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質問へのお返事第二弾の前に 「調子に乗って、昨夜一本書きました。」 というメールが斎藤さんからやってきました。 観測隊の休日は、 なんだかとっても楽しそうです。
JARE47レクレーション係企画「カーリング大会!」。 【註】JAREは 「Japanese Antarctic Expedition Research」の略称です。 ジャレと呼び、第47次南極観測隊はJARE47、 ジャレヨンナナと言います。 日本南極地域観測隊の英訳でExpeditionとなっています。 南極は探検の域なのです。 競技場はオングル島、第1夏宿横の貯水ダム。 ダムの底、 といっても深さは5〜60センチ程度、 すっかり底が見える透明度の高いきれいな氷です。 競技開始は12時半。 氷に描くラインは、やっぱりダムの上だし、 ペンキじゃなくて食紅で。 天気、晴れ。 コンディションは最高。 あとはプレイヤーを待つばかり。 ある休日に第一回スポーツ大会が開かれました。 「みんなやりましょう!」と基地内放送でよびかけ、 20人が参加しました。ほぼ半数です。 仕事の人もいるし、 夜勤明けで寝ている人もいますから、 このくらいの人数になるでしょう。 さてチーム分け。 これは自然のなりゆきで決まります。 私たちが住んでいる居住棟は二階建て。 そしてそれが二棟。 ということは、そうです、 各棟2チームで4チーム。 それぞれ1居1階、1居2階、2居1階、2居2階、 呼びかたは 「イッキョイッカイ」「イッキョニカイ」‥‥ という具合。 昭和基地の住人は36人なので 全員揃うと1チーム9人になりますが、 今回は4、5人が1チームです。 このチーム分けは越冬開始直後からできていて 何をするにも便利です。 たとえば食事後の食器洗いや大掃除、 宴会準備などなど。 チーム単位で振り分けるとスムーズに行くのです。 ちなみに二つの居住棟は「村」と言い、 それぞれ村長が選ばれています。 こうして20人が居住棟ごとにわかれ、 どのチームも目指せ「チーム青森!」と始まりましたが、 誰もルールを知らないことに気がついた。 誰かが「北海道の人なら知ってるよねえ」 と北海道の人に聞くと 「そんな北海道だってみんながやるわけないべ〜」 とこんな調子。 まあまあそれじゃあ「南極ルール」で、 と結局、剣道の団体戦みたいに 先鋒、次鋒、中堅、大将と 各チームが一人ずつ出てきて一投し、 中心に近いほうが勝ちという 観測隊らしい単純なルールとなりました。 そうそう道具ですが、 まずストーンは廃品になったフライパン、 へこんだボウル、 欠けた洗面器に水を張って一晩おいて凍らせたもの。 小さい万力が持ち手になった苦心の作です。 ブラシは風呂場でお役御免になったデッキブラシ。 靴は長靴。 転んで頭をぶつけて医者の世話にならないように 建築現場ヘルメット着用。 オリンピックもこれでやってほしいなあ。 いやいやきっと始まりはこんなものだったと思うのだが、 真意は不明。 さて競技開始です。 すると滑らない! 「そうか、氷温が低いかあ」 ともっともらしいことを言う隊員に、 「それじゃあ水をつけて滑りやすくしよう」 と言う人も。 するとこれがまたいい具合に滑り出し、 どんどん楽しいことに。 そして興が乗ったころ、 力自慢の一投で洗面器が暴走し、 氷だけが飛び出した。 でもそれを滑らせると、 よりいっそう本物らしくなって大騒ぎ。 いかに滑らそうかと理論派、力学派、 何も考えない派がいろいろ作戦を練り、 最後にはそこそこ要領をつかむまでになるから面白い。 しかもみんなはじめてだからより面白い。 しかしまあ、何もないところで、 その辺にあるものを使ってよく考えるものです。 こういう想像力がいろんなところで役に立つ南極です。 さて、ちょっと横道にそれますが、 私たちはトリノオリンピックを 南極でどのように観ていたと思いますか? 南極でテレビは見られないんです。 情報源はインターネットのニュースと、 インターネット回線を利用した新聞です。 見られない訳は テレビ用の人工衛星は赤道付近にあり、 これを南極から見ると地平線の近くになってしまい、 衛星がとらえにくくなっているからです。 技術的には可能らしいですが、 テレビ放送を受信しようという計画は 今までにはありませんでした。 というわけでカーリングで大活躍をした 「チーム青森」ですが、 正確に言うと動画は見てません。 せっかくなのでちょっと難しい話ですが テレビのことも‥‥。 テレビ用の人工衛星は 地球の自転と同じようなスピードで地球の周りを回っています。 すると地球のある地点から見ると いつも同じところに衛星があり、 止まっているように見えます。 これを静止衛星といいます。 身近にある静止衛星は気象衛星「ひまわり」ですね。 よくテレビの天気予報で 「ではひまわりの画面で‥‥」。 すると、いつも日本列島が上から見えています。 これは日本の上空を 地球と同じようなスピードで回っている 衛星から見ているからなんです。 これとは別に ある一定のスピードで回っている衛星があります。 夜空を眺めていると、 時々見ることができますが、 東京ではちょっと難しいかな。 最近、普及してきたGPSは 地球を回っているいくつもの衛星の中から 一番条件のよい衛星を いくつかとらえて位置を計算しています。 こういうように人工衛星(正しくは人工天体です)は けっこう身近でお世話になっていると思います。 テレビは見られませんが、 これからはインターネット回線を利用し、 動画のニュースを見るようになりそうです。 昭和基地もだんだん通信環境が整い始め、 これまでに日本のいくつかの小中学校と昭和基地をつなぎ、 テレビ会議が行われました。 これからはこうした機会が多くなり、 南極をより身近に感じられるようになっていくでしょう。 2006年3月19日 気温−6℃ 風速4m/sほど 久しぶりの青空。 昭和基地 斎藤健 ************************* 「カーリング」の原型は こうだったのでは?! と思ってしまう「チーム南極」の楽しみ方ですね。 斎藤さんだけでなく、 「チーム南極」へのエール、 そして思いついた疑問・質問は いつでも件名を「南極観測隊斎藤さんへ」として postman@1101.comまで ぜひメールをお寄せください。 勢いに乗って メールを書いている斎藤さんに 拍車をかけましょう! 南極観測について、 さらに知りたいという方は こちらの「極地研究所」のホームページも ぜひご覧ください。 |
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