降旗淳平さん(日経クロストレンド副編集長)岩田さんはいつも、
「公」の人でした。
任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それでとてもうれしかったのは、
本をきっかけに、たくさんの人が
岩田さんについて話しはじめたことでした。
もっと岩田さんの話がしたくて、
いろんな人に取材することにしました。
岩田さんをご存知のみなさん、
岩田聡さんについて教えてください。
聞き手:永田泰大(ほぼ日)
第1回岩田さんは他人の悪口を言わず、
前向きな話しかしなかった。
他人の悪口を言わない
私が最初に岩田さんにお会いしたのは、
HAL研究所にいらっしゃたときですが、
それはほんとうにご挨拶程度でしたから、
岩田さんは憶えてらっしゃらなかったと思います。
おそらく、ちゃんと認識されたのは、
「ポケモン」という会社が設立されたときで、
そのとき岩田さんは、HAL研究所から
任天堂の取締役経営企画室長に移られていました。
当時、『ポケットモンスター』は、
世界観が完全に統一されてない部分もあり、
関連商品などが管理されていない状態だったんですね。
そのことについて、岩田さんが
「統括会社をつくりましょう」と提案して、
「ポケモン」という会社(現株式会社ポケモン)
を設立することになりました。
そのころ、はじめて岩田さんに
きちんと取材させていただき、
その後、何度もお話をうかがうようになりました。
日経BPの記事はほとんど私が担当したと思います。
おそらく、取材のときのやりとりと、
できあがった記事を見て、岩田さんが
「この人にはしゃべっても大丈夫」
と思われたんだと思います。
岩田さんは社長になってからも、
こころよくインタビューを受けてくださいました。
岩田さんと会って、いろんな話を聞きました。
いままでの任天堂のよかったこと、
これから変えたいこと‥‥。
岩田さんと話していて、すごいなと思ったのは、
他人の悪口を言わないことですね。
ふつう、記者と話してると、口がすべる人や、
なかには、リークすることを目的に
わざと口をすべらせる人もいるんですけど、
彼は一切そういうことがなかった。
基本的に、前向きな話しかしない。
「ゲームの人口を広げたい」と。
ゲームが家庭に入るときに、
壁になるのはお母さんだから、
お母さんを説得できるゲームをつくらないと、
任天堂にも、ゲーム業界にも、未来はないと、
ずーっと言ってました。
だから、取材と言っても、岩田さんの場合は、
噂や予想のファクト(事実)を
取りに行くものじゃないんですね。
岩田さんは、いまの自分の考え方や、
任天堂の向かう方向についてお話をされる。
それを聞きに行く。そんな感じでした。
基本的には、取材したら記事にはするんですけど、
岩田さんの記事は、経営者への取材なのに、
いつもファクトベースのニュースという
扱いにはなりませんでした。
でも、そういうことがなくても、
彼の話は、おもしろかったですね。
東京ゲームショウ基調講演で
日経BPが共催している関係で、
私は東京ゲームショウの運営に携わっていたんですが、
2005年、ニンテンドーDSが絶好調だったころ、
東京ゲームショウの基調講演を
岩田さんにオファーしたことがあります。
任天堂として、ゲームの未来について話してほしい、と。
たしか、講演の順番は、最初が任天堂、
そのつぎがマイクロソフトだったと思います。
両方とも、ぼくが頼みました。
いまだと講演の前に登壇者から
パワーポイントの資料もらったりしますけど、
当時は一切なしで、ぶっつけ本番でやる形でした。
みんな、ゲームのマーケットの話をするだろう、
くらいのことを思ってました。
そしたら、基調講演の一発目、
岩田さんはそこでいきなり
Wii(当時の仮称 Revolution)を発表したんです。
会場にはものすごい拍手と、
外国人が指笛をピューと鳴らす音が響いて、
一方、日本のゲーム関係者は凍りついた状態で(笑)。
任天堂から新しいゲーム機が出る、
というくらいのことは
ゲーム業界でも知られてましたけど、
東京ゲームショウのあの場で
発表されるとは誰も予想してませんでした。
しかも、岩田さんご自身が
新しいリモコンを振るいながら
ひとりでぜんぶ説明して、
これはすごいと、たいへん話題になりました。
なにしろ、東京ゲームショウの日まで、
完全に伏せきってたわけですから。
会場は大いに沸きました。
だから、そのあと講演するマイクロソフトの担当者に、
「岩田さん、ずるいよ」と言われて、
「いや、俺も知らなかったんだ。ごめんね」と(笑)。
あとで、岩田さんに訊いたら、
「いやー、申し訳なかったけど、
ここが一番いいタイミングだったから」と
ニコニコしながらおっしゃってました。
それ以来、岩田さんは
基調講演に呼べなくなりました。
いや、ぼくら現場は呼びたいんですが、
波風を立てたくない人たちがいるので(笑)。
岩田さんは、そういう思い切ったことを
平気でやる人でしたね。
ぜんぶ岩田さんの判断で、
やると決めて、そこで発表する。
インパクトがありますよね。
社長である岩田さんが、
ぜんぶ自分で壇上でしゃべるわけですから。