永田 |
お疲れさまです。 |
西本 |
お疲れです! |
糸井 |
で、どうなんですか? |
永田 |
たったいま第9話を観おわったところですが、
なぜ我々があわてているかというと‥‥。 |
西本 |
どうやらそろそろ終わっちゃうぞ、
っていうことに突然気づいたからで。 |
永田 |
だって、いまの予告編、
どう考えても「品川心中」でしょう? |
糸井 |
それっぽかったよねえ。
「品川心中」が最後のほうにあると、
ぼくは人づてに聞いてたもんですから。 |
西本 |
まさか、11回で終わり? と。
だとすると、来週がラス前? |
永田 |
大慌ての男子部です。 |
糸井 |
な〜んの根拠もなく、
1クールだから13回くらい?
って思ってましたからね。 |
西本 |
とくに資料をもらっているわけでもないですし。 |
永田 |
ていうか、ただの視聴者だからね。 |
西本 |
ときどき誤解されるんで言っておきますが、
ぼくら、放送される金曜の夜10時まで、
な〜んにも知らない状態です。 |
永田 |
ていうか、ほんと、ただの視聴者だからね。 |
糸井 |
まあ、『離婚弁護士』のときからそうですけど、
放送時間の5分前くらいになって、
慌ててテレビの前に集まるというね。 |
西本 |
おーいはじまるぞぉ、なんつって。 |
永田 |
ていうか、ほんとに11話で終わり? |
糸井 |
オレの知っている限りでは、
1クールの定義としては13回なんだよ。
でも、もう時代が違うかもしれないね。 |
西本 |
『離婚弁護士』も11話で終了したよね。 |
永田 |
ああ〜、そうだった。 |
糸井 |
わかった!
最近は番組の改編期にかならず特番やるから、
それで1〜2話、削られちゃうんじゃない? |
西本 |
あ、なるほど。 |
糸井 |
こう、芸能人がいっぱい出るクイズとかで、
紳助・竜介みたいなのが出て、
「アンサーチェック!」とかやるから、
1クールのうち数回が食われちゃうんだよ。 |
西本 |
なるほどなるほど、
とうなずきたいところですが、
あの、紳助さんはともかく、
竜介さんは出ないですから! |
永田 |
(爆笑&拍手→西本) |
西本 |
観てみたいですけどね、
紳助・竜介の「アンサーチェック!」は。
ふたりしてつなぎ着てね。 |
永田 |
(爆笑&拍手→西本) |
糸井 |
‥‥ま、そういう
ツッコミを待ってたんですけどね。 |
ふたり |
ぜってーウソ! |
糸井 |
わざとだよ、わざと。 |
永田 |
いや、いまのは違うわ。
淀みなくしゃべってたもん。 |
西本 |
ええ。天然でしたよ。 |
糸井 |
どーでもいーじゃないか、そんなことっ! |
永田 |
キレた。 |
西本 |
キレた。 |
糸井 |
ともかく、たいへんですよ。
なんだかのんびりしたら、
ぼちぼち終わりですよ。
次週は「品川心中」らしいですよ。
いよいよクライマックスですよ。
正念場です。Boy's place! |
永田 |
‥‥あ〜、ハイハイ。 |
西本 |
‥‥Boy's place?
それ、わかんねえ。 |
永田 |
正念場。 |
西本 |
え? |
永田 |
しょうねんば。 |
西本 |
え? |
永田 |
少年、場。
ボーイ、プレイス。 |
西本 |
ええーーーーーーーっ!
‥‥永田さん、そりゃマズいでしょう。 |
永田 |
オレが言ったわけじゃないだろ。 |
糸井 |
永田くん、そういうダジャレはどうかと思うな。 |
永田 |
わ、このパターンか! |
西本 |
がっかりですよ。
けっきょくあんたもダジャレか。 |
糸井 |
がっかりですね。
もっとキレのある人だと思いましたけどね。 |
永田 |
と・に・か・く!
風雲急を告げてきましたよ! |
糸井 |
約2週間ぶん、読み違えていたものですから、
いま強烈な、さみしさを感じています。
せっかく盛り上がってきたのに‥‥
ああ、落語ブーム、終了! |
ふたり |
もう、終わりか! |
糸井 |
梅雨入りを待たずに落語ブーム終了! |
永田 |
『はじめての落語。』を出してる
うちがそういうこと言っちゃダメ! |
西本 |
ピークを迎える前にブームが終わる! |
永田 |
にしもっちゃんはどうして
すぐそっちに乗っちゃうんだ。 |
西本 |
愉快なほうへ動きます。 |
糸井 |
だってさあ、これからこのドラマで
落語ブームがさらに盛り上がっていく
予定だったじゃないですか。 |
西本 |
もしかすると、落語協会も
1クール13回で
計算してたんじゃないですかね? |
永田 |
じゃあ、いまごろ落語協会も大慌て? |
西本 |
ええ。きっと13回のつもりで、
いろんなイベントを
仕込んだりしてるしているはずです。 |
糸井 |
えー、落語業界のみなさん。
落語ブームは全体的に2週間早まりました! |
永田 |
前倒しでお願いします! |
西本 |
前倒しでお願いします! |
糸井 |
思えば、タイトルコールで
鶴瓶さんが高座に上がってるのも、
終わりを予感させるよね。 |
西本 |
「やばい、ぼちぼち終わるぞ、
鶴瓶さん、上げとかなきゃ!」って。 |
糸井 |
そうそうそう(笑)。 |
永田 |
その意味では、
ほぼ日テレビガイド美術部の
べっかむ3もきっと大慌てですよ。
脇役の人ばっかり描いてて
主要人物を意外と描いてないですから。 |
西本 |
先週、若頭とか
描いてる場合じゃなかったかも。 |
糸井 |
「わかがしら」じゃなくて、
「わかあたま」ね。 |
永田 |
おお。 |
西本 |
見事に話がドラマに戻ってきましたね。 |
永田 |
と、いうわけで、ぼちぼちいきますか。 |
糸井 |
『タイガー&ドラゴン』! |
ふたり |
あんたが言うのか。 |
糸井 |
ここで、クレイジーケンバンドのテーマ曲が
流れるようにできませんか? |
永田 |
できるできない以前に、イヤです。 |
西本 |
えっと、今回は『粗忽長屋』でした。 |
糸井 |
『粗忽長屋』っていう噺は、いい噺ですね。
永田くんは、好みでしょ? |
永田 |
ああ、もう、大好きですね。
ドラマのなかでも言われてましたけど、
落語以外じゃ成立しないですからね。
そういう「○○じゃないとできないもの」
っていうのがぼくはすごく好きなんです。 |
西本 |
最初の、西田さんの落語だけで
十分におもしろかったですよね。 |
永田 |
そうそうそう! |
糸井 |
個人的には、今回、
劇中劇の『粗忽長屋』よりも
西田さんの落語のほうが
おもしろかったくらいですね。 |
永田 |
行き倒れの現場へ行ってからの
落ち着いたやり取りが
とくによかったですよね。 |
糸井 |
よかったねー。声をはらない感じでね。
あらためて、『粗忽長屋』は
いい噺だなあと思いましたよ。 |
西本 |
その『粗忽長屋』を現代ドラマと
重ねていくんだから
つくるほうはたいへんですよね。 |
糸井 |
いや、今日のは、
ほんとにたいへんだと思うんですよ。
なにしろ、とうとう、死人を出しましたから。 |
永田 |
それ、重要ですよね。 |
糸井 |
ものすごく重要です。
たぶん、そうとう打ち合わせをして
決断したんじゃないかと思いますけど。
『粗忽長屋』をやるからには
さけられない問題ですからね。
出しましょう!
ということになったんでしょう。
よく乗り越えた、という感じがしましたね。 |
永田 |
むつかしいですよね。
なんせ、人を殺めちゃうわけで、
重すぎても軽すぎてもダメですから。 |
糸井 |
そのへんの手触りとしては、
『ファーゴ』の味わいを思い出しました。
あの、映画の。 |
西本 |
コーエン兄弟の。 |
糸井 |
そうそうそう。
死体かついで雪の中を行くみたいな。 |
永田 |
死人を出すっていうことに
すごく気をつかってる気がしましたね。
殺されるヤクザの人間味を消してたり、
あえて笑いを入れて軽くしてたり、
虎児に「落語のために」っていう動機を与えて、
なんとなく方向性を予感させてたり。 |
糸井 |
死人が出る前に、ある程度
暴力を入れ込んでるのも、わざとですよね。 |
永田 |
関係ないドラゴンソーダの店が襲われてたり。 |
西本 |
あとは、あれですよ、劉さんの出血と
「今回はシャレにならないよ」という演技。 |
永田 |
ああ(笑)。
あれは、切迫された感じと
笑いを両方出してた。 |
西本 |
チビTの血のでかたもヤバかったですけど。 |
糸井 |
人を殺すという重さの代償を
いろんなところでちょっとずつ払っている
印象がありましたね。
あと、大きな流れとしては
先週、1回、バイオレンスを
入れてるのも効いてるんじゃないかな。 |
永田 |
あ、なるほど。 |
糸井 |
先週と今週とバイオレンスを増やして、
テンションを調整してますから。
バイオレンスを増やしているということが
虎児を走らせる原動力として
ドラマの反対側でくすぶってるんですよ。
ヤクザの世界から落語の世界へ
虎児という弾丸を飛ばすための
火薬ですよね、いわば。 |
西本 |
その火薬に火をつける役割が
いっこく堂さん演じるヤスオなんですね。 |
ふたり |
いっこく堂じゃないってば。 |
西本 |
先週の「いっこく堂」発言には、
意外にたくさんの反響がありました。 |
永田 |
けっこう、共感してる人が多かったね(笑)。 |
西本 |
ちなみにほんとうの名前は北村一輝さんです。 |
永田 |
あの人、すごかったなあ。
すっごい憎たらしいところと
憎めないところと、両方出してたもんね。 |
西本 |
器用ですよね。
同じ役なのに、幅がすごく広い。
狂気もあるし、コミカルなところもあるし。
状況によって声まで変えてましたね。 |
糸井 |
あれ、声が。 |
西本 |
え? |
糸井 |
声が、遅れて。 |
永田 |
え? |
糸井 |
「声が」「聞こえて」「クルよ」。 |
西本 |
‥‥‥‥。 |
永田 |
‥‥どうしても言いたかったんだな。 |
西本 |
しかも、それ、
先週のオレのネタじゃないですか! |
糸井 |
だって「声が」って言うから、つい。 |
永田 |
‥‥どうしても言いたかったんだな。 |
糸井 |
「声が」「遅れて」「聞こえて」「クルよ?」 |
西本 |
「声が」「遅れて」「聞こえて」「クルよ?」 |
永田 |
もういいって。 |
糸井 |
役者さんの話でいうと、
「ウルフ商会」の組長も
よかったですねー。 |
西本 |
いい味出してましたね。 |
糸井 |
あの人は、橋本じゅんさんといって、
ぼくは舞台で観たことがあるんですけど、
ものすごくおもしろいんですよ。
だから、今日はほんと、しみじみ思ったけど、
テレビって、いつの間にか
小劇場に乗っ取られてるんだね。 |
永田 |
乗っ取られてる? というと? |
糸井 |
あの人いいね、この人もいいね、
って感じる人って、
みんな小劇場の人たちじゃないですか。
『新選組!』でもまさにそうでしたよね。
小劇場系の人たちとか、モデルさんとか、
テレビじゃない人たちが
いまのテレビをおもしろくしてるんですよ。 |
西本 |
クレイジーケンバンドにしても、
テレビ的な活躍とは無縁の人たちですもんね。 |
糸井 |
そうですよ。マスに対して、一見、
「こういう食べやすいメニューでお届けします」
という既製品をお届けしてるように見えるけど、
原料はモロッコだのチュニジアだのから
買って来ているみたいなことですよ。
思えばその構造ってハリウッドですよね。
ハリウッドってどんどんアングラの人を入れたり
アメリカにとって外国人のようなものを入れたり
違う血を混ぜながら進んできてて、
気がつけば自分たちが生みだしているものって
いつの間にかない、
みたいな状況じゃないですか。
あれと同じことが日本のテレビにも
起こっているように思うんです。
たとえば『新選組!』では、
三谷さんは意識的にそれをやってましたよね。
「こういう人、いいでしょ」と抜擢して、
ぼくらがいちいち感心して、
出された立場の八嶋さんなんかは、
「ぼくらも助かります」と言うわけですよね。
あの、意識的にやってた循環が、もう
いまは無意識のうちにできあがってるような
状況になっちゃってると思う。
|
西本 |
テレビという世界で生まれて育ったものには、
テレビ自体はつくれないんですかね。 |
糸井 |
テレビがテレビそのものを育てる時代は
テレビがまだ新人だった時代なんだよ。
いまのテレビはもう、
起承転結の転から結にあたるあたりを
通過しているわけですから。 |
永田 |
そうなると、これからのテレビには、
優秀なプロデューサーが
より重要になってくるんですかね。
目のいい人、見抜く力のある人がいて、
その人が、三谷さんとか宮藤さんとか、
キーになるような人を巻き込んで、
テレビを新しくしていく、というように。 |
糸井 |
まあ、それは
いまにはじまったことじゃないんです。
たとえば、源泉のひとつは川崎徹ですよ。
川崎徹がCMに
東京乾電池とかを使いはじめたんです。 |
ふたり |
あああー。 |
糸井 |
北村想さんがやってた
彗星'86っていう劇団の人とかね。
そういう、「テレビでお馴染みじゃない人」を
CMに乗っけたんですよ。
それがあの時代のCMやテレビを
おもしろくしたんです。 |
永田 |
当時、そういうのをテレビで観て、
「わあ、へんな人たちだなあ」って
妙な感覚があったのを覚えてますよ。 |
西本 |
そういえば、いくよ・くるよさんが、
自分たちの知名度が一気に上がったのは
川崎徹さんのCMに出てからだって
言ってました。 |
糸井 |
つまり、テレビという畑を
15秒ずつ耕していったようなもんですよ。
それがいまのテレビの根っことして
全体に広がったりもしてるんです。
三谷さんや宮藤さんが耕したものも
とっくに広がっていってますよね。
いまや、山南さんこと堺雅人さんが
月9のドラマにふつうに出てるじゃないですか。
山南さんというか堺さんが、こう‥‥。
(‥‥急に腕を組み、笑顔をつくる) |
永田 |
やんなくていいですよ、それ。 |
糸井 |
「沖田クン、エンジン全開だ」 |
永田 |
意味わかんない。 |
西本 |
堺さんのモノマネといえば、
松村邦洋さんですが、
新ネタはすごいことになってますよ。
『エンジン』バージョンのネタは
ドラマを知らなくてもなぜか爆笑です。
6月25日の深夜にオンエアされる
「ほぼ織田信長のオールナイトニッポン
〜本能寺の変スペシャル〜」で
たっぷり披露されると思いますので
『タイガー&ドラゴン』ファンの人も
『新選組!』ファンの人も
どうぞおたのしみに。 |
永田 |
その企画、ほんとに
実現するとは思わなかったなあ。 |
西本 |
いまページで流している予告編を
収録したときに立ち会ったんですけど、
ほんとうにすごいですよ。
筒井道隆演じる松平容保公が
延々しゃべったりしてますよ。 |
永田 |
だいたい、そういうモノマネが
成立するっていう時点で、
すでに浸透してるってことだよね。
紅白に出るような人のマネじゃなくて、
「山南さんのマネ」とか「捨助のマネ」を
みんなが聞きたがってるっていうことだから。 |
西本 |
そうっすね。
まあ、それがゴールデンで
毎週放送できるほどではないにせよ、
番組として十分成り立つんですから。 |
糸井 |
一過性のものじゃなくて循環ができてますよね。
小劇場系の人を、テレビドラマで
カタログ的に観た人のうちの何人かが
劇場に足を運ぶ、というような。
オフブロードウェイが
オフオフブロードウェイを要求したような
おもしろい時期が東京には来てますよね。 |
永田 |
そのカタログが
『タイガー&ドラゴン』だったり‥‥。 |
西本 |
『新選組!』だったり。 |
糸井 |
また、どっちも、
現時点での視聴率としては
トップになってるわけじゃないというあたりが、
過渡期を表してますよね。 |
永田 |
あー、なるほど。 |
糸井 |
ちょっと大きな枠の話になっちゃいました。
ドラマに戻りましょうか。
今回、じつは意外に泣かせましたよね。 |
西本 |
はいはいはい。 |
永田 |
また変なタイミングで泣かせましたよ。
ほんとに油断ならない。
おでん屋のところとか、またしても
「おいおい、準備できてないよ。
突然泣かせんなよ」っていう
泣かせかたで。 |
糸井 |
「おれがいなくなったら悲しがる人がいる」
っていうあたりね。 |
西本 |
しかも泣かせることと
屋台破壊をクロスさせて。 |
糸井 |
必ず、混ぜるよね。
泣かせる場面に笑わせることを。
ほかにも、もうひとつあったじゃないですか。 |
永田 |
あったあった。ええと、ほら‥‥。 |
西本 |
「ツープラトンだよ」ってやつですね。 |
糸井 |
それそれ。 |
永田 |
それそれ。 |
西本 |
あの場面、永田さんグッときてましたよね? |
永田 |
ていうか、あそこはふつう、くるでしょう。
「おまえを引き留める理由はひとつだよ。
‥‥さゆりちゃんが泣いてるからだ」って。
いいなあ。泣けるなあ。 |
西本 |
ああいうの好きですよね。
ラブを言わずに愛を語る、
みたいなこと。 |
永田 |
さゆりちゃんシリーズっていうのをさ、
いままで、ちょっとした
遊びのように扱っておいて、
それをほんとうに大事なところで
使うっていうところがしびれるんです。
だって、林家亭をやめようとする虎児を、
どん兵衛師匠が引き留める理由が
「さゆりちゃんが泣いてるから」なんだよ?
なんてかっこいい。 |
糸井 |
で、すぐに鶴子もかぶせて泣かせて‥‥。 |
西本 |
「ツープラトンだよ」と。 |
永田 |
いいなあ。
泣けて笑えて、笑えて泣ける。 |
糸井 |
ツボの場面だったんだね。 |
西本 |
芸人さん好きのぼくとしては、
鶴瓶師匠に頭の高座で
「オレは枕がおもろいねん」
と言わせるところがツボでしたね。 |
糸井 |
ああ(笑)。 |
西本 |
実際、枕がおもしろくって
枕を続ければウケることを知りつつ
高座で古典をやり続けてる鶴瓶さん、
という姿を知ってると
二重三重におもしろい。 |
糸井 |
なるほどね。 |
永田 |
あと、あそこで、
すっごいどうでもいい話のようにして
「わかあたま」のことを言うけど、
最後のところできちんと
それが誰だかわかるようになってるのも
丁寧だなあと思いましたね。
このドラマって、なんていうか、
伏線が張り巡らされていて見事、
っていうんじゃなくて、
「どうでもいいことだと
思ってたことがじつは伏線!」
っていうことに驚かされますよね。 |
西本 |
「かしこまり〜!」ってのも
まさにそうですよね。 |
永田 |
そうそうそう。 |
西本 |
関西系やくざの妙なノリを
出してるだけなのかと思ったら、
「かしこまり〜!」がないと
最後成立しないっていうくらい
重要なことばでしたからね。
お笑いミステリーの伏線ですよ。 |
永田 |
あと、ヤスオが
「なんだか知らないけど金を任される」
って序盤で言ってるのも、
あの、帽子のやくざに
ハメられてたってことでしょ?
「なんか出身地の話でもして時間稼げ」
って虎児がメグミに出した指示が、
ヤスオが三重に帰ることにつながってるし、
細か〜い、伏線というよりは
小さな流れみたいなものが、
1時間のなかにガーッと詰まってるんですよね。
ていうか、これって1回、正味45分くらい?
ものすごい凝縮ですよね。
2時間ドラマぶんくらいの内容は
余裕であるでしょ。 |
糸井 |
濃かったですねえ。
ムダな部分がバッサバッサ切り落とされてる
感じがして、気持ちよかったですね。 |
西本 |
宮藤さんが、
「これじゃ尺(時間)が足りない!」って
思いながら脚本を書いてる感じですよね。 |
永田 |
でも詰め込む要素は減らしてないというか。
ぜんぶ入れてぐしゃっと圧縮してる感じ。
その粗っぽさが、妙に贅沢な感じがする。 |
糸井 |
その、短い時間の脚本のなかに、
いろんな伏線を入れて、小ネタも混ぜて、
最終的にうまく絡み合っているというのは
ほんとうにすごいことだと思うんですけど、
それって「ワープロ以後の推理小説」と
同じ感じがしますよね。
つまり、いまは
書いたり消したり貼ったりが
昔よりも簡単にできるんですよ。 |
永田 |
はっはぁー。 |
西本 |
なるほど。なるほど。 |
糸井 |
原稿用紙に書いている人と、
ワープロで書いている人では
つくりかたというか、運動量みたいなものが
変わってきちゃうんですよ。
「はじめのところでこいつが
ちょっとあやしいセリフを言っておけば
犯人とからんでたといえるな」
なんてことをあとから思いついたとしても、
原稿用紙に書いている人だと、
「こいつのところ
ぜんぶやり直しになっちゃう!」
って思うんだよ。
枚数に制限がある場合は
計算し直しになっちゃうし、
写植でやってたときは、
校正の段階でそれをやっちゃうと
どんどんずれていくし。
ところがワープロ以後の人は、
「3枚目のところでちらっと
あやしいセリフを言わせちゃおう」
みたいなことがかんたんにできちゃう。
未来から過去をいじれるんですよ。
もちろん、原稿用紙の人だってできるし、
ワープロの人だってたいへんなんですけど、
なんていうか、かかる負荷が違いますよね。 |
永田 |
動ける人は、それを何パターンもつくって
くらべたりできますもんね。
任天堂の岩田(聡)さんが、
『社長に学べ!』のなかで
「トライ&エラーの回数が増えるほど
進歩する速度が速くなる」
って言ってたことを思い出します。 |
糸井 |
そういうことですね。だから、
ロジックを整理するという点については
ワープロ以後はものすごく進化したんですよね。
ぼくらは原稿用紙時代の人だから
そこまで丁寧にやると
うるさくなっちゃうんですよね。
でも、どんどん細かくやるのを
たのしんでいる人がいるというのは
おもしろいんです。オレ個人としては、
そんなにしなくてもいいというか
もっと矛盾しろとも思うんですけど。 |
西本 |
うん、うん。 |
糸井 |
だから、落語をつくっていた時代の人たちは
もっと矛盾をたのしんでたと思うんですよ。
見事に整合性がとれてるね、
というだけになると
そのためのゲームみたいになっちゃうんだよ。 |
永田 |
あああ。こないだ新聞で読んだ、
宮藤さんと鶴瓶さんの対談で
それに通じることを宮藤さんが言ってて。
宮藤さんが、鶴瓶さんに、
「落語って、サゲのところが
めちゃくちゃなものがけっこうあって、
サゲがよければもっといいのにと
思うことがある。
あれは、直しちゃいけないんですか?」と。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。おもしろいね。 |
永田 |
ワープロ以後の感じですよね。
そのスタンスでどんどん練り込んで、
ものすごく自分の個性を混ぜて料理したのが
『タイガー&ドラゴン』なわけでしょう。
つまり、矛盾をたのしむ時代のものを咀嚼して、
自分なりの整合性を持たせて、
さらに冗談や、人情や、現代を混ぜている。 |
糸井 |
そういうことですね。
あらためていうまでもないですけど、
矛盾と整合性の、どっちかが
正しいというわけじゃないですから。
たとえば、村上春樹さんなんかは
ひじょうにロジカルな考え方をする人で、
彼が言ったことでおもしろかったのは、
「糸井さんの書くものは、最初
『こういうものを書きたいんだろうな』
と思って読んでいくんだけど、
だんだん違う話になっていく。
それがうらやましい」と。 |
西本 |
あああ〜、なるほど(笑)。 |
糸井 |
まあ、そのあたりは、
「こらえ性のない人」が
やむをえず出してしまう、
味みたいなもんですけどね。
でも、ぼくが原稿用紙の人だったということと
無関係じゃないとも思いますよ。 |
永田 |
ちなみにお笑いの人の
脚本というか、ネタは、
どうやって書いてるんですか? |
西本 |
笑いの場合は、
台本というのがあるにはあっても
舞台でどんどん変わっていきますからね。
まあ、いまはワープロで書くんでしょうけど
手書きのものをよく見た印象がありますねえ。
新喜劇のプロットとかも手書きでしたもん。 |
永田 |
へええ。 |
糸井 |
爆笑問題の太田くんが
筑紫哲也のモノマネをするじゃない。
あれの原稿を見たことがあるんですけど、
手書きでしたよ。待ち時間に、
お菓子を食べてるような場所で
そこらへんにある紙に
ふつうに書いてたよ。 |
永田 |
そういえば、爆笑問題は
ワープロっぽさがないかもしれない。 |
糸井 |
まあ、ふだんの原稿なんかは
パソコンで書いてるっていう話でしたけど、
太田くんの話も、整合性っていうより、
どこに転ぶかわかんないタイプだよね。
あの筑紫哲也のモノマネにしても、
さんざん勝手なことを言っておいて
「今日のコラムでした」みたいな
ウソのまとめをするわけだし。 |
永田 |
あれはたしかに落語っぽい、
っていうか、太田さんって
もともとすっごい落語ファンですしね。 |
糸井 |
ああ、そうだったわ。 |
西本 |
あの、おもしろいものって
そんなに説明ができるようなものだったら
いけないんじゃないかと思うんです。
こちらが説明できないくらいに
「なんだこれは!」と思うものじゃないと
おもしろくないんだと思うんですが。
とくにぼくは、個人的に、
説明されすぎるとおもしろくないんですよ。 |
糸井 |
鶴瓶さんとかさ、ほんとうに、
なんでもない話をするじゃないですか。
でも、おもしろいじゃないですか。
あれはすごいですよね。 |
永田 |
なんだっけ、「たまごうどん」の話‥‥。 |
糸井 |
ああ、あれがいい例ですね。
うどん屋に入って、
「たまごうどんください」
って鶴瓶さんが言ったら、店のおばちゃんが、
「たまご嫌いやったら、あかんよ」
って言ったっていう、ただそれだけの話。
それを鶴瓶さんがしゃべると
なぜかおかしくてしかたがない。 |
ふたり |
いいですねえ。 |
糸井 |
いいよなあ。 |