくださいね)
2000人を超える大観衆の
スタンディング・オベーションの拍手の嵐に、
デヴィッドも大感激で
大粒の涙、涙。

私は「この感動を日本に持ちかえらなければ!!!」
という自分本位な使命感に燃え、質問コーナーが終わると、
舞台に立っている監督、出演者、プロデューサーに、駆け寄りました。
「日本で配給をやっているパルコって会社のものなんですけど、
 日本の権利はどうなってますか?!?!」
まさに突撃アポなし取材!

その後、プロデューサーの代理人である弁護士さんと、
権利について詳しい話を聞いていると、さすが新人発掘映画祭。
ちゃんと権利を世界に売る準備が出来ていないものも
沢山あったのですね。
『うちへ帰ろう』もそのひとつ。

ここからが長い交渉の始まりでした。
ニューヨークの弁護士と渡り合うほど、
私、英語力無いんだけどなぁ、、、
と途方に暮れながらも、『うちへ帰ろう』を
日本で公開するための話し合いが、
寒いサンダンスの街で始まったのでした

つづく。

2000-08-15-TUE


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