第4回 湯村輝彦さん。

糸井 そもそも『さよならペンギン』は、
きっちりコンセプトをたてて
はじまった仕事ではなくてね。
まず、湯村さんのところに
すばる書房っていう
いまは潰れちゃった会社から
依頼があったんです。
荒井 ああ、すばる書房。そうでした。
糸井 ぼくはそのころ広告の仕事で
湯村さんにお付き合いしてもらってたんですが、
ある日、湯村さんに会ったら、
「こういうの頼まれてんだけど、
 興味ある?」って言われて。
「ありますよ」って答えたら、
「じゃあ、頼むネ」って。
もう、それだけですから。
荒井 そうなんですか(笑)。
糸井 あの人、そういう人なんです。
『ペンギンごはん』っていう
マンガのときなんか、
「ぼくはコマ割りとか苦手だから、
 糸井くんがやっといてくれるといい」
って言うんですよ。
しかたないからぼくは、白い紙に、
コマ割りと、簡単な絵まで描いて(笑)、
もちろんセリフも自分で書いて、
それを渡すんです。
すると湯村さんがそれを見て、
「うまいのネ」とか言って描いてくれる。
その絵が、すごいんです、やっぱり。
荒井 はー、そうですか。
糸井 もともとはぼくが自分で考えて
「こういう絵で」って説明しているんだけど、
それがこんなにステキになるのか!
っていうくらい、いい絵になる。
ぼくは子どものころ、
マンガ家になるっていう夢を
いちおう、持ったこともあるんですけど、
そういう気持ちのほんのかけらさえ、
湯村さんと出会ったことで、もう粉砕。
絵なんて、一生描けないなぁと思った。
荒井 へぇー(笑)。
糸井 よく覚えているのはね、
「ちゃぶ台に3人の人が座ってます」
っていう場面があって、
いちおう、その場面をぼくは、
ささっと描いておくんですよ。
でも、素人が適当に描くもんだから、
妙にちっちゃくて、いかにもバランスが悪い。
荒井 はい、はい。
糸井 そういうときに、湯村さん、
わざとその大きさとバランスで描くんです。
荒井 ああー(笑)。
でも、それをやる湯村さんの気持ち、
ちょっとわかるような気がする。
糸井 ああ、そうなんですか。
こっちは、たまんなかったですよ。
でもね、その絵‥‥
やっぱりいいんです(笑)。
荒井 (笑)
糸井 できあがると、けっきょく、いいんですよ。
荒井 絶妙なんですよね、湯村さんの絵は。
糸井 そうなんです。
荒井さんは、若いころに
湯村さんの絵を見てたわけですよね。
絵を描いてる人からすると、
あの人の存在って、やっかいでしょう?
荒井 うん(笑)。
糸井 たとえ好きでも、触りづらいというか。
荒井 そうなんですよね。
上っ面をまねてもしょうがないし、
かといって湯村さんのライフスタイルに
自分を近づけていくのも違う気がするし。
技術的なことだけでいったら、
湯村さんより上手い人は、
たくさんいるかもしれない。
鍛錬すれば、自分が追いついちゃうことだって
可能だったかもしれない。
糸井 そうですよね。
だから、ほっんとに邪魔な人ですよ。
一同 (笑)
糸井 いろんな人があの人のことを
心から尊敬しながら、
心から邪魔だと思ってる。
荒井 ははははは。
糸井 上手い人が自信喪失しちゃったりね、
惹かれながらケンカしたり。
そういうことが実際にあったなぁ‥‥。
なんていうか、あの時代って、
きっと、そのくらいの気概がないと
プロのイラストレーターやってますなんて、
とっても言えなかったんですよ。
荒井 うーん、そうですか。
糸井 だから、なんていうか、
戦闘的でしたよ、みんな。
荒井 ああ、そうかもしれないですね。
あの、覚えているのは、昔、湯村さんが、
「描くコツは?」っていうアンケートに
「気合だ」って答えてたんですよ。
糸井 ははははは。
荒井 すごい人だなぁと思って。
記事を読むと、
基本的には、なんにも準備なんかしない、
っておっしゃってるんです。
で、こう、締切も過ぎて、
いよいよっていうときに、
エイッって気合いで描くんだ、って(笑)。
糸井 それはもう、そういう話が信じられていた
最後の時代っていうことでしょうね。
たとえば昔のジャズの巨人たちが
酒でボロボロになって、生活が荒れて、
でもいい演奏ができるような気がしてた、
っていう時代の最後の神話。
実際、あの時期の湯村さんは
ボロボロでしたからね。
冬でも薄着でTシャツとジーパンで
夜中まで飲んでべろんべろんになって、
帰ってきたら締切で、っていう。
荒井 有名でしたね。
糸井 で、いまの奥さんと出会って、
人が変わって、腕立て伏せとか
腹筋とかする人になったんですけど。
荒井 ふふふふふ。


(つづきます)


この本はたのしいです。
くすっと笑う、というのも合間合間に挟まれますが
この本を読んでいる間
よく、本を読むのをやめて、
顔を上げて考える瞬間が訪れます。
「うんうん」「はぁー」「へー」「うーん」
同じようなことを考えている人がいることのうれしさ、だとか
そういう風に思うようになるのかなぁと先を思う気持ち
そういうものを味わっています。
糸井さんのことばを通して
じぶんともお喋りしているみたいです。
それがとてもたのしいです。
(stk)

中身をぱらぱらと捲ったりしながら
本の手触りなんかを楽しんでいるのですが。
どうしても、なぜか、どうしてか。
「人間らしいわがままを、すね毛のように大事にしたいです。」
のページばかりが開らかれてしまいます。
ワタシへの特別なメッセージと受け取っておきますね。
(もりぐち)

届きました。
雨降りなのに紙袋が濡れたり汚れたりしてませんでした。
配達員さん、ありがとうございます。
そして「あたまのなかにある公園」の表紙をさっそく、
じっくり検分してしまいました。
ブイちゃんとロボットと、たこ星人?
ん? 謎がいっぱいです。まだまだ検分は続きます。
ミニバッグも可愛くて使いがたい。
使ってこそのバッグなのにー、です。
(yanco_o)



2010-06-16-WED