糸井 |
その、視聴覚交換マシンの
発展形というワールドシステムって、
ざっと言うとどういうものですか? |
八谷 |
ざっと言うと・・・
もし、幽体離脱した状態をモデルにして
電話機がつくられていたとしたら
どうなっていただろうか?
というようなことを。 |
糸井 |
おいおい、わからないぞ。 |
八谷 |
これは仕事で調べてたんですけど、
通信関係のいろいろな技術というのが
前の世紀末頃に、
いっぺんに発明されているんですよ。
ラジオもそうだし、電話もそうですし、
発電のシステムとかも。
1800年の末とか1900年のあたまとか、
ほんとに世の中ががらっと変わった。
そのときには、まだスタンダードが
決まっていなかったから、いろんなプランが。 |
糸井 |
亜流だらけだったんですね。 |
八谷 |
ベルのつくった電話が主流になる前に、
出たプランやプロトタイプのなかには、
とんでもないものが結構あって、そのなかに、
ニコラ・テスラっていう科学者がいるんですけど。
交流発電機とかをつくったひとなんですね。
そのテスラが考えたものが、簡単に言っちゃうと、
最初から携帯電話にしようとしてたんですね。
有線の電話すっとばして、
すごくおっきな発電プラス通信のシステムを
つくろうとしていた。
たとえば携帯電話のようなものが
電話としてあるんだけど、交信も電波でやっちゃうし、
それを動かす電気もアンテナから供給する、と。
そういう、有線の電話じゃないやりかたで
いきなり無線の電話を作ろうという
ワールドシステムというプランがあって。
リンクでつなぐ、もうひとつの電話システム。
「電話のリ・デザイン」をテーマに作られた作品。
ジャパンアートスカラシップ受賞作品。
「もしも最初の電話が体外離脱を
モチーフにつくられ、
それが現在まで発展し続けたら?」
という観点から
「自分で飛んで探して接続する飛行テレビ電話」
の模型として製作したもの。
6台のベッドはその上空の6台のフレームにつながれ、
各フレームに付けられた銀色のボール「Bit」を
コントロールし、相手を捜す
(ちょうど、Webのリンクがそうであるように)。
「Bit」にはカメラとスピーカーと
マイクが付いており、
周りの状況を把握することができる。
ちなみにタイトルの「World System」とは
「無線による情報と電力の世界規模の供給」
を夢見た科学者、ニコラ・テスラのプランの名前。
(写真:寺崎正三)
↑こちらの写真と紹介文は、
八谷さんのホームページ
http://www.petworks.co.jp/~hachiya/
から抜き書きさせていただきました。 |
糸井 |
オウム真理教とかも
興味を持ったひとなんですよね。 |
八谷 |
そうです。
地震兵器とかレーザー兵器も
つくろうとしてたひとです。
やっぱりマッドサイエンティスト的では
あるんですけど。
そのひとの「ワールドシステム」は
全世界を最初から電波で結んでしまおうという、
イリジウムみたいな考えで、当然その当時は
技術が追いつかなくて
実現されなかったんですけど、
そのワールドシステムが
電話の原型だった世界を仮定して、
それの現代版を作ってみたかったんです。
1995年くらいだったので、ちょうど
ぼくがはじめてインターネットとかをやって、
リンクで世の中の人がつながるシステムに
すごい興味を持って、
おもしれ〜とか思っていて。
で、もし電話にダイヤルがついていなくて、
友人や他人を介していって目的の人に
接続するような電話が、
あったらどんなんだろうなあ、
というふうなプランを立てて、
で、それの実験というかシミュレーションを
青山のスパイラルのなかに作ってみる、という
ものだったんですけど。 |
糸井 |
会場でやってみるの?それ、何人くらいの人間が? |
八谷 |
6人です。視聴覚交換マシンというのは
2人でやっていたものだったから、
あれを6人に拡張してみよう、と。
ベッドがあって、ベッドで動きをコントロールする
銀色のボールがあるんですけど、
そのなかに、テレビカメラとか
マイクとかスピーカーが入ってて、
そこに自分の意識が行っているという状態にして、
ほんとはヘッドマウントディスプレイと視線で
コントロールしたかったんですけど
当時はそこまではできなかったんです。
予算が1000万出たんですよ。
1000万つかえるということは、
そこまでいけるかな、と当時は思って。
結局ダメだったんですけど。
でもそのときに制作の時間も
つくんなきゃいけないから、
そのときに会社やめて、
もう作品一本でいこうと思って。 |
糸井 |
「俺はこういうことを考える商売に
なればいいんだ」と思ったんだ? |
八谷 |
そうです。 |
糸井 |
毎年それくらいの作品を
つくりつづけられるかっていう
不安はなかったの? |
八谷 |
いや、不安は思いっきりありましたけど、
でも、11月の10日に展覧会するって
決まっちゃってたから、受賞したときに。 |
糸井 |
それ、俺の誕生日。 |
八谷 |
その日が来なければいいと何度思ったことか。
11月10日。それのために死にかけて。
高いタワーを、スパイラルのなかに
建てなければいけなかったから、
かなり危険な作業も突貫でやって。
「補強の鉄パイプが足りない、よし、
どっか青山の工事現場のへんから盗んでこよう」
「いや、八谷さんが行ってつかまるとこの展覧会
できなくなるから、俺が行きますよ」
とか言ってたら実はその鉄パイプが
スパイラルの上のほうにあったりとか。
結局黙って借りるんですけど。 |
糸井 |
じゃあ設営だけで結構時間かかってるんだ。 |
八谷 |
いや、逆に設営時間が短かったので、
大変だったんです。
まる一日とかしかかけられなかったので。 |
糸井 |
じゃあ、できるに決まっているものを
どっかにつくっておいてるわけだ。 |
八谷 |
何時オープンだから、いま夜中の12時だけど、
これから鉄パイプを何とかしなきゃいけない、
とか言って。 |
糸井 |
楽しそうだねーいまきいてるとそれは。 |
八谷 |
話してると楽しいけど、
当時は、なぜその日が来てしまうのだろう、とか。 |
糸井 |
すっごいかたちのあるものをやってたね。
かたちのあるもののあいだみたいな。
半魚人みたいな。 |
八谷 |
ある程度は実験もしてるんですけど、
どうしても現場あわせが出てくる。
例えば大きなフレームがあって、
実際は風力で動くんですけど、
プロペラを回すゴムが切れたり、
モーターが焼き切れたり。
そういうことなんですけど。
あるもんでなんとかするしかない、と。
そのときの反省点ってやっぱりむちゃくちゃあって、
自分もある程度技術の見通しが立つから、
つい自分でやっちゃうんですけど、クオリティが、
自分の要求までいかない。
ワールドシステムというのは
完成形が100点だとすると
5〜60点しかいってないというのがあって。 |
糸井 |
それは自分がさわりすぎたという? |
八谷 |
自分の理想とするのに
自分の技術レベルがおっつかない。
で、会社辞めてこれからどうしようか、と考えて、
やっぱり、前にやっていた仕事が
商品開発に近いところでやっていたので、
そのスキルも生かしつつ、
立場としてはアーチストで
やっていけないかなあと思っていたんですよ。
(つづく) |