ある映画の冒険の旅。
映画プロデューサーは
走り回るよ。
まるで偶然のように、生まれたてのある映画に出会い、
その「売り先の見つかっていない映画」を、
買い付けることになって、彼女はプロデューサーになった。

どうやって、現実に劇場公開できる作品にしていくの?
字幕は? パブリシティは?
宣伝広告はどうしたらいいの?
ありとあらゆることが初めてで、
なにもかも素人だったひとりの女性が、
一本の映画に責任をもっておおぜいの人たちに
観てもらうために真剣に、考え、伝え、走り回る。
きっとこれは、もうひとつの「へなちょこ雑貨店」です。

第10回 
<年間第5位にランキングした不発弾>
最終回の巻


雑誌ウィークリーぴあが行っている初日満足度調査で、
『うちへ帰ろう』がみごと年間第5位に!!
同列5位が3作品あって、
『うちへ帰ろう』『ロッタちゃん はじめてのおつかい』
『オール・アバウト・マイ・マザー』でした。
動員・興行成績を見比べてみると、
同じ5位なのに『うちへ帰ろう』が一番不発。
『オール・アバウト・マイ・マザー』の
1/10以下の動員だ。
こうやって数字になってみるとやはり悔しいなぁ。
いい作品をより多くの人に伝えられなかったことになる。
デヴィッドごめんね。シネスイッチさんゴメンナサイ。
とりあえず今私がやらねばならぬことは、
この「ぴあ」が上司の目に触れない場所に
隠すことですよね、やっぱり。サラリーマンですから。

このコラムを書かせてもらうようになってから、
業界内から「もっとホンネを書けーー」と
おしかりを受けることが多い。
自分としては結構ホンネを書いているつもりなのですが、
こういうご意見の中にひとつ気付かされたことがある。

単館系の映画を公開すべく奔走している人たちは、
日々「何故こんなにいい映画なのに、
ヒットできないんだ!!」という、
理由はわかっちゃいるが、やるせない気持に溢れていて、
それは私とおんなじだ。
宣伝費がないから広く日本全国に向かって発信するには、
ひとひねりもふたひねりもアイデアがいる。
とくに最近は情報も溢れ、公開本数も
月平均20本とすごい数なので、一つの作品が
観客までリーチするのが大変になってきている。
すごい人数の人がすごい本数の映画のプロモーションを
考えているので、それぞれのアイデアも枯渇気味。
みんなゼェゼェ言ってやっている。

再三言うが所詮みんなサラリーマンなので、
理屈では「いい映画」でもお金にならなければ、
「こいつのセンスに任せておいていいのだろうか?」
という議論が机上に持ち上がってしまう。
あー、キビチ。
と、ヒットが出ないとこちらもまぁ自信が傾いてくる。
「私ってズレてるのかしら?」
みんな悩んでいるようだ。
でも周りを見渡してみると、10割バッターはいない。
だれもがヒットとダメを繰り返し、
模索しながらやっている。結果は1割でも
もちろん10割打つつもりでやっている。

お金になる映画はイコールいい映画とは限らない。
観てみたら1800円返せー!もまだまだイッパイある。
ただ、シビアな話、
見に来てくれて1800円払って入っちゃったら、
それで売上が立つ。
そうなると、満足度もさることながら、
「映画館で観たい!」
という宣伝的なひっかかりがある映画が、アンパイだ。
それはトム・クルーズが出ていたり、
50億円の製作費がかかっていたり、
アメリカで大ヒットしたり、そんなことなのかな。

私は『うちへ帰ろう』の宣伝の最中、
宣伝のヘッドが言う
「この映画はトム・クルーズがでてるわけじゃない」
という口癖が大嫌いだった。
「全然分かってない。トム・クルーズが
 でてりゃいいってもんじゃない!」
「お客さんはもっと賢い!」
と思って反抗していた。(今でも思ってます)
でも、『うちへ帰ろう』の成績で言えば、
プラスαのない「素晴らしいストーリー」
やはり限界があったかもしれない。(かなり弱気)
こうなってくると、
次にこういう映画を見つけても「どうしよっかなぁー」と
1歩引いてしまうかもしれない(ほとんど尻込み)。
「何を弱気な!」と思う人は、
ぜひ今度から観たいと思っている映画は
公開初日の翌日(日曜日)の夕方の回で
ご覧になることをオススメします。
この回が立ち見になっていたら、
ロングランは間違いなしですので、
その日は帰ってもあとで見れるでしょう。
ここがガランとしていたら、そこで観てしまわないと、
次はありません。(単館の場合)

そんな弱々しい遠吠えをする私に、
公開前日にモノホン・プロデューサーから手紙が届いた。

「私がまだ行ったこともない遠い国、日本で
 YUKOが『うちへ帰ろう』のために
 奮闘してくれている様子を、
 帰国したデヴィッドから聞きました。
 私たちインディペンデントの世界は、
 うまく行かないことがほとんどで苦労が絶えませんが、
 こうして自分たちが作った作品を通じて、
 日本の人たちとふれ合える喜びを感じ、
 また明日から頑張ろう!という勇気が湧いてきました。
 ありがとう」

彼女の手紙のお陰で弱気になった私にもまた勇気が戻った。

そう言えば、私も一塊の観客として
「なぜ?なに?どうして?」を追求すべく
この業界に入ってきたんだ。
その気持を忘れないように頑張ってきたつもりが、
仕事に追われて大事なことを忘れていたような気がする。

――遊び心。

映画館に遊びに来る人に対するお仕事をしているのだから、
「こんな風に遊びたい!」
という観点を持てなくなっては、本末転倒。

人間は弱いから、長い物には巻かれたい。
初志貫徹は難しい。
だって初心はすぐ忘れちゃう。
人間関係も含めていろんなことが複雑化した社会の中、
私たちは世紀をまたいでいく。
世紀は変わり、社会は複雑だけど、
人間の基本はいつの時代もシンプルなんだろうな、と思う。
だから私はシンプルでアナログな人間の感性を備えた上で、
デジタルに対応して行こうと思っている。
そしてまた『うちへ帰ろう』のような
素敵な作品に出会えたら、
今回の反省点を活かした宣伝展開で、
ふたたび皆さんにお届けしようと思っています。
楽しみにしていてください。

今まで長い間、読んで下さってありがとうございました。
最後に、『うちへ帰ろう』が人生の1本になった!と
励まして下さった方々、
DVDの発売は2001年6月を予定しています。
ぜひ、いつの時代も変わらない家族の心を
後世に伝えて下さい。(ちゃっかり宣伝!)

今後の安田裕子の映画買付秘話などの情報は、
こちらのサイトに掲載していきます。
http://www.mckee67.hoops.ne.jp(1月中旬以降)

それではまた映画館でお会いしましょう!

安田裕子さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「安田裕子さんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。


2001-01-11-THU

HOME
ホーム


いままでのタイトル

2000-08-11  映画の揺りかごから墓場まで
2000-08-15  寒い国で偶然出会った温かい映画
2000-08-17  新人監督がサンダンス映画祭で
デビューするということ
2000-08-21  ほぼ日センサー会員
特別招待試写会のお知らせ
2000-08-24  映画祭に出すだけならOKよ!
2000-09-09 映画を買ったらまず最初にやること
2000-09-19 さていよいよ
どうやってプロデューサーになったか?の巻
2000-11-17 日本で公開する材料を作るの巻
2001-01-07 <去年ヒットした『エイミー』の映画館をブッキング>の巻
2001-01-09 <秋風に乗って感動届く!『うちへ帰ろう』本日公開!>の巻