〈ほぼ日関西版〉 明るい家族相談室 たのしきかな、家族。続編

相談4 ひと言多い両親。

山田さん、こんにちは。両親について相談です。

私の両親は外食が好きです。
私が子どもの頃は両親とも仕事で忙しく、
あまり裕福でもなかったため
1年のうち数えるほどしか
外食に行けませんでした。
しかし、定年を迎え、子どもたちも独立したいま、
両親にもいろんな余裕が生まれたようで
夫婦で、あるいは友人たちと、
よく外食するそうです。
私たちが里帰りしたときは、腕をふるって
ごちそうを作ってもくれるのですが、
その翌日あたりになると
「外に食べにいこか」ということになり、
みんなでぞろぞろと外食に出かけます。
(そういうときのために母は
 気になっていたお店や新しく開店したお店など、
 常に候補を用意しています)

頻繁に外食できるようになったいまでもなお、
家族での外食には
ある種のイベントめいた雰囲気が漂い、
私もうれしいです。

ただ、彼らはいつも、ひと言多い。
そして声がでかい。

「おいしいね、でもこの葉っぱ(ハーブ)
 いらんわー」
「これおいしい! でも盛りつけ地味やな。
 でもおいしいわ」
など、「おいしい」だけで留めておけず、
あれこれツッコんでしまいます。

大きなお店ならともかく、
個人で営業されているこじんまりしたところでも
ついつい失礼なひと言を挟んでしまい、
同行している私たちはただひたすら
お店の方に申し訳なく、
両親のひと言をかき消すように
「いや、ちょうどいいよ!」
などと、慌ててかぶせてお茶を濁しています。
忙しいです。
その場でたしなめればよいのかもしれませんが、
店内の全員が苦笑してしまうような
事態になりそうで、
(両親の声は大きくて周りにも丸聞こえです)
かといって後で注意しても
「そんなん言うたっけー?」
などと取り合ってくれず、お手上げです。

お店の方のために
外食をしに行くわけでもないですし、
両親とも全く悪気はなく
ご機嫌で食事をしているので、
あまりガミガミ言いたくはないのですが、
なんとかもう少し、
場を考えた発言にならないものでしょうか。
楽しい外食を楽しいまんまで終えたいです。
せめて声のトーンを落としてほしいです。

(相談者:やなぎ)


答え
ほぼ日 今日もかおり姉さんがお答えします。
かおり 妹のまきは今日も欠席です、すみません。
でも、絵は描いています。
ほぼ日 このコンテンツのイラストは
すべてまきさんが描いていらっしゃいます。
まきさんは、お元気ですか。

かおり 元気です。
いろいろと忙しくしているようです。
ほぼ日 そういえば‥‥『株式会社 家族』でおなじみ、
山田家の父さんはお元気ですか。

かおり はい。どうやらこの連載を読んだらしく
こんなコメントを私に寄せてきました。
「糸井重里さんいうたらなぁ、
 偉い人やぞ、父さん知ってる。
 NHK出とったからな。
 それからな、かつあげの相談に、お前、
 答えてる場合やないぞ。
 答えてんとやな、警察に言わなあかんやないか」
2500円のかつあげに父は激怒していました。
ほぼ日 さすがお父さん。
ありがとうございます。
これからも、見守りつづけてください。

かおり よろしくお願いします。
ほぼ日 さて、今回の相談なのですが‥‥
楽しい外食を楽しいまま終わりたい、
とのことです。
かぶせ気味に「ちょうどいいよ!」などと
言わなくてはならず、忙しい食事ではありますね。

かおり でも‥‥こういう人、
よく考えたら、関西の人に多いかもしれませんよ。
ほぼ日 うーん、そうですね、
「ちょっとからいな」など、言いにくいことも、
関西の人はよく声に出しています。

かおり

べつに言うほどのことじゃないのに、
というようなことでも言いますね。
店の人が聞いてても関係ない。

うちの母は、お父さんの好きな
ラーメン屋さんにいっしょに行って、毎回、
「おいしいわ」と言ってるそばから
「いやっ、床ずっるずるよ」
と言ったりしています。
そのまま放っておけば調子にのる一方です。
私と妹は、お店の人に悪いし
「黙ってて」と思います。
「お母さん、声大きいって」と
注意するし、この相談者の方と同じように
姉妹で「おいしい」ということを
アピールしたりします。
でも母は、店を出るときも、
のれんをくぐりながら
「ああ〜、おいしかった。
 いやっ、のれんどろっどろよ。
 お父さん、顔気ぃつけて」
などと言います。
おいしいもの食べさせてもらったのに嫌やな、
と思うけど、
お店の人はそんなに気にしてないかもしれません。
現にうちの母に毎回そんなこと言われてるのに、
ずっと床はずるずるのままですから。

関西の、特に年配の人は
そういうことを言います。
同じ店に行って毎回「しょっぱ!」と
言ったりするし、
「あそこな〜、おいしいねんけどな〜」
なども、よく聞くセリフです。
「葉っぱいらんわ」なんて、
かわいげがあるほうだと思います。

テレビの画面の中の人に対しても
「この人、いいこと言うてるけど
 あれ、カツラちゃうやろか?」
とか、コメントをつけますよね。
それは、いわばサービス精神や
愛嬌のようなものではないでしょうか。
ただ「あ、おいしい」だけで終わるより、
ちょっと会話が広がるのかもしれません。
その場を盛り上げているような気になっている、
と言えばいいでしょうか。

しかも、「そんなん言うたっけ?」と
言っているのですから、
ご両親にとっては無意識の、あたりまえの
コミュニケーションなんですね。

なんでも、ほめるだけではおもしろくないのです。
ご両親は、おもろさを追求してるんだと思う。
「ハーブいらんわ」
「盛りつけ地味やな」
すぐに終わらない何かがほしいんです。

東京の人だと、着てる服をほめたとしても
「ありがとう」だけで済むことも多いです。
でも、関西のおばちゃんたちは、
もちろん照れ隠しということもあると思いますが、
「この服、穴空いてるねん」
「これ何年も着てるんよ」
「なんと300円!」
とか言ったりするんです。
さらには、
「拾(ひろ)てん、嘘やけど!」とかね。
そのひと言は、自分の着ているものにも
ツッコミを入れるという
サービス精神からきているのでは
ないでしょうか。

テレビ番組で、道を歩いてる人に
バナナをいきなり渡す実験を
やっていたことがあります。
東京の人はバナナを渡されても
「えっ? えっ?」
といって戸惑っているだけでした。
「食べていいですよ」と言われると、
黙って食べていました。
でも、大阪のおばちゃんやおっちゃんに
「はいバナナ」といって渡したら、
ほとんどの人がバナナを耳にあてて
「あっ、もしもしお母さん?」
と、しゃべりはじめます。
「もしもし」と言ってからでないと
彼らは食べないんです。

このように、関西の人は、サービスで
なんかいらんことをやる、と思っておきましょう。

それは、参加意識です。
無言でいるのも「なんだかなぁ」と思い
どうしても当事者になってしまう。
コミュニケーションの違いなんでしょう。

それから、あとひとつ、重要なのは
「アウト・オブ・眼中」の力(ちから)が
ある人たちだ、ということです。
つまり、自分たちのことしか見えていない。
料理を作った人への
やさしさとか思いやりとか、ないんですよ。
彼らは言いたいことだけを言います。
脳と口が直結していますので、
「これ、言っていいかな?」
と躊躇することなく、瞬発的に、言うんです。
場所をわきまえることもありません。
エレベーターの中で「臭いな」と思っても、
「誰かがオナラをこっそりしてたら悪いから
 言わんといたげよう」
と、ふつうは思うでしょう。
でも、「アウト・オブ・眼中」の力がある人たちは
嗅覚が反応した瞬間、ためらうことなく、
「くさっ!」「くさいわ〜!」と
正直な感想を述べてきます。
その結果、エレベーター内のみんなが
疑惑にかけられます。
それはちょっとした密室のサスペンスです。
5秒くらい黙って考えたらいいのに、それがない。
直結です。その5秒を、待てないのですね。
他人にどう思われるのかということを、
考えたことがないんだと思います。

その性質は、年を取ると
いっそう際立っていきます。
そういう人に
「そんなん言うたらあかんわ」
と指摘でもしてみてください。
「気にしすぎやわ」と返されると
相場は決まってます。
「誰も聞いてへんで、そんなん」と
弁明してくることでしょう。

「もし自分が同じことされたら、どうする?」
と詰め寄っても、十中八九
「いや、私はぜんぜんいいよ」
と言います。腹が立ちますでしょう。
この「同じことされたらどうやろう」という想定を
したことがないから、なんでも言えるのです。
投稿に書いてあるように、お手上げです。

そういう人たちは、若者の服装などについても
ツッコんできます。
しかも、「たとえ」が古すぎて
わからなかったりするから困る。

雪の日にズボンの裾を長靴に入れて歩いていると
うちの母は、
「あんたそんなん赤穂浪士やないの」
とツッコみます。
ケープのような服を着て大阪に帰ると、
見ず知らずのおっちゃんから
「金色夜叉やな」と言われます。
なんですか、金色夜叉。知らんがな。
まぁ、古い物語ってことだけは確かです。
その場にいるおっちゃんおばちゃんらに
爆笑されますが、
そのツッコミがわからないから、戸惑います。

でも、若者に「かっこええ服やな」とほめたら
そこで話が終わりになる。
だから、ツッコむんじゃないでしょうか。
そして、そのたとえがわかりさえすれば(笑)、
会話のキャッチボールがはじまります。
やつらは、仕掛けてきてるんです。

この相談者の方、年齢はいくつなんでしょうか。
多感な時期だったら、
ハーブを葉っぱと言うこと自体、恥ずかしいとか、
そういうこともあるかもしれませんが、
ご両親も定年なさっていることだし、
ある程度は大人ですよね。

私も昔は、親といっしょに出かけると、
他人の目を気にしていたこともありました。
でも、「もう、こういうこと言わんとって」と、
常識のようなものを押しつけて
親にストレス溜めさせるのもかわいそうです。
かといって、レストランの店員さんに
不快な思いもさせたくない。
「じゃあどっちにストレスを
 発散させてあげるか?」
と考えれば、
お父さんお母さんに発散させてあげたいと思う。

お店の人は、そんなん
言われ慣れてるから大丈夫です。
お料理のお金はその「うっとうしい代」も
込みの値段です。
だからせめて、お店を出るときにみんなで
「おいしかったです」って、
そこを強調して帰るといいですね。
癖にしたらご両親も慣れていくことでしょう。

私ね、先日、イタリア料理を家族で
食べにいきました。
最近、真ん中にちょこっとお料理をのせた、
縁が太いお皿が登場することがあります。
それを見てうちの母が、
「いやっ、便座みたい!」
と言いました。
そういう発言は、特に
食品扱ってるところではやめてほしいです。
でも、ちょっと視界を引いて見ることができれば、
母の言ってることはおもしろいかなとも思います。
「なんてユニークな視点!」
「まさか便座できましたか!」
というふうに、くつがえされる概念を
楽しんでみるのもいいかもしれません。



私たちがあたりまえのように見ていたことを
そんなふうに見る人たちがいるのです。
おしゃれなレストランでかっこいいカップルが
便座で食べてると思ったら最高ですよね。
そういうふうに、
客観的になってみるのは、どうでしょう。

ほぼ日 そうですね。
先入観がない、まっさらな状態で見るから
「葉っぱいらんな」ということに
気づくのかもしれないですね。

かおり 確かにいりませんしね。
そういえばこないだ、回転寿司のお店に行ったら、
お嬢さまみたいな奥さんが入って来ました。
その人は、お茶のお湯をつぐサーバーを
フィンガーボールとまちがえて手を差し出して
やけどしてました。
湯のみをあてるところに
「熱い。危険」と書いてあるのに手で押して
ものすご怒っていました。
でもたしかに、はじめて回転寿司に行ったら、
あれがお湯とはわからないかもしれないです。
ほぼ日 その状況を、
おもしろがってみるのがいいですね。

かおり そうだと思います。
私の場合、もう悪質とも言えますけどね。
ほぼ日 今週もありがとうございました。
ひきつづき、みなさまからの
ご相談をお待ちしています。
では、かおり姉さん、
今日のまとめをお願いします。

かおり わかりました。





関西に生まれたサガです、 あらがうのは無理と悟るべし。

2013-02-10-SUN
 
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