荒木さん。


第7回 東京は墓場だよ。
糸井
でも荒木さん、青山の墓地のあたりって
通る必要ない場所ですよね?
荒木
ぜんぜん。ただ、好きで通り抜けていく。

そうすると、遠くのほうに見えるビルが
お墓みたいに見えるわけ。
糸井
そうだ、そうだ。石塔に見えるんですよ。
お墓の背景に、でっかいお墓だ。
荒木
そう。
糸井
外人墓地って、
当時から、周囲の人に尊敬されていたり、
称えられていた人が
埋葬されてることが多いんですけど、
そのうちに
尊敬してた人もいなくなっちゃうんです。
荒木
そうだろうね。
糸井
つまり「JAMES・ナントカ」とかって
書いてある立派なお墓は、
お参りする人がいなくなっちゃうんです。

それが不思議というか、何というか、
外の国で死ぬって、
こういうことなんだあと思うんです。
荒木
なるほど。俺、来年のはじめに、
パリで個展を頼まれたからやるんだけど
タイトルを「Tombe Tokyo」って。
糸井
トンブ?
荒木
墓場って意味のフランス語で、トンブ(tombe)。
で、「Tombe Tokyo」って。
糸井
へえ‥‥いや、ぼくも墓場には興味あるなあ。
荒木
いま、自分の部屋で「土日写真」と称して
土曜と日曜は花を撮るって決めてるんだけど、
そのとき、人形と恐竜も一緒に、
最初は「パラダイス」みたいな感じで、
撮ってんだけどさ、
だんだん「庭園」になってきて、
さらに、仏壇みたいな感じになってきたわけ。
糸井
ああ、花といえば仏壇か。
荒木
そんなことしてたらさ、
東京は墓場だ‥‥みたいな気分になってきた。

だから、しばらく墓場で行くよ。
糸井
なるほど。
荒木
俺、タイトルは
はじめにつけちゃうケースが多いんだけど、
やってると
「あ、こっちのほうがいいな」ってあるの。

最近だと、さっきの
「8月15日」の日付がついた写真なんだけど
俺、邪心ないからさ、
戦後70年とかに引っ掛けたりしたくなくて。
糸井
ええ。‥‥邪心ないから(笑)。
荒木
そこで、タイトルを『命日』にしようかと。
どう?

ページをめくるとさ、
みんな「8月15日」の写真ばっかりなの。
前に出したのは『陽子ノ命日』だけど
こんどは『命日』だけ。
糸井
命日って‥‥そうか。
命日って「命の日」なんですよね。

つまり、死んだ日だけど、
最後に生きてた日でもあるわけで。
荒木
そう。生と死が混ざってる日だよ。
糸井
ああ‥‥。
荒木
桜のころ、墓地に少女とお母さんがいて、
そのお母さんが、すごい美人なわけ。

で、ふたりしてベンチで本を読んでてさ。
そういうのが、いいんだねぇ。
糸井
へえ、あの場所で。
荒木
うん。すごくいい。

だからね、その人たちにとっちゃあさ、
墓地は「楽園」でもある。
桜のころに見たあの感じ、よかったよ。
糸井
おもしろい場所ですよね。
荒木
うん。あそこはいいよね。
糸井
荒木さんに
そんなに気に入られたって、すごいな。

だって、青山墓地のあたりなんて
ご自宅からだったら、
どこへ行くにも、えらい遠回りですよね。
荒木
そうだよ。グルーッとね。
糸井
車を降りちゃうと、変わるんですかね。
荒木
うん、ダメなんじゃないかな。

通りすがりということじゃないけども、
なんか「旅」というかさ。
糸井
そうですね、うん。
荒木
遊牧民って感じだけど「牧」じゃない。
そうなると次の本は「遊ぶ」かなあと。
糸井
ああ、遊牧民の「遊」。
荒木
気分的には「遊園」なんだな。

遊園地じゃなくて、遊園。
楽園じゃなくて、遊園。
糸井
なるほど。
荒木
つまり、俺のカメラのフレームの中が
ぜんぶ「遊」になってるんだ。
糸井
一見、全部を削ぎ落としてるみたいで
何も捨ててない感じがしますね。

「遊」ってテーマは。
荒木
そうだね、もう詰め込み方式だよ。
糸井
そこが、荒木さんらしいですよね。

「上手はダメだ」と言っても、
自分では「上手」、捨ててないし。
荒木
だって、捨てられないよ。
糸井
ついてきちゃうから?
荒木
俺、天からもらい過ぎちゃった才能を
使い切れないと思って心配してるくらい。
糸井
一生かかっても使い切れない
親の財産みたいなもの、ですね(笑)。
荒木
だから長生きしないと。
糸井
仕事、いまもセーブしてないんですか?
荒木
引き受けたほうが、おもしろいんだよ。

「なんでいまさら、こんなの頼むの?」
とかさ、そういうのも含めて。
糸井
やったほうが、おもしろい?
荒木
おもしろいよ。うん。
やっぱり、やったほうがおもしろいな。

<つづきます>
2015-11-13-FRI