第2回 たぬきちにお金を返すだけのゲームではない。

糸井 自分の話になりますけど、
ぼくが『MOTHER』をつくったときに、
すごく力を入れたことのひとつが
「敵」の表現だったんです。
というのも、あのゲームの主人公は
どこにでもいる普通の少年ですから、
その子が輝かしいヒーローになるためには、
敵側、相手側に影をつける必要があったんです。
そこが薄ぼんやりとしてたら、
「やっつけました。おしまい」
みたいになっちゃいますから。
岩田 あー、そのとおりですね。
糸井 そのためには、どうしても
「すてきな悪役」が必要だったんです。
「どうしておまえらそういうこと考えるの?」
っていう、やなこと、奇天烈なことを入れることで、
主人公が輝かしく光るんです。
『どうぶつの森』にも、それを感じるんですよね。
岩田 たしかに、あの世界を表面的にとらえれば
必要ないはずのものが
たくさん存在してますよね。
糸井 たくさんありますよー。
一同 (笑)
岩田 そのあたりは、
開発者の熱意というか、なんというか。
糸井 その「黒い」ものだけじゃなくて、
くだらないものも含めてね。
だって、あの、円盤っていうか、
UFOの模型みたいなアイテムが
あったじゃないですか。
あれ、ぼくはすごく好きだったんだけど、
UFOの下の光の中をよーく見ると、
ひゅーってさらわれる小さい人間が
ちゃんと表現されてて。
毛呂 あー、はい、あります(笑)。
糸井 ああいうの、ものすごくうれしい。
「バッカだなぁー‥‥」って。
一同 (笑)
岩田 そういうのをね、1個ずつ
発案して、検討して、つくるわけですよね。
今回、どのくらいアイテムは増えました?
毛呂 そうですね、家具だけでも
500~600くらい増えました。
もともとこのゲームってアイテムの数が多いので
ちょっと足しただけじゃ増えた感じがしないんですよ。
それで、全員がアイデアを出し合えるようにして、
とにかく数を増やそうということで。
京極 どうぶつもずいぶん増えました。
みんなで意見やスケッチを出し合って、
定期的に「どうぶつドラフト会議」をして
「これ採用!」みたいにして。
糸井 どのくらい増えたんですか?
京極 どうぶつの種族でいうと、
ハムスターと、シカが増えて、
いままでいた種族のどうぶつたちにも
新しい性格が加わったりして、
全部で100体増やしました。

糸井 100体!
京極 誰にでも好かれるような感じの子もいれば、
ちょっとクセのある子もいて。
糸井 この、もこもこした子は、
ちょっと怪しい表情をしてますね。
京極 新しいお店の店員で、アルパカです。
家具を改造してくれる、
カイゾーくんっていうんですけど。
糸井 ああ、イスを直してもらってるんだ。
え? 家具を直してくれるの?
毛呂 家具をリメイクしてもらうことができます。
「マイデザイン」という
自分の好きなデザインをつくる機能を利用して
家具を自分好みのデザインに変えることもできます。
一同 へーーー。
京極 大きな家具だけじゃなく、
炊飯器なんかもリメイクできます。
ちょっとくだらないんですけど、
炊飯器の外側のデザインじゃなくて、
中で炊いてるものを変えられるんですよ。
赤飯にリメイクしたりとか(笑)。
糸井 ああ、いい(笑)。
京極 「献立なんにする?」って訊かれるんです(笑)。
毛呂 そう、リサイクルショップの店員なのに、
「献立なんにする?」って(笑)。
糸井 そのへんも、おこがましいですけど、
ちょっと『MOTHER』なものを感じます。
岩田 ああ、そうですね(笑)。
糸井 あと、なんか、今回は
自分が「村長」になるんでしょ?
毛呂 はい。
糸井 それは、どういうことをやるんですか。
京極 大きくいうと、
「公共事業」と「条例」があって、
「公共事業」っていうのは、
川に橋をかけたり、噴水をつくったり、
遊具を置いたりすることです。
糸井 ほんとに「公共事業」だ。
毛呂 はい。自由に場所を選んで、
灯台や鐘を設置してみたり。
糸井 村を観光地化できるんだね。
鐘や灯台は村のシンボルになりますよね。
毛呂 鐘はちゃんと鳴らすことができますから、
ぜひ、年末までに置いていただければ‥‥。
岩田 除夜の鐘を「ゴーーーン!」と。
糸井 そうかぁ。
いっそう季節感が出ますね。
京極 そういう意味では自由度はそうとう高いです。
あと、村長は「条例」を
定めることもできるんですよ。
糸井 それはどういう?
京極 「眠らない村にしたい」と言うと、
お店が深夜営業しだしたり、
どうぶつたちも夜更かしするようになったり。
岩田 これまで、夜しか遊べないプレイヤーの方が
『どうぶつの森』を遊ぼうとされたときに、
ゲームのなかのお店が閉まってるので、
仕方なく「時計を動かして遊ぶ」、
というような状況があったらしいので、
そんなことをしなくても
遊べるようにしたかったんですよ。
糸井 ああ、それはうれしい。
京極 自分の村の条例を変えなくても、
友だちの村に夜遅くまで開いてるお店があったら、
通信を使ってお出かけできるので、
村の環境の違いを
たのしんでもらえたらと思います。
毛呂 逆に、早起きの村にもできますよ。
糸井 なるほど。
しかし、けっこう大きな変化ですよね、
その、自分が「村長」になるというのは。
岩田 そうですね。
これまでのシリーズを通しても
かなり大きな変化だと思います。
あの、究極のことを言うと、
これまでの『どうぶつの森』って、
借金を返すゲームなんですよね。
糸井 まぁ‥‥そうだけど、
その言い方はないでしょ(笑)。
一同 (笑)
岩田 身もフタもない言い方をすると(笑)。
ところが今回は、
たぬきちにお金を返すだけのゲームではないんですよ。
村に行くといきなり
「あんたが村長だ」って言われて、
自分の家だけじゃなく、
村のこともいろいろ決めていくことになる。
そのあたりの意図を話してもらえますか?
京極 これまでのシリーズでも
木を植えたり、花をたくさん咲かせたり
といったことはできたんですけど、
今回はもっと、村そのものに
遊ぶ人の個性を出したいと思ったんです。
ほかの村にお出かけしたときに、
観光して見て回ってその違いを
たのしめるようにしたいなと思いました。
岩田 村ごとの個性が
もっと出るようにしたかったわけですね。
京極 はい。
着いた瞬間から、もう村の景色が
「ぜんぜん違う!」っていうぐらいに。
そんなふうにダイナミックな村づくりが
できるということを、
ピンとくるひと言で説明するために、
「あなたが村長です」というふうにしました。
糸井 がらっと違った村にできちゃうってことですか。
毛呂 はい。
だから、いままでは糸井さんの家に入ったときに、
みんなが「うわ、気持ち悪い!」って
なってたのが、もう、村に入った瞬間から‥‥。
岩田 「この村、気持ち悪っ!」ということが可能です。
一同 (笑)
糸井 ああ、いいですね。
あの、ぼくは、クリエイティブの究極、
ものづくりの行き着く先って、
「都市デザイン」だと思ってるんですよ。
岩田 あー、はい。
糸井 都市をつくるということ。
絵描きであろうが、音楽家であろうが、
行きたい場所の先の先は、それじゃないかと。
絵描きが、壁画を描いたり、
音楽家が、街に流れる音楽をつくったり。
そういう意味では、また『どうぶつの森』が
ぼくの思う理想に近づいた気がします。
ここでならできますね‥‥理想の「黒い村」が。
京極 できます(笑)。
岩田 かなり黒い村がつくれるんじゃないかなぁ(笑)。
(つづきます)
2012-11-23-THU