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いまは、2010年5月15日。午前1時15分。
深夜です。
私たち6人の携帯電話に、
「あの奇妙なメール」が届いてから、
3時間以上が経っています。
ほんの一瞬でしたが、
それはほんとうに不思議な体験でした。
自分たちがなにかの物語の
登場人物になったかのような、
まったく、わくわくする体験でした。
いま、私は、深夜に
ひとりでパソコンに向かって
こうして原稿を書いています。
あの、なかなか経験できない出来事を
細部まで覚えているうちに、と思って。
はじめに、きちんと書いておきますね。
これから書くことは、
事実に基づいています。
重要なことですからくり返しましょう。
これから書くことは、
事実に基づいています。
まずは、その場面を記しておきましょう。
メールの到着時刻を観ると
それは、きっかり22時のことです。
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2010年5月14日22時。
──メールの着信音がしました。
ひとつの携帯電話から。
ほとんど間を置かずに、もうひとつの携帯電話から。
またひとつ、もうひとつ、つぎつぎに‥‥。
要するに、居合わせた6人全員の携帯電話に、
同時にメールが着信したのです。
ぐっさんこと、山口は、
ちょうどトイレに立ったところでした。
彼は、メールの着信した携帯電話を
机の上に残したまま、トイレに向かいました。
針生はiPhoneを机の上に出していましたから、
すぐにそのメールを開封できました。
永田は、居合わせた全員に
メールが届いたとわかった時点で、
なにか会社にトラブルが
あったのではないかと予想しました。
なにしろ、そこにいた6人は
全員、「ほぼ日」の乗組員でしたから。
山下も、会社からのメールだと考えました。
ですから、わざわざ自分でメールを見なくても、
誰かが教えてくれるだろうと考えました。
みっちゃんことやまかわは、
ふつうに自分に届いたメールだと思いました。
なにかこの日に約束があったような気がしていたので、
それに関係するメールではないかと感じました。
池本は、ビールから焼酎に変えた直後で、
ちょうど気持ちよく酔い始めたところでしたから、
最初、メールの着信に気づきませんでした。
そのメールには、カタカナで短い文章がひとつ、
記されていました。
書き出しは、こうです。
「コノナカニ ヒトリ・・・」
続く文章を読んで、6人はあわてました。
冗談でしょ、と互いに思いました。
もう一度書きますが、
これは、フィクションじゃありません。
3時間前に、実際に起こった、事実です。
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私たち6人は、
ふた月に一度くらいの割合で、
定期的な飲み会を開いていました。
メンバーは固定していて、
入れ替わったことは一度もありません。
なぜなら、その飲み会は、
「ABの会」と名づけられていて、
会社内で、血液型がAB型の人だけで飲む、
という集まりだからです。
社内にAB型は、この6人しかいません。
ぐっさん、針生、永田、山下、みっちゃん、池本。
アイコンで示すなら、この6人ですね。
もちろん、血液型による人間のタイプ分けに、
科学的な裏づけのないことは、知っています。
血液型を根拠に人の性格などを
おもしろおかしく分析するのは、
海外ではほとんど例がなく、
日本独自の文化であるというようなことも。
「ABの会」に所属する
私たち6人にとっても、血液型は、
たんに飲み会を招集するいいわけにしか過ぎません。
ようするに、
「同期会」とか「昭和55年会」とかと同じように
そういう人たちで集まって
たのしくやりましょうというだけのものです。
とはいえ、私たち6人は、
そうやっていっしょに
お酒を飲むときの相性がとってもよかった。
帰宅時間が人によって異なるため、
「ほぼ日」の人たちが集まって飲むというのは
おそらく、ほかの会社よりも頻度が低いのですが、
たまに開く「ABの会」はいつも盛り上がりました。
こんなことを報告するのは
ちょっとみっともない気がするのですが、
あくまでも事実のひとつとして掲載しますね。
最初に「ABの会」が開かれたのは、
2008年10月24日のことでした。
あ、もう、2年近く前のことなんですね。
これ、その飲み会の直後の写真です。
ああ、みっともない。はずかしい。
でも、事実ですから。
ちなみに、この最初の集まりのときに、
「飲み会が終わったあとで
酔っぱらったぐっさんと針生が写真を撮る」
というのは、なぜか、お約束になってしまいました。
2度目の「ABの会」は、2008年11月28日。
そのときは、こんな感じです。
‥‥ええと、まぁ、醜態には目をつむってもらうとして。
ちなみにこのころはまだ、池本が入社していませんから
「ABの会」は5人でした。
そうそう、バリに研修旅行に行ったときも、
現地でこんな写真を撮りました。
これは、2009年の2月。
持っているのは、エビです。
ええと‥‥その‥‥エービー‥‥。
うぉっほん! うぉっほん!
もう、いちいち報告しなくてもいいですか?
そんなふうにして、
「ABの会」はときどき開催され、
そのたび、たのしく盛り上がったのです。
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そして、今日、というか、
日付が変わって昨日のことですが、
久々に「ABの会」が開催されました。
ちょうどこの日は、
月に一回設定されている、
全員が残業せずに早く帰ろうという
「ノー残業デー」でした。
おかげで6人の予定も空いてましたので、
「ABの会」が企画されたのです。
場所は、代々木のMというお店です。
ほたるいかの鉄板焼きが美味しい店です。
店の雰囲気はたいへん明るく、
とりわけ店のおばちゃんが
飲んでる人たちの会話にしょっちゅう
入ってくるほどフレンドリーなため、
「今日はあのおばちゃんの血液型を訊こう」
なんてみんなで話していました。
スタートは20時30分でした。
永田、山下、みっちゃん、池本は
会社からタクシーで移動し、
ぐっさんは自転車でやってきました。
針生は仕事が残っていたので
1時間ほど遅れてやってきました。
そして、例によってたのしく盛り上がっていました。
ぐっさんの学生時代の恋愛話をみんなで聞き出したり、
山下が仕事先の編プロに寝泊まりして
家がなかった時代のエピソードなどを聞いて
大笑いしたりしていました。
これも、ノンフィクションを構成する
ひとつの事実として記しておきましょう。
私たち6人は、6人とも、
この「ABの会」がたいへん好きで、
招集がかかることをたのしみにしていたのです。
──そして、22時、きっかり。
みんながほどよく酔いはじめたころ。
6人全員の携帯電話に、メールが届いたのです。
あの「奇妙なメール」が。
そこには、カタカナで、
たったこれだけ、書かれていました。
「コノナカニ ヒトリ
AB ジャナイ ヤツガ イル。」
この話は事実に基づきます。
(明日、6月17日の更新につづく‥‥)
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