第1回:聞く人と話す人

糸井
先日は『サワコの朝』に呼んでいただいて
ありがとうございました。
(足を引きずっている阿川さんを見て)
足、どうしたんですか。
阿川
今朝、急いでいたら
椅子にガッと足の指をぶつけて
腫れちゃったんです。
半年前にもぶつけたところなんですけど。
糸井
あらーーー。
人はそういうこと、するもんですよね。
阿川
いや、これはもう、
年を取ったってことです。
糸井
(笑)
阿川
昔、原田芳雄さんにインタビューしたとき、
「最近、ちょっとの段差で転ぶんだよ。
 すこし足をあげれば渡れると思うところが、
 足があがってないんだな。
 年を取るのはなかなかたのしいよ」
とおっしゃって。
糸井
発見がありますよね。
僕もこの前よろけて、
「なんで、よろけたんだろう」と思ったら、
ただ、よろけただけだったんですよ。
「なにが『なんで』だ」って(笑)。
そういうことがすごく増えました。
阿川
増えました?
それは、性欲がなくなるとともに?
糸井
性欲はね、コントロールできますから。
いまから性欲を、と言われたら、
ナントカマンみたいに、もう、バーッと(笑)。
阿川
(笑)え、本当に?
糸井
そんなの簡単です。
スーパーマンでいうと
いつもはクラーク・ケントのままで大丈夫なんですが、
必要とあらばスーパーマンにも
ウルトラマンにもなれます。
阿川
でも、ウルトラマンには
時間制限がありますよ。
ピー・ピー・ピーって‥‥。
糸井
30分じゃないですからね、
3分ですからね(笑)。
ウルトラマンには気をつけたほうがいいです。
いや、でも老化の話はおもしろいですね。
阿川さんが口火を切ってくださったから
いま、とっても話しやすくなりましたけど。
阿川
いくらでもどうぞ。
若い人は実感ないでしょうけど、
体の変化っておもしろいなぁと思うんです。
たとえば、毛の問題があるでしょう?
「神様はまんべんなく、白髪を作りたもうたな」と。
糸井
(笑)
阿川
全身の毛という毛を、平等に白くさせていく!
糸井
そんなこと、同級生でもなかなか
話す機会ないですよ。
阿川
女としてどうなのか、って問題ですよね。
糸井
もう、超越なさってますね。
男でも見えっ張りな人は、
そんなこと言わないです。
昔から、「モテない話」をするときに
「俺はそんなことないけど」というタイプの人は
大人になっても衰えについて語るのが嫌いなんです。
阿川
プライドがあるんだ。
糸井
逆に過剰に語る方もいますよ。
横尾忠則先生がそうで、
どこが痛い、ここが痒い、
鍼に行ったらこう言われた、
よくなったと思ったら
「奇跡のように治ったんだけど、まだここが痛くて」
ずーっとそんなことばかりおっしゃってます。
阿川
うちの両親も、
母が87歳で父が94歳なんですけど、
背中が痛いとか巻き爪が痛いとか。
特に父は、どなたかと話していて、
その人が
「実は腰を痛めましてねえ」なんておっしゃっても、
「あーそうですか。僕は、肩がね~」って
必ず自分の話にしちゃうんです。
人の話、なんにも聞いてないの。
糸井
主役タイプなんですね。
自己肯定的ってことでしょう。
阿川
自分を話題にしてほしいんですかね。
『聞く力』の著者の父親は、
全然「聞かない力」なの。
糸井
(笑)
でも、いわゆる名の知れた方で、
そうじゃない人っていますか?
阿川
自分の話をしない人?
糸井
ええ。僕はどっちもいけるほうだと
思っていますが、
やっぱりしゃべりたがりですよ。
阿川
でも、糸井さんは人の話を聞いて、
その中でおもしろいものを
上手に拾われますよね。
糸井
うん。ただ、周囲があまり
しゃべるタイプじゃない場合や、
遠慮している場合がありますよね。
そういうときにはついやっちゃいます。
自分がしゃべっちゃう。
阿川
私も、「私はインタビュアーなんだ」と言い聞かせて
自分の肝に銘じないと、
油断するとすぐしゃべっちゃう。
いつも我慢しているんです。
糸井
ついこのあいだ、
WOWOWの特別番組があって
南伸坊と一緒に出ました。
伸坊がいるってだけで僕はもう機嫌がいいわけです。
伸坊がいて僕がいて、YOUさんがいて、
清水ミチコさんがいて、眞鍋かをりさんがいて。
阿川
豪華キャストですね。
糸井
で、眞鍋さんはちょっと若手ですから、
「私は遠慮がちでもよろしゅうございます」
という感じで座っているんですけど、
でも語ろうとすれば語る人ですよね。
阿川
眞鍋さん、ブログ女王ですし。
糸井
つまり、全員語る人なんです(笑)。
阿川
じゃあ、全員話を聞いてないの?
糸井
と、思ったんです。
でも、スタジオに行ったら
「俺じゃなくてもいいな」という顔を
みんながしてたんです。
阿川
俺じゃなくても?
糸井
つまり、俺がしゃべらなくても時間は過ぎるな、
という顔をみんながしてたんです。
そしたら、なんか自分がしゃべっちゃいましたね。
阿川
伸坊さんも、わりに聞くほうの方でしょう?
糸井
伸坊はしゃべるときはしゃべるし、
しゃべらないときはしゃべらないんです。
阿川
聞きながら、いつも
おもしろそうな顔をしてくださいますよね。
あれ、うれしいですよねえ。
糸井
うれしいです。
でも、伸坊は、言いたいことがあるときは
ちゃんと全部しゃべるんですよ。
そこがうまいんです。
『黄昏』という伸坊と僕の、
ものすごいマヌケな対談シリーズがありまして。
阿川
あ、読みました。絶妙なやりとり!
すごくおもしろかったです。
糸井
あれは伸坊もしゃべってるでしょう。
阿川
そういえば、そうでしたね。
糸井
今日、阿川さんと「話そう」ということに
なりましたけど、
どういうテーマで話していいのか。
ただ、前にお会いしたときに、
「またしゃべりましょう」と言って
決まったことなので、
どうしていいかわからない。
阿川
私もどうしていいかわからない(笑)。
糸井
でも、阿川さんはほら、
『聞く力』の人ですから。
阿川
ずる~い。
糸井
850万部くらい売れたという‥‥。
阿川
えっ、そんなに売れているわけないじゃないですか。
ちょっといま、勘違いしそうになっちゃった(笑)。
糸井
まぁ、そういう「聞く側の人」ってことに
されちゃいますから、
逆に言えば、しゃべるチャンスも
なくなっていくかもしれないですよ。
阿川
いや、それはないです。
だって、親しい友だちは
「アガワ、『聞く力』読んだほうがいいよ」って
言ってますもん。
糸井
(笑)
でも、みんなが「俺のことしかしゃべらない」という
某番組の紅一点として座ってらっしゃいますよね。
じっと黙って、監視をするかのように。
阿川
某『TVタックル』ね(笑)。
あれは最近時間帯が変わったので、
ちょっと前の『TVタックル』とは
雰囲気が違うんですよ。
前は評論家とか政治家といった、
基本的にテレビに出ることを
プロとしていない人たちが多くて、
自分では計算してるつもりなんでしょうけども、
あっという間に計算外になる人たちなの。
その、計算外の言動を観察してると、これが
おもしろいんですよ。
糸井
ねえ、なんかこう、審判員みたいに
卓球のラリーを見てる感じ(笑)。
阿川
喧嘩がはじまれば
もう本当に顔を右、左、右、左、の状態です。
糸井
視聴者は
「俺もその気持ちわかるな」と思いながら
見ているんです。
阿川
でも、おかしいんですよ。
たとえば、ちょっと前まで野党だった人が
政権が替わって与党になったことがあったんですね。
その方、野党のときは言いたい放題いろんなこと言って、
国民の気持ちを代弁されていたんです。
ああ、まともなこと考えて、
この人はしっかりしているなと共感していたんですが、
与党になったとたんに、
「なんでそんなに口数少なくなっちゃうの?」
というくらい、静かになっちゃって。
立場が変わると言えないことが
山のように出るんだなあ‥‥って、
大人の事情がわかりやすい番組でしたね。
糸井
それをずーっとやってらっしゃって。
おもしろい場所に長い間いたんですね。
阿川
ええ、ありがたい場所でした、あれは。

(つづきます)

2015-02-06-FRI

阿川佐和子さんよりお知らせ
「試写会であまりに感動したので
 自主的に広報部長をやっている映画なんです。
 もしよかったらぜひ観てください」

写真家・宮澤正明が辿り着いた日本初の4Kドキュメンタリー映画伊勢神宮の森から響くメッセージ『うみやまあひだ』

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