八谷 |
着地点を持ちなおしたら、
あとは気合いが入ったというか。
だんだんチームとしてのモチベーションもできて、
日常作業はメーリングリストにしてたんですが、
ほんとにたくさんの会社が入っているんです。
ドコモ、ソネット、カシオ、富士ソフト、
ペットワークス、とか。
あとブラウザの会社や
マニュアルの会社も関係してたし。
メーリングリストでよかったのは、
例えばカシオさんとかって、
午後6時とか7時には家に帰るのかな
みたいな印象があったんですけど、
深夜12時とかに出したメールの返事が
12時20分に来てるとか。
あとは富士ソフトさんも
ぎりぎりまでねばってくれて。
それにはいちいち感動してた。
ぼくとか真鍋さんってちょっとしたこと、
例えば(ゴミ箱の機能の)やぎの位置を、
誤操作を防ぐために数ピクセル動かしたい、とか
そういう指摘をしたとき、
ほかの作業もきついのにぎりぎりまで
がんばってやってくれたり。
お金じゃないんだよ、みたいなところに
全体が動くのが、すごいおもしろかった。 |
真鍋 |
そうなったのって、八谷さんがメーリングリストに
決意表明みたいなメールを出してからじゃない? |
糸井 |
憲法みたいなの、出してるんですか? |
真鍋 |
最初は、何かやっぱり、
簡単に動いている感じがすごくあったんです。 |
糸井 |
3人の組織のままだと
すぐに集まって話しあえるじゃないですか。
ところが、ある距離が入ったときって、
ことばがないと絶対だめですよね。
「ぼくらは何がやりたいんだ」とか、
自分に問い掛けられたら困るようなことを
みんなで共有しないとだめですよね。
大げさに言うと哲学を共有しないと、つくれない。 |
増田 |
それはそう思う。
細かい判断は自分でどんどん
やっていかないといけないんだけど、
ポリシーがみんなで統一で持っていないと。
ポケットボードのときもそう思ったんですけど、
それって重要ですよね。 |
糸井 |
よく会社に行くと社是があったりとか
「地域社会に貢献して」とか、
もうわけわからないこと書いてあるじゃん?
だけど、あれないと、生きられないんだよね。 |
増田 |
わたしもそう思った。
会社に入る前に、マーケティングの勉強で、
「みんなに方針を浸透させることが大事です。
朝は毎日みんなでミーティングをして・・・」
最初はばかにしていましたが、今はわかります。
カシオのひとに、最初は、
「思いつきで言ってもらっちゃ困るんですよ」
って言われていたんですよ。
わたしは思いつきでめし食ってるんだ、
といつも考えていたから、それをきいて
ちょっとびっくりしてたんですけど、
そのうち変わってきてくれたので。 |
糸井 |
でも、増田さん、それ、すごいね。
俺、30くらいのときに、
あらゆるコピーライターにあだ名をつけたんです。
自分がひきうけたのが「単なる思い付き」。
でも、それを自分に言えたときに、
ものすごく気持ちよくなったの。
増田さん今
「思いつきで飯食ってんだよ」
って言ったけど、
これはすごい価値の転換なんだよね。 |
増田 |
「そうなんですかねー?」
とふと言っちゃう素人さかげんが、
ここで言うと価値があるんで、
そういうのをなしにしたら、
ほんとに単なるOLさんと変わらないわけで。
「思いつきで言われたら困る」
と言われたら・・・。 |
糸井 |
八谷さんが夢見た話だって
思いつきじゃないですか。
思いつきがなくて
ものがつくられていくことのほうが
俺には謎だと思うの。
思いつきがあって、何それ?と言いながら、
ほんとにしようぜっていうのが重要ですよね。 |
真鍋 |
メーリングリストを開いても
はじめは閑古鳥が鳴いていて、
だんだんだれてきていて。
だけどそのときに八谷くんが
こういう気持ちでこういうふうにやっているんだ、
と、割と長文で投げつけたんですよね。 |
糸井 |
八谷さんのメールって、けっこう強いんですよ。 |
八谷 |
俺は接着剤にならなければ、と思って。
ロミオとジュリエットって
ほんとに比喩で言ってるわけじゃなくて、
ソネットとドコモはほんと言うと
商売敵みたいなところがあるんです。
両方ともプロバイダだから。
下手するとけんかになっちゃうこともあるから。
調整役としてやりやすいのが
ペットワークスなんですよ。
例えばカシオとドコモさんだと、
やっぱりお金出しているほうと
受注しているほうになるので、
そう考えると、1番調整役としていいのは、
ペットワークスで、もっと言うと俺だから。 |
真鍋 |
あれはたぶんすごく効いたと思う。 |
八谷 |
それはいい方向に転がりだすと勝手に。 |
糸井 |
そのタイミングって、
実は絶妙になっていないとだめなんだよね。
八谷さんにもらったメールって、
ときどき、夜中なんだけど
これ絶対返事書かなきゃなというのがあって。 |
八谷 |
それで2時間くらい経っちゃったりとか。 |
糸井 |
あれね、どう言ったらいいのかな?
本気なんですよ、このひと。
温度を上げたりしているわけじゃなくて、
ただ本気なだけで、無表情でも伝わるというような。
熱いものじゃないですよね。
ただ本気なことを言っているという。
それ、俺もちょっと思ってたんだけど、
寝ちゃおうと思ってたんだ、
っていうようなことが、あったりするんですよ。
すぐに答えを求めているわけじゃないんですよね、
だから楽しいんですよ。
ぼくと八谷さんの1番の違いは、
八谷さんは絶対に自分で動かしてるの。
ぼくと八谷さんの考えていることって、
似てるんだけど、例えばの話、
八谷さんがポスペつくっている間に、
ぼくはできないひとつのソフトに
ずっと悪戦苦闘してきているんですよ。
おなじソフトを8年つくっていても、
時代が走ってっちゃうから、意味なくなる。
だからほんとに「速度」っていう言葉を
もっと早くわかっていればなあ・・・。
そうしたら、60点でいいから
早くつくろうよってなったはずなわけ。
だからさっきのベータ版をつくろうよ、
みたいな話が、文科系の人間には
却ってないんですよ。理科系のひとは、
壊してつくればいいじゃん、とか、
直せばいいじゃん、って言えるんです。
でも文科系は、よく太宰君みたいなやつが
「書けない」
って言ってるような絵があるじゃない?
あれが文科系の1番戯画的なかたちで、
「俺は一生に1本の小説を書くんだ」
とかっていうひとが、
おそらく日本中に100万人いますよね。
俺はほんとはコピー書いてるんだけどさ、とか。
いるんだって!絶対(笑)。
女の子口説くときだって、
「恥ずかしいから発表しないけど・・・」
なんて言ってるやつが、いるに違いないんだよ。
でもね、そのひとは一生書けない。
俺はちょっとだけ乗りこむ力があるから、
レールをひきながら走っちゃうんだけど、
八谷さんはそこで、
「レールがあるから
ひかなけりゃいけないんじゃないか」
みたいに考えるんだろうね。 |
八谷 |
タイヤで走ればいいやって。 |
糸井 |
そうそうそう!ポスペのときも、
俺と仕事一緒にしてるようなやつの、
八谷さんに対する嫉妬、すごかったよ。
「一生ぼくはポスペしないです!」
とか。でもそいつはポスペほんとは好きなわけ。
何で俺はできなかったのか!
って、悔しくてしょうがないわけ。
でも、やつらには、
何が欠けてるかを整理する力がない。
(つづく) |