ポケットに『MOTHER』。 〜『MOTHER1+2』プレイ日記〜 |
桃色のふわふわした世界を訪れた。 唐突だったから、びっくりした。 もっともっと先に訪れるような気がしていた。 その世界を歩きながら、 「なんだここは?!」と思った。 電車のなかで、モニターを見つめながら どんどん引き込まれていった。 あやうく乗り換える駅を間違えるところだった。 怖い夢を見たという住人の、痛いほどの言葉。 禅問答のような問いかけ。 桃色の空気と柔らかい不思議な音楽。 物まねする男。森に棲む男。 だだっ広い宮殿のつるつるの床。 その奥にたたずむ人の深い悲しみ。 狂気じみたモンスターたち。 目玉でできた三人家族。 「おまえ あのひとに かおがにてるなぁ」 「てのなかに はいってるものを あててごらん」 「みんな あなたを すきなんだから」 こんな場所を、なぜ僕は強く覚えていなかったのだろう? 過去の記憶をひもとくとき、 僕はここにそれほど強烈な印象がなかった。 覚えているのは、地下へ続く道のりが 非常に厳しかったということだけだ。 電車が駅へ着いたので、 僕はゲームボーイアドバンスSPの電源を切った。 そして、家に向かって歩きながら、 ずっと前にあの桃色の世界を歩いたときのことを 思い出そうとしていた。 こんな場所を、なぜ僕は強く覚えていなかったのだろう? 述べたように、僕が『MOTHER』をプレイしたのは 二十歳を過ぎたころだった。 地方から上京した多くの学生がそうであるように 僕は自分がひどくものを知らないような気がしていた。 それで、僕は手当たりしだいに いろんなものを詰め込んでいった。 音楽も映画も小説もゲームも、 気になるものは片っ端から手を出した。 少ないバイト代のほとんどはそれに費やされた。 解説やあとがきを熱心に読み、 体系づけられたものの紹介があれば それを手繰ってどんどんさかのぼっていった。 そのようにして、僕は『MOTHER』をプレイした。 当時の象徴的な例でいうと、 僕は『ドラゴンクエスト』の 1作目から4作目を続けてプレイした。 その勢いで『ファイナルファンタジー』をプレイし、 『マーダークラブ』というアドベンチャーを投げ出し、 その延長のどこかで『MOTHER』をプレイした。 まるでさまざまな作品をつぎつぎに丸飲みするように 僕はそれらを摂取していった。 当時の僕にはそういうやり方が必要だったし、 そのおかげでいまの僕があるのだと思うから 後悔は微塵もない。 名作も、カルトも、亜流も、モンドも、 やさしいものも、怖いものも、素敵なものも、 等しく作品として僕はつぎつぎに受け入れていった。 その果てに自分のぼんやりとした物差しができた。 そういった時期がなんとなく終わると、 僕は自分がほんとうに好きだと思えるようなものを 一生懸命、探すようになった。 『MOTHER2』にはその時期に出会った。 多くの人が『MOTHER』についてつづった たくさんのメールを読んでいて、 『MOTHER2』についてはすごく共感できたけど、 『MOTHER』については正直よくわからなかった。 子どものころに『MOTHER2』をプレイした人は、 それを忘れないだろうと僕は強く思えた。 けれど、『MOTHER』をプレイした子どもに、 『MOTHER』が強く残っていることは 過去の自分の経験に照らし合わせると うまく体感できずにいた。 多くの作品を丸飲みしていた二十歳すぎのころ、 僕はその作品たちに きちんと根を下ろしていなかったのかもしれないと いまはなんとなく思える。 もちろんそのころに出会った作品のなかに 大好きなものはたくさんあるけれど 当時は好きになることよりも それを知ることのほうが大切だった。 フライングマン。 知っていたのに思わず話しかけてしまった。 なにかぐんにゃりとした柔らかいものを 踏んづけた感触があった。 切なさと自己嫌悪と、背中を押される思い。 絶対に救えない従者。 ライフアップαもマジックハーブも意味がない。 雲の上に立つ石に刻まれた墓碑銘。 いま、『MOTHER』をプレイしていると、 桃色と雲で満ちるマジカントの世界を歩いていると、 ようやく僕はそれを理解することができる。 こんなところを、子どものころに歩いたなら、 それを忘れないに決まっている。 もしも僕が子どもだったら、 ここを決して忘れないだろう。 と、ここまで書いて、気づいた。 僕の大好きな『MOTHER2』のパッケージに そんなことはとっくに書いてあるじゃないか。 こどもはおとなに、おとなはこどもに、なってゆきます。 だからみんな『MOTHER』を忘れずにいる。 参ったなあ、と思いながらこれを書いている。 |
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2003-06-26-THU
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