糸井 |
『さよならペンギン』に
惹きつけられた人が
ひとりでもはっきりといたっていうのは、
ぼくにとってとってもうれしいことですね。
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荒井 |
いや、たくさんいますよ、
少なくともぼくらの年代には。
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糸井 |
そうなんですかねぇ。
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荒井 |
明らかに、他と違ってましたからね。
ぼくは、幼児期の絵本の体験っていうのが
まったく記憶になくて、
ほんとに、意識して読みはじめたのが
大学に入ってからなんです。
で、日本の絵本をいろいろ読んでみたら、
やっぱり、教科書っぽいものが多いんですよ。
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糸井 |
全体に、啓蒙的なんですよね。
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荒井 |
そうそうそう。
そこで『さよならペンギン』ですから。
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糸井 |
啓蒙のかけらもない(笑)。
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荒井 |
はい(笑)。
もう、「どかーん!」って感じで。
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糸井 |
ふふふふふ。
ストーリーを簡単にご紹介しましょう。
ええとね、ペンギンが
海水パンツを買いに行くんです。
で、タコに会ったり象に会ったりしながら
いろんな場所に行って、
ようやく海水パンツを買う。
どんな柄かなっていったら、
アロハ柄のパンツだったんです。
こりゃいいぞ、って言って
みんなに見せびらかしに行くんですよ。
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荒井 |
ふふふふふ。
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糸井 |
で、また、あちこちペンギンが行って、
パンツを見せびらかして、
最後は野球場に行くんです。
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荒井 |
そうです、そうです。
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糸井 |
そしたら、バットで打たれてしまって
「ホームラーン」って言って終わるんです。
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一同 |
(笑)
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荒井 |
「これでいいんだ!」と思ったわけですよ。
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
オレもね、どうなのかなと思ってたんだけど、
湯村さんが「いいじゃない!」って言うし、
ひとりが「いい」って言えばもうね、
それでいいのかなって思ってね。
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荒井 |
いや、あの本は、ぼくにとって、
絵本をつくる礎のひとつですよ。
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糸井 |
そんな(笑)。
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荒井 |
いや、ほんとですよ。
絵本をつくるときに、
どんなにはちゃめちゃなことを
思い浮かべても、やっぱり、
絵本をつくるときの
「鋳型」みたいなものがあって、
そこからはみ出そう、
はみ出そうとするんだけど、
どうしてもはみ出ない。
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糸井 |
うん。
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荒井 |
そういうときに、
『さよならペンギン』があると
ああ、これでいいんだぁって
ほんとに思えるんですよ。
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糸井 |
ああー。
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荒井 |
あと、長(新太)さんの
『ちへいせんのみえるところ』とか。
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糸井 |
長さんの絵本も、はみ出しますよね。
湯村さんも、長さんが大好きだし。
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荒井 |
ああ、そうですか。
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糸井 |
『さよならペンギン』という本を
つくったときのことを振り返って、
最高の体験をしたなと思うのは、
ぼく、湯村さんの絵が
1枚1枚、できあがるごとに見てたんですよ。
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荒井 |
あー、そうですか。
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糸井 |
いいでしょう?
まるで家族のように
湯村さんの制作現場を見てたんです。
1枚描けると、湯村さんが
「いいでしょ」って見せてくれる。
で、「うわー、いいなぁ!」と思ってたら
あっさりつぎの絵で技法を変えたりね。
そういうことを平気でするんです。
あれは、すごい体験だったなぁ。
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荒井 |
はーーー。
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糸井 |
あのときに、はじめて湯村さん
リキテックス使ったんですよ。
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荒井 |
ああ、リキテックスが
ちょうど輸入されはじめた時期ですね。
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糸井 |
そんな時期です。
「これはネ、便利なのネ、
水で溶いて、油絵みたいになるのネ」
って言いながら。
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荒井 |
ぼくもつかいました。
日本ではまだつくってなかったから
輸入品を買うしかなくて、
‥‥高かったなぁ(笑)。
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糸井 |
19歳とか、二十歳のころ。
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荒井 |
はい。
日芸の美術学科だったので、
いちおう、アクリル絵の具も買わなきゃ、
みたいな感じで、なんとかそろえて。
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糸井 |
ああ、そうですか。
なんかこう、ぼくら、
過去で、会ってたんですねぇ。
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荒井 |
はい(笑)
(つづきます) |