アートとマーケの幸福な結婚。
ポストペットの八谷さんと、
彼の船出。

第18回 ポスペ・マック版とウインドウズ版

ポケットポストペットがどうできたか?
その前に、ポストペットがどうできたの?
・・・というポストペットにまつわるお話は、
とりあえずは今回までで終わります。
つくリ終えたあとからが、
これまたポストペットのひとたちには
たたかいだったんだよ〜。

ユーザーへの対応について、
主にプログラマー幸喜さんが
苦しんだりしたお話を、どうぞ。

幸喜 どんな構造を実現させるかという
プログラムの点で、最初八谷さんが、
「これはユーザーが2年くらいつかうもので、
 2年経って育ってきたなっていうスパンで」
と言ったんです。
そうなると、普通デバックにするんだったら
ちゃんと2年くらい大きくしないとわからないんで、
ポストペットではそれを
実地にやってるところがあるんで、
そういうすごいゆったりしたなかで
構造が出てきたりするようにしているんで、
ぼくも見たことのないものとか、
「あ、ほんとに出た」
とか、ユーザーが「何々でました」って言ったら、
「あ、ここまで来たな」とか。
「よかった」って。
糸井 そのためにも早くつくったっていうのは、
すごいなあー。
幸喜 今はオープンソースという言葉があるから、
それから現実に来るけど、
ぼくらはソースは公開しなかったけど、
ある段階からは開発工程をオープンにした。
糸井 受け手がいないと
つくり手もつくらないっていうのに
究極は行くと思うんですよ。おそらく。
それの過程でそういう試みって
ちゃんとあるじゃん、っていうのって、いいね。
幸喜 マックユーザーって
インターネットに飢えてて、
ウインドウズ95が出てきたときに、
ウィン版はあったけどマック版っていうのは
なかった時期とかがあったんですよ。
だから、だいぶソフトメーカーから
冷たく扱われてきたマックだったので、
最初の頃にダウンロードしてくれたのが
親切なひとばっかりだったので。
それがものすごい助けになったんですよ。

すごい対照的なのは、
ウィンドウズ版を出したら、
受け手はアラ探しばっかなんですよ。
ウインドウズってやっぱり
プログラマーが多いんで、
「このソフトはどうのこうの」
ってしたり顔でぶつぶつ言う。
で、強烈なひととかと個人的にやり取りしたり。
八谷 でもそういうひとたちのおかげで
鍛えられてよくなったっていうのは
あるんですけど、
最初にだめって言われてたら・・・。
最初にいいっていうひとがいて
鍛えられたからよかったけど。
真鍋 最初にあんなに言われたら・・・。
糸井 どれほど悲しいかは、
言うひとにはわからないよね。
1日気が重いなんて当たり前だよね。
ちょっとしたこと言われただけでもね。
幸喜 気が重いっていうか、
一瞬ものすごく腹が立って、
ものすごーく悲しくなるんです。
ここの振幅がひどくって。
ウインドウズ版出してから3週間くらいは
ぜんぜん家に帰れなくて。
何か気分的に帰れなくて。
何言われるかなって。
糸井 要するに待つわけでしょ?
どのくらい自分が傷を負えるかを、
試さなきゃいけないみたいな。
幸喜 すごい嫌なんですよ。
糸井 俺ほとんど今やってること、おんなじだよ。
傷になるわけじゃないけど、
喜びも悲しみも、絶えずじゃないですか。
そうすると、メールソフトを閉じられないんですよ。
ずーっと刺激を受けることに
慣れているんで、だめですね。
幸喜 その頃っていうのは、疲れて寝てて、
5時間くらい寝て「ぱっ」て目が覚めたら
「何々のバグがでてて」
というこんなにでっかいツリーができてて、
「あー!」
ってバージョン.01みたいなのをつくりつづけてて。
糸井 意地だよね。
幸喜くんの話はおもしろいねえ。
八谷 床にダンボールで寝てて、
ゲームはそうかもしれないんだけど、
ぼくらはじめて直面したから、
「ほんとに帰らないんだ」って(笑)。
糸井 こういうものなんだって(笑)。
真鍋 マイダンボールがあって(笑)。
八谷 ひげが、ベータ1ひげとか
ベータ2ひげがあって、
おわるまで剃らなくて。
糸井 それはゲーム界では当ったり前にやるからね。
幸喜 ですね。
八谷 でもゲームの世界の場合は、
リリースするまで声がきこえないじゃないですか。
でもこっちは途中の声がきこえてくるんで、
躍起になってガシガシやってる。
もう、声がかけられない。
じゃあ、しょうがない、
おれマニュアルつくってるよ、とか。
糸井 あー、わかるわかる。
俺も意味なくいるときあったもん。
牛丼買いにいく役とかね。
八谷 しますします(笑)。
「何か食べるもん、いる?」とかきいて。
それでずーっとマニュアルをつくってたりして。
糸井 それ妙にいいアイデアとか浮かんだりして。
八谷 ああ、でもポストペットのマニュアルは
その頃にしては画期的にやわらかかった。
糸井 ほんとはその、マニュアルがやわらかいとか
インターフェイスのところで
どう気をつかっているかという話を
ききたいんだけど、そこんところを飛ばして、
ポストペットの成功は
みなさんもうご存知でしょうからって言って、
いったん暗転させちゃいたいんです。
で、これに持っていこうかなと。
こんなに大変だった、っていう話を、
ぽーんと消そうと思ってるんですよ。
八谷 その頃、増田さんは・・・みたいな。
糸井 そう。

(つづく)

2000-04-25-TUE

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