アートとマーケの幸福な結婚。
ポストペットの八谷さんと、
彼の船出。
「ポストペット」は、どんな人がつくって、
どんなふうに電子社会の雪だるまのように大きく育ったか?
そして、彼らの次の作品は、どのように準備されたのか。
現代芸術作家・八谷和彦の新しさに、大注目さ!

たのしそうで、新しくて、ヘンで、ゆたかな感じ。
八谷さんたちのつくるものは、
現在のぼくらが「やりたい・つくりたい」と、
漠然と考えていることばかりだ。

第1回 ポケットポストペット、4月12日発売。

第2回 八谷さんはどういう人なの?

第3回 SMTVをやっていた頃

第4回 あきらめは早いです(笑)

第5回 視聴覚交換マシン

第6回 「ワールドシステム」とは何だろう?

第7回 ポスペをつくる前に、夢をみた。

第8回 「プログラマー=オタク」
    って、思うじゃないですか(笑)。

第9回 世の中に欠けていることをやりたいんです

第10回 ポスペを売るイメージは?

第11回 真鍋さんというひとについて

第12回 やろうと思ったときについて

第13回 幸喜さんが加わったことについて

第14回 有識者の文句について

第15回 96年年末・幸喜さんの監禁生活

第16回 はやくつくらなきゃ

第17回 思いどおりにいかないことについて

第18回 ポスペ・マック版とウインドウズ版

第19回 多摩支店のくせに、生意気なことを(笑)

第20回 早いスパン担当

第21回 シェアメールのポリシーに合う端末がない

第22回 つくることに決まったけど、キャラが・・・。

第23回 最初はあまり売れなかった

第24回 売れないときの努力など

第25回 ポケットボードに火がついた

第26回 ポケットボードが売れた理由

第27回 動機とコンセプトで迷った

第28回 メーリングリストに八谷さんが出したメール

第29回 誰のためにやってるんだろう?

第30回 ぼくはかわりにこれをやるよ


生殖のシミュレーションとしてのモーフィング。
東京都写真美術館の
オープン記念ワークショップとして
実施されたもの。
会場をおとずれた観客の顔を、
それぞれ2人でひとつの顔にモーフィングした。
つまり、ここに写っているポートレイトには、
この世に実在する人は一人もいない。
人は遺伝子の違い(要するに個体差)を
主に顔で判別しているわけだが
「人相学上の判断ポイントを
モーフィングの技術に導入し、
専門家がきちんとMorphingをしたものは、
『生殖のシミュレーション』として
機能するのでは?」
という観点からこのワークショップの内装や
プロモーファーの人選、手順などは
ディレクションされている。
(CG写真:八谷和彦)
↑こちらの写真と紹介文は、
八谷さんのホームページ
http://www.petworks.co.jp/~hachiya/
から抜き書きさせていただきました。


「アートとマーケの幸福な結婚」は、
今回で最終回になります。
八谷さんたちのチームは、この企画において、
どういうことを、どのようにやっているのか?
そのへんを、最後に更に深くきいてみています。

八谷 買ったひとが
あ、買ってよかった、と思って
そこではじめてぼくらが勝利するわけだから。
それが見えないからと言って抜いちゃうと、
やっぱりたたかわずして負けてしまうから。
演劇の舞台に出る前に
稽古をしているような感じかな。
糸井 八谷さんって
演劇のニュアンスがすごくあるよね。
前もその話になったことあったね。
雰囲気がだれるじゃないですか、
それをどうするかって、
全部座長が決めるんですよねー。
野田くんがなんで自分で芝居やってるかというと、
温度が下がったり上がったりするのを、
自分も役者として出ているとわかるから、だって。
だからあれ、永遠にワークショップ型に
していかないと、ボルテージが下がったのを
放ったらかしにするしかなくなるんですよね。
「だめじゃないか」
って言ったって、きけないんですよ。
体が実際に筋肉痛になったりするし。
モチベーション減りますからね。
「あいつもやってる」っていうのって、
やっぱりすごいんですよ。
八谷 今回みたいな会社間の仕事でも、
やっぱり、体温みたいな、
熱みたいなのはあって。
ほんとはそんなのはないだろうと思って
アーティストになったんですけど、
マニュアルも入れると7社もいるのに、
だんだん尻上がりになっていく感じがあって。

終わりが見えてきてからが違うじゃないですか。
要らん機能も一杯入っているんですけど、
そういうのも、単に入れましたみたいじゃなくて、
ここはこうじゃないと嫌だ、
みたいなのをちょこちょこ入れていて。
糸井 幸喜さんは、今回はゲームを主にやったんですか?
幸喜 あとあれですね、ポストペットを
そのまま持ってきているところあるから、
そこの調整をどうするか、みたいな。
糸井 ずっと必要だったんだ。
幸喜 だから、ほんとまだ生々しいですよ。
糸井 渡して、誰かにやってもらったのかと思ってた。
幸喜 カシオさんのほうでもOS一生懸命つくってて、
富士ソフトABCさんもPC上でやってて、
実際のこのボード上では動かしていない、
というのが去年のぎりぎりまでその状況があって。
糸井 じゃあ八谷さんが1月に来たのは、
あっちっちくらいのときに持ってきてくれたんだ。
八谷 あつあつですよ。
真鍋 あのかたちになってはじめてです。
幸喜 あのときはもう1番苦しかったときで。
年始のご挨拶とかっていって、
そのとき帰って、涙出ましたもん。
糸井 あのときはただ来てくれて
ここに馬鹿馬鹿しくいましたよね。
幸喜 明け方までいたじゃないですか。正直言うと、
あー時間が、みたいなのがあって(笑)。
糸井 早く帰れよ!(笑)
幸喜 ほんとに、あのときは・・・。
糸井 この何日かの俺がそうですよ。全部終わって、
家でパソコンぱかって開けるのが5時とか。
そこから明日の準備になると、
明日って、今日だよねもう。痛いね。
幸喜 そのときは3本ゲーム入れるうちの
1本というのが、まだほとんどできてないときで。
それはなぜかというと、赤外線機能の、発光ダイオードは
ついててもそれを動かすOSができていないとか。
だから(赤外線機能に)アクセスできなくて、
ほんと何かむずむずしてました。
いつできるのかな、って。
でも「まだですか」とは言えないし。
で、土台ができていない上で
ものをつくるのは非常にこわいんだけど、
アシスタントのひとたちには
それを気にしないでやっていてくれ、って。
1月のあたま頃っていうのが1番暗いどん底で。
糸井 結局、プログラムのひとたちって、
トライしてエラーしてっていう段階に
入らない限りは、何もやっていないのと
おなじに見えるじゃないですか。
幸喜 それがつらいんですよ。
本当はこういう理由で悩んでいるというのが
あるんですけど、言ってもしょうがないし。
1月2月ですよね。プログラムできたのが。
糸井 そんなんだったんだ!
八谷さんがぼくのところに来たとき、
発売前のキャンペーンの打ちあわせに
来たようなもんだと思ってました。
八谷 逆に、幸喜くんがこんなに苦しんでいるときに
俺ができることは、ふたを開けたときに
「あ、買ってよかった」
と思われるようなことだ、みたいな。
糸井 涙が出るなあー。
八谷 パッケージにクマ型の穴をあけたりとか。
商品ってトータルパッケージングというか、
全部でなんぼだと思っているので。
自分がお客さんにサービスできる部分が
あるなら、それを。
俺はプログラムはできないから。
糸井 このチームおもしろいと思うのは、
できないことについての意識がすごく強いね。
「ぼくは何ができないから」
っていう。
八谷 かわりにこれをやるよ、と。
糸井 それはすごいな。
でも、できないというのを
考えもしないんじゃなくて、
ほんとにここに任せておけばいいというひとが
チームにいたから、できたことなんですよね。

(おわり)

八谷さんたちへの激励や感想などは、
メールの表題に「八谷さんたちへ」と書いて、
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2000-05-07-SUN

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