ある映画の冒険の旅。 映画プロデューサーは 走り回るよ。 |
第6回 さていよいよどうやってプロデューサーになったか?の巻 このコラムの重大なるテーマである 「なぜ私がプロデューサーになったのか?」 をすっかり飛ばして話を進めてしまった私… やはり暑さと加齢は人の頭を “おとうふ”にしてしまうのですね、、、 というわけで、勝手なことを言うようですが、 前回の「素材が到着したら字幕を入れる作業を始める」 というあたりまで、みなさんの頭の中で話を巻戻してから、 以降読み進めてください。 5ヶ月かかってようやく「両社ご捺印」と相成った 『うちへ帰ろう』の国際配給契約書。 1月のサンダンス映画祭から季節は移ろい、 ときは若葉のカンヌ映画祭の季節。 パルコとパイオニアLDCがお金を出して 「音楽著作権料」を無事払うことが出来た 『うちへ帰ろう』には、この間めでたく 「インターナショナル・セールス」の エージェントがついた。 これまたチッコイ会社ではあるが、 一応映画祭に付随するマーケット(見本市みたいなもの)に ブースを出して営業活動している会社である。 で、カンヌ映画祭の一本奥の通りで並行して開催されている 「カンヌ国際映画見本市」の会場で、スクリーニング (各国のバイヤーが買付を行うために観る試写)が 行われることになった。 出国前に連絡を取り合い、弁護士ジョンと、 制作スタッフご一行様である、 デヴィッド・リー・ウィルソン(主演)、 ケリー・マクマホン(本物プロデューサー)、 マーク・シャボット (本物のエグゼクティブ・プロデューサー)が カンヌ入りしているというので、 この試写を観た後、一緒にランチをする約束をしておいた。 さて、試写当日。一応ドキドキしながら、 試写会場へ向かう。だってお金は出したものの、 果たしてどんな風に音入れ作業が行われたのか、 実はあまり細かくは知らなかったのだ。 (さすがインチキ・プロデューサーでしょ?しかも ジョンからの事前情報によると、 「ちょっとだけ前のプリントとは音楽が 変わってるからね、、、」とのこと。 「アメリカ人的な“ちょっとだけ”って どれくらいなんだろう???」 というドキドキですね、この場合。 だって音楽の入れ方がちょっと変わるだけで、 結構映画の印象って変わるものなんですよ。) デヴィッド君らと「やぁやぁ、おひさ!」と挨拶を交わし、 早速上映開始。 ここには、パイオニアLDCのえらい人(ちなみに社長)を 始め役員各位も来場している。 なんといっても、彼らはサンダンスで映画を 見ていないので、今回が初見。 「こんなもんに投資していいのだろうか?」というご意見が でないとも限らない。責任重大なシーンである。 OLあがりのか細い私の肩には荷が重過ぎます。 穴を掘ってでも入りたい心境。 そういう私の心情を察してか、 お茶目なデヴィッド君は、なにやらニヤけて私を見ている。 ハラハラしながら1時間半くらいが経って、 プロが集まっているはずの場内からも 号泣、嗚咽が聞こえ始めた。 「うん、音楽は前よりいいぞ、よしよし」と 思いながらもいつもの泣かせのシーンで すっかり目はウルウル。 感動のラストが終わり、エンドロール。 な、なんと! エンドロールが上がり始めて2番目に、 Co-Producer Yuko Yasudaの文字がスクロールしてる。 「ぐぎょおぇ?!」 と思わず奇声を発してしまった私。 クスクスと私を見て喜ぶデヴィッドとジョン。 なんとこれは彼らから私への サプライズ・ギフトだったのです。 デヴィッドリー・ウィルソンが夢見たハリウッドで 挫折を経験し、故郷へ戻って書いた大切な映画 『うちへ帰ろう』。 サンダンス映画祭への出品にこぎつけ、 「もはやこれまで」という映画の運命を、 どうやら私があの会場で見ていたことで救ったらしい。 そんな「感謝の気持ちを表したかったから」と、 デヴィッドが言っていた。 わざわざ完成していたエンドクレジットの始めの部分を 作りなおしてくれたのです。 …その時私の頭の中には、 2つの「ヤバイ」が渦巻いていた。 ●「とは言えお金を出したのは私じゃなくて私の会社。 パルコの社長の名前じゃなくて 大丈夫なんだろうか???」 ●音楽の権利を取得して、 ちょっとお金が余ったんだろうーなー。 だってエンドクレジットだって作りなおしたら それなりに お金かかるもんなぁ。 ちょっと多くオファーしすぎたのかなぁ? というこの2つ。 とっても素直に気持ちをくれたデヴィッドリーには、 たいへん申し訳ないが、 根はサラリーマンの私としては、 そんなことを考えながら、 ウシレ、ハズカシの(裏)カンヌ映画祭なのでした。 …というわけで、私がプロデューサーなのです。この映画。 これがシンデレラ・ストーリーになるか、 馬車がかぼちゃになっちゃった、と 出るかは、すべて興行次第。 とりあえず、興行週数を決める 大事な1週目が終わった9/9現在、 「まぁまぁ、健闘しているが、 ヒットと言えるかどうかはかなり微妙」 という成績です。 ほぼ日読者の皆さんは 帰宅新聞はもうご覧になって頂けましたか? シネスイッチ銀座劇場周りで配布中です。 映画館でお待ちしてます。 つづく。 安田裕子 |
2000-09-19-TUE
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