糸井 |
会社の営業は成り立っていたわけ? |
野口 |
会社は、一時期、
卸売でカタログハウスのナンバーツーの業者、
くらいまでは、行っていましたから。
そこはやっぱり、ダンナが商売人で、
卸売で、じゅうぶんに儲かっているんですよ。
しかも、事務所にはダンナとわたしと、
あとせいぜい忙しい時には
バイトの子がふたりくらいいれば、
成り立っちゃうんです。 |
糸井 |
卸売では、何を売ってたの? |
野口 |
チャック・ウィルソンさんが広告に出てた、
「ルームジム」という、
自宅でからだを鍛える商品とか、です。 |
糸井 |
俺のともだち、買ったよそれ。 |
野口 |
あ、そうですか?
あの説明書も、ぜんぶつくりました。
カタログハウスの人と一緒に。
カタログハウスの社長を、
ダンナは、尊敬していたんだけど。 |
糸井 |
カタログハウスの社長、おもしろいよね。
商いでやっているけど、
商いで飽き足らないところを、
いつも山ほど持っていて、
そこで、どうやって
仕事をしていこうかという発想を取るから、
おもしろいんですよね。 |
野口 |
はい。
ただ、その納品が
すごく大変だったので、
カタログハウスの卸しから、途中で
撤退せざるをえませんでしたけども。
ルームジムを売っていたのは、
1987年とか88年だと思いますが、
台湾の工場の品が
いっぱい出てきた時期でした。
「プラスティックを、
台湾から買いつけてくると安いんだ」
というのが、当時は、
輸入業者のあいだで話されていたから、
油圧パイプのついた
フィットネスマシーンを、
ワ−っと輸入してね。
だけど入ってくるものの2割ぐらいが不良。
製品は、ワンセットで
30キログラムあるんですけど、
例えば、ネジの穴に、
部品が一個入らないだけでも、
当然、お客さんから、
返品されてくるじゃないですか。
その商品の再生とかクレーム処理とか、
ぜんぶ業者として、
こちらがやらないといけなくて、
無理な規模まで来たので、
早い時期に撤退をしました。 |
糸井 |
食えてたほうの仕事を、辞めたんだ?
ドキドキ。 |
野口 |
ほんと彼の商売感覚は賢くて、
利益が出たら、
かならず次にまわしてまして。
儲かったらベンツを買うとかじゃなくて、
常に、投資の人なんですよ。
それが、わたしが22歳くらいの時だけど。 |
糸井 |
若いなあ。22歳かよそれで。
まだ、結婚はしていないよね。 |
野口 |
いや、すいません。
結婚は、入って1年目にしたんです。 |
糸井 |
じゃあ、
とても役に立つパートナーの若い子が、
嫁になったんだ? |
野口 |
そうなんです。 |
糸井 |
ダンナ、ますます楽だね。 |
野口 |
そうなんですよ。
入って1週間目で、
彼がわたしのことを
すごく評価した事件があったんですけど。
えーと。
彼は、ラブホテル向けに、
「スーパーマン」と
「スーパーガール」という
商品を納品してたんです。
持続するよ、みたいな商品で、
筒状の容器にクリームが入ってたけど。
スーパーマンみたいなマーク、
やっぱりちょっと変えてあるんだけど。 |
佐藤 |
(笑)ちょっと違うんだ。 |
野口 |
まあ、かわいいマークがあって、彼は、
「俺が、これをつくっているんだよね」
とか言いながら、
ビニール袋とか
ポリバケツに入っているクリームを、
容器に詰めかえているんですよ。
「これ、こぼれるの大変だけど、
ちょっと、詰めてもらえるかな?」
……彼が見本を見せてくれたけど、
なんか、スプーンで
1個ずつ詰めているんです。
非能率的で。
「これは、こうやったら、
すごい早いんじゃないですか?」
ポリ袋を持ってきて、
そこにクリームを入れて
袋の先っちょを切って、
ぴゅっぴゅっとやったら、
10分くらいで終わった。
彼は、それを3時間かけていた(笑)。
わたしは手が器用なので、
手でやることに関しては、
彼が丸一日かけてやっていたことを、
1時間でできたりするんです。 |
糸井 |
彼、だいぶ抜けたところが(笑)。 |
野口 |
頭はいいんですけど、
サバイバルな知恵はないというか。
手先が不器用で……。 |
糸井 |
(笑)じゃあ、彼、助かっただろうねえ。
よかったね。 |
野口 |
そうなんです。
その時、わたしはきっと、
めちゃくちゃ、はたらきものだったんですね。
電話に出るわ、広告はつくるわで、
お客さんが来たらお茶入れてお話をするのも、
水商売のたまもので上手で。
どんなおじさんが来てもうまく話すし。
どんな人が来ても、社交的にやれるし。
ほんとに離せない人間だったと思いますよ。
ダンナは、ボーッとしてて、
「あれがやりたいんだよね」
とか言うから、わたしは、
「はい、わかりました」
と言って、パーッとやって。
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