桜井政博さん(ゲームクリエイター)『スマブラ』とスポーツカーと
誠実の怪人。
桜井政博さんに聞く岩田さんの思い出。

任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それをきっかけに、いろんな方に
岩田さんのお話をうかがっているのですが、
この人にお会いしないわけにはいきません。
HAL研究所に在籍中、岩田さんとともに
『大乱闘スマッシュブラザーズ』を開発した
ゲームクリエイター、桜井政博さんです。
はじめて出会ったころの話、
岩田さんが任天堂に入る前の話、
プライベートの一面‥‥たっぷりうかがいました。
桜井さんと、もう何年も前から親交のある、
ほぼ日の永田が担当します。

聞き手:永田泰大(ほぼ日)

第5回最後のミッション

──岩田さんの病気のことはいつ聞きましたか?

桜井いま入院していて、というような情報を、
任天堂の方からうかがう感じでした。
たぶん、そんなにはっきり
知らせないようにしてる感じで、
だから、お見舞いにもあんまり行けなくて。

──桜井さんにはあえて言わなかった部分も
もちろんあるんでしょうね。

桜井ああ、たぶん、そうでしょうね。
自分は開発に入ると、
基本的にスケジュールがつねに真っ赤なので。
1日空けて予定を入れるだけで、
山ほど仕事が詰まったり、
スタッフの仕事を見られなかったりするから、
配慮したのかもしれません。

──岩田さんなら、きっとその判断をするでしょう。
「桜井くんがお見舞いに来るための1日を
絶対に使わせないようにしてください」
ぐらいのことはおっしゃったかもしれない。

桜井そうかもしれませんね(笑)。
でも、それは、ちょっと、
さみしくはあるんですけどね。
自分がハードワークなのが悪いんですけど。

──それは、ふたりの関係でいうと、
宿命的なことかもしれない。

桜井しょうがないと思います。

──あえて聞きますけど、
亡くなった情報というのは?

桜井高橋(伸也)本部長からいただきました。
高橋取締役というべきかな。
高橋本部長から、自分のところに電話が来て、
自分は自宅の部屋にいました。
「岩田さんのことで‥‥」って言われた瞬間から、
とってもいやな予感がしてたんです。
さっきも言いましたけど、
自分のところには
詳しい情報は入ってなかったですから、
そのとき岩田さんが入院しているのかどうかも
私は知らなかったんですけどね。

──あのころは、株主総会に復帰したりして、
よくなっているのかな、
という印象もありましたし。

桜井そうでしたね。
いやぁ、だから‥‥
人は亡くなるんだなぁって‥‥。

──どう受け止めたか、憶えてますか?

桜井電話を受ける前から、
なぜか、気だるかったんですよね。
体が重くなる‥‥。
自分のおじいちゃんやおばあちゃんが
亡くなったときと同じような感覚があったんです。
なんか今日は気だるいなと思ったら亡くなった、
みたいなことがあったんですけど、
なぜかそれと似たようなことが起こって。
あまりスピリチュアルな話をどうこう
というわけではないんですけどね。
予感なんですかね‥‥。
でも、自分はとにかく、
『スマブラ』のプロジェクトを達成すること。
それが岩田さんに対する
最大の手向けになるだろうとは思っていました。

──ああ、なるほど。

桜井『スマブラSPECIAL』(2018年発売)が
出たじゃないですか。
じつは、あれが、岩田さんから与えられた
最後のミッションだったんですね。
それが日本でも世界でもこれだけ売れて、
日本で出た2018年度のタイトルの中で
いちばんの売上だったりしたんですよね。
いろいろなところでよろこんでもらって、
最大の成果を出せて、
それはとてもよかったなと思っていて。

──Switch版の『スマブラ』までは、
岩田さんと話していたことだったんですね。

桜井『スマブラ for』をつくっていたときから、
Switch版の『スマブラ』をつくることが
自然に命題としてあがっていたんです。
同じチームを引き連れて、
携帯機と据え置き機のよいとこ取りをしたような、
『スマブラ』の決定版つくるというのが。

──じゃあ、このあとのミッションは、
桜井さんが自分で決めるというか。

桜井そこは、神のみぞ知るで(笑)。
いまつくっているダウンロードコンテンツは、
すでにミッション外のことです。

──岩田さんと桜井さんは、
いつもどこで話していたんですか?

桜井岩田さんが東京に来たとき、
ホテルの部屋によく行ってましたよ。
岩田さんは忙しいので、
東京に来たとしても、
たいてい昼も夜も予定が入っているんですね。
だから、自分が話をするときは、
その翌日の朝に、岩田さんが泊まっている
ホテルの部屋に行くことが多かったです。

──へぇぇ。

桜井仕事の話をして、
時間があればいっしょに食事をして。
食事中は、他愛もない話を。
といっても、やっぱりなにか
仕事につながるような、
互いの興味の話をしてましたね。
岩田さんが読んでおもしろかった
書籍を薦められたり。

──本はよく薦めてらっしゃいましたね。

桜井そうですね。
薦められて読んでも、
自分は「へー!」って感心して、
それで終わっちゃうんですけど。
その点、岩田さんは新しく吸収したことを
いつもきちんと自分の仕事に役立てていて、
それはすごいなと思っていました。

──ほんとうに、いろんなものから、
いつも勉強されていたというか、
知ろうとするちからがすごいんですよね。

桜井いろんなことを役立てられるスキルを
持っていたということだと思うんですよね。
なんでもちゃんと勉強して、
自分の身につけていた。
ただ本を読むというだけかもしれないけど、
そういうところですでに
常人ではないんでしょうね。

──「怪人」。

桜井「誠実の怪人」(笑)。

──だって英語のスピーチだって、
歩きながら、あれができるように
なっちゃう人ですもんね(笑)。

桜井あんたはジョブズかっていう(笑)。

──ジョブズだなぁ、あれは(笑)。
宮本さんにやらせるよりは、
自分がやるべきだっていう判断だと
おっしゃってましたけど。

桜井でも、実際、自分でも
それをたのしんでましたし。

──そうかも(笑)。
そういう仕事のなかにじつは
岩田さんご自身の個人的なたのしみが、
密かにあったのかもしれませんね。
『スマブラ』のプログラムをしてたときは
たのしそうだったという話もよかったなぁ。

桜井まあ、それは、実際に見たわけじゃなく、
ほかの人からの又聞きですけどね。

──『スマブラ』があって、よかったですね。

桜井よかったですね(笑)。

──『スマブラ』がなかったら、
ぼくと桜井さんも会ってないから、
この場もなかったんだ。

桜井ああ、そうかもしれないですね。
『岩田さん』の本は、とてもよかったです。
糸井さんと宮本さんのお話以外は、
私にとってはやっぱり
知ってることが多かったですけど、
岩田さんの話はぜんぶ
とてもなつかしく読みました。
これは、保存版として
取っておくべき本だと思います。

──ありがとうございます。

桜井純粋に岩田さんのことばで構成されていて、
混ぜものがないのが、最高ですね。
岩田さんが亡くなったとき、
新聞からインタビューを求められたんですけど、
記者の泣かせる方面にまとめたい欲求を感じて
お断りしたんですね。
そういうことが、この本にはないから。
‥‥あ、本のなかで、
岩田さんが自分のことを
「俺」っていうのはめずらしい、
って書いてありましたけど、
私にはけっこう「俺」ってつかってましたよ。

──ああ、そうですか。
やっぱり関係がちがえばそうなるんですね。
それは、なんだかうれしい情報だ。

桜井あと、自分のことはずっと
「桜井くん」と呼んでたんですけど、
私がフリーになってからは、
「桜井さん」って言うんですよね、ちゃんと。

──誠実。

桜井「誠実の怪人」(笑)。

──「誠実の怪人」(笑)。
その呼び名は最高です。
ていうか、桜井さんが言うからいいんだよな。

桜井(笑)

(桜井さんへの取材はこれでおわりです。
読んでいただき、ありがとうございました)

2020-01-31-FRI

これまでの岩田さんを知ってる人たち。