糸井 |
そもそも『さよならペンギン』は、
きっちりコンセプトをたてて
はじまった仕事ではなくてね。
まず、湯村さんのところに
すばる書房っていう
いまは潰れちゃった会社から
依頼があったんです。 |
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荒井 |
ああ、すばる書房。そうでした。 |
糸井 |
ぼくはそのころ広告の仕事で
湯村さんにお付き合いしてもらってたんですが、
ある日、湯村さんに会ったら、
「こういうの頼まれてんだけど、
興味ある?」って言われて。
「ありますよ」って答えたら、
「じゃあ、頼むネ」って。
もう、それだけですから。 |
荒井 |
そうなんですか(笑)。 |
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糸井 |
あの人、そういう人なんです。
『ペンギンごはん』っていう
マンガのときなんか、
「ぼくはコマ割りとか苦手だから、
糸井くんがやっといてくれるといい」
って言うんですよ。
しかたないからぼくは、白い紙に、
コマ割りと、簡単な絵まで描いて(笑)、
もちろんセリフも自分で書いて、
それを渡すんです。
すると湯村さんがそれを見て、
「うまいのネ」とか言って描いてくれる。
その絵が、すごいんです、やっぱり。 |
荒井 |
はー、そうですか。 |
糸井 |
もともとはぼくが自分で考えて
「こういう絵で」って説明しているんだけど、
それがこんなにステキになるのか!
っていうくらい、いい絵になる。
ぼくは子どものころ、
マンガ家になるっていう夢を
いちおう、持ったこともあるんですけど、
そういう気持ちのほんのかけらさえ、
湯村さんと出会ったことで、もう粉砕。
絵なんて、一生描けないなぁと思った。 |
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荒井 |
へぇー(笑)。 |
糸井 |
よく覚えているのはね、
「ちゃぶ台に3人の人が座ってます」
っていう場面があって、
いちおう、その場面をぼくは、
ささっと描いておくんですよ。
でも、素人が適当に描くもんだから、
妙にちっちゃくて、いかにもバランスが悪い。 |
荒井 |
はい、はい。 |
糸井 |
そういうときに、湯村さん、
わざとその大きさとバランスで描くんです。 |
荒井 |
ああー(笑)。
でも、それをやる湯村さんの気持ち、
ちょっとわかるような気がする。 |
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糸井 |
ああ、そうなんですか。
こっちは、たまんなかったですよ。
でもね、その絵‥‥
やっぱりいいんです(笑)。 |
荒井 |
(笑) |
糸井 |
できあがると、けっきょく、いいんですよ。 |
荒井 |
絶妙なんですよね、湯村さんの絵は。 |
糸井 |
そうなんです。
荒井さんは、若いころに
湯村さんの絵を見てたわけですよね。
絵を描いてる人からすると、
あの人の存在って、やっかいでしょう? |
荒井 |
うん(笑)。 |
糸井 |
たとえ好きでも、触りづらいというか。 |
荒井 |
そうなんですよね。
上っ面をまねてもしょうがないし、
かといって湯村さんのライフスタイルに
自分を近づけていくのも違う気がするし。
技術的なことだけでいったら、
湯村さんより上手い人は、
たくさんいるかもしれない。
鍛錬すれば、自分が追いついちゃうことだって
可能だったかもしれない。 |
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糸井 |
そうですよね。
だから、ほっんとに邪魔な人ですよ。 |
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一同 |
(笑) |
糸井 |
いろんな人があの人のことを
心から尊敬しながら、
心から邪魔だと思ってる。 |
荒井 |
ははははは。 |
糸井 |
上手い人が自信喪失しちゃったりね、
惹かれながらケンカしたり。
そういうことが実際にあったなぁ‥‥。
なんていうか、あの時代って、
きっと、そのくらいの気概がないと
プロのイラストレーターやってますなんて、
とっても言えなかったんですよ。 |
荒井 |
うーん、そうですか。 |
糸井 |
だから、なんていうか、
戦闘的でしたよ、みんな。 |
荒井 |
ああ、そうかもしれないですね。
あの、覚えているのは、昔、湯村さんが、
「描くコツは?」っていうアンケートに
「気合だ」って答えてたんですよ。 |
糸井 |
ははははは。 |
荒井 |
すごい人だなぁと思って。
記事を読むと、
基本的には、なんにも準備なんかしない、
っておっしゃってるんです。
で、こう、締切も過ぎて、
いよいよっていうときに、
エイッって気合いで描くんだ、って(笑)。 |
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糸井 |
それはもう、そういう話が信じられていた
最後の時代っていうことでしょうね。
たとえば昔のジャズの巨人たちが
酒でボロボロになって、生活が荒れて、
でもいい演奏ができるような気がしてた、
っていう時代の最後の神話。
実際、あの時期の湯村さんは
ボロボロでしたからね。
冬でも薄着でTシャツとジーパンで
夜中まで飲んでべろんべろんになって、
帰ってきたら締切で、っていう。 |
荒井 |
有名でしたね。 |
糸井 |
で、いまの奥さんと出会って、
人が変わって、腕立て伏せとか
腹筋とかする人になったんですけど。 |
荒井 |
ふふふふふ。
(つづきます) |