永田 |
いや〜、お疲れさまでした。 |
西本 |
あああ、お疲れさまです! |
糸井 |
はい、はじめましょうか。 |
西本 |
これ、家でひとりで観てたら泣いてましたね。 |
糸井 |
おおっ。 |
永田 |
今回、いままでのなかで、
個人的にベスト1ですね。 |
糸井 |
おおっ。 |
西本 |
ぼくもベスト1です。 |
糸井 |
えっ、そう来たか。
あああ、そう。そうですか。
まあ、ぼくは‥‥まず、歯が痛くて。 |
西本 |
それは、それは。 |
永田 |
もったいないことをしましたね。 |
西本 |
じゃあ、もう一回、
ゆっくり観たほうがいいんじゃないですか。 |
糸井 |
いや、もちろんちゃんと観てましたし、
おもしろかったですけど。ベスト1? |
永田 |
はい、ベスト1ですね。
ていうか「これが最終回でもいいや!」とさえ。 |
西本 |
ぼくも、竜二の破門がとけたところでは
最終回のような気持ちになりましたよ。
いやあ‥‥すごかった。 |
糸井 |
ちょっとふたりの話を聞いてようかな?
これまでにない展開ですね。
いや、もちろんよかったですよ。
すごくよかったですけどね。 |
西本 |
鳥肌たちましたよ。 |
糸井 |
永田くんも? |
永田 |
鳥肌たったというのとはちょっと違うかなあ。
というか、自分で「ベスト1」と
言っておいてなんですけど、
にしもっちゃんが
「ベスト1」と言うとは思わなかったな。 |
西本 |
こらこらこら、それおかしいやろ。
ふたりでほめ合っていくべきところやろ。 |
ふたり |
どこがベスト1? |
西本 |
どこが‥‥って、
観た直後にいきなり言われても。
ちくちくと、
いろんなところに反応してましたが。
う〜ん、とにかく一気にもっていかれましたよ。
途中、何度も泣きそうになったもん。 |
永田 |
あ、やっぱりちょっと違うな。
何度も泣きそうにはならなかったもん。 |
西本 |
こらこらこらこら、キミキミ、
ここは話合わせて、
2対1の展開で盛り上げていくところやろ。 |
永田 |
何度も泣きそうにはならなかったけど
ベスト1です! |
西本 |
ほんとにこの人は強情だな。 |
糸井 |
ツボって人によって違うもんだなあ(笑)。
ぼくにとっては
「すごくあったかいお話」という回でしたね。 |
永田 |
ぼくは、とにかく、よくできているというか、
「きれいな回だなあ」と思いました。 |
西本 |
ぼくは、「芸人っていいなあ」という感じです。 |
糸井 |
なるほど‥‥。 |
永田 |
三者三様‥‥。 |
西本 |
ええ‥‥。 |
糸井 |
‥‥‥‥。 |
西本 |
‥‥‥‥。 |
永田 |
‥‥‥‥思いのほか、
話が弾まない展開になりましたね。 |
西本 |
あんたが
いきなり細かいこと言い出すからだろう。
とりあえずふたりで
「よかったよかった!」って言っておけば
景気よくはじめられたのに! |
永田 |
だってしょうがないじゃん!
なんか、微妙に違うんだもん! |
糸井 |
まあまあ。
ひとまずインターバルを置いて、
くだらない話でもしましょう。 |
永田 |
じゃあ、なに? 糸井さんの歯? |
西本 |
それでいいんじゃない? |
永田 |
じゃあ、糸井さん、
歯はどうなんですか。 |
西本 |
痛いんですか。 |
糸井 |
そんな訊きかたがあるか! |
西本 |
奥歯ですか? |
永田 |
奥歯ですか? |
糸井 |
‥‥親知らずですよ。 |
ふたり |
へえええ〜。 |
糸井 |
そんな反応があるか! |
西本 |
くだらない話を
むりやりやってもダメですよ。 |
永田 |
そりゃそうだ。やめよう。 |
糸井 |
やめるのか! |
西本 |
糸井さんが「ベスト1!」っていう
感じじゃなかったのは
どうしてなんですかね。 |
永田 |
あ、なるほど。それでいこう。 |
糸井 |
いや、べつにね、
よくないわけじゃないですよ。
「ベスト1」とか「鳥肌!」とか
そういう感じではなかったというだけで。
その‥‥つまり‥‥奥歯が。 |
西本 |
奥歯が? |
糸井 |
痛かっただけに‥‥。 |
永田 |
痛かっただけに? |
糸井 |
奥歯にモノがはさまった‥‥。 |
ふたり |
‥‥‥‥。 |
糸井 |
言いかたをしてしまった‥‥と。 |
ふたり |
‥‥‥‥。 |
糸井 |
‥‥‥‥。 |
ふたり |
しょうがないねえ〜。 |
糸井 |
まあ、マジメにいうとね、
ひとつは、そうだなあ、
『猫の皿』が完全には
できてないように思えたんです。 |
永田 |
え、そうですか? |
糸井 |
つまり、
価値のあるもの(梅鉢)を
価値がないもの(猫の皿)のように
見せておいて、
道具屋が
「それが欲しいわけじゃないんだよね」
という形で騙してくるのを
店の主人が騙し返す、
という『猫の皿』の醍醐味の部分が
ドラマのなかにはできてないように
見えたんですよね。 |
永田 |
あああ、まあ、厳密に言うとそうなりますか。 |
糸井 |
う〜〜〜ん、でも、そんなに厳密に
違いが気になったわけじゃないなあ。
まあ、そういうのも、
ちょっとあるっていう感じで。
どうも今日は、奥歯にモノが‥‥。 |
西本 |
それはもういいです。 |
永田 |
まあ、「騙し合い」部分はなかったですけど、
ぼくはどっちかというと、
見事に『猫の皿』を
重ねてるように思えました。
たまたまぼくは『猫の皿』の噺を、
聴いたことがあって知ってたんですけど、
もともとの落語が、
すごくきれいな流れの噺じゃないですか。
展開も読めないし、サゲもいいし。 |
糸井 |
うん。よくできた噺です。 |
永田 |
だから、これをどうやるのかなと思ってたら
序盤の、西田さんの高座の部分で、
いきなりサゲまで
一気に行っちゃったでしょう?
で、あんなきれいな噺を先に見せちゃったら
やりづらいんじゃないかなと思ったら、
さらにきれいに重ねていった。
だらかもう、ほんとうに、
「なんてきれいな回だ!」
っていう感じでベスト1なんですよ。 |
糸井 |
そうですね。 |
永田 |
「そうですね」って(笑)。 |
西本 |
ちなみにぼくは『猫の皿』が
一本の筋としてありながら
それに『子別れ』が裏の軸として
からみ合っていってるように思えて、
そこに芸人社会が映し出されていく様子が
すごくいいなあ、と思ってました。 |
糸井 |
ああ、『猫の皿』と『子別れ』の
2本を立ててたっていうわけだね。 |
永田 |
『子別れ』は聴いたことがないんですけど
どういう噺なんですか? |
糸井 |
簡単にいうと
「子は、かすがい」っていう噺でね。
仲の悪い夫婦が子どものおかげで
仲直りするっていう噺なんですよ。
だから、今回はタイトルは『猫の皿』だけど、
その裏っかわに、竜二がやり損ねた
『子別れ』が隠れているともいえるんだね。
それはすごい仕組みですよねえ。
というか、なんでこんなに
おもしろくてよくできてると思ってるのに
オレは「ベスト1!」っていう声に
「そうだ!」って言えないのかなあ。
‥‥ちょっと置いといて、
べつの話をしませんか。 |
永田 |
そうですね。 |
西本 |
前半は高田さんがよかったですよね! |
永田 |
よかった! |
西本 |
笑えるし、テンポ上げるし、
全体をうまく混ぜる感じで。 |
糸井 |
高田さんはなんであんなに
物おじせずに演技できてるんですかね。
驚きましたよね。 |
西本 |
持ち味そのままでしたよね。
演技しているはずだから
つまり、それがちゃんと
芸になってるんですよね。 |
糸井 |
それがああやって
ドラマで再現できるということは
つまり、ふだんも芸なのか! |
西本 |
そうなんですよ! |
糸井 |
あらためて感心しますね。 |
西本 |
あと、ぼくが感心したのは、
高田さんの声が、
ちょっとオフぎみで入ってて、
メインのセリフ、本線を邪魔しないんですよ。
つまり、マイクの横にいるような感じで。 |
永田 |
あ〜、『オールナイトニッポン』だ。 |
西本 |
そうなんですよ。
ビートたけしさんの声が主旋律で
そこを邪魔しない、あの感じですよ。
あの感じをきちんと出してるのが
うまいなあと思いましたね。 |
糸井 |
なるほどね。 |
永田 |
あと、宮藤さんが昔、
高田さんのファンだったっていう話を
聞きましたけど、それってつまり、
「超あて書き」したっていうことですよね。
宮藤さんの力も大きいんじゃないですか。 |
糸井 |
でもさあ、自分の役をするって、
逆に難しいと思うよ。
たとえば永田くんが
永田くんの役をやってくれと言われたらさ、
きっと困ると思うんですよ。 |
永田 |
オレがオレの役、ですか? |
糸井 |
つまりさ、
『糸井事務所物語』というものがあって、
永田くんが永田くんの役をするんだよ。
「どうして永田くんは
あんなに不機嫌そうなんですかね?」
とオレらがウワサしているところに
あなたが不機嫌そうな顔をして
やってこなきゃいけないんですよ。
そういうふうに台本に書いてあるんですよ。 |
永田 |
ちょっと待ってください。
ぼくは不機嫌じゃありませんよ。 |
西本 |
で、台本には、
「ぼくは不機嫌じゃありませんよ」
って書いてあるんですよ。 |
糸井 |
そうそう(笑)。 |
永田 |
なんだか不機嫌になる設定だな。 |
西本 |
「なんだか不機嫌になる設定だな」
とも書いてあるんですよ。 |
永田 |
えーー! |
糸井 |
ト書きでちゃんと
「──永田、不機嫌そうにつぶやく」
って書いてあるわけです。 |
西本 |
「──永田、またしても
地下鉄の乗り継ぎを間違える」
って書いてあるわけです。 |
永田 |
また地下鉄の話かよ。わるかったよ。
こないだもホームの逆っかわで待ってて、
もうちょっとで反対方向に乗りそうになって、
「いかんいかん、危ないところだった」
と思って
あわててホームの反対側の列に
並んで待ってたら
そもそもホームが違ったよ。 |
西本 |
与太郎級ですね。 |
糸井 |
よっ、ひとり『粗忽長屋』! |
永田 |
「向かいのホームで待ってるオレは
いったい誰なんだろう」? |
糸井 |
そういう役を演じろと言われたら
やりにくいでしょう? |
永田 |
ええ、とにかくやりづらそうです。 |
糸井 |
それをあんなにのびのびとやっているのが
高田文夫という人なんですよ。 |
西本 |
しかも、画面上では決してメインに出ず、
微妙に外した立ち位置をキープしつつ。 |
永田 |
さらに、自分を演じる横には、
大俳優の西田敏行さんがいたりして。 |
糸井 |
体の使いかたみたいなものまで
ちゃんとできてたもんなあ。すごいよ。 |
西本 |
ものの見事に自分を演じてましたね。
ぼくら、高田さんが生でしゃべってるのを
拝見してるじゃないですか。
「落語パラダイス」の対談のときに
事務所にいらっしゃったから。
あのまんまでしたよね? |
永田 |
あのまんま、あのまんま(笑)。 |
西本 |
高田さん、予定時間より
早く事務所に来られてたんですけど、
糸井さんを待っているあいだ、
事務所にあるものを片っ端から
あの調子でいじってましたもん。
本からハラマキ、タオルまで。 |
永田 |
「なに、本出したの? 自分たちで?
へっえぇ〜、えらいもんだねえ〜」 |
西本 |
「ん? ハラマキ? これもつくった?
ああそう? おどろいたねえ〜」 |
永田 |
「ああ、こっちで収録?
お、和室があるよ、えらいもんだね」 |
糸井 |
「和室、バウバウ!」 |
西本 |
「タオル、バウバウ!」 |
永田 |
「灰皿、バウバウ!」 |
西本 |
いやほんと、ふだんが芸ですよ。
それを演じろと言われて
ふつうに演じられる芸人さんなんですよ。 |
糸井 |
いるんだね、そんな人間が。 |
永田 |
糸井さんだったら
明らかに拒否反応を示しますよね。
「糸井重里っぽい役とセリフ」
みたいなものを用意されると。 |
西本 |
いや、実際、そんなんばっかです。 |
糸井 |
ふだん、役を演じてないですからねえ。
なすがままにしてるので、
「なすがままをやってください!」
と言われると「えっ!」ってなるんだよ。
それでいつもぎくしゃくしちゃうんだ。 |
西本 |
そういう意味では
NHKでオンエア中の
「月刊やさい通信」は要注目ですよ。 |
永田 |
あ、ちょうど今日、ビデオ観たよ。
かたかったですねー。 |
西本 |
もう、がっちがちでしょ。 |
糸井 |
やかましい。 |
永田 |
あぜ道を糸井さんがカメラに向かって
歩いてくるだけなんだけどさ。
もー、かたくてかたくて。
オレはカメラのこっち側にいる
にしもっちゃんの姿が見えるようだったよ。
こう、腕組んで、心配そうにね。 |
西本 |
とくに最初の段取りのところは
もう、目が怒ってるからね。
「『月刊やさい通信』、始まります!」って。 |
永田 |
ほんわかしたタイトルなのに。 |
西本 |
あの目の鋭さは、どっちかというと
「社会派やさいドキュメント」ですよ。
こないだのオンエアは
雄大な長野の自然をバックに
コメントしてるんだけど、目が恐いから、
糸井さんがしゃべる場面だけ
台風中継みたいになってるんだもん。 |
永田 |
わははははははは。 |
糸井 |
‥‥きみらが一度、やってみなさい。 |
ふたり |
絶対、イヤです。 |
糸井 |
まあ、とにかく、そんなオレだからこそ、
高田文夫という人のすごさがわかるんですよ。
もともと、すごいなとは思ってたけどさ、
あんなにできるっておかしいよ。 |
西本 |
自分の役の「あて書き」なんて、
役者さんでもやりにくいはずですからね。
先週でいうと、薬師丸ひろ子さんに
「ちゃん、りん、しゃん」を
やらせるようなもんですよ。 |
永田 |
古いね、どうも。 |
糸井 |
それなのにね、あんなにのびのびと演じて、
スポーツ新聞を読んでみたりとかね。 |
永田 |
「日刊スポーツ」だ(笑)。 |
西本 |
あれは笑ったなあ。 |
糸井 |
今回はとくに
小ネタがいちいちおもしろかったな。 |
西本 |
ええ。どうでもいいようなことが
いちいちヒットするんですよね。
そのへんの打率は、ほんと高い。 |
糸井 |
そのへんが「ベスト1」の理由? |
ふたり |
違います。 |
糸井 |
違うよなあ。そうじゃないよなあ。 |
永田 |
今回、小ネタもたしかに
おもしろかったですけど。 |
西本 |
「ふかわりょうのほうがおもしろい」とかね。 |
糸井 |
「やっぱり猫が好き〜」とか。 |
永田 |
グーグーガンモと響子さんの本人吹き替えとか。 |
西本 |
酔っぱらった次長課長の河本さんとか。 |
糸井 |
「泣くぞ、泣くぞ」の
さゆりちゃんシリーズとか。 |
永田 |
でも、小ネタはいつもおもしろいわけで。 |
糸井 |
そうだよね。 |
永田 |
やっぱりそれ以外の大きな軸のうねりが
見事だったと思いますね。
端的にいうと、これまでのなかでもっとも、
「1分先にどう展開するかわからない」
っていう回だったような。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。 |
永田 |
終わってみれば、
「いままでかたくなに落語を封印してきた
竜二がついに落語をやる」という、
じつはすごい回だったんですけど、
ラスト15分くらいまで、
そんな重要な展開になるとは
思わずに観てましたから。
だから、前半がすごくきれいで、
最後のところでグワッとうねるという‥‥。 |
糸井 |
あああぁ‥‥わかった!
オレが、この回、おもしろいって思ってるのに
ちょっと距離を感じちゃう理由。 |
永田 |
‥‥ああ、ぼくも、わかりました。 |
糸井 |
なんだと思う? |
永田 |
あれですか? 最後の、落語。 |
糸井 |
竜二の? |
永田 |
竜二の。でしょう? |
糸井 |
うん。 |
永田 |
あああ、そういうことかあ。
あそこはぼく、天才落語家の落語として、
きちんと変換してましたよ。 |
糸井 |
なるほどね。ぼくは引っかかっちゃった。 |
西本 |
ああ、なるほど。
最後の竜二の落語が、
もっと「ものすごい落語」に
聞こえてほしかった、と。 |
糸井 |
いや、しょうがないんだよ。
というかね、あの展開で、
場をひっくり返す落語なんて、
うまいだけじゃダメだから、
ほんとに真打ちの人がやったって
きびしいと思うんだ。
つまり、「みんながぶっ飛ぶ落語」を
やってみせなきゃいけないわけだからさ。 |
永田 |
そうですね。だからぼく、
竜二がマイクを避けてスッと座るところで
「落語自体は見せないつもりかな?」と
一瞬、思ったんですよ。 |
糸井 |
そういう手はあると思う。 |
西本 |
あえて見せないことで
「天才落語家のぶっ飛ぶ落語」
を表現するという。 |
永田 |
あの、昔、スピリッツで、
『俺節』っていう
演歌のマンガがあったんですけど。 |
糸井 |
はいはいはいはい。 |
西本 |
はいはいはいはい。 |
永田 |
「ぶっ飛ぶ演歌を歌う青年」
が主人公だったんですけど、
あれは、マンガだから成立するんですよね。
マンガからは実際の音が聞こえないから、
「ぶっ飛ぶ演歌」が成立して、
主人公の才能が説得力を持つっていう。 |
糸井 |
テレビだと、見せられるからね。
で、見せたんだよね、やっぱり。
あの、頭の固い審査員たちが拍手をするという
どんでん返しをもたらす落語を。
無理とはいえ、あえて表現したんだ。
オレはそこのところで
連れて行ってもらえなかったんだよ。 |
永田 |
ぼくは、「天才落語家」の落語として
聴いてましたね。
もう、なんでしょう、
去年のスペシャルからの流れも含めて、
「ここまでたのしくドラマに
もてなしてもらったんだから
もちろんこれは天才落語家の噺です」
みたいな感じで。
天才の落語として聞きますよ、と。 |
西本 |
そのふたつの観かたの違いは大きいですねえ。 |
糸井 |
大きい。 |
永田 |
超デカい。 |
糸井 |
思えばそういうことって
ほかのものでもさんざん経験してますよね。
たとえば、野球映画。
主人公のピッチャーがびゅうっと投げて
バシーンとキャッチャーが捕る場面。
これ、どれだけ野球経験があろうとも、
役者が投げてるフォームが
そのままふつうに映ったら、さめますよね。
ボクシング映画なんかもきっとそうですよ。 |
永田 |
あああ〜、そうだ。ほんとだ。
しかも、その話で、
新たなことに気づきました。
ぼく、野球映画だと、頭のなかで
「これはメジャーリーグの投手の球だ」って
変換しないような気がします。 |
西本 |
あ、野球ファンだから? |
永田 |
そう。「そこは譲れない」ってことに
なるんじゃないかと思う。
だから、やっぱりぼくは、
落語ファンとして浅いんですよ。 |
糸井 |
そういえばぼくは釣りファンですけど、
『釣りバカ日誌』もダメなんですよ。
まったく同じ話になりますけど、
ようするに、釣りのシーンが
どうしても引っかかっちゃうんです。
ほんとうに釣れてないから。
糸の先に、あらかじめ魚がついてるのが
竿の動きでわかるんですよ。
これは、釣りを知ってる人にとっては
キツいんですよ。
あれが、魚としばらく押し引きして、
っていう釣れかただったら、
映画の観かたがぜんぜん違うんだけど。 |
永田 |
まえの回でさ、
にしもっちゃんが古田新太さんのツッコミに
「キックはもっと高く跳んで
きれいに蹴ってほしかった」って
ほんとの芸人さんに言うようなこと
言ってたけど
あれもいっしょだよね。 |
西本 |
そうですね。
やっぱり前職(吉本興業)が
そういう職種でしたから。
なにしろ、漫才を生で観た数は
落語に比べて圧倒的に多いですから。 |
永田 |
あ、そういうので言うと、
ぼくは前職がゲーム雑誌だったから、
ドラマやCMのなかで
「ふだんゲームしてない人が
ゲームをやっている場面」っていうのが
すっごい気に触るんですよ。
「そんなふうに顔の前で
コントローラーを持ったりしねえよ!」
みたいなことになっちゃう。 |
糸井 |
ずいぶんまえに、
コピーライターが主人公の
ドラマがあったんだけど、
それは観られなかったなあ。
ありえないだろっていうことの連続で。 |
永田 |
ちょっとまえに、デリバリー版で
「職業病」の特集をしたときも
そういう意見がたくさんありましたよね。
医者とか看護婦やっている人が
『白い巨塔』を素直に観られない、とか。 |
糸井 |
譲れないところがあるんだね。
格闘技好きにとっては
腕をひねっているシーンで
いくら「いてててて!」と言ってても
「それじゃ痛くない!」だとか言ってね。 |
西本 |
それはあるでしょうね。 |
永田 |
自分の分野がいろいろあるんですよね。
フィクションを、ファンタジーを観るときも
「ここだけはドキュメント性がなきゃダメ!」
っていうようなところが。
だから、今回の話でいうと、
落語を深く好きな人ほど、
最後のところで引っかかる可能性があるのか。 |
糸井 |
なにしろ「天才落語家」という設定ですから。
自分をよく思っていない落語協会の人を
落語の力でひっくり返すわけですから。
いや、岡田くんはとってもうまかったですよ。
でもね、たとえば落語っておかしなもので、
「二十代の子がやっている」というだけで
伝わらなかったりするんですよ。
まったく同じことをやってても
その人が72歳になったら
よく思えちゃうんだよ。
なんていうか、苔みたいなものがつくわけ。 |
西本 |
ああ、昔、糸井さんが言ってた、
「70歳のおじいさんが言うのと
5歳の子どもが言うのとでは
ぜんぜん印象が違うことば」
っていうのがありましたねえ。 |
糸井 |
ああ、あれか(笑)。 |
永田 |
なんですか、それ。 |
糸井 |
つまりね、
「女ってえのは、困ったもんですね」
というのを小学生に言われてごらんよ。
冗談にもならないでしょう?
ところが70歳がそれを言うと、
意味がきちんと出てくるんですよ。
おじいちゃんが、こう、
「女ってえのは、困ったもんですね」 |
永田 |
なるほどなるほど(笑)。 |
糸井 |
じゃ、それを25歳に言われてごらん。
30歳は? 40歳ならどう? |
永田 |
どんどん印象が変わりますね。 |
糸井 |
うん。歳をとるにしたがって
同じことを言ってても
人が聞いてくれるということがあるんです。
志ん朝さんがなくなったときに
なんであんなに惜しまれたかというと
やってることに年齢が追いついて、
ものすごく聞けるようになったという
ところだったからなんです。
あんたもう上手になんなくていいよ、
もう、自然に歳をとるだけでみんながバンバン
ひっくり返ってくれますよ、っていうね、
オセロの角を全部押えた状態だったのに、
歳をとるまえに死んじゃったからなんです。
それで「えええ!」とみんなが悔やんだんです。
まあ、だからね、ドラマの話に戻ると、
演出のせいでも落語のせいでも
もちろん岡田くんのせいでもないと言いながら、
それでも言わなきゃなんない
ツラさがあるんですが、
やっぱり最後が乗れなかったんですね、ぼくは。
徹底的にリアリズムを求めているわけでは
もちろんないんだけど、
その、さっき永田くんがちらっと言った、
「あえて見せない」ということも含めて
「ふつうの落語じゃなく見せるデフォルメ」
があってもよかった気はしますけどね。
わかんないけど、ものすごく下手な落語を混ぜて
ものさしをわかりやすくするとか。 |
西本 |
あとは、目の前の大勢の客を
笑わせていくという表現もありますよね。
実際は審査員しかいなかったけれども
お客さんが入っているという設定にして。
審査員の反応よりも
お客さんがどれだけ受けているのかで見せる。 |
永田 |
ああ、なるほどね。
そういえば虎児の落語も、
お客さんの反応によって
優れてることを表現してるんだよね。
実際、あれがおもしろいかどうかって
ぼくらは判断してないもんね。 |
糸井 |
あとはまあ、泣かせてもいいですしね。
劇中劇にするっていう手もありますよね。 |
西本 |
あ、なるほどなるほど。 |
永田 |
なるほどなあ‥‥んん?
でも、あれですよね、いま言ったような、
「ぶっ飛ぶ落語に見せる工夫」っていうのは
この『タイガー&ドラゴン』を作ってる人は
当然、わかってますよね。
いまぼくらが言ったようなことを
選択肢としてずらりと並べたなかで、
あえていまのやりかたを選んだ、
っていうわけですよね。 |
糸井 |
そのとおりですね。
あの人たちは知っててああしてるわけですから、
それはもう、誰にも文句は言えないんです。 |
西本 |
そうですね。 |
永田 |
うん。 |
糸井 |
まあ、とにかく今回は、ストーリー上
重要な回だったというのはたしかですね。
けどあれだね、やっぱりこの段階に来ても、
ぼくはまだ竜二より虎児のほうに
肩入れして観ていますね。
それはなんか、おもしろいもんだね。
もう、親しんじゃったんだろうね。 |
永田 |
ぼくもそうですよ。 |
西本 |
ぼくもそうですよ。 |
糸井 |
虎児という人に惹きつけられてますよね。
あの、「じゃあオレが出て行く」って言って
西田さんが「さみしいこと言うんじゃないよ」
っていうところなんか、よかったよねえ。 |
永田 |
あ、今回、泣いたところはあそこです。 |
西本 |
そこはわかりましたよ。
「ハイここ、永田、泣く!」
っていうポイントでしたよ。 |
永田 |
またそれか! |
西本 |
いや、でも、今回は
自分でもグッときてましたけどね。 |
永田 |
でもさあ、宮藤さんの書く話っていうのは、
ほんとうに、突然くるよね。
いつくるかわかんないから、
「うわ!」ってすぐ入っちゃう。
だって、今回のあの場面にしても、
時間的に早すぎるでしょ。
ふつうのドラマなら、
後半の8分目くらいに
満を持して出てくるようなシーンでしょ。
でも、序盤も序盤に出てくるんだもんな。
ちょっとおかしいよ。
2番バッターがノーアウト一二塁から
強引に引っ張って
ホームランするようなもんでしょ。 |
糸井 |
気が抜けないというか、
気持ちよく虚を突かれますよね。
笑わせにくるかと思えば泣かせるし。
だからぐんぐんくるんですよ。
小日向さんの、人情噺をやりながら
自分で泣いちゃうっていうのもよかったなあ。 |
ふたり |
あれ、最高。 |
糸井 |
まあ、諸君はお若いですから
きっと知らないでしょうけど、
笑いがこんなに肯定されていない時代の
落語っていうのは、ほんとうにあったんですよ。
ぼくも子どもながらにね、
笑える落語よりも、泣かせる落語のほうが
「なんだか本物っぽいぞ」って
子ども心に感じてたことがあったんですよ。 |
永田 |
あ、そうなんですか。 |
糸井 |
そうなんです。
つまり、林家三平はおもしろいけど、
これが落語の本流じゃないぞっていうのは
子どものぼくですら、感じてたんです。
そういう時代だったんですよ。
その象徴が、あの小日向さんの
役なんじゃないかと思うんですけどね。
小学生だったオレも、あの当時は
人情噺を聴いては泣いてたりしたんですよ。 |
西本 |
へええ。 |
糸井 |
「志ん生がいいよね」っていうようなことを
みんなが平気で言ったりとか
「三平再認識」みたいなことって
ホントに1970年以後のことですよ。
まあ、それはともかく、
今週はこのへんにしておきましょうか。 |
永田 |
そうですね。 |
西本 |
あっ、そうだ、『タイガー&ドラゴン』とは
違う話になりますけど、
テレビガイドとしては
触れておかなくてはならないことがあります。
なんと、『新選組!』の続編となる
単発のドラマが
制作されることが発表されました! |
糸井 |
よっ! (ぱちぱちぱち) |
永田 |
五稜郭! (ぱちぱちぱちぱち) |
糸井 |
で、誰が出るの? |
永田 |
どこからどこまでの話? |
西本 |
‥‥知りませんよ、そんなこと。 |
糸井 |
お正月? 年末? |
永田 |
何時間? |
西本 |
知りませんって。 |
ふたり |
もーーーー。 |